データストレージ大手のSeagateが、AI(人工知能)の爆発的な需要に応えるべく、2030年までに現行比約3倍となる100テラバイト(TB)の大容量ハードディスクドライブ(HDD)を開発する計画を明らかにした。この野心的な目標は、70年の歴史を持つHDD技術がAI時代においても依然として重要な役割を担う可能性を示唆するものだが、その実現には技術的な課題や過去のロードマップからの遅延といった現実も横たわる。はたしてSeagateは、データセンターが渇望する超大容量ストレージの供給という難題をクリアできるのだろうか?
AIが加速させる「データ津波」 ストレージ需要は青天井か
OpenAIのChatGPTに代表される生成AIの進化は、私たちの働き方や情報収集のあり方を根底から変えつつある。しかし、その背後では、AIモデルの学習と運用に莫大な量のデータが消費されているという現実がある。まさに「データ津波」とでも呼ぶべき状況だ。例えば、Microsoftは2025会計年度だけでデータセンター関連に800億ドルもの巨額投資を見込んでいると報じられており 、これはAIがどれほどデータストレージを渇望しているかを如実に物語っている。高品質なAIの出力を得るためには、より多くの、より多様なデータが不可欠であり、その受け皿となるストレージ技術の進化は、AI開発そのものの進展と表裏一体と言えるだろう。
Seagateの回答:100TB HDDという未来図
こうしたAI時代の旺盛なストレージ需要に対し、HDD技術のパイオニアであるSeagateが野心的な回答を提示した。同社チーフ・コマーシャル・オフィサー(CCO)のBS Teh氏は、CNBCの取材に対し、2030年までに100TBのHDDを市場に投入する目標を掲げていることを明言したのだ。これは、同社が現在提供する最大容量モデル(36TBのExos MモデルまたはExos Mozaic 3+)の約3倍に迫る、まさにケタ違いの容量だ。Teh氏は「誰がそんな大容量を必要とするのか? と思うかもしれませんが、答えは『大勢』です」と自信を覗かせる。 氏によれば、この大容量化は「市場が必要とするストレージ容量を提供するための重要な鍵であり、この成長に対応できるだけの容量を生み出せる技術は他にない」とのことだ。70年の歴史を持つHDD技術が、最先端のAIトレンドを支える基盤技術として、再び脚光を浴びようとしているのかもしれない。
容量3倍増の鍵を握る「HAMR」と技術的ハードル
100TBという途方もない容量を実現するための技術的な柱となるのが、Seagateが長年開発を続けてきたHAMR(Heat-Assisted Magnetic Recording:熱アシスト磁気記録)技術だ。これは、記録ヘッドに搭載された微細なレーザーダイオードでディスク表面を瞬間的に加熱し、磁気的な記録密度を飛躍的に高める技術である。Seagateの現行ハイエンドモデルであるExos Mozaic 3+(36TB)もこのHAMR技術を採用しており、同社はこの技術をさらに進化させることで、1プラッターあたりの記録容量を向上させ、積層枚数を増やすことなく大容量化を目指すと考えられる。

実際、SeagateはMozaicプラットフォームのロードマップとして、2026年には40TB超の「Mozaic 4+」、2028年以降には50TBの「Mozaic 5+」を計画している。100TB達成のためには、この延長線上でさらなる記録密度のブレークスルーが不可欠となるだろう。また、一部報道では、Seagateが信頼性や持続可能性の向上を目指し、NVMe(Non-Volatile Memory Express)インターフェースに対応したHDDの開発も進めていると伝えられており、単なる大容量化だけでなく、データセンターにおける運用効率の改善も視野に入れているようだ。
楽観論と懐疑論:100TBへの道は平坦か?
もっとも、この野心的な目標に対して、業界からは期待とともに慎重な見方も出ている。テクノロジー系メディアのTom’s Hardwareは、Seagateが2017年に示したロードマップ(2026年までに50TB HDDを実現)と比較して、現在の進捗が遅れている点を指摘。今回の100TB/2030年という目標も「話半分に聞いておくべきかもしれない」と、やや懐疑的な論調だ。HAMR技術のさらなる進化や、Mozaic 5+以降の次世代技術に関する具体的な道筋がまだ明確でないことも、こうした見方の背景にあるのだろう。
過去を振り返れば、Seagateが時に意欲的な目標を掲げつつも、その達成に時間を要した例も皆無ではない。AIブームという追い風があるとはいえ、100TBという未踏の領域に到達するには、乗り越えるべき技術的、そして経済的なハードルが依然として存在すると考えるのが自然だろう。筆者としては、今後の技術発表やロードマップの更新に注目していきたい。
「電力喰い」AIと地球の未来:ストレージにおける環境戦略
AI技術の急速な普及は、その膨大なエネルギー消費という側面から、環境負荷への懸念も生んでいる。国際エネルギー機関(IEA)の試算によれば、ChatGPTのような生成AIの1回のクエリあたりの電力消費量は、Google検索の約10倍にも達するという。データセンターの電力消費量は世界的に増加の一途を辿っており、ストレージもその一翼を担っている以上、環境への配慮は避けて通れない課題だ。
SeagateのTeh氏は、こうした懸念に対し、同社が影響を与えられる範囲で積極的に取り組んでいると強調する。具体的には、製品設計において「テラバイトあたりの消費電力を低減する」こと、そして「デバイス自体の記録密度を高める」ことで、データセンター全体の省スペース化、省電力化に貢献するという。より少ないドライブで同じ容量を達成できれば、冷却に必要な電力なども含めたトータルでの環境負荷低減に繋がるというわけだ。さらに、製造プロセスにおいても、工場での再生可能エネルギーの利用目標を掲げている。
興味深いのは、SSD(ソリッドステートドライブ)との比較において、HDDが「エンボディドカーボン(製品のライフサイクル全体での炭素排出量)の観点から、より持続可能なデバイス技術である」とTeh氏が主張している点だ。大容量化と省電力化、そして製造時の環境負荷低減という多角的なアプローチで、AI時代のストレージが抱えるジレンマに挑む姿勢が伺える。
100TB HDDは「過去の技術」を蘇らせるか?
長らく「成熟技術」と見なされ、SSDの台頭によってその役割が縮小していくかにも思われたHDDが、AIという最先端技術のニーズによって、再びその存在価値を大きくアピールする可能性を秘めていることは、なんとも皮肉な物だ。
もちろん、読み書き速度の面ではSSDに軍配が上がる場面も多いだろう。しかし、テラバイトあたりのコスト、そして今回Seagateが強調する大容量化と環境性能の向上は、特にアーカイブ用途やコールドデータ(頻繁にアクセスされないデータ)の保存において、HDDの優位性を揺るぎないものにするかもしれない。AIモデルの学習データや、生成された膨大なコンテンツの保管場所として、HDDはSSDと巧みに役割分担しながら、データセンターの重要な構成要素であり続けるのではないだろうか。
過去のロードマップからの遅延や、楽観的すぎる目標設定といった懸念材料は確かに存在する。しかし、もしSeagateがこの100TBというマイルストーンを現実のものとすれば、それはHDD技術の驚くべき生命力を証明するとともに、AI時代のデータインフラのあり方に大きな影響を与えることになるだろう。果たしてHDDは、70年の時を経て、AIという新たな伴侶と共に、再びストレージ市場の主役の一角を担うことができるのか。その答えは、これからの数年間の技術開発と市場の反応の中に見出されるはずだ。
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ミーハーな自分はさっそくBarraCuda 24TBのST24000DM001を4台買ってきて、TS録画ファイルをあっちに移したりこっちに持ってきたりと検証しているが、24TBまるまるコピーしようなどと目論むと、SATAや2.5GbEでは日が暮れても終わらないという事は理解しつつ有る。
長生きはしてみるものぢゃのう。