PlayStation 5(PS5)のユーザーを悩ませ続けてきた「ストレージ容量の壁」が、次世代機PlayStation 6(PS6)を待たずして崩壊しようとしている。Sony Interactive Entertainment(以下、Sony)が世界知的所有権機関(WIPO)で公開した最新特許「Asset Streaming System and Method(アセット・ストリーミング・システムおよび方法)」は、現在100GBを超えるのが当たり前となったAAAタイトルのインストールサイズを、わずか100MB程度にまで圧縮する画期的なアプローチを提示しているのだ。
この技術が実用化されれば、SSDの空き容量を確保するために既存のゲームを削除し、遊びたい時に数時間かけて再ダウンロードするという「デジタル時代の苦行」が過去のものになるかもしれない。
100GBが100MBに。削減率99.9%を実現する「アセット・ストリーミング」
2026年2月4日に公開された本特許の核心は、ゲームの構成要素を「実行コード(ロジック)」と「アセット(データ)」に分離し、それぞれを最適に配信するハイブリッド方式にある。

従来のゲームインストールでは、高解像度のテクスチャ、3Dモデル、高音質なオーディオデータなど、ゲームの全データを事前にSSDへ保存する必要があった。しかし、Sonyの新提案では、プレイヤーが最初にダウンロードするのはゲームの実行に必要な最小限の実行コード(エグゼクタブル)と、起動に必要な最低限のコア資産のみとなる。
- 初期パッケージの極小化: 特許資料によれば、この初期パッケージはわずか100MB程度に収まる可能性がある。これは100GBのゲームと比較して、実に99.9%もの削減となる。
- 動的なデータ取得: ゲームプレイが進行するにつれ、システムはプレイヤーが必要とするであろう高品質なテクスチャやオーディオ資産をSonyのサーバーからオンデマンドでストリーミングする。
- 自動クリーンアップ: 不要になったデータはバックグラウンドで削除され、常に最小限のストレージ占有率を維持する仕組みだ。
クラウドゲームの「遅延」という宿命を回避する

「ストリーミング」と聞くと、多くのユーザーはPlayStation PlusのクラウドストリーミングやXbox Cloud Gamingのようなサービスを想起するだろう。しかし、本特許はそれらとは決定的に異なる。
従来のクラウドゲームは、ゲームの処理自体をサーバー側で行い、その映像(ビデオストリーム)を端末に送る方式だ。このため、コントローラーの入力から画面に反映されるまでの「入力遅延(レイテンシ)」が避けられず、格闘ゲームやFPSといった精密な操作を求めるジャンルでは致命的な欠陥となっていた。
対して、Sonyの新技術ではゲームのロジック(物理演算、AI、入力処理など)はすべてローカルのコンソール上で実行される。
- ローカル実行の優位性: 実行コードが本体にあるため、ボタンを押した瞬間の反応は従来のインストール版と変わらない。入力遅延の問題を根本から解消している。
- 画質の適応性: 通信環境が悪化した場合、クラウドゲームでは画面がフリーズしたり操作不能になったりするが、この技術では「一時的に低解像度のテクスチャを表示する」といった柔軟な対応が可能だ。
- 事前読み込み: 次のステージやエリアで使用されるデータを予測して先読み(プリフェッチ)することで、プレイ中のスタッタリング(カクつき)を防ぐ設計となっている。
なぜ今、この技術が必要なのか。背景にある「SSD価格の高騰」
Sonyがこの技術開発を急ぐ背景には、皮肉にもAIブームがもたらしたハードウェアコストの逆転現象がある。2026年現在、AIデータセンター向けの需要爆発により、NANDフラッシュメモリおよびSSDの価格は高騰を続けている。
- ストレージ増設のハードル: PS5はM.2 SSDによる拡張が可能だが、高品質なSSDの価格上昇はユーザーにとって大きな負担となっている。一部の8TBモデルが金の価格(1グラムあたり)を上回るケースすら報告されている。
- PS6の価格抑制戦略: 次世代機であるPlayStation 6において、Sonyがストレージ容量を劇的に増やせば、本体価格のさらなる上昇を招く。このストリーミング技術は、物理的なストレージ容量に頼らずにAAAタイトルの大容量化に対応するための、いわば「ソフトウェアによる回避策」といえる。
技術的ブレイクスルー:SVGと中間ファイルによるテクスチャ参照
Sonyは、ストレージ削減のためにテクスチャのレンダリング手法にもメスを入れている。2025年7月に提出された関連特許では、テクスチャを直接読み込むのではなく、「中間ファイル(SVGなど)」を介して参照する手法が詳細に記されている。
通常、同じ「木の質感」を持つテーブルとドアがゲーム内に存在する場合、それぞれに高解像度のテクスチャデータが割り当てられることが多い。Sonyが提案する手法では、1つの素材データを中間ファイルが参照し、形状や角度、色調の変化を動的に適用することで、見た目の多様性を保ちつつデータ重複を徹底的に排除する。
この「テクスチャの参照化」は、かつてファミコン時代の限られた容量の中で、雲と草を色違いの同じスプライトで表現していた知恵の現代版ともいえるアプローチだ。
将来への展望と課題
この技術が実現すれば、300GB近い容量が噂される『Grand Theft Auto VI(GTA 6)』のような超大作であっても、購入後数分でプレイを開始できるようになるかもしれない。
しかし、課題も残されている。
- 高速通信インフラの依存: 高品質なアセットをリアルタイムでストリーミングするには、安定した広帯域のインターネット回線が不可欠となる。
- オフラインプレイの制限: ロジックがローカルにあるとはいえ、アセットをストリーミングできない環境では「低画質版」でのプレイを余儀なくされるか、あるいは全く起動できない可能性も否定できない。
- 開発ワークフローの変化: 開発者はアセットのストリーミングを前提とした、より複雑なデータ構造を設計する必要がある。
Sonyのこの挑戦は、単なる「容量節約術」ではない。物理的なストレージという制約からゲーム体験を解放し、ハードウェアのコスト構造を根底から変える可能性を秘めた、PlayStationプラットフォームにおける最大のパラダイムシフトとなるだろう。
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