SpaceXは2026年10月20日、7〜9月期の売上高が前年同期比161%増の145億7,500万ドルに達したと発表した。従来のAI部門から名称を変更した「Super Intelligence(SI)」部門も営業黒字に転じ、前四半期まで通信部門だけが利益を生み出していた状況から大きく前進した。ただし、売上高の過半を占めるSI部門に対し、全社営業利益の大半を稼いでいるのは衛星通信サービス「Starlink」を展開するConnectivity部門である。部門別の売上高、営業利益、設備投資を比較すると、SpaceXの急成長を支える収益構造と、巨額のAI投資に伴う課題が浮かび上がる。
売上高、営業利益、設備投資で異なる主役
SI部門の営業損益は、2026年4〜6月期の12億5,700万ドルの赤字から、7〜9月期には4億3,100万ドルの黒字へ改善した。全社の営業損益も前四半期の1億4,300万ドルの赤字から27億9,100万ドルの黒字へ転換し、純利益は44億400万ドルに達した。前年同期は10億5,400万ドルの純損失を計上しており、収益性は大きく改善している。
一方、部門ごとの売上規模と収益性、投資額には依然として大きな違いがある。SpaceXの2026年第3四半期決算発表資料の3ページに掲載された部門別業績をまとめると、次のようになる。
| 部門 | 売上高 | 営業損益 | 設備投資 |
|---|---|---|---|
| Space | 17億6,700万ドル | 700万ドルの赤字 | 16億600万ドル |
| Connectivity | 52億4,800万ドル | 23億6,700万ドルの黒字 | 15億4,300万ドル |
| SI | 75億6,000万ドル | 4億3,100万ドルの黒字 | 164億4,400万ドル |
| 全社 | 145億7,500万ドル | 27億9,100万ドルの黒字 | 195億9,300万ドル |
SI部門は全社売上高の51.9%を占め、設備投資では83.9%に達する。一方、Connectivity部門の営業利益は全社営業利益の84.8%を占めている。これらの割合は、決算資料に記載された百万ドル単位の数値を用い、SIの売上高7,560を全社売上高14,575で、SIの設備投資16,444を全社設備投資19,593で、Connectivityの営業利益2,367を全社営業利益2,791でそれぞれ割り、小数第1位に丸めたものだ。営業利益の計算にはSpace部門の赤字も含まれる。
この数字から、SI部門は売上高を急速に伸ばしながら設備を拡張する成長事業であり、Connectivity部門は高い収益性で全社の利益を支える事業であることが分かる。ただし、部門別の利益と設備投資の構成比は、通信事業で得た資金が実際にどれだけSI部門へ振り向けられたかを示すものではない。成長率と収益性を分けて評価することが、今回の決算を理解するうえで重要となる。また、SIは従来のAI部門を改称したものであり、名称の変更が技術的な意味での「超知能」の実現を意味するわけではない。
Cursor買収が成長に寄与、計算基盤は1.7GWへ拡大
SI部門の売上高は、前年同期の8億1,300万ドルから75億6,000万ドルへ急増し、前年同期比の伸び率は830%に達した。SpaceXは、新たなクラウドサービス契約による収益の発生、Cursorの買収、企業や消費者によるGrokの採用拡大を主な成長要因として挙げている。つまり、SI部門の売上高には、計算インフラの提供からAIモデル、アプリケーションに至るまで、複数の事業による収益が含まれている。
売上高の内訳を見ると、SIソリューション・インフラが70億2,200万ドル、広告事業が5億3,800万ドルとなっている。ただし、ソリューション・インフラには複数の収益源が含まれるため、Grok単独の売上高や、外部顧客への計算能力の提供による売上高は個別に開示されていない。このため、SI部門の急成長を、自社AIモデルの利用料収入だけによるものと解釈することはできない。
Cursorの買収効果についても、連結対象となった期間を考慮する必要がある。SpaceXが買収を完了したのは8月14日であり、9月30日までに連結業績へ加わった売上高は6億800万ドルだった。これは四半期全体の売上高ではなく、買収完了後の約1カ月半に相当する期間の数字である。また、買収時に示された600億ドルの株式評価額と、会計上の取得対価425億ドルは異なる指標であり、買収後の勤務に対応する株式報酬も取得対価とは別に扱われている。
計算インフラへの投資も急速に拡大している。SpaceXによると、名目計算容量は2026年6月末の1.4GWから9月末には1.7GWへ増加した。ここで使われるGWは計算設備の電力規模を示す指標であり、AIモデルの処理性能や設備の稼働率を直接表すものではない。計算容量の拡大が実際の収益成長につながっているかを判断するには、新たな契約の稼働状況や、増設した設備からどれだけ売上高を生み出せるかを確認する必要がある。
SI部門の収益性については、営業利益と調整後EBITDAの違いにも注意が必要だ。7〜9月期の営業利益は4億3,100万ドルだった一方、調整後EBITDAは49億5,300万ドルに達した。両者の差を生む主な項目には、減価償却費24億7,300万ドル、通常の株式報酬8億2,100万ドル、買収関連の株式報酬12億1,700万ドルがあり、このほか買収関連費用や再編費用も含まれる。調整後EBITDAはこれらの費用を除いて算出するため、営業利益よりも大幅に大きくなっている。
今回の決算で重要なのは、こうした費用を反映した営業損益でもSI部門が黒字に転じたことだ。ただし、減価償却費や株式報酬などの金額は依然として大きく、調整後EBITDAの増加だけで事業全体の投資負担が軽くなったと判断することはできない。計算基盤の拡張に伴う費用を吸収しながら、営業利益を継続的に増やせるかが今後の課題となる。
Starlinkは契約数と単価がともに増加、通信事業が利益を牽引
Connectivity部門の営業利益は前年同期比99%増の23億6,700万ドルとなり、売上高も69%増加した。主力のStarlinkでは、消費者向け契約数が2026年6月末の1,200万件から9月末には1,360万件へ増加している。1契約当たりの月間平均売上高(ARPU)も66ドルから69ドルへ上昇しており、直前の四半期と比較すると、契約数の増加と単価の改善が同時に進んだことになる。
ただし、ARPUは前年同期の83ドルを依然として下回っている。前四半期から単価が改善したとはいえ、前年同期との比較では低下しており、長期的に単価の下落が止まったとまではいえない。また、1,360万という数字は契約数であり、実際の利用者数を表すものではない。SpaceXの定義では、一部の事業者向けプランも含まれる一方、個別契約で管理される航空、海運、政府向けなどの顧客は除外されている。
法人・政府向け事業も、通信部門の成長を支えている。同区分の売上高は前年同期比91%増の21億2,700万ドルに達し、消費者向け事業の31億2,100万ドルとともに収益拡大に貢献した。このため、Starlinkの成長を評価する際には、消費者向けの契約数やARPUだけでなく、法人・政府向けの売上高も確認する必要がある。
さらに、通信容量の拡大に向けて、次世代大型ロケット「Starship」の活用も始まっている。SpaceXによると、StarshipはFlight 14で初の軌道飛行を実施し、次世代のStarlink V3衛星26基を展開した。この打ち上げによって追加された下り通信容量は、Falcon 9によるStarlink衛星の打ち上げ1回分の約10倍に相当するという。ただし、これは衛星の投入によって追加される通信容量の比較であり、個々の利用者が得られる通信速度や、打ち上げ費用が同じ倍率で改善したことを意味するものではない。
一方、ロケット開発・打ち上げを担うSpace部門は700万ドルの営業赤字となった。Starshipを含む研究開発費は12億2,500万ドルで、前年同期の8億4,900万ドルから増加している。Starshipによって衛星輸送能力の拡大が進んでも、それが直ちにロケット事業自体の収益性改善につながるとは限らない。輸送能力の向上とSpace部門の採算改善は、引き続き分けて評価する必要がある。
SI部門の黒字化後も続く巨額投資、現金収支には大きな差
SpaceXの2026年7〜9月期の設備投資は195億9,300万ドルに達し、前年同期の68億8,000万ドルから大幅に増加した。このうち164億4,400万ドルがSI部門に投じられており、全社の設備投資の83.9%を占めている。SI部門は営業黒字への転換を果たしたものの、計算インフラの拡張に必要な投資額は依然として非常に大きい。
この負担は、キャッシュフローを見るとさらに明確になる。決算発表資料12ページによると、2026年1〜9月累計の営業キャッシュフローは130億9,700万ドルだった。一方、有形固定資産の購入額は480億6,900万ドルに達し、両者の単純な差額は349億7,200万ドルとなる。これは営業キャッシュフローから有形固定資産の購入額を差し引いたものであり、SpaceXが定義するフリーキャッシュフローではないものの、本業で生み出した現金を大幅に上回る設備投資が続いていることを示している。
SpaceXは9月末時点で、現金・現金同等物と市場性有価証券を合わせて898億5,500万ドル保有している。ただし、この残高だけから現在の投資ペースを何年間維持できるかを判断することはできない。今後の営業キャッシュフローや資金調達の状況、設備投資の規模によって、手元資金の増減は大きく変わるためだ。
また、設備投資と営業利益の関係も区別する必要がある。設備の取得に支払った金額は、その四半期の営業利益から全額を費用として差し引くわけではなく、取得した資産は原則として使用期間にわたって減価償却される。実際、SI部門ではすでに多額の減価償却費が計上されている。このため、営業損益の黒字化と、設備投資による巨額の現金支出は同時に発生し得る。
今後の焦点は、SI部門が営業黒字を維持しながら、増設した計算基盤を継続的な収益につなげられるかどうかだ。Connectivity部門の利益拡大に加え、全社の営業キャッシュフローが設備投資額に近づいていけば、SpaceXは外部資金への依存を抑えながらAIインフラの拡張を続けやすくなる。今回の決算はSI部門の収益性が改善したことを示したが、巨額投資を本業の現金創出力で支えられるかについては、今後の決算で見極める必要がある。



