新しい原子力発電所の建設は最短でも10年かかり、2030年前後に電力を求めるAIデータセンターには間に合わない。一方でガスタービンなら、許認可が通れば4年以内に大電力を供給できる。この「10年の溝」を逆手に取ったのが、Blue EnergyGE Vernovaがテキサスで進める2.5GW計画だ。まずガス火力1GWを2030年に先行稼働させ、小型原子炉1.5GWを2032年に追加する時間差設計は、GPUの次にAI競争の鍵を握る「発電所の工程表」問題に対する一つの回答である。

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なぜAI電力需要は送電網の建設速度に追い抜かれるのか

2024年から2030年までの米国データセンター電力需要は、183TWhから426TWhへ133%増える見通しだ。国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンター電力消費が2030年に2025年比でほぼ倍増すると予測する。過去4年の年成長率は15%で、他セクターの4%以下という伸びを大きく上回った。電力需要の増加曲線は、発電所や送電網の建設リードタイムとずれ始めている。

大規模AIモデルの学習と推論は、サーバー、冷却設備、電源設備をまとめて増やす。送電線の増強、変電設備の更新、発電所の建設は年単位の許認可と工事を伴う。再生可能エネルギーは発電量の変動に対応する蓄電や送電網の整備も必要になる。結果として、データセンター事業者は低炭素化の目標と2030年前後に確実に受け取れる電力の間で選択を迫られており、「いつまでに、どこから、何GW」という問いへの答えが競争力を左右する段階に入った。

2.5GW計画がガス1GWと小型炉1.5GWに分かれる理由

テキサスのハイブリッド発電所は、合計2.5GW規模の電力供給を目指している。内訳はGE Vernovaの7HA.02ガスタービン2基による約1GWと、GE Vernova Hitachi Nuclear EnergyのBWRX-300小型モジュール炉(SMR)による約1.5GWだ。先に約1GWのガス火力を動かし、2032年に原子力を追加する構成になっている。

7HA.02はシンプルサイクルで384MW、コンバインドサイクルで573MWの出力を持つ。2基を組み合わせることで、先行するガス火力部分だけでも大型データセンター群を支える規模になる。ネット効率はシンプルサイクルで42.6%、コンバインドサイクルで63.4%とされる。Homer City Energy Campusでも同系列のガスタービン7基の納入が予定され、データセンター向け電源として採用が進んでいる。

BWRX-300は、GE Hitachi Nuclear Energyが開発する300MW級の小型モジュール炉である。Blue Energyは2026年4月、VXI Capitalから3億8000万ドルを調達し、工場製造を取り入れた原子力発電所モデルを掲げた。テキサス案件では、BWRX-300を複数基組み合わせて約1.5GWの原子力電源を加える計画だ。短期の電力供給をガス火力で確保し、長期の低炭素電源を原子力で積み上げる狙いが見える。

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排熱再利用と工場製造が工期短縮につながる仕組み

コンバインドサイクル発電は、ガスタービンで発電した後の高温排ガスを蒸気タービンの熱源として再利用する。シンプルサイクルでは排ガスの熱が主に外へ逃げるが、コンバインドサイクルではその熱で水を蒸気に変え、二段目の発電に使う。同じ燃料から取り出せる電力量が増えるため、7HA.02の効率はコンバインドサイクル時に63.4%へ上がる。ガス火力を橋渡し電源にする技術的な理由は、立ち上げの速さと高効率を同時に得やすい点にある。

Blue Energyの原子炉建設モデルは、非核部品をオフサイトで製造し、現地工事の範囲を絞る発想に基づく。安全審査の中心になる核関連部分と、建屋や周辺設備などを分けて進めれば、現場での作業量を減らせる。造船所や工場で部材を作るプリファブ方式は、天候や現場人員の制約を受けにくい。Blue Energyは、この方式で従来型の原子力建設スケジュールから少なくとも5年短縮できるとしている。

2030年のガス先行稼働が投資リスクをどう変えるのか

2026年第3四半期には、テキサスのサイトで早期工事が始まる予定だ。2027年には最終投資決定と、米国原子力規制委員会(NRC)への建設許可申請が予定されている。GE Vernovaの7HA.02ガスタービン2基は、2029年のサイト納入スロットが契約済みとされる。2030年には、まずガス火力部分から約1GWの電力供給を始める計画である。

2032年には、小型炉部分が約1.5GWを追加し、発電所全体が2.5GW規模へ拡張される見通しだ。ガス火力を先に商用運転へ入れることで、原子炉の建設と許認可が続く間にも電力供給と収益化を始められる。発電所側は資本回収の時期を前倒しでき、データセンター側は2030年前後の電力不足リスクを抑えられる。この順序は、AIインフラが求める「早く、大きく、安定した電力」に合わせた工程設計だ。

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ダーリントン先行がBWRX-300の米国展開に与える意味

BWRX-300は、カナダのオンタリオ州ダーリントン計画が北米で先行している。ダーリントンでは2025年5月に建設が始まり、2030年の完了が予定されている。米国側ではテネシー川流域開発公社(TVA)が、テネシー州クリンチリバーで2026年に建設許可を申請する計画だ。テキサス案件は、民間の大口電力需要とBWRX-300を結び付ける大型プロジェクトとして位置付けられる。

項目 ダーリントン クリンチリバー テキサス計画
国・地域 カナダ・オンタリオ州 米国・テネシー州 米国・テキサス州
炉型 BWRX-300 BWRX-300 BWRX-300
状況 2025年5月に建設開始 2026年に建設許可申請予定 2027年に建設許可申請予定
予定時期 2030年完了予定 未公表 2032年に核電力追加予定
主な役割 北米先行案件 米国公的電力の候補 AIデータセンター向け大口電源

GE Hitachi Nuclear Energyは2020年以降、BWRX-300に関する6件のライセンシング・トピカルレポートをNRCへ提出し、承認を得ている。ダーリントンの建設開始は、BWRX-300が設計検討から実際の建設段階へ移ったことを示す材料になる。テキサス計画の焦点は、その審査と建設の蓄積を民間データセンター需要へ結び付けられるかにある。AI電力インフラの競争は、チップ供給網から発電所の工程表へ広がっている。