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Unreal Engine 5.6が発表:『The Witcher 4』がPS5/60fps動作するデモやMetaHumanの大進化などゲーム開発の未来を垣間見る

Y Kobayashi

2025年6月4日

Epic Gamesが満を持して「Unreal Engine 5.6」(以下、UE5.6)を正式リリースした。米国時間2025年6月3日に開催された「State of Unreal 2025」キーノートでは、その驚異的な新機能の数々が披露され、中でもCD Projekt Redによる『The Witcher 4』の技術デモは、現行コンソールであるPlayStation 5(以下、PS5)のベースモデル上でレイトレーシングを有効にしつつ60fpsで動作するという圧巻の内容で、会場とオンラインの視聴者を騒然とさせた。さらに、リアルなデジタルヒューマン作成ツール「MetaHuman」も大幅な進化を遂げ、エンジンへの完全統合やライセンス形態の柔軟化が発表されるなど、ゲーム開発の未来を大きく左右する発表が相次いだ。

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60FPSの壁を破るUE5.6:オープンワールド表現と開発効率の飛躍的向上

Unreal Engine 5.6 Feature Highlights

UE5.6の最大の焦点の一つは、現行世代のコンソールやPC、さらにはハイエンドモバイルデバイスにおいても、広大で高忠実度なオープンワールドを60フレーム/秒(FPS)で安定して描画可能にするという野心的な目標だ。これを実現するため、Epic Gamesはエンジンコアからツールセットに至るまで、多岐にわたる最適化と機能強化を施している。

ハードウェアレイトレーシング(HWRT)の進化とLumenの性能向上

特に注目すべきは、ハードウェアレイトレーシング(HWRT)システムの大幅な機能強化だ。これにより、UE5の目玉機能の一つであるリアルタイムグローバルイルミネーションおよび反射システム「Lumen」のパフォーマンスが飛躍的に向上した。Epic Gamesによれば、主要なCPUボトルネックを解消することで、より複雑なシーンを構築しつつも、滑らかな60FPSのフレームレートを維持できるようになったという。これは、AAAタイトルの開発において、ビジュアルクオリティとパフォーマンスの両立という長年の課題に対する強力な回答となるだろう。

高速ジオメティストリーミングとコンテンツ管理の効率化

大規模なオープンワールドゲームにおいて、広大なマップデータをシームレスに読み込むことはパフォーマンス維持の鍵となる。UE5.6では、新たに実験的機能として「Fast Geometry Streaming Plugin」が導入された。これにより、不変の静的ジオメトリを大量に含むワールドでも、フレームレートを維持しながらより高速にコンテンツをロードできるようになる。さらに、非同期での物理状態の作成・破棄など、コンテンツストリーミング全般にわたる改善も施されている。

開発者向けのイテレーション(反復作業)高速化も重要なテーマだ。プロジェクトランチャーのUI(ベータ版)はユーザビリティと効率性のために完全に再設計され、デバイス起動プロファイルの作成と管理が迅速化された。「Zen Streaming」(ベータ版)は、フルパッケージビルドやコピー/インストールといった時間のかかるステップを排除し、ターゲットプラットフォームでのコンテンツイテレーションとテストを効率化する。また、実験的な「Incremental Cook」機能は、アセットの変更を分析し、更新された部分のみをクックすることで、ターゲットデバイスでのイテレーションを高速化する。

アニメーションオーサリングの革新:エンジン内で完結するワークフローへ

UE5.6は、アニメーション制作ワークフローにおいても大きな変革をもたらす。従来、DCC(Digital Content Creation)ツールとの間で行ったり来たりする必要があった作業の多くを、エンジン内で完結させることを目指しているのだ。

  • Motion Trailsの完全再設計: アクターとキャラクターコントロールの両方で統一され、ビューポート内で直接アークやスペーシングを調整可能に。Dashed、Time-based、Heat/Speedモードといったスタイル選択や、ピン留め、オフセット、スペースなどの機能も追加された。
  • Tween Toolsの刷新: コントロールや選択キーのアニメーションをより迅速に微調整可能に。ホットキーによるスライダーの間接操作、スライダータイプの切り替え、Overshootモードへの移行、Time Offsetスライダーの追加など、制御性が大幅に向上している。
  • Curve Editorツールバーの再設計: キーフレーム操作の速度とパフォーマンスが向上。アイコンの合理化・統合、新しいTweenツールのエディタ内への直接埋め込み、新しいLatticeツール、Smart Keyスナップ機能などが追加され、高密度なキーフレームデータの制御が容易になった。
  • Sequencerの強化: 新しいSequencer Navigation Toolによる複雑な階層のナビゲート、リアルタイムAudio Scrubbingによるアニメーション・セリフ・エフェクトの同期精度の向上。さらに、ローカライズされた音声に基づいてシーケンスのタイミングを相対的にスケールする実験的機能も拡張された。
  • インエディタ リギングソリューション (実験的): Skeletal Mesh Editor内で直接モーフィングターゲットを作成・スカルプト可能に。また、Control Rig Physicsにより、キャラクターリグにプロシージャルな物理モーションを簡単に追加でき、よりダイナミックな動きを実現。リグ内に組み込まれたラグドール物理機能も実験的に導入された。

これらの進化は、アニメーターがより直感的かつ効率的に作業を進め、試行錯誤のサイクルを短縮し、最終的により高品質なアニメーションを生み出すための強力な後押しとなるだろう。

『The Witcher 4』技術デモ:PS5ベースモデルで実現する次世代のオープンワールド体験

The Witcher 4 Unreal Engine 5 Tech Demo 4K | State of Unreal | Unreal Fest Orlando

State of Unreal 2025で最も大きな注目を集めたのは、間違いなくCD Projekt RedがUE5.6を用いて制作した『The Witcher 4』の技術デモだろう。このデモは、PS5のベースモデル上で、レイトレーシングを有効にした状態で60FPSで動作するという驚異的なパフォーマンスを示した。

デモでは、前作『The Witcher 3: Wild Hunt』の出来事を経て、ベテランのモンスタースレイヤーとなったシリが主人公として登場。雪に覆われた山岳地帯や、活気あふれる港町「ヴァルデレスト」の市場などを馬(名前はケルピー)と共に巡る様子が描かれた。

CD Projekt RedのシニアテクニカルアニメーターであるJulius Girbig氏は、The Vergeのインタビューに対し、「PS5がどれほどの速さで、どのようなゲームを実行できるか、誰もが知っています。だからこそ、私たちは意図的にそのルートを選びました。ハイエンドハードウェアで実行するのではなく、コンソールから始めて、Epicと共にこのエンジンをどれだけ最適化し、現行世代機で動作させられるかを示したかったのです」と語っている。

このデモで特に印象的だったのは、UE5.6の新技術が惜しみなく投入されている点だ。

  • Nanite Foliage: 従来のLOD(Level of Detail)トリックを超越し、膨大な量の草木や葉の一枚一枚までを効率的にレンダリング。Naniteは少数の小さな木のコンポーネントをプロシージャルに再配置し、自然な森を説得力を持って生成できる技術だ。遠景の植生はピクセルよりも小さいキューブに簡略化され、アーティストはグラフィックやフレームレートを犠牲にすることなく、必要なだけディテールを追加できる。
  • プロシージャルアニメーションと機械学習(ML)ベースのキャラクター変形: シリとケルピーの動きの遷移はシームレスで、特にケルピーの筋肉の動きはMLによる変形技術でリアルに再現されつつ、パフォーマンスへの影響は抑えられている。
  • Fast Geometry Streaming Pluginの活用: CDPRはこのプラグインによりオープンワールドでのコンテンツ読み込みが大幅に高速化されたことを報告している。
  • インタラクティブな世界: シリが村人とぶつかると、その村人が持っていた食べ物をこぼし、それが他のキャラクターとの連鎖反応を引き起こす可能性も示唆された。300以上のスケルタルメッシュエージェント(キャラクター)が登場するシーンでも、ゲームのパフォーマンスには全く影響しなかった。

ただし、CD Projekt Redは、このデモがあくまでUE5.6のツールと目指す方向性を示す「技術デモ」であり、『The Witcher 4』の実際のゲームプレイ映像ではないことを強調している。同社は過去に『The Witcher 3』や『Cyberpunk 2077』で、発表時のデモと製品版でビジュアルが異なったという経緯もある点には注意が必要だろう。『The Witcher 4』のリリースは早くとも2027年以降とされており、最終的な製品がどのような姿になるかは未知数だが、今回のデモが示したポテンシャルは計り知れない。

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MetaHumanが大進化:エンジン統合とライセンス刷新でデジタルヒューマン作成がより身近に

MetaHuman Sizzle Reel | Unreal Fest 2025

リアルなデジタルヒューマンを迅速に作成できるEpic Gamesのツール「MetaHuman」も、UE5.6のリリースに合わせてアーリーアクセスを終了し、正式版として全デベロッパーに提供が開始された。さらに、驚くべき機能強化と利用条件の変更が行われている。

エンジンへの完全統合とオーサリング機能の拡充

最大の変更点は、MetaHuman CreatorがUE5.6に完全に組み込まれたことだ。これにより、開発者はUnreal Editor内で直接MetaHumanの作成から編集までを行えるようになり、ワークフローが大幅に効率化される。

機能面では、顔と同様に、ほぼ無限の範囲でリアルな体型を作成できるようになり、MetaHumanに自動的にリサイズしてフィットする完全な衣装を生成できる新しい「Unreal Engine Outfit」アセットも導入された。顔と体の両方で、現実世界の膨大なスキャンデータに基づくデータベースが大幅に拡張され、より多様で忠実度の高いキャラクターを作成できるようになったとUnreal Engine公式ブログは伝えている。

さらに、MetaHuman Animationは、一般的なウェブカメラや多くのスマートフォン、さらには音声からでもリアルタイムで俳優のパフォーマンスをキャプチャできるようになった。State of Unrealのデモでは、最小限のカメラセットアップで、舞台裏の俳優がリアルタイムで観客に語りかけ、MetaHumanがその表情や動きを遅延なく正確に捉える様子が披露された(VentureBeat報道)。

ライセンスの大幅緩和:他エンジンやDCCツールでの利用も可能に

もう一つの大きなニュースは、MetaHumanのライセンスが更新され、他のゲームエンジン(UnityやGodotなど)やクリエイティブソフトウェア(Maya、Houdini、Blenderなど)でも利用可能になったことだ。これは、MetaHumanの高品質なキャラクターアセットが、Unreal Engineのエコシステムを超えて、より広範なクリエイターコミュニティに開かれることを意味する。

開発者は、Epicのデジタルアセットマーケットプレイス「Fab」で自身のMetaHumanを販売することも可能になる。これにより、MetaHumanの活用範囲はゲーム開発に留まらず、映像制作、バーチャルプロダクション、メタバースなど、あらゆるデジタルコンテンツ制作分野へと広がることが期待される。

UE5.6が切り拓くゲーム開発の未来とクリエイティブ業界への波及効果

Unreal Engine 5.6の登場は、単なるゲームエンジンのバージョンアップに留まらない、大きなインパクトを秘めている。

まず、AAA級のビジュアルクオリティとパフォーマンスの両立が、より多くの開発者にとって現実的な目標となるだろう。特に、PS5ベースモデルで『The Witcher 4』のデモが60FPSで動作したという事実は、最適化の進展が著しいことを示しており、開発チームはリソース配分の自由度を高められる可能性がある。

MetaHumanの進化とライセンス変更は、高品質なデジタルヒューマンの利用を民主化する可能性を秘めている。これまでキャラクター制作に多大なコストと時間を要していた小規模スタジオやインディー開発者も、リアルなキャラクターを容易に導入できるようになるかもしれない。これは、ストーリーテリングや没入感の向上に繋がり、ゲーム体験の質を底上げするだろう。

一方で、これらの高度な技術を使いこなすには、相応の学習コストや開発体制が求められる可能性もある。また、グラフィックの忠実度が向上するほど、それに見合うだけのコンテンツ量や世界の作り込みが必要となり、結果的に開発規模の増大を招くという側面も否定できない。

しかし、総じてUE5.6が提示する未来は明るい。よりリアルで、より広大で、より滑らかに動作するゲーム体験が、私たちプレイヤーを待っていることは間違いないだろう。そしてその影響はゲーム業界に留まらず、映画、アニメ、建築、シミュレーションなど、あらゆる分野でリアルタイム3D技術の活用を加速させる起爆剤となるかもしれない。

Epic Gamesが推し進める「クリエイター経済圏」の拡大と、オープンなエコシステムへの移行は、業界全体の活性化に繋がるのか。そして、CD Projekt Redは『The Witcher 4』で、この技術デモが示した以上の驚きを私たちに届けてくれるのか。今後の展開から目が離せない。


Sources

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