Microsoftは2026年9月15日、シェーダーの準備にかかる待ち時間を短縮する「Advanced Shader Delivery(ASD)」を、Xbox向けPCゲームをDirectX 12で開発するすべての開発者が利用できるようにした。10月1日には対応GPUの拡大も発表し、事前にコンパイルしたシェーダーをゲームと一緒に届ける仕組みが、対応タイトルとハードウェアの両面で広がっている。
ただし、「ASD対応」と表示されていれば、あらゆる場面でシェーダーの待ち時間がなくなるわけではない。ゲームの更新後も効果を維持するには、開発者が必要な描画処理をどこまで収集し、ゲームのバージョンに合わせてデータを更新し続けられるかが重要になる。
9月から、開発者自身でASDに対応できるように
9月15日の案内でMicrosoftが公開したのは、開発者自身がASD用のデータを提出できるセルフサービスの仕組みだ。対象は、Xbox向けPCゲームをDirectX 12で開発する開発者で、利用には2026年4月更新のXbox Game Package Managerが必要になる。Windows上のすべてのゲームが自動的にASDへ対応するという発表ではない。
ASDそのものは、それ以前から段階的に提供範囲を広げてきた。3月のGDC向け発表では、開発者がデータを提出するための仕組みや新しいAPIが予告された。6月11日の更新では、AMDのすべてのRDNA世代を対象に、Xbox PCアプリで一般利用できる段階へ進んだ。
9月に変わったのは対応GPUではなく、開発者が自分のタイトルをASDへ対応させる手続きだ。それまでの限定プレビューでも数十タイトルが数カ月にわたって提供されていたという。既存の参加者には担当者から移行方法が案内される。限られたタイトルでの試験導入から、各ゲーム会社が自らASDを更新工程へ組み込める段階に進んだことになる。
開発者が提出するSODBと、PCへ届くPSDBは別物
シェーダーは、光の当たり方や色など、画面を描画する処理をGPUへ指示するプログラムだ。PCで実行するには、GPUやドライバに合わせた形へコンパイルする必要がある。
ハードウェア構成が固定されたゲーム機と異なり、PCには多数のGPUとドライバの組み合わせがある。そのため、ゲーム側で一種類のコンパイル済みデータを用意すれば済むとは限らない。初回起動時にまとめてコンパイルすれば長い待ち時間につながり、プレイ中にコンパイルすればカクつきの原因になることがある。
ASDは、この処理の一部をプレイヤーのPCで行う前に済ませる仕組みだ。導入ガイドによると、開発者が提出するのはSODB(State Object Database)である。
SODBは、GPUでそのまま実行できる完成済みシェーダーを詰め込んだものではない。ゲームが使うPipeline State Object(PSO)やState Object(SO)の情報と、それらを再構築するためのDXIL形式のシェーダーを記録したデータベースだ。SODBの仕様にも、この構造が示されている。
ストア側はSODBを受け取り、GPUメーカーが提供するコンパイラを使って、ドライバごとのPSDB(Precompiled Shader Database)を生成する。こちらが、実際のGPU環境に合わせて事前コンパイルされたデータだ。
ゲームをダウンロードする際に対応するPSDBも一緒に配信すれば、プレイヤーのPCで同じコンパイル処理を繰り返す必要を減らせる。開発者は基本となるSODBを用意し、ストア側が各GPUやドライバ向けのPSDBを生成するという役割分担になっている。
Microsoftの技術概要では、起動時の待ち時間だけでなく、ゲーム中のシェーダーコンパイルによるカクつきや電力消費の低減も利点として挙げている。
一方で、ストレージからゲームデータを読み込む時間や、描画そのものに必要なGPU性能は別の問題だ。シェーダーの準備時間が短くなるからといって、ゲーム全体のロード時間や平均フレームレートが同じ割合で改善するとは限らない。
シェーダーを集める二つの方法、それぞれに漏れが生じる
シェーダーを事前コンパイルするには、そのゲームで使われる描画処理をあらかじめSODBへ収録しておく必要がある。
Microsoftの導入ガイドでは、実際にゲームを動かしながら記録する「手動収集」と、ゲーム側が使用する処理を列挙してSODBを作る「プログラムによる生成」の二つの方法を用意している。どちらもSODBを作る方法だが、データが不足する原因は異なる。
次の表は、2026年10月3日時点の導入ガイド1.2節をもとに、二つの方法を比較したものだ。性能測定の結果ではなく、導入方法と収集条件の違いを整理している。
| 比較項目 | 手動収集 | プログラムによる生成 |
|---|---|---|
| 収集するもの | 実際のプレイ中に生成された描画処理 | ゲーム側が把握している描画処理 |
| エンジンの変更 | 不要。収集用ツールで記録する | 生成用APIの組み込みが必要 |
| 網羅性の限界 | 実際に試した場面や設定、ハードウェアに依存 | ゲーム側の処理リストがどこまで完全かに依存 |
| 更新時の作業 | ゲームを動かして再収集する | ビルド工程に組み込み、自動生成できる |
| 適した導入段階 | 発売済み、または開発終盤のタイトル | 開発初期のタイトルや、処理を列挙できるエンジン |
手動収集では、実際にプレイした場面や設定で生成された処理しか記録されない。たとえば通常の画質設定だけで収集した場合、レイトレーシングを有効にしたときだけ必要になる処理が抜ける可能性がある。
ガイドでは、複数の画質プリセットや主要なゲーム区間を試すことに加え、GPUメーカーごとに異なる処理経路がある場合には、それぞれのハードウェアで収集したSODBを統合するよう勧めている。エンジンを変更せずに導入できることと、必要な処理をすべて収集できることは別の話だ。
プログラムによる生成では、ゲーム側が把握しているPSOやSOをAPI経由でSODBへ書き出す。ビルド工程へ組み込めるため、ゲームを更新するたびに同じ作業を自動で繰り返せる。
ただし、ゲーム側がリストアップしていない処理まで自動的に発見してくれるわけではない。ガイドでは、独自エンジンへ組み込む場合の開発期間の目安を数週間から数カ月としている。一方、すでにSODB生成へ対応したミドルウェアやゲームエンジンを使う場合は作業量を大幅に減らせるため、この期間をすべてのタイトルに当てはめることはできない。
実際に必要になった処理のうち、事前コンパイル済みのデータがどれだけ利用されたかは、キャッシュヒット率で確認できる。Microsoftのガイドでは90%以上を良好な結果としている。
ただし、90%のキャッシュヒット率は、待ち時間が90%短くなるという意味ではない。収集時とは異なる設定やプレイ内容、GPU固有の処理経路に加え、GPUメーカー側の対応状況も影響する。ASDへ対応した後も、収集できていない処理を見つけて追加する作業は残る。
ゲームのアップデート後に待ち時間が戻ることもある
発売時に十分なSODBを用意していても、アップデートによってゲームの描画処理が変われば、以前のデータだけでは対応できなくなる場合がある。
Microsoftの9月の案内では、ゲーム本体とSODBパッケージのバージョンがずれると、ゲーム内で再びシェーダーコンパイルが発生する可能性があると説明している。その場合は新しいSODBを提出し、ゲームの更新内容に合わせる必要がある。
ただし、パッチを適用するたびにASDがすべて無効になるわけではない。Microsoftは、変更内容や頻度によって影響は異なり、「有効か無効か」の二択ではないと説明している。
SODBの仕様では、個々の描画処理のバージョン情報を、事前コンパイル済みのデータと照合するために利用する。アップデート後も変わっていない処理がある一方、新しくなった処理だけ再びコンパイルが必要になる場合がある。
事前コンパイルしたデータを正しく利用するには、ゲームを識別する情報も重要だ。アプリケーション識別の仕様では、実行ファイル名やゲーム名に加えて、アプリのバージョンやゲームエンジンの情報などを扱う。
これは、ドライバ側のゲームごとの最適化と、事前コンパイルされたシェーダーを正しく対応付けるために使われる。導入ガイドでも、識別情報の不一致はキャッシュヒット率が0%になる原因の一つとして挙げられている。
つまり、ASD対応は発売前に一度SODBを提出すれば終わる作業ではない。ゲームの変更に合わせて必要な描画処理を収集し直し、バージョンや識別情報をそろえたデータをゲームとともに配信し続ける必要がある。
9月にセルフサービス化されたことの意味は、こうした更新作業を各開発会社が自分たちの開発・配信工程の中で継続して行えるようになった点にある。
10月に対応GPUを拡大、NVIDIAとIntelは月内予定
10月1日の発表でMicrosoftが示した共通の動作条件は、Windows 11 24H2以降である。対応GPUの状況は次のように分かれる。
IntelとNVIDIAについては10月中に対応する予定で、10月3日時点ですべての対象GPUが利用できるという意味ではない。
| GPUメーカー | 発表された対象と条件 | 10月1日の発表時点 |
|---|---|---|
| AMD | RDNA 1/2/3/3.5/4。Adrenalin 26.6.1以降 | 利用可能 |
| Qualcomm | Snapdragon X2シリーズ。グラフィックスドライバ2026.08.3以降 | 利用可能 |
| Intel | Arc B570/B580、Core Ultra Series 2/3 | 10月中に対応予定 |
| NVIDIA | すべてのRTX GPU、RTX Spark | 10月中に対応予定 |
同じ発表でMicrosoftは、『Gears of War: E-Day』では初回のシェーダーコンパイル時間が、一般的なPCでの数分から数秒へ短縮され、約95%削減されたと説明している。
ただし、この数字はMicrosoftによる説明で、発表には比較に使ったPCの詳しい構成や具体的な秒数までは示されていない。また、約95%という数字が指しているのはシェーダーコンパイル時間であり、ゲーム全体の起動時間やロード時間が95%短くなるという意味ではない。
配信方法にも注意したい点がある。Microsoftは『E-Day』でASDを利用するため、ゲームをダウンロードする前にXbox PCアプリをインストールするよう案内している。
一方、開発元The Coalitionの発売前案内では、Xbox PCアプリ以外からゲームを利用する場合でも、Windows 11 PCにXbox PCアプリが入っていればASDの恩恵を受けられる場合があるとしている。必要な事前コンパイル済みシェーダーをインストールできるためだ。
ただし、これは『Gears of War: E-Day』について示された条件であり、すべての外部ストアがASDの配信へ対応していることを意味しない。
利用者が確認すべきなのは、GPUがASDに対応しているかだけではない。そのゲームでASDが利用できるのか、どの配信方法が必要なのか、アップデート後も新しいシェーダーデータが提供され続けるのかも重要になる。
開発者がASDへ対応しやすくなった今後は、各タイトルで必要なシェーダーがどこまで漏れなく事前配信され、ゲームの更新後もその状態を維持できるかが、実際の待ち時間を左右する。



