パソコンが起動しなくなったとき、真っ先に探すのは回復用USBメモリだ。しかし手元にそれがなければ、たいてい打つ手がない。Windows 11の実験的なInsiderビルドには、この前提そのものを崩しかねないオプションが見つかっている。WinRE(Windows回復環境)のトラブルシューティングメニューから直接クラウドに接続し、起動できないままOSとドライバを再構築する「Recover from the cloud」だ。Microsoftは2025年11月、同じ名称を持つ機能をIT管理者向けにIntune経由の企業向けリカバリとして発表しているが、両者の関係は公式には説明されていない。

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起動しないPCをUSBメモリなしで生き返らせる「Cloud Rebuild」の正体

Microsoftは2025年11月18日、Ignite開発者会議でリカバリ関連の新機能を相次いで発表した。柱となったのが「Cloud Rebuild」と「Point-in-Time Restore(PITR)」の2つだ。公式ブログでは、企業のIT管理者がリモートでゼロタッチのOS再インストールをトリガーできる機能として位置づけられている。発表時点でPITRは既にWindows Insider Beta/Dev Channelsで先行提供が始まっており、段階的な機能展開のため全てのInsiderには行き渡らないとの注記も添えられていた。

PITRはその後、2026年6月23日に一般提供(GA)を開始した。対象はHome/Pro/Enterpriseの全エディションで、2026年6月の非セキュリティプレビュー更新以降のビルドが条件になる。OSボリュームが200GB以上のデバイスでは既定で有効化される仕様だ。窓の杜が2026年6月25日付で報じている通り、日本語圏でもこの一般提供のニュースは既に伝わっている。

ただしPITRとCloud Rebuildは、同じ発表に含まれていても役割が異なる。PITRはシステムを過去の特定時点の状態へ巻き戻す機能で、いわば高機能なシステムの復元だ。一方のCloud Rebuildは、OSそのものとドライバをクラウドから丸ごと再構築する、より踏み込んだ再生手段として説明されている。両者はWindows Resiliency Initiativeという同じ傘の下にあるが、想定する故障の深刻度が違う。

企業のIntune連携と個人のWinREオプション、Cloud Rebuildに見える「2つの顔」

Ignite発表時点のCloud Rebuildは、明確に企業向けの機能として説明されていた。IT管理者がIntuneポータルから対象のWindowsリリースと言語を選択し、対象デバイスに対してリモートでOS再インストールを指示できる、とされる。再構築後はAutopilot(Windowsデバイスの自動セットアップ・展開サービス)によるMDM(モバイルデバイス管理)再登録とポリシー適用が自動で走り、ユーザーデータはOneDriveとWindows Backup for Organizations経由で復元される設計だと、公式ブログの内容を引用した複数の二次情報が伝えている。

ところが2026年7月6日から7日にかけて、様相の異なる発見が報じられた。Windows 11 25H2の実験的なInsiderビルドで、WinREのトラブルシューティングメニューに「Recover from the cloud」という新設オプションが見つかったという。発見者は海外のWindowsコミュニティで「XenoPanther」と名乗る人物とされ、Windows ReportとPureinfotechが追認したと報じられている。発見を最初に報じたとされる英語記事の原文は本稿執筆時点で確認できておらず、複数の二次情報源が伝える内容として扱う。

この「Recover from the cloud」は、Intuneのような管理ツールを介さず、利用者自身がPCの前でメニューから選ぶ個人向けの操作フローだ。企業向けIntune主導版と、個人が自己操作するWinRE版が同一機能の異なる入り口なのか、それとも別々に開発された機能なのかは公式に明言されていない。両者が同じ名称を共有している以上、少なくとも「Cloud Rebuildという1つのブランドに、企業向けと個人向けの2つの側面がある可能性がある」という整理が現時点で成り立つ姿だ。

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なぜ「起動不能でも直せる」がここまでの到達点なのか

Windows 10のAnniversary Update(2016年)以降、「Reset this PC」にはCloud Downloadという選択肢が備わってきた。ローカルの回復イメージを使わず、クラウドから最新のOSイメージを取得して再インストールする機能だ。USBメモリを用意する手間は省けるが、この機能を呼び出すには一度Windowsが起動できる状態でなければならないという制約が残った。壊れたのがまさに起動プロセスそのものである場合、Cloud Downloadは役に立たない。

この積み残しに手を付けたのが、2024年のCrowdStrike障害を契機に整備が進んだQuick Machine Recovery(QMR)だ。CrowdStrikeの欠陥更新プログラムが世界中のPCをブルースクリーンで起動不能に陥れた事態を受け、MicrosoftはWindows Resiliency Initiativeの中核として、起動できない端末をリモートから診断・修復する仕組みを整えてきた。QMRは起動不能そのものへの対処という点で、Cloud Downloadが残した空白を初めて埋める試みだった。

Cloud Rebuildと「Recover from the cloud」は、この系譜の延長線上にある。起動プロセスが機能しない状態でもWinREからクラウドに接続し、OSとドライバをまるごと再構築できるとすれば、2016年のCloud Downloadが抱えていた「起動できることが前提」という制約を初めて解消する到達点になる。IT管理者にとっては、遠隔地の従業員のPCが起動しなくなるたびに機体を回収して再イメージ作業をする現地対応の工数を、どこまで減らせるかが焦点になる。

ドライバの再インストールについて、公式の想定として記されているのは、デバイスがインターネットに到達でき、OEM(PCメーカー)またはWindows Updateのドライバソースが必要なドライバを供給できることが前提になる、という記述にとどまる。つまりドライバを自動で再取得する独自の新技術が用意されたわけではなく、通常のWindows Update経由のドライバ配信網に乗っかる形だとみられる。

発表から7カ月超、Intune統合の「2026年前半」目標はどこまで進んだか

2025年11月のIgnite発表では、Cloud RebuildとPITRのMicrosoft Intune統合について「2026年前半」が目標として示されていた。この時期設定はBleepingComputerの報道によれば「仮のもの」だったとされる。発表からおよそ7カ月半が経過した2026年7月時点で、少なくともWinRE単体で動く「Recover from the cloud」の側は、Windows Insider向けの隠し機能有効化ツールViVeToolで機能フラグを手動有効化しなければ姿を現さない実験段階に留まっている。

企業向けにIntune経由で提供する本流の機能と、個人が自分で有効化して試せる実験的な入り口とでは、進み方の速度が明らかに異なる。「2026年前半」という当初目標からは遅れが生じている可能性がうかがえるが、Microsoftが計画そのものを撤回したという情報はなく、公式発表と現状が矛盾しているわけではない。

正式な一般提供の時期、クラウド経由の再構築にかかる通信量や所要時間、オフライン環境や通信規制がある地域での実用性——これらは複数の報道のどこにも数値として示されていない。ViVeToolフラグ番号「42537950」や対象エディションがHome/Proに限られるという情報も、単独の低信頼度ソースにのみ依拠しており、複数メディアによる裏付けが取れていない。

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国内PCメーカーの回復パーティション文化はどう変わるか

日本のPC市場では、NECのLAVIEや富士通のFMV、VAIOなど各メーカーが独自の回復パーティションとリカバリメディア運用を提供してきた。故障時にはメーカー独自の手順に従ってストレージ内の隠し領域から復元するか、有償のリカバリディスクを申し込むケースが少なくない。Cloud Rebuildや「Recover from the cloud」がWindowsの標準機能として定着すれば、こうしたメーカー独自ツールへの依存度は下がっていくとみられる。

日本国内でもMicrosoft Intuneを導入する組織は多く、情報システム部門は在宅勤務者や遠隔拠点の従業員が使うPCのトラブル対応に、機体の回収と現地再イメージという工数をかけ続けてきた。Cloud Rebuildが想定通りに機能すれば、この工数を減らせる可能性がある。ただし2026年7月時点でIntune統合が実験段階に留まっている以上、国内企業が実際に使える形で提供されるのはまだ先になるとみられる。

2025年11月の発表は、CrowdStrike障害以降Microsoftが進めてきた「リカバリのクラウド完全移行」という方向性を示す宣言だった。それから7カ月半、企業向けの本流とは別に、個人が自分で試せる入り口が実験的ビルドの中に見つかったという今回の一件は、その方向性が目標より遅れながらも止まってはいないことを示している。Intune統合が実際に完了する時期こそが、この移行が本物かどうかを判断する材料になる。