General Atomics(GA)が2026年6月、同社のポーウェイキャンパスにBlanket Component Test Facility(BCTF)を建設すると発表した。米エネルギー省(DOE)との共同開発で、アイダホ国立研究所(INL)、UCサンディエゴ、日本の京都フュージョニアリングが参画する公民連携プロジェクトだ。

カリフォルニア州知事室の事業経済開発局(GO-Biz)を通じて受領が確定した2000万ドルのCalifornia Competes税額控除は、この施設の設計・開発費に充てられる。GAの上級副社長Anantha Krishnanは「ブランケットをこの規模で試験した者はいない。BCTFは、核融合を実証された科学から実用的な持続可能エネルギーに変える近道になる」と述べている。

核融合研究において、GA自体はよそ者ではない。1957年に米国初の核融合研究プログラムを設立した同社は、現在もDOEの委託でDIII-Dトカマク施設を運営している。だが、今回の発表が特異なのは、その目的が研究用プラズマ物理の探求を超えている点だ。BCTFは商業炉に実際に取り付ける部品を、商業炉相当の条件で評価する施設として設計されている。

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トリチウムを作る装置のジレンマ

核融合炉の燃料はデューテリウムとトリチウムの混合物だ。デューテリウムは海水から容易に取り出せるが、トリチウムは事情が違う。半減期約12.3年で自然崩壊し続けるため、地球上の天然トリチウム総量は常時4kg前後しか存在しない。商業規模の核融合炉は、これを炉内で自前生産しなければ動かない。

そこで登場するのがブランケットだ。トカマク真空容器の内壁を覆うリチウム系材料で作られたこの層は、二つの機能を同時に担う。融合反応で発生する高速中性子を吸収して熱に変え、それを発電に使う。同時に、吸収した中性子がリチウムと反応してトリチウムを生成する(⁶Li+n→⁴He+³H+4.8MeV)。だが中性子が発生するたびに構造材料は劣化し、液体金属リチウムの循環系は腐食と高熱に晒され続ける。燃料生産の反応式は数行で書けても、実機が数万時間の連続運転に耐えられるかどうかは、試験してみなければわからない。

問題はスケールにある。ブランケットが商業炉レベルで熱除去、燃料抽出、機械的耐久性のすべてを同時に満たすかを確かめるには、実機サイズでの長時間運転が必要だ。しかし現在、そのような試験が行えるインフラは世界のどこにもない。国際熱核融合実験炉ITERがフランスで建設中だが、ITERで得られるブランケット試験データは限定的で、商業炉設計に直接適用するには精度が足りないとされている。GAの核融合エネルギー技術ディレクターBrian Griersonは「これほどの規模をこれほどの緊急性で試験しようとした者は、これまでいなかった」と言い切る。

BCTFは、リチウム固体、液体、塩の3形態を対象に、熱除去能力、機械的耐久性、トリチウム生産量を商業炉相当の条件で評価する。同施設の設計は既存のMagnet Technologies Center(ITER用中心ソレノイドコイルの最終モジュールが昨年出荷された施設)の改修によって行われる予定で、完全新設と比べて工期が半分以下で済むとGA側は説明するが、比較対象となる施設規模や工法の条件は公表されていない。

なぜ今、なぜカリフォルニアか

GAが今この施設を動かす動機は、複数の力学が重なっている。

第一は競合の動きだ。国際核融合レースはここ数年で様相が変わった。Commonwealth Fusion Systems(CFS)はMIT発の高温超伝導磁石を使ったコンパクトトカマク「SPARC」の建設を進め、2026年内のプラズマ生成実証を目標に掲げる。その後継商業炉「ARC」は2030年代初頭の稼働を狙っている。CFSやHelion Energy、TAE Technologiesなどの民間勢が商業炉への道を急ぐ中、ブランケット試験施設を持つ機関は強い産業的発言権を持つ。BCTFの稼働が先行すれば、GAはこれまでの研究機関という立場から「商業炉向け部品の認証機関」へと役割が変わる。

第二はカリフォルニア州の政策的後押しだ。同州は昨年、SB 80(核融合研究開発イノベーション・イニシアティブ)、SB 86(核融合技術への売上税・使用税除外の延長)を相次いで成立させた。SB 925は現在議会に係属中で、州レベルの核融合戦略計画と規制ロードマップの策定を求める内容だ。GOBizのDee Dee Myers上級顧問は「カリフォルニア州は本日も将来の産業を選んでいる」と述べた。

第三は、中国の動きが意識されている。ある報告によれば中国政府は核融合開発に年間30億ドル規模を投じているとされ、1950〜60年代の宇宙開発競争になぞらえる声もある。GAが開発した中心ソレノイドコイルはITERという国際プロジェクトを通じてフランスに出荷済みで、次のフロンティアを国内で確保しておく必要がある。

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BCTFが変えるもの、変えないもの

BCTFが稼働すれば、核融合業界全体が恩恵を受ける可能性がある。特許や独自ノウハウで囲い込まれた研究ではなく、INL、UCサンディエゴ、民間企業が共同利用できる試験基盤を作るという構想だからだ。「これはGAだけのプロジェクトではない」とGriersonは強調した。京都フュージョニアリングのような企業が試験対象の部品を持ち込む形も想定されている。

ただし過大評価も禁物だ。BCTFは炉を動かすわけではなく、ブランケット単体を試験する施設にとどまる。商業炉の実現には、燃料自給の実証に加え、プラズマの安定維持、材料の放射線劣化、コスト競争力の確立など、手つかずの課題が残る。施設の稼働目標「3〜5年後」もGA公称であり、資金、許認可、設計の変更次第で大きく動く可能性がある。

ブランケット性能の鍵を握る指標の一つが、TBR(Tritium Breeding Ratio:トリチウム増殖比)だ。消費したトリチウム1個につきブランケットが生産するトリチウムの比率で、商業炉の自立運転には1.05以上が必要とされる。現在のブランケット設計で実機スケールのTBRが実際にこの数値を達成できるかは、BCTFが稼働するまでモデル計算の世界にとどまる。試験施設が出す最初の実測値が、業界の設計パラメータを書き直すことになるかもしれない。

「あと何年先か、ではなく、あと何ドル先か、という話だ」。これはGriersonが20年の核融合研究を振り返って語った言葉だ。BCTFはその問いに答えるための装置であり、まだ「答え」ではない。試験施設が稼働を始め、実機スケールのブランケットが初めてデータを返す日が、商業核融合の現実的なタイムラインを引き直す起点になる。