2026年8月、更新済みのWindowsが備える保護を越える3つの攻撃手法が相次いで公開された。狙われたのは、メモリーモジュールが申告する容量、Microsoft Defenderのファイル処理、Windowsが署名済みドライバを自動導入するPlug and Play(PnP)である。いずれも、上位の防御が信頼している情報や処理を横から操作し、SYSTEM権限または仮想化ベースの保護領域へ届く。ただし、3件は同じ種類の脆弱性ではない。必要な初期権限も、管理者が取るべき対策もそれぞれ異なる。
RAMが「容量」を偽るとVBSの外壁が消える
最も深い保護層を突くのが、バーミンガム大学とダラム大学の研究チームがUSENIX Security ’26で発表した「Download More RAM」だ。研究者は、これまでメモリーの取り外しと再装着を要したメモリーエイリアシング攻撃を、Windows 11上のソフトウェアから実行した。論文はDistinguished Paper Awardを受賞している。
攻撃対象は、Serial Presence Detect(SPD)と呼ばれる構成情報を書き換えられるDDR4またはDDR5のDIMMである。ローカル管理者権限を得た攻撃者がSPDの行アドレス情報を変更すると、DIMMは実容量の2倍を搭載していると申告する。すると、存在しないはずの上位アドレスが実メモリーの下位領域と重なり、別のアドレスから同じ物理領域を読めるようになる。OSとプロセッサーが正規アドレスに設けたアクセス制御を、別名のアドレスが迂回する仕組みだ。
研究チームは、この経路からセキュアカーネルのコード整合性検査を書き換え、ブロック済みの脆弱なドライバを再び読み込ませた。結果として、Virtualization-Based Security(VBS)とHypervisor-Enforced Code Integrity(HVCI)の境界を越え、Defenderや第三者製EDRの停止、企業端末の管理設定やカーネル型アンチチートの改変まで実証した。攻撃途中には再起動が入るが、研究者は一連の処理を1クリックのスクリプトにまとめている。
成立には、すでにローカル管理者権限を持つことと、SPDの書き込み保護が無効なDIMMが必要だ。したがって、これは初期侵入を成立させる遠隔コード実行ではなく、管理者権限を得た後にVBSが守る最後の境界を破る手段である。調査したCorsair、G.Skill、ADATAの3社では、それぞれ少なくとも1製品系列で書き込み保護が無効だった。3社は高性能民生RAM市場の55%超、ゲーミング分野の70%超を占めると研究チームは推計している。
MicrosoftはCVE-2026-23670を割り当て、2026年4月の更新で現行の攻撃を緩和した。Secure Bootが有効なら防げる一方、無効な端末にはリスクが残る。CorsairのiCUEとHWiNFOにはDIMMの書き込み保護を有効にする機能が追加され、一部のマザーボードもBIOS設定で書き込みを止められる。
修正済みDefenderを回り込むShieldBreak
Microsoft Defenderを狙う攻撃では、修正したはずの問題を別経路から回り込むとするPoC「ShieldBreak」が公開された。Microsoftは、ローカル権限昇格の脆弱性RoguePlanetをCVE-2026-50656として扱い、2026年6月30日付のDefender Engine 1.1.26060.3008で対処した。ところがShieldBreakの作者Nightmare Eclipseは、その修正を完全に迂回し、一般ユーザー権限からSYSTEM権限を得られると主張している。
公開リポジトリによると、PoCはWindows 11 25H2のCanary ChannelとWindows Server 2025でテストされ、作者の環境では成功率が100%だった。Windows 10と対応するServerも脆弱だとするが、PoCは未対応である。この成功率と対象範囲は作者の報告であり、Microsoftが確認した数字ではない。
それでも、PoCが動くという独立した報告はある。The Registerは、セキュリティ研究者Kevin Beaumontが最新のWindows 11で再現したと報じた。Beaumontの分析では、RoguePlanetがファイルシステムの競合状態を使ったのに対し、ShieldBreakはCloud Filter API(CFAPI)のコールバックを介して、Defenderがクラウド上のファイルを取得して走査する途中で内容を差し替える。Microsoftは同紙に、主張の妥当性と適用可能性を調べていると回答した。CVE-2026-50656への対処済み表示だけでShieldBreakまで解決したとは判断できない段階である。
USBとRDPをつなぐPnPの自動導入
DEF CON 34で公開された「Plug and Pwn」は、Windowsの単一ゼロデイではなく、対応するCVEもない。研究者のAlejandro HernandoとBorja Martínezが狙ったのは、接続された機器のIDに合う署名済みパッケージをWindows Updateから取得し、ベンダーの導入コードをSYSTEMで動かすPnPの既存経路だ。署名が正しいことと、パッケージ内のサービスやコインストーラーが安全に実装されていることは同義ではない。
物理攻撃の実証では、完全更新済みのWindows 11に誰もログオンしていない状態から、USB機器を模倣して約5分でSYSTEMへ到達した。Sierra Wireless製ソフトのアクセス制御不備でDNSを書き換え、Sony FeliCa用コインストーラーのHTTP通信とパストラバーサルをつなぐ。個別には低い深刻度と見なされ得るベンダー側の挙動が、PnPの自動導入経路によって一つの攻撃になる。
「NoPlug & Pwn」と名付けた別の実証では、物理USBさえ要らない。標準ユーザーがRDPへ認証し、USBリダイレクト用チャネルから偽の機器記述子を送ると、サーバーは実機があるかのようにデバイスを列挙する。Intel RealSense用の署名済みパッケージを導入させ、書き込み可能なフォルダーからDLLを読み込ませることでSYSTEM権限へ上げた。
この遠隔経路には明確な制約がある。RDPのUSBリダイレクトは既定で無効であり、サーバー側で意図的に有効化されたVDIなどが対象になる。攻撃者にも有効なRDPセッションが要る。未認証のインターネット越し攻撃ではない。
更新だけでは揃わない防御策
3つの攻撃に共通の修正ボタンはない。Download More RAMではWindows Updateに加えてSecure Bootを有効にし、DIMMまたはBIOS側のSPD書き込み保護を確認する。ShieldBreakはMicrosoftの調査結果とDefenderエンジンの追加更新を追う必要がある。Plug and Pwnに対しては、不要なRDP USBリダイレクトを止め、デバイス導入制限や許可するハードウェアIDの一覧を使う。研究者はDisableCoInstallersの有効化も推奨するが、コインストーラーを使わないSYSTEM実行までは止められなかったとしている。
3件が示したのは、パッチが未適用なら危険という従来の境界より内側の問題だ。RAMの自己申告、Defenderの走査中データ、署名済みドライバという「正しいはずのもの」が次の入力になると、防御はその前提ごと攻撃される。管理者が確認すべきなのは更新履歴の有無に加え、Secure Bootの実効状態、Defenderの対処版、PnPとRDPに許した機能の範囲である。
