ニュージーランド発のZenno Astronauticsは、超電導磁石を使うZ01 Supertorquerを軌道上で動かし、主要なミッション目標を完了した。5月29日の発表によれば、同装置は複数の超電導電磁石を運用し、動作温度へ到達して維持し、搭載先の宇宙機へトルクを発生させた。商用の超電導磁気アクチュエータが宇宙で運用されたのは初めてだと同社は説明している。

この実証を「燃料なし推進」とだけ読むと、変化点を取り違える。今回の確定した成果は、宇宙機を別の軌道へ大きく動かしたことではなく、地球磁場と相互作用する強い磁気モーメントを、衛星サイズの熱設計の中で使えたことにある。姿勢制御とリアクションホイールの運動量管理では、そこが効く。

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軌道上で確認した冷却とトルク生成

Zennoの発表で最も意味を持つ数字は、推力や速度ではない。同社は、Z01 Supertorquerが数百時間のアクティブ運用を積み、複数回のクールダウンサイクルを完了し、安定した熱制御のもとで自律的に動いたと説明している。軌道上で超電導電磁石を冷やし、必要なときに励磁し、発生した磁場で機体へトルクを与える一連の動作を確認したことになる。

Space.comの取材に対し、Zenno創業者兼CEOのMax Arshavsky氏は、この装置が複数軸に配置された超電導磁石を持ち、通電すると地球磁場と相互作用する磁場を作ると説明した。衛星側の磁場を制御できれば、地球に対して機体をどう回すかを制御できる。つまり、ここで扱っているのは主に姿勢の問題である。

従来の磁気トルカも、同じ発想で地球磁場に対してトルクを作る。ただし通常のコイルは電気抵抗を持ち、大きな磁気モーメントを得ようとすると電流、発熱、サイズが制約になる。超電導コイルは抵抗をほぼ失うため、より大きな電流を流せる。Zennoが狙うのは、この性質を宇宙機に積める形へ縮めることだ。

最初の用途はリアクションホイールの運動量処理

Zennoが次に掲げる工程は、Impulse Spaceと協力し、搭載先の宇宙機制御ループへSupertorquerを統合してリアクションホイールのdesaturationを行うことだ。リアクションホイールは電動の回転体を加減速し、宇宙機の向きを細かく変える。観測衛星や通信衛星にとっては扱いやすい一方、外乱を受け続けるとホイール側に運動量がたまり、どこかで逃がす必要がある。

この運動量を逃がす処理では、化学スラスタを吹く方法もある。だが、スラスタは推進剤を使い、噴射は姿勢や軌道決定に余計な揺れを入れる。磁気トルカなら、地球磁場へ角運動量を渡す形でホイールを戻せる。必要なのは基本的に電力であり、低軌道なら太陽電池から供給できる。

Supertorquerが面白いのは、既存の磁気トルカの代替に収まらず、磁気系アクチュエータの使える範囲を広げる可能性がある点だ。公開情報には、トルクと消費電力の測定値が出ていない。質量や軌道条件も明らかではない。そのため、既存システムに対する優位性を数字で断定する段階ではない。それでも、製品レベルのハードウェアが軌道上で温度を保ち、実際にトルクを出した意味は小さくない。

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マイナス200度の装置を、太陽を向く衛星に積む難しさ

超電導磁石を宇宙で使う難しさは、宇宙が冷たいという直感だけでは説明できない。Arshavsky氏はSpace.comに対し、磁石の動作温度はマイナス200度で、太陽を向く衛星は約20度になると話している。地上実験なら液体ヘリウムや液体窒素を使えるが、衛星に同じ運用を持ち込むのは現実的ではない。

このためZ01の筐体は断熱層で包まれ、余分な熱を逃がすヒートポンプを備える。磁石を励磁する電力は、衛星の太陽電池で充電したバッテリーから供給される。Zennoが「太陽エネルギーを有用な仕事へ変える」と強調するのはこの部分だ。燃料タンクを減らせる可能性はあるが、その代わりに冷却、断熱、電力管理の設計が前面に出る。

軌道上で数百時間動いたという事実は、熱設計の第一関門を越えたことを示す。ただし、公開資料だけでは運用中の熱余裕、寿命、故障時のセーフモードまでは分からない。今後の制御ループ統合で、姿勢制御系がSupertorquerをどれだけ自然に使えるかが見えてくる。

低軌道実証と月・火星構想の距離

Zennoは将来の用途として、宇宙機のドッキング、近接運用、月や火星へ向かう軌道変更、さらに宇宙飛行士を守る磁気シールドまで挙げている。Space.comも、同社が年内により大きな実証機を飛ばす計画だと伝えている。強い磁場を宇宙で扱えるなら、姿勢制御の外にも応用先が広がるという見立てだ。

ただし、今回の実証とそれらの構想の間には距離がある。地球磁場を使う磁気トルカは、そもそも磁場がある場所で働く。深宇宙で同じ説明をそのまま当てはめることはできない。軌道変更や放射線遮蔽へ進むには、より大きな磁場と電力が要る。熱排出と機体側の統合設計も別の課題として残る。

当面の焦点は、低軌道の姿勢制御でどの数字を出すかだ。Impulse SpaceのMiraのような機体に組み込み、リアクションホイールの運動量をどれだけ燃料なしで処理できるか。Z01の初回実証は、超電導磁石を宇宙機の実用品にする入口を開いた。次の評価は、華やかな「燃料なし加速」ではなく、制御系が日常的に頼れるアクチュエータになれるかで決まる。