AIエージェントがWebを人間のように自在に操作できる技術を開発するスタートアップBrowser Useが、Felicis Ventures主導で1,700万ドル(約25億円)の資金調達に成功した。わずか数か月前は週末の実験プロジェクトだった同社の技術は、WebサイトをAIが理解しやすい構造化テキストに変換することで、従来の視覚ベースの手法より高速・正確なWebナビゲーションを実現している。
革新的アプローチで視覚ベース手法の限界を克服
Browser Useが開発した技術は、AIエージェント(自律的にタスクを実行するAIシステム)によるWeb操作の根本的な課題を解決するものである。現在主流のAIエージェントは、Webサイトをスクリーンショットなどを通じて「視覚的に」理解しようとする手法を採用しているが、この方法は処理速度が遅く、計算コストがかかり、しばしば操作ミスが発生するという問題を抱えている。
これに対しBrowser Useは、Webサイトのインターフェース要素(ボタン、フォーム、メニューなど)を構造化されたテキストデータに変換する。この変換により、大規模言語モデル(LLM)が決定論的にWebサイトの構造を理解し、正確な操作判断を下せるようになる。
同社の技術的アプローチは以下の利点をもたらす:
- 視覚ベースの自動化よりも最大で数倍高速な実行速度
- ボタン、ドロップダウン、入力フィールドなどのUI要素との正確なインタラクション
- ピクセルベースのナビゲーションで発生しがちなエラーを回避する信頼性の高いシステム
- 繰り返し同じタスクを低コストで実行可能
この技術的優位性は開発者コミュニティからも高く評価されており、オープンソース化されたBrowser Useのツールは、GitHubで50,000以上のスターを獲得。これは、AIプロジェクトとしては最も急速に成長しているオープンソースプロジェクトの一つである。現在15,000人以上の開発者が積極的に利用・貢献しており、Y Combinatorの2025年冬のバッチに参加する20社以上のスタートアップが自社サービスにBrowser Useを採用しているという。
週末実験から世界的注目へ、急成長の軌跡
Browser Useの成功の背景には、創業者のMagnus MüllerとGregor Zunicによる迅速な行動力がある。数か月前まで同社は存在すらしておらず、単なる「アイデアの週末実験」として始まった。MüllerとZunicの二人は、LLMが人間のようにWebを閲覧できるかを検証するためにわずか4日間でプロトタイプを構築し、テクノロジー系ニュースサイトHacker Newsで即座に公開した。

Müller氏はもともとWebスクレイピング(Webサイトから情報を自動的に抽出する技術)の開発経験を持ち、Zunic氏とはスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHチューリッヒ)でデータサイエンスの修士課程を学ぶ中で2024年に出会ったという。二人はWebスクレイピングとデータサイエンスを融合させ、ブラウザにタスクを実行させるプロンプト技術の可能性に着目。ETHチューリッヒのStudent Project Houseアクセラレーターを通じてプロジェクトを立ち上げ、その後急速に会社を設立し、著名なスタートアップ育成プログラムY Combinatorに参加して現在の成長を遂げている。
「アイデアがあれば、とにかく構築して公開すべきです」とBrowser Useの公式発表では述べられており、彼らのスピード重視のアプローチが実を結んだ形だ。
特に中国のスタートアップButterfly Effectが開発した話題のAIエージェントツール「Manus」がBrowser Useを採用したことで認知度が大幅に向上。現在同社は、ログイン自動化、データ抽出、QAテスト、CRM統合など、様々な実用シナリオを確立している。
AIとWebの未来を形作る基盤技術へ
今回の資金調達には、Felicis Venturesを主導に、A Capital、Nexus Ventures、Y Combinator、Paul Graham、Liquid2、SV Angel、Pioneer Fundなど多数の著名投資家が参加している。
市場調査会社Constellation Researchのアナリスト、Holger Mueller氏は、Browser Useの急速な成長について「AIエージェントによるより高度な自動化の需要が高まる中で、WebをAIにとってよりアクセスしやすくする緊急の必要性があるため、驚くべきことではない」と分析する。
「Browser Useは、Googleなどの企業が障害を持つ人々のためにしてきたこと、つまりウェブサイトをよりアクセスしやすくすることをAIのために行っています」とMueller氏は述べている。「今日の資金調達により、同社のツールはより多くの注目を集め、より広く使用されるようになるでしょう。そして私たちはそれが規模でどれだけうまく機能するかを見ることになります。ブラウザメーカーがこれに参入し、AI Web探索を支援するための独自のロボット対応機能を導入しても驚かないでください」
Felicis VenturesのAstasia Myers氏によれば、同社はここ数年AIエージェント分野を積極的に調査しており、Browser Useが適切な投資機会だと判断したという。創業チームとオープンソースファーストのアプローチが決め手になったとのことだ。
「Web AIエージェントは、人間のタスクのエンドツーエンド自動化に本当に役立つ次のフロンティアだと考えています。Web AIエージェントは、主にテキスト中心の静的な事前訓練モデルと絶えず変化するデジタル環境の間にある動的な橋渡しなのです」とMyers氏はTechCrunchに語った。
現在わずか5人のチームでありながら急成長を遂げているBrowser Useだが、今回の資金調達を機に、チームを拡大し「AIがWebで実行できることの限界をさらに押し広げる」優秀なエンジニアを募集している。
Müller氏は「Webとのインタラクション方法は変化しつつあります。AIエージェントがより高機能になるにつれて、自動化されたワークフローが数年以内にウェブ上の人間のインタラクションを上回るでしょう」と予測する。同社の使命は、この移行を可能にするインフラを構築することだという。
LinkedIn社などWebサイトの構造を頻繁に変更する企業の存在はAIエージェントの安定運用における課題だが、Browser Useはこうした変化にも対応できるソリューションを目指している。「Webサイト運営企業からも『AIエージェントが私たちのサイトをより簡単にナビゲートできるようにするには何ができるか』という問い合わせが来ています」とMüller氏は述べている。
インターネットが世界最大の非構造化データソースである中、Browser Useの技術は人間とAIの協業の新たな可能性を切り開くものと期待されている。同社の創業者たちの言葉を借りれば、「これはほんの始まりにすぎない」のである。
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