地球外知的生命体の痕跡を探る「テクノシグネチャー」探査において、一人の物理学者が半世紀以上前に撒いた種は、今も天文学者たちの想像力を強く刺激し続けている。1960年、フリーマン・ダイソンが学術誌『Science』に発表した短い論文のなかで提唱したアイデアだ。高度に発達した文明は、増大し続けるエネルギー需要を賄うため、最終的には恒星全体を覆うように無数のエネルギー収集器を配置し、その星の全放射エネルギーを余すところなく利用するようになるという仮説である。

この巨大な人工構造物はのちに「ダイソン球」と呼ばれるようになった。SF作品などで描かれるダイソン球は、恒星をすっぽりと包み込む一枚の固い殻として表現されることが多い。しかし、物理学的な視点から見ると、強大な恒星の重力と自転による遠心力のバランスを保ちながら、薄く巨大な固体の殻を維持できる素材は宇宙に存在しない。少しでも重心がずれれば星に激突してしまう。そのため、現代の科学者はこれを一つの連続した殻ではなく、無数の独立した軌道衛星や集熱器が群れをなして星を飛び交う「ダイソンスウォーム」として想定している。これは、1964年にロシアの天文学者ニコライ・カルダシェフが提唱した文明の発展段階を示す尺度において、自らの母星が放つエネルギーを完全に制御する「タイプII文明」の象徴ともいえる存在だ。

この途方もない構造物を宇宙の彼方から探し出すにあたり、天文学者は長年、我々の太陽と同じような質量と温度を持つ主系列星に狙いを定めてきた。地球という惑星に生命が誕生し、テクノロジーを操る文明が育った以上、似たような条件を備えた星の周囲に高度な技術文明が存在すると考えるのは、極めて自然なアプローチだった。

しかし、太陽型の星を対象とすることには、工学的に大きな壁が立ち塞がる。我々の太陽の周囲にダイソンスウォームを構築するスケールを計算してみる。地球の公転軌道と同じ半径で太陽を包み込む場合、その表面積は地球の表面積の数億倍に達する。太陽系内で最大の惑星である木星を完全に解体し、すべての物質を建築資材に変換したとしても、わずか数メートルの厚さの構造物しか作れないという試算がある。総重量1,950トン、小型車1,300台分に相当するスペースシャトルを無数に打ち上げるような規模では全く足りず、惑星規模の物質操作が必要になる。

それに加えて、太陽型の星は数十億年で核融合の燃料を使い果たし、膨張して赤色巨星となる。その過程で、内側の軌道にある惑星や苦労して建設した巨大構造物はすべて高温のガスに飲み込まれ、破壊されてしまう。天文学的なスケールで繁栄を続ける超高度文明にとって、莫大なコストをかけて数十億年で賞味期限が切れる恒星に投資することは、理にかなった選択とは言い難い。

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太陽型恒星を避ける超高度文明の合理的な選択

アーカンソー大学の物理学者Amirnezam Amiriらは、プレプリントサーバーarXivで公開した新たな研究を通じて、探索の前提を根本から覆すターゲットを提示した。彼らがハーバード大学の天文学者Avi Loebらとの議論を経てシミュレーションの対象に選んだのは、これまでテクノシグネチャー探査の主役から外れがちだった銀河系の暗く小さな星々、すなわち赤色矮星(M型矮星)と白色矮星である。

赤色矮星は銀河系の恒星の約70パーセントを占める、宇宙で最もありふれた星だ。質量が太陽の数分の一から10分の1程度しかないため、中心核の温度が上がらず、核融合反応が極めてゆっくりと進む。燃料を節約しながら静かに燃え続けるその寿命は数兆年に達し、現在までの宇宙の年齢である138億年をはるかに超える長期間にわたって安定したエネルギー源となる。

赤色矮星には、若い時期に強烈なフレアを放ち、周囲の惑星の大気を剥ぎ取ってしまう暴力的な側面もある。生命の誕生という観点からは厳しい環境だが、すでに高度なテクノロジーを確立した文明にとっては事情が異なる。彼らはフレア活動が穏やかになった古い星を選ぶか、あるいは突発的なエネルギー放出すらもスウォームの巨大なネットワークで受け止め、電力に変換する技術を持っているはずだ。数千万年、あるいは数十億年という超長期的な生存戦略を描く文明にとって、赤色矮星ほど魅力的な拠点はない。

一方、白色矮星は太陽のような恒星が寿命を迎え、外層のガスを宇宙空間に吹き飛ばした後に残る高密度の残骸である。中心核の核融合はすでに停止しているが、蓄えられた莫大な熱によって数十億年以上も光り続ける。質量は太陽の半分程度を保ちながら、物理的なサイズは元の星の約1パーセント、およそ地球と同じ大きさにまで極端に縮小している。

この小ささが、白色矮星を宇宙建築の理想的な舞台に変える。星本体が小さいため、エネルギー収集器の群れを星の表面からわずか数百万キロメートルという至近距離に配置できる。我々の地球と月との距離の数倍程度の範囲に、システム全体をコンパクトに収めることができる。軌道半径が小さくなれば、同じ面積を隙間なく覆うために必要な材料は大幅に減少する。太陽型の星の周囲に建設する場合と比べて、必要な資源の量は数桁単位で削減され、建設のハードルは大きく下がる。元の星が赤色巨星として膨張した際にかつての惑星系は破壊されているはずだが、生き残った文明が残骸の周囲に再構築する、あるいは他星系から移住してきた文明が拠点として利用するシナリオが成立する。

比較項目 従来の探索対象(太陽型恒星) 新たな探索対象(赤色矮星・白色矮星)
探索の論理的根拠 地球生命の誕生環境との類似性 数兆年の長寿命、または建設資材の大幅な削減
物理的制約 巨大な表面積を覆うために木星規模の質量を解体する資材が必要 白色矮星の場合、元のサイズの約1パーセントに縮小しているため至近距離に建設可能
観測上の特徴 既知の主系列星の領域に紛れやすく自然現象との区別が困難 光度を保ったまま極低温(例:3000 Kから50 K)の空白地帯へ不自然にシフトする

恒星の戸籍に現れる不自然な空白地帯

では、これらの暗い星の周囲にダイソンスウォームが建設されていた場合、実際の天文観測でどうやって見つけるのか。

Amiriの研究チームは、天文学の最も基本的な道具である「ヘルツシュプルング・ラッセル図(H-R図)」の上で、これらの構造物がどのような座標に現れるかを計算した。1910年代にアイナー・ヘルツシュプルングとヘンリー・ノリス・ラッセルが考案したこの図は、横軸に星の表面温度、縦軸に星の総エネルギー量(光度)をとる。夜空に輝く星々の大部分は主系列星と呼ばれる帯状の領域に収まり、質量や年齢に応じて特定の場所を占める。H-R図は、星の進化の段階を分類する恒星の戸籍ともいえる。

ダイソンスウォームは恒星の光を吸収し、その熱で温められた構造物自身が長波長の赤外線を宇宙空間に再放射する。このプロセスにおいて、星系全体が放出する総エネルギー量は変わらない。光度を保ったまま、観測される温度だけが極端に低くなる現象が起きる。中にある星の発熱量は変わらないまま、外側から漏れ出る熱だけが極めて低い温度として観測される状態だ。

熱放射のピーク波長は、表面温度に反比例するというウィーンの変位則に従う。数式で表すと となる。定数 $b$ に対して絶対温度 $T$ が分母にあり、温度が下がれば波長は長くなるという単純な関係を定めた物理法則だ。

具体的な数値を見ると、その異常さが際立つ。例えば、表面温度が 3000 K の赤色矮星がスウォームに完全に覆われているとする。この星系は、光度を一切落とすことなく、温度が 50 K の極寒の天体として観測される。温度が60分の一になることで、放たれる光のピーク波長は60倍長くなり、可視光線から遠赤外線へと完全に移行する。肉眼や光学望遠鏡では暗黒の宇宙に溶け込んで見えなくなるが、赤外線センサーの目で見ると、星が本来持っている莫大なエネルギーが熱として不気味に浮かび上がる。自然界の物理法則と天体進化のルールにおいて、光度が高くかつ極低温というH-R図のこの領域を占める星は存在しない。自然の星ではあり得ない空白地帯に位置する異常な熱源として記録されるのである。

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ケイ酸塩の欠如と不規則な光の漏れが真偽を分ける

極端に温度が低く赤外線を強く放射する天体を見つけたからといって、すぐに人工物だと断定するわけにはいかない。宇宙には、若い星を取り囲む塵の円盤や、濃い塵に覆われた遠方の銀河など、強い赤外線を放つ自然現象が数多く存在する。

黒体放射に近い滑らかなスペクトルと非周期的な変動

Amiriのチームは、これらの自然現象と真のテクノシグネチャーを見分けるための明確な分水嶺も提示している。若い星の周囲にある通常の塵の円盤は、ケイ酸塩の成分による特有の赤外線スペクトルを示す。一方で、高度な金属や人工素材で作られた構造物はこれを持たず、黒体放射に近い極めて滑らかなスペクトルを描く。

加えて、星を覆うものが隙間のない完全に連続した殻ではなく、無数の集熱器が独立して軌道を回るスウォームであった場合、構造物の隙間から元の星の光が断続的に漏れ出る。無数の巨大な人工物が高速で星を周回することで、恒星自体の黒点やフレアなどの自然な活動とは明らかに異なる、不規則な非周期的なチラつきが生じる。異常な温度シフト、ケイ酸塩の欠如、そして不規則な光の変動という三つの特徴をすべて併せ持つ自然現象を説明するのは極めて難しい。

最新プロジェクト「Hephaistos」が見出した7つの候補

この理論的な枠組みは、すでに実際の観測データとの照合が始まっている。2024年にウプサラ大学のMatías Suazoらが発表した「Project Hephaistos」という探索プロジェクトでは、欧州宇宙機関のGaia衛星やNASAのWISE衛星など複数の広域観測データを掛け合わせた。

研究チームは、画像認識などに使われる深層学習の一種であるコンボリューショナル・ニューラル・ネットワークを利用して、約500万個の恒星データから候補の絞り込みを行った。WISE衛星が捉えた中間赤外線データには、星間物質の重なりや観測機器の不具合による偽の信号が大量に含まれている。ニューラルネットワークはこれらの空間的な画像パターンを学習し、真の点源からの放射とノイズを自動で分離した。

その後、Gaia衛星の視差データに基づく恒星までの距離の測定精度や、近赤外線から中間赤外線にかけてのエネルギー分布といった複数のパラメーターによる厳密なフィルタリングを適用し、候補を368個まで絞り込んだ。最後に人間の目による確認を経て、不規則な構造や星雲の特徴を持つものを除外し、最終的に7つの赤色矮星をダイソン球の候補として抽出した。

偽陽性の壁とジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡への期待

だが、これらが真のテクノシグネチャーなのかは未確定である。天文学の探索において、自然現象が人工物のように見えるフォールス・ポジティブ(偽陽性)は常につきまとう。

候補天体が強い赤外線を放っているように見えても、背景にある遠方の銀河が偶然同じ視線上に重なっているだけの可能性がある。広大な三次元の宇宙空間を二次元の天球に投影して観測する以上、数十億光年先の活動銀河核からの放射と、手前にある数千光年先のダイソン球からの熱放射を区別するのは容易ではない。特に、活動銀河核の周囲を取り巻く厚い塵のリングは極低温の黒体放射に近い特徴を持つため、人工物の赤外線スペクトルと酷似してしまう。実際に、ある候補天体については、背景にあるブラックホールが強い赤外線を放っていたことが事後の分析で判明している。

あるいは、我々がまだ理解していない、光学的な明るさの変動を伴わない特異な若い星や、赤色矮星の周囲にある未知の暖かい塵の円盤である可能性も残されている。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の高感度な赤外線観測機器や、年内に打ち上げが予定されているナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡による大規模なサーベイが、これらの特異な熱の正体を明らかにしていく。高度な文明がどこに潜んでいるのか、宇宙の暗がりに対する観測が答えを出す。