決算発表の見出しに「過去最高益」とあるのに、その直後に株価が下落するニュースを見て違和感を覚えた読者は少なくないはずだ。Alphabetが2026年7月22日に発表した2026年第2四半期決算では、純利益が1121億ドル(約18兆2723億円)と過去最高を更新した一方で、四半期フリーキャッシュフローは2004年の新規株式公開以来初めてマイナス58億5500万ドル(約9546億円)に転落した。この矛盾の正体は、SpaceXと社名非公開の投資先企業への出資評価益990億ドルが税引き後ベースで純利益の69%を押し上げたという非現金の会計上の利益と、449億ドルへ倍増した設備投資が現金を吸い上げる構図にある。
58億5500万ドルの赤字、22年間なかった数字の中身
Alphabetの2026年第2四半期の営業キャッシュフローは390億6900万ドル、設備投資は449億2400万ドルだった。この差し引きで生まれたフリーキャッシュフローはマイナス58億5500万ドル(約9546億円)となり、Alphabetが2004年に新規株式公開して以来、四半期ベースで初めてのマイナスを記録した。前四半期の2026年第1四半期はフリーキャッシュフローがプラス101億ドル、設備投資は357億ドルであり、3カ月の間に資金繰りは160億ドル近く悪化し、設備投資は92億ドル積み増された計算になる。
総売上高は1198億ドル(約19兆5274億円)で前年同期比24%増となり、12四半期連続の2桁成長を記録した。事業の勢い自体は衰えておらず、減速による資金繰り悪化ではない。それでも現金が流出したのは、設備投資が前年同期比で100%超増加し、449億ドルへ倍増したためだ。Alphabetはこの支出を決算資料上「主として技術インフラへの投資」と説明しており、AI向け支出だけを切り分けた金額は開示していないが、経営陣はAI需要への対応が増加の主因だと述べている。決算発表を受け、株価は時間外取引で一時5%前後下落したと報じられている。
設備投資が積み増された主因は、AI需要の拡大に対応するためデータセンターの容量供給を前倒ししたことにある。Alphabetは通期の設備投資見通しをこの決算で従来の1800億〜1900億ドルから1950億〜2050億ドル(約31兆7850億〜33兆4150億円)へ引き上げており、上方修正は今回が初めてではない。業界推計によれば2025年通期の設備投資は913億ドル程度だったとされ、2026年の見通し上限2050億ドルはその2倍以上に相当する。需要を取りこぼさないための先行投資である以上、支出のペースを緩める判断は当面見られそうにない。
純利益1121億ドルの69%は「紙の利益」だった
Alphabetの第2四半期の純利益は1121億ドル(約18兆2723億円)で過去最高を更新した。このうち990億ドル(約16兆1370億円)は株式投資の評価益(税引き前)であり、Alphabetの決算資料はSpaceXと社名非公開の1社への出資が主因だと説明している。複数の米メディアはこの非公開企業をAnthropicと報じているが、Alphabet自身は社名を確認していない。決算資料は税引き後ベースでこの評価益が純利益を771億ドル押し上げたと開示している。990億3100万ドルの内訳は未実現の含み益987億5300万ドルと、売却済み株式による実現益2億7800万ドルで構成されており、実現益はごく一部にとどまる。
990億ドルと771億ドルの差額219億ドルは評価益にかかった税金に相当し、実効税率に換算すると約22%になる計算だ。1121億ドルから771億ドルを差し引くと、評価益の税引き後インパクトを除いた実質的な事業利益は350億ドルとなる。771億ドルは純利益全体の69%に相当し、記録更新の大半がこの税引き後の評価益インパクトによって作られたことになる。
SpaceXへの出資は時価の分かる有価証券として四半期ごとに時価評価される。一方、社名非公開の投資先企業への出資は非上場株特有の会計処理(measurement alternative)の対象となり、観測可能な取引や減損が生じた際にのみ帳簿価格を見直す仕組みだ。Alphabetの決算資料によれば、この投資先は今回観測可能な取引を受けて再評価された。出資先の企業価値が上がれば、Alphabetは株式を1株も売却していなくても、その含み益を四半期の純利益に計上できる。この評価益は損益計算書の上では利益として積み上がる一方、実際に銀行口座へ現金が振り込まれるわけではない非現金の項目であるため、キャッシュフロー計算書では純利益から控除する調整項目として扱われる。
評価益を除いた実質利益350億ドルは、実際に手元へ入った現金を示す営業キャッシュフロー390億6900万ドルとおおむね近い水準にある。そこへ449億2400万ドルの設備投資がぶつかり、59億ドル近い差額がフリーキャッシュフローのマイナスとして表面化した。今回の決算を「過去最高益」の見出しで伝えた報道は多く、Fortuneのように見出しで評価益が「紙の上」の利益である点に触れた報道もあった。ただし税引き前990億ドルと税引き後771億ドルを分けたうえで、実質事業利益350億ドルまで踏み込んで分解した報道は見当たらない。
純利益が会計上膨らんだこと自体は、SpaceXと非公開の投資先企業の企業価値上昇を反映した結果であり、不正確な数字ではない。ただし投資家が純利益だけを見て「過去最高益」と受け取ると、設備投資が実際にどれだけの現金を吸い上げているかを見誤ることになる。フリーキャッシュフローという指標を併読して初めて、Alphabetの資金繰りの実態が見えてくる。
496億ドル増資と社債700億ドル近く、資金調達の全体像
Alphabetは2026年6月1日、上限400億ドルの市場売却枠(ATMプログラム)を設定したが、6月末時点で行使実績はなく全額が未行使のまま残っている。同6月4日には普通株の公募増資(ネット手取り205億ドル)と、投資家のBerkshire Hathaway系列への私募増資(100億ドル)を実施し、20年以上ぶりとなる新株発行に踏み切った。翌6月5日には強制転換型優先株を発行し、190億ドルのネット手取りを確保している。実際に手元へ入った資金は公募・私募・優先株の合計で約496億ドル(約8兆848億円)であり、上限400億ドルのATM枠はこれに含まれない。
これに先立ち2025年11月には175億ドルに加えて65億ユーロ建ての社債も同時発行し、2026年2月には約320億ドルの社債を発行したと報じられている。さらにSEC提出書類によれば2026年第2四半期にも203億ドル(ネット)の社債を新たに発行しており、ドル建て分だけを合算しても2025年11月以降の調達は700億ドル近くに達し、ユーロ建て分を加えればこれをさらに上回る規模になる。
決算発表でキャッシュフローの赤字が明らかになるより前に、Alphabetは公募・私募・優先株による約496億ドルの資金調達と社債発行を終えており、加えて400億ドルのATM枠を未行使のまま手元に残していた。この順序と余力の確保から、AI設備投資が営業キャッシュフローを上回るペースで膨らむことを、同社があらかじめ見込んでいた可能性がうかがえる。実際、6月の資金調達から決算発表までの50日間で、設備投資の通期見通しはさらに1950億〜2050億ドルへ引き上げられており、資金需要の拡大は調達完了後も続いていたことになる。
この資金調達で利益を得た主体は、Alphabetの既存株主以外にも広がっている。100億ドルの私募増資に応じたBerkshire Hathawayは、Alphabet株が上昇すれば含み益を得られる立場にあり、SpaceXと非公開の投資先企業もAlphabetからの出資と自社の企業価値上昇の両面で恩恵を受けている。一方で既存株主にとっては、新株発行による希薄化という負担が生じている。増資と社債発行を組み合わせたのは、単一の調達手段に依存すると金利動向や株価水準の変化に資金計画が左右されやすいためだと考えられる。
Google Cloud成長82%とハイパースケーラー競争の温度感
Google Cloudの売上高は248億ドルで、前年同期比82%増となった。企業向けのAIソリューションやAIインフラ需要の拡大が伸びを牽引している。Sundar Pichai CEOは決算発表で「第2四半期は素晴らしい四半期だった。Alphabetの売上高は前年同期比24%増加し、Google Cloudの売上高は82%成長へと加速した」と述べた。
AmazonとMicrosoft、Meta、Alphabetの4社合計の2026年の設備投資は、前年の約4100億ドルから77%増の約7250億ドルに達する見込みで、その大半はAIインフラ関連への投資だとアナリストは見積もっている。Alphabetの通期設備投資見通しの上限2050億ドルは、この4社合計の約28%を占める規模になる。MicrosoftとAmazonも2026年7月29日から31日にかけて決算発表を控えており、AI投資の対効果を測る市場の視線は両社にも向かう局面だ。
AI投資の是非をめぐっては、過去にも似た構図があった。AWSはデータセンターへの先行投資を何年も続けた末に主要な収益源へ育った例として知られ、一方でMetaは2022年前後にメタバース関連の投資膨張が投資家の不信を招き、その後投資を圧縮した経緯があるとされる。Alphabetの今回の設備投資拡大がどちらの道をたどるかは、この先数四半期のキャッシュフローの推移が判断材料になる。
日本への波及と2027年に見るべき数字
日本の読者にとっては、1ドル=163円換算で449億ドルの設備投資が約7兆3226億円に、通期見通しの1950億〜2050億ドルが約31兆7850億〜33兆4150億円に相当する規模感が目安になる。Google Cloudは国内でもデータセンター投資や企業との提携を進めており、AI設備投資ブームの恩恵は半導体やデータセンター関連の国内企業にも波及しうる。今回の決算が示すのは、そうした投資拡大の資金が無尽蔵ではなく、株式や社債による調達と表裏一体で進んでいるという構図だ。
決算資料は2027年の設備投資について「大幅に増加する」との見通しを示したが、具体的な金額レンジは公表していない。SpaceXと非公開の投資先企業それぞれの評価益の内訳についても開示はなく、990億ドルの評価益がどちらの出資からどれだけ生じたかは分からないままだ。設備投資の伸びがフリーキャッシュフローの伸びを上回るペースが続くなら、株式や社債による追加調達が再び必要になる可能性も否定できない。次の焦点は、2026年7月29日から31日にかけて決算を発表するMicrosoftとAmazonが、同様のキャッシュフロー圧迫を見せるかどうかにある。
Alphabetの今回の決算が示したのは、1株も売っていない出資先の株価上昇が過去最高益の骨格を作ったという事実だ。実際に出ていった449億ドルの現金は、次の四半期以降も増え続ける見通しにある。Google Cloudの82%成長がこのペースを維持し、AI投資の回収が設備投資の伸びに追いつけば、フリーキャッシュフローは黒字に転じる可能性があるが、それまではAlphabetもBerkshire Hathawayや社債市場からの調達に頼りながらAIインフラの拡張を続けることになる。



