Alphabetが2026年2月4日(現地時間)に発表した2025年第4四半期決算は、同社の1つのマイルストーンとして記憶されるだろう。同社は創業以来初となる年間売上高4000億ドル(約60兆円)の大台を突破。検索広告の底堅さと、AIによって再点火されたGoogle Cloudの爆発的な成長が数字となって現れた。
しかし、投資家が最も注目したのは、過去最高の利益水準ではなく、2026年に予定されている「1750億ドルから1850億ドル(約26兆〜28兆円)」という驚愕の設備投資(CAPEX)計画だ。2025年の実績からほぼ倍増となるこの投資規模は、Alphabetが「検索の会社」から「世界最大のAIインフラ企業」へと完全に脱皮しようとしている実態を物語っている。
検索は死なず、むしろ拡張している
長らく、ChatGPTやDeepSeekといった対話型AIの台頭により「Google検索の終焉」が囁かれてきた。しかし、今回の決算数値はその懸念を真っ向から否定している。検索および関連広告の収益は前年同期比17%増の631億ドルに達した。
Sundar Pichai CEOが決算説明会で強調したのは、AI Overviews(AIによる概要)と「AIモード」の導入が、検索行動そのものを「拡張(Expansionary)」させているという事実だ。
従来の検索が「リンクをクリックして答えを探す」行為だったのに対し、現在のGoogle検索は「複雑な問題を対話で解決する」場へと変貌している。実際、AIモードを利用するユーザーのクエリ(検索語句)の長さは、従来の検索の3倍に達しているという。これはユーザーがより高度で複雑な意図をGoogleに投げかけるようになったことを意味する。
筆者が注目したいのは、この検索行動の変化が広告収益の「質」を変えつつある点だ。Philipp Schindler CBOが言及した「Universal Commerce Protocol(ユニバーサル・コマース・プロトコル)」は、その核心にある。これはAIエージェントが、発見から比較、そして決済までをシームレスに実行するためのオープン標準だ。Googleは単に広告を表示する場所ではなく、AIがユーザーの代わりに買い物を完結させる「エージェント経済のハブ」を狙っているのだ。
2026年、1850億ドルの賭け:インフラという名の参入障壁
今回の決算で市場に最も大きな衝撃を与えたのは、2026年の設備投資見通しだ。1750億ドルから1850億ドルという数字は、他社を圧倒する規模である。この巨額資金はどこへ向かうのか。
その大半は、Google DeepMindによるフロンティアモデルの開発と、それらを支えるAI演算能力の増強に充てられる。特筆すべきは、NVIDIAの最新プラットフォーム「Vera Rubin」の早期導入に加え、自社開発の第7世代AIアクセラレータ「Ironwood TPU」への投資だ。
Alphabetの強みは、チップ設計からデータセンターの冷却システム、さらには自社所有の光ファイバー網に至るまで、AIスタックの全レイヤーを垂直統合している点にある。Anat Ashkenazi CFOによれば、Geminiモデルの推論コストは2025年を通じて78%も削減された。この圧倒的なユニット・エコノミクスの改善こそが、他社が追随できない「安価で高性能なAIサービス」の大量供給を可能にする。
投資家はこの巨額投資に伴う減価償却費の増大を懸念し、発表後に株価は一時下落した。しかし、これは「生き残るための投資」ではなく、「勝負を決めるための投資」である。1200億ドルを超える現金同等物を保有するAlphabetにとって、この投資は自らの参入障壁をさらに高く積み上げる行為に外ならない。
Google Cloudが「AIの工場」へと進化した日
Google Cloudの躍進は、もはやAlphabetの「第2の柱」という表現では物足りない。売上高は前年同期比48%増の177億ドルに達し、営業利益率は30%を超えた。
この成長を支えているのは、企業のAI採用スピードの加速だ。クラウドの受注残は、前年同期の1000億ドル規模から、一気に2400億ドルへと倍増以上している。これは、企業が単発のクラウド利用ではなく、AIを前提とした数年単位の戦略的コミットメントをGoogleと結んでいる証だ。
さらに、Appleとの提携強化も大きなトピックだ。AppleのFoundation Modelの開発において、Googleが優先クラウドプロバイダーとして選ばれたことは、Geminiの技術力が業界標準として認められたことを意味する。Apple、Reliance Jio、そして数々のSaaS企業(Salesforce、Shopifyなど)がGeminiを「AIのエンジン」として採用している現状は、Google Cloudが世界中のAIアプリケーションにとっての「主要な工場」になったことを示している。
YouTube:広告とサブスクリプションのハイブリッドモデルの完成
YouTubeは年間売上高600億ドルを突破した。注目すべきは、広告収入だけでなく、Google Oneを含む有料サブスクリプションの合計契約数が3億2500万件に達したことだ。
特に「NFL Sunday Ticket」の成功や、リビングルーム(コネクテッドTV)での視聴時間の伸びは、YouTubeが伝統的なテレビ放送の代替としての地位を固めたことを示している。また、ショート動画「ショート」の1日あたりの視聴回数は2000億回を超え、一部の地域では従来の動画よりも1時間あたりの収益性が高まっている。
AIはここでも裏方として機能している。100万以上のチャンネルがAI生成ツールを活用し、視聴者はGeminiベースの対話ツール「Ask」を使って動画の内容を深掘りしている。YouTubeはもはや単なる動画共有プラットフォームではなく、AIによってパーソナライズされた「教育・エンターテインメント・コマース」の統合体へと進化している。
「Other Bets」:Waymoが示す自律走行の収益化フェーズ
Alphabetの「Other Bets(その他の賭け)」部門は、依然として36億ドルの営業損失を計上しているが、その中身は過去とは異なる。
Waymoは週に40万回以上の有料乗車を提供し、累計走行距離は2000万マイルを突破した。サンフランシスコ、ロサンゼルス、フェニックス、アトランタ、オースティンに加え、マイアミでのサービスも開始。さらに英国や日本への展開も視野に入っている。
今回計上された21億ドルの株式ベースの報酬費用は、Waymoの企業価値が最新の資金調達ラウンドで160億ドルに跳ね上がったことに起因する「嬉しい悲鳴」だ。自動運転技術が「研究プロジェクト」から「都市インフラ」へと移行する臨界点を、Waymoはまさに今、超えようとしている。
ハードウェアの布石:Pixel 10aとAI専用チップの融合
今回の決算の中で、Sundar Pichai氏は「Pixel 10a」の近日投入を明言した。Googleのハードウェア戦略は、iPhoneのシェアを奪うことだけが目的ではない。Geminiを最も純粋な形で体験できる「リファレンス・デバイス」を市場に供給し続けることが真の狙いだ。
次期Pixelシリーズに搭載されるであろう次世代TPUは、クラウド上のGeminiとローカルのオンデバイスAIをシームレスに繋ぐ架け橋となる。これにより、ユーザーのプライバシーを保護しつつ、遅延のない超高速なAIエージェント体験が可能になる。
Alphabetは「インテリジェンスの公共財」になれるか
2026年に向けてAlphabetが直面する最大の課題は、供給制約だ。Pichai氏が認めたように、電力、土地、サプライチェーンの制約は、爆発的なAI需要を完全に満たす上でのボトルネックとなっている。
しかし、同社が「Antigravity(コード生成エージェント基盤)」や「Project Genie(リアルタイム世界生成モデル)」といった次世代のAIパラダイムを次々と打ち出している姿を見ると、その優位性は揺るぎないように見える。
投資家が恐れるべきは、巨額の設備投資そのものではなく、その投資を止めてしまうことによる停滞だ。Alphabetは今、歴史上最も高価で、かつ最もリターンの大きい「知能のインフラ」を建設している。2025年の4000億ドルという売上高は、このAI革命がもたらす収益化の、ほんの入り口に過ぎないのかもしれない。
Sources
- Google: Q4 earnings call: Remarks from our CEO
- The Motley Fool: Alphabet (GOOGL) Q4 2025 Earnings Call Transcript



