2025年12月10日(現地時間)、AMDはついに長年の沈黙を破り、グラフィックス技術の新たなパラダイム「FSR Redstone」を正式にリリースした。

これまでAMDは、NVIDIAのDLSS(Deep Learning Super Sampling)がAI(人工知能)と専用ハードウェア(Tensor Core)を駆使するのに対し、汎用的なシェーダーで動作する「分析的(Analytical)」なアプローチを固持してきた。しかし、今回発表されたRedstoneは、その哲学を根本から覆す転換点となる。AMDはついに、機械学習(ML)をフル活用したレンダリングエコシステムへと舵を切ったのだ。

本稿では、Radeon RX 9000シリーズRDNA 4)向けに解き放たれたこの新技術群の詳細を、機能紹介だけではなく、競合技術との対比や実際の挙動、そしてゲーマーにとっての真の意味という観点から見ていきたい。

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Redstoneとは何か:ブランドの再定義とAIへの完全移行

まず整理すべきは、「Redstone」という名称の定義である。これは単一の機能を指すものではなく、AMDの次世代グラフィックス技術群の総称(コードネーム)だ。これまで「FSR 4」として噂されていた技術は、このRedstoneという傘の下に統合され、ナンバリングを廃した「AMD FSR Upscaling」などの名称へと再編された。

最大の特徴は、すべての主要機能が機械学習(ML)ベースに移行した点にある。これにより、従来のアルゴリズムでは限界があった画質の向上、アーティファクト(ノイズやゴースト)の抑制が可能となった。しかし、その代償として、これまでのFSRの最大の強みであった「古いGPUや競合他社のGPUでも動作する」という汎用性が失われ、Redstoneのフル機能はRDNA 4アーキテクチャ(Radeon RX 9000シリーズ)専用となっている点は、市場に大きな波紋を呼ぶことになるだろう。

Redstoneを構成する4つの柱は以下の通りだ。

  1. FSR Upscaling (旧 FSR 4): MLベースの超解像技術。
  2. FSR Frame Generation: AIによるフレーム生成。
  3. FSR Ray Regeneration: レイトレーシングのデノイズ処理(Nvidia Ray Reconstructionへの対抗)。
  4. FSR Radiance Caching: パストレーシングの高速化技術(2026年本格展開)。

これらは最新ドライバ「Adrenalin Edition 25.12.1」を通じて提供が開始されている。

Redstoneを支える4つの柱

1. FSR Upscaling:分析的アプローチからの決別

これまでFSR(1, 2, 3)は、ハンドコーディングされたアルゴリズムによって映像を拡大していた。対して今回のFSR Upscalingは、ニューラルネットワークを用いて低解像度のフレームから高精細な映像を再構築する。

AMDによると、この新方式は特にパーティクル(粒子)エフェクトの保存や、動きの速いオブジェクトのゴースト低減において劇的な改善を見せているという。従来のFSRでは、細かいディテール(例:『Mafia: The Old Country』における船のロープやワイヤー)が途切れたりちらついたりする現象が見られたが、MLモデルはこれを「線」として正しく認識し、ネイティブ解像度をも凌駕する安定性を実現している。

2. FSR Frame Generation:光と影の安定化、しかし残る課題

フレーム生成技術もまた、AI駆動へと進化した。従来のFSR 3におけるフレーム生成は、オプティカルフロー解析のみに依存していたため、急激な動きや複雑な陰影処理において破綻が生じやすかった。

Redstone版のFrame Generationは、AIがピクセル単位の動きと外観を予測する。『F1 25』のような高速レースゲームにおいて、影のフリッカー(ちらつき)が大幅に低減され、NVIDIAのDLSS Frame Generationに肉薄する画質安定性を獲得していることが確認されている。

しかし、課題も浮き彫りになっている。複数の検証結果において、フレーム生成有効時にフレームペーシング(表示タイミング)の不均一さが指摘されている。具体的には、生成されたフレームと実フレームの表示間隔が均等にならず、「カクつき(Judder)」や「ダブルタップ効果(2フレームが連続して表示され、その後間隔が空く現象)」が発生するケースが報告されている。画質(静止画としての質)は向上したが、動きの滑らかさという点では、まだDLSSに一日の長があるというのが現時点での冷徹な評価だ。

3. FSR Ray Regeneration:NVIDIAの牙城「DLSS 3.5」への挑戦

Redstoneの中で最も戦略的な意味を持つのが、このRay Regenerationだ。これはNVIDIAがDLSS 3.5で導入した「Ray Reconstruction(レイ再構成)」への直接的な回答である。

レイトレーシング処理では、計算負荷を抑えるためにレイ(光線)の本数を間引いて描画し、その結果生じるノイズを除去(デノイズ)して滑らかな映像に見せている。従来の手法では、このデノイズ処理でディテールが潰れてしまうことが多かった。Ray Regenerationは、AIがノイズの多い生のレイトレーシングデータを解析し、本来あるべき光の挙動やディテールを推論して復元する。

先行して実装された『Call of Duty: Black Ops 7』では、反射や影の鮮明さが向上していることが確認されている。ただし、NvidiaがRTX 20シリーズ以降の広範なハードウェアでRay Reconstructionをサポートしているのに対し、AMDはこれをRX 9000シリーズ専用としている点で、普及へのハードルは高い。

4. FSR Radiance Caching:未来への布石

最後に、プレビュー段階として発表されたのがFSR Radiance Cachingだ。これはグローバルイルミネーション(GI)やパストレーシングといった、極めて高負荷な光の計算を加速させる技術である。

光が物体に反射して空間全体を照らす「間接光」の計算を、毎回ゼロから行うのではなく、AIが光の伝播(ラディアンス)を学習・予測してキャッシュ(一時保存)する仕組みだ。これにより、計算コストを劇的に削減できる。この技術は『Warhammer 40,000: Darktide』などで2026年から本格導入される予定であり、AMDが将来的に「フル・レイトレーシング(パストレーシング)」時代を見据えていることの証左である。

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エコシステムの分断:RDNA 4独占の是非

今回の発表で最も議論を呼ぶのは、「FSR RedstoneのML機能はRadeon RX 9000シリーズ(RDNA 4)以降でのみ動作する」という事実だ。

これまでAMDは「FSRは誰でも使える」というオープン性を武器に、NVIDIAのプロプライエタリ(独占的)なDLSSに対抗してきた。FSR 3までは、古いRadeonやGeForce GTXシリーズ、さらにはコンソール機でも利用可能だったため、ユーザーからの支持は厚かった。

しかし、Redstoneへの移行により、AMDは以下の二重構造を受け入れることになった。

  • RDNA 4 (RX 9000): MLベースの最高品質アップスケーリングとフレーム生成(Redstone)。
  • RDNA 3.5以下 (RX 7000以前): 従来の分析的アルゴリズムによるFSR 3.1へのフォールバック。

この方針転換の背景には、技術的な必然性がある。AIベースの処理を低遅延かつ高効率に行うためには、GPU内に専用の行列演算ユニット(AIアクセラレータ)が不可欠であり、RDNA 4で強化されたAI処理能力なしには、NVIDIAと競合できる品質とパフォーマンスを両立できないと判断したのだろう。

AMDはドライバレベルで「FSR 3.1対応ゲームであれば、RDNA 4環境下で自動的にRedstone(ML版)に置き換える」機能を提供し、移行をスムーズにしようとしている。しかし、既存のRadeonユーザーにとっては、「最新技術の恩恵を受けるにはGPUの買い替えが必要」という、これまでNVIDIAユーザーが直面してきた現実に直面することになる。

NVIDIAとの距離は縮まったのか?

ここまでの情報を統合し、NVIDIAとの現在の立ち位置を比較分析する。

特徴AMD FSR Redstone (RDNA 4)NVIDIA DLSS (RTX 40/50)筆者の分析
アップスケーリング画質大幅向上 (ML採用)業界標準 (最高峰)差は縮まったが、DLSSの長年の学習データの蓄積は厚い。
フレーム生成画質向上もペーシングに課題高品質かつ滑らか動きの滑らかさにおいて、DLSSが依然として優位。
レイ再構成 (デノイズ)対応開始 (Ray Regeneration)成熟期 (Ray Reconstruction)AMDはスタートラインに立ったばかり。対応タイトルの拡充が急務。
ハードウェア要件最新世代 (RX 9000) 限定RTX 20以降 (機能による)「AMDなら古いGPUでもOK」という優位性が消滅。
独自機能Radiance Caching (2026~)Multi-Frame GenerationNvidiaはさらに先を行く(MFG)。AMDはGIの効率化で差別化を図る。

TechSpotThe Vergeのレビューが示唆するように、静止画としてのクオリティや、影の安定性においては、FSR RedstoneはDLSSに肉薄するレベルに達している。これは賞賛に値する進歩だ。

しかし、「ゲーム体験」の核心であるフレームペーシング(表示の滑らかさ)において、まだ不安定さが残る点は見逃せない。特に高リフレッシュレートのモニターを使用するコアゲーマーにとって、AIが生成したフレームによる「カクつき」は没入感を削ぐ要因となり得る。この点の修正パッチやドライバの最適化が、今後の普及の鍵を握るだろう。

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AMDの「AIピボット」が示す未来

FSR Redstoneのリリースは、単なるバージョンの更新ではない。AMDが「ソフトウェアの戦いにおいて、もはやAIなしでは勝てない」と認め、ハードウェア(RDNA 4)とソフトウェアを密結合させる戦略へ完全に移行したことを意味する歴史的な転換点だ。

この戦略変更は、短期的には既存ユーザーの失望を招くリスクを孕んでいる。しかし、中長期的な視点に立てば、専用ハードウェアを活用することで初めて実現できる画質とパフォーマンスの領域があることもまた事実だ。

NVIDIAがDLSS 4やMulti-Frame Generationでさらなる高みを目指す中、AMDはRedstoneでようやく同じ土俵(AIレンダリング)に上がった。現状では「初期リリースの荒削りさ」が見え隠れするものの、AMDにはドライバアップデートで劇的に性能を向上させる「Fine Wine(熟成するワイン)」の文化がある。

2026年にかけて、FSR Radiance Cachingの実装やフレームペーシングの改善が進めば、Radeon RX 9000シリーズは、価格対性能だけでなく「機能対性能」においても、GeForceの強力な対抗馬へと成長する可能性がある。ゲーマーは今、グラフィックス技術の新たな競争時代の幕開けを目撃しているのだ。


Sources