AMD期待のミドルレンジGPU「Radeon RX 9060 XT」の正式発表が目前に迫る中、その価格や性能に関するリーク情報がもたらされた。果たして、AMDの新製品は、NVIDIAの強力なライバル、GeForce RTX 5060シリーズに対抗しうるのか?そして物議を醸す8GB VRAMモデルの戦略とは?
小売店フライング? RX 9060 XTの価格情報がリーク、MSRPとの関係は
AMDがRadeon RX 9060 XTの市場投入準備を進める中、その発売予定日である6月5日を前に、複数の小売店が製品情報を掲載し始めている模様だ。著名リーカーである@momomo_us氏がXで指摘したところによると、米国カリフォルニア州を拠点とする小売店Central Computersが、ASRock製のRX 9060 XT搭載グラフィックカード3モデルの価格を一時的に公開していた。
具体的には、8GB VRAMを搭載する「Challenger 8GB」モデルが319.99ドル、16GB VRAMの「Challenger 16GB」モデルが369.99ドル、そして同じく16GB VRAMでより上位の「Steel Legend 16GB」モデルが389.99ドルとされている。これらの価格はAMDが設定した希望小売価格(MSRP)と比較して、Challengerの両モデルが20ドル、Steel Legendが40ドル高くなっている。この価格差は、これらのモデルがいずれも工場出荷時からオーバークロックされていること、またSteel LegendがChallengerよりも上位グレードの製品であることに起因する可能性が高いと考えられる。実際、ASRock自身のRX 9060 XT製品リストでは、現時点ですべてのモデルがファクトリーオーバークロック仕様となっていることが示唆されている。
一方、英国の小売店Overclockers UKでも同様の動きが見られた。Videocardzが報じたところによると、同店は一時的にRX 9060 XTの価格を掲載した後、発売前に実際の価格を隠すためか「6000ポンド」という仮の価格表示に変更したとのことだ。隠される前の価格は、最も安価な8GBモデルで289.99ポンドから、高価な8GBおよび16GBモデルで359.99ポンドの範囲だったとされている。
しかしながら、これらの価格はあくまで正式発表前のものであり、最終的な市場価格は発売日である6月5日に明らかになるまでは不確定要素が多いと言える。特にカスタムモデルの価格は、MSRPに加えて各メーカーの付加価値が上乗せされるため、注意深く見守る必要がある。
ベールを脱ぐ性能:RX 9060 XTはRTX 5060 Tiにどこまで迫れるのか?
価格情報と並んでゲーマーの注目を集めるのが、RX 9060 XTの実際の性能だ。こちらも複数のリーク情報が登場しており、NVIDIAの競合製品との比較が見え隠れしている。
Time Spyベンチマーク:RX 7700 XTに匹敵、あるいはそれ以上か?
Redditユーザーu/uesato_hinata氏によって、XFX製の「Swift AMD Radeon RX 9060 XT 16GB」モデルを用いた3DMark Time Spyのベンチマーク結果が公開された。特筆すべきは、このテストがベータ版ドライバ(25.6.1)と、やや旧世代のCPUであるAMD Ryzen 5 5600、そしてDDR4-2133という低速なメモリ環境で行われたという点である。
この条件下で、RX 9060 XT 16GBは標準クロックで16,333ポイントを記録。さらに、ユーザーによるオーバークロック(コアクロック+200MHz、-40mV低電圧化、電力制限+10%)により、3.46GHzという高いクロック周波数を達成し、スコアは17,069ポイントまで向上したと報告されている。このオーバークロック時のスコアは、前世代のRX 7700 XT(平均約15,452ポイント)を上回る可能性を示唆しており、興味深い結果と言える。


ただし、前述の通りテスト環境には最適化の余地があり、特にCPUやメモリがボトルネックとなっている可能性は否定できない。正式なドライバとよりバランスの取れた環境下では、さらなる性能向上が期待できるかもしれない。また、RX 9060 XTには8GB版と16GB版が存在し、Yeston(盈通)の製品情報からは、両者でGPUクロック速度が異なる可能性も指摘されており、VRAM容量だけでなくGPUコアのチューニングにも違いがある可能性も考慮に入れる必要がある。
実ゲーム性能のリーク:10タイトル平均で見るその実力とRTX 5060 Tiとの差
より実用的な性能指標となる実ゲームでのベンチマークについても、Eteknixによって誤って公開されたレビュー動画から明らかになった。このリーク情報によると、RX 9060 XT 16GBモデルは、10タイトル平均のゲーム性能において、NVIDIAのGeForce RTX 5060 Ti 16GBモデルに肉薄する結果を示している。
Leaked 9060XT benchmarks (10 game average)
byu/BasedDaemonTargaryen inradeon
具体的には、1080p解像度ではRX 9060 XT 16GBが平均187 FPSを記録したのに対し、RTX 5060 Ti 16GBは194 FPSと、その差は約3%に留まっている。これは、RX 7700 XT(平均186 FPS)とほぼ同等の性能であり、前世代のRX 7600 XT 16GBからは約35%もの大幅な性能向上を達成していることになる。
解像度を1440pに上げると、RX 9060 XT 16GBは平均134 FPSとなり、RTX 5060 Ti 16GB(142 FPS)との差は約5%に広がる。RX 7700 XT(139 FPS)に対しては若干劣るものの、依然としてRX 7600 XT 16GBに対する35%のリードは維持している。
AMD自身の内部評価では、RX 9060 XT 16GBはRTX 5060 Ti 8GBモデルに対して1440p Ultra設定で6%優れた性能を発揮するとされている。MSRPで比較すると、RX 9060 XT 16GB(349ドル)はRTX 5060 Ti 8GB(379ドル)よりも安価であり、RTX 5060 Ti 16GB(Eteknixのレビューでは429ドルと記載、ただし市場価格は500ドル前後が多い)と比較すると、大幅な価格優位性を持つ可能性がある。
リークされたベンチマークでは、平均フレームレートではRTX 5060 Tiに僅かに及ばないものの、最低フレームレートではRX 9060 XTが優位に立つ場面も見られるとのことで、これは実際のゲームプレイにおけるスムーズさ、体感性能において重要な要素となるかもしれない。
レイ トレーシング性能の進化:RDNA 4アーキテクチャの恩恵
近年のゲームで重要度を増しているレイ トレーシング(RT)性能についても、RX 9060 XTは確かな進化を見せているようだ。リークされたEteknixのレビューでは、『Cyberpunk 2077』のようなRT負荷の高いタイトルにおいて、RX 9060 XTは前世代のRX 7600 XTから63%もの性能向上を果たし、RX 7800 XTに匹敵するスループットを示したとされている。また、RedditユーザーがXFX Swift RX 9060 XT 16GBで行った『Black Myth: Wukong』のテストでも、1080p高設定(RTオフ)で平均64 FPS、オーバークロック時には平均65 FPS(最低FPSは17から23へ改善)を記録している。
これらの結果は、RX 9060 XTが採用する新しい「RDNA 4」アーキテクチャが、レイ トレーシング処理能力の向上にも注力していることを示唆している。
RX 9060 XTの心臓部:RDNA 4アーキテクチャとTSMC N4Pプロセス
RX 9060 XTの性能を支えるのは、AMDの最新GPUアーキテクチャ「RDNA 4」と、より高度な製造プロセスであるTSMCの「N4P」である。RX 9060 XTは、前世代のRX 7600およびRX 7600 XT(いずれもRDNA 3アーキテクチャ)と同じコア数とメモリバス幅を持つとされているが、アーキテクチャの刷新とプロセスの微細化により、効率と性能の向上が図られていると考えられる。
また、AMDは今回、ネーミングスキームにも変化を加えており、8GBモデルと16GBモデルをRX 9060 XTという同一の名称でラインナップしている。これは、従来RX 7600(8GB)とRX 7600 XT(16GB、RX 7600と同コア数)のようにモデル名で区別していた手法とは異なる。この変更は、NVIDIAがしばしば行う同一モデル名でのVRAM違い展開に似ており、消費者に混乱を招かないか、あるいは意図的な戦略なのか、今後の市場の反応が注目される。
8GBモデルは必要か? AMD幹部が語るその存在意義
RX 9060 XTのラインナップで特に議論を呼んでいるのが、8GB VRAMモデルの存在だ。近年のAAAタイトルではVRAM消費量が増大しており、8GBでは既に力不足ではないかとの声が多く聞かれる。これに関しては、AMDのFrank Azor氏へが以前に応じたインタビューの中で、この8GBモデルにも依然として市場需要があると主張している。
Azor氏は、「16GB版の需要が大きいことは十分に予想しているが、より安価な8GB版にも市場での立ち位置がある」と述べている。その根拠として、「現在も多くのゲーマーが1080p解像度でプレイしており、8GB版はそのようなユーザー向けの製品と位置づけている。GPU部分に関しては16GB版と完全に同一で、違いはVRAM容量のみだ」と説明している。
8GBモデル(MSRP 299ドル)と16GBモデル(MSRP 349ドル)の価格差は50ドルだが、Azor氏はこれがMSRPの約15%に相当し、価格帯を考慮すれば決して小さくない差であると強調している。しかし、ゲーマーからは、同じ「RX 9060 XT」という名称でVRAM容量の異なるモデルを販売すること自体が紛らわしいとの批判も出ている。AMDはRX 9060 XTを「1440pゲーミングにも十分」とアピールしているが、これが8GBモデルにも当てはまるのかという点については、少々疑問ではある。
一方で、肯定的な側面としては、RX 9060 XT 16GBモデルがNVIDIA RTX 5060 Ti 8GBモデルと同等の価格で購入できる可能性がある点は、消費者にとって魅力的な選択肢となり得るだろう。
RX 9060 XTはミドルレンジGPU市場の新たな覇者となるか?
これまでのリーク情報を総合すると、AMD Radeon RX 9060 XT、特に16GBモデルは、NVIDIAのGeForce RTX 5060 Tiに対して、非常に競争力のある製品となる可能性を秘めていると言える。MSRPベースでは明らかに優れたコストパフォーマンスを示唆しており、実際のゲーム性能においても肉薄、あるいは特定の条件下では凌駕する場面も見られるかもしれない。特にレイ トレーシング性能の向上は、RDNA 4アーキテクチャの進化を感じさせる。
しかし、いくつかの懸念材料も残る。まず、リークされた価格が実際の市場価格と乖離しないか、そして十分な供給量を確保できるのかという点だ。NVIDIAのRTX 5060シリーズは、MSRPでの入手が困難な状況が散見されるため、AMDがこの点で優位に立てれば大きなアドバンテージとなるだろう。
また、8GBモデルの市場評価は未知数である。AMDの主張通り1080pゲーミングにおける需要を的確に捉えることができれば成功するかもしれないが、将来的なVRAM不足への懸念や、16GBモデルとの価格差が消費者にとって十分な魅力となるかが鍵となる。
さらに、NVIDIAが持つCUDAプラットフォームやDLSS、RTX VSR(Video Super Resolution)、HDRサポート、Multi Frame Generationといった強力なソフトウェアエコシステムに対し、AMDがFSR(FidelityFX Super Resolution)などでどこまで対抗できるかも、総合的な製品価値を左右する要素である。
Radeon RX 9060 XTの正式発表は2025年6月5日に予定されている。その全貌が明らかになり、詳細なレビューが出揃うことで、この新しいGPUがミドルレンジ市場にどのような変革をもたらすのか、その真価が問われることになるだろう。PCゲーマーにとっては、新たな選択肢の登場を期待させる、目が離せない状況が続くと見られる。
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