米投資会社Blackstoneが、Anthropicの上場後の信用格付けをダブルB格と予想し、AIチップ融資の投資家にその見通しを伝えていたことが分かった。Financial Times(FT)が2026年10月30日に報じたもので、Moody's、S&P、Fitchの大手格付け3社はAnthropicに正式な格付けを付けていない。Anthropicの上場申請書類(S-1)によると、6月末の手元流動性は1317億ドルと借入総額62億ドルの約21倍に達するが、未開始のリース契約に基づく将来の支払総額3214億ドルの約41%に相当する。ダブルB格は投資適格を下回る格付けであり、米国の生命保険会社が社債を保有する場合の所要資本係数は、投資適格の最下位であるBBB-と比べて約1.45〜2.78倍になる。焦点は当面の資金繰りよりも、今後の借り入れに必要な利回りや、資金を提供できる投資家の範囲にある。
Blackstoneが投資家に示した「上場後はダブルB格」という見通し
FTによると、Broadcom製のAIチップとネットワーク機器をAnthropicに貸し出すための630億ドル規模の融資案件「Project North Star」で、主要投資家を務めるBlackstoneは、Anthropicが上場後にダブルB格になるとの見通しを融資の投資家に伝えた。Invezzが紹介したFTの表現は「ダブルB格かそれ以上」であり、必ずしもダブルB格にとどまると断定したものではない。ダブルB格はBB+、BB、BB-の3段階からなり、いずれも投資適格に届かない投機的等級に分類される。Blackstoneは以前、Anthropicが2027年より前に投資適格の格付けを得るとの見方を示していた。ただし、今回の見通しはBlackstoneによる予想であり、Moody's、S&P、Fitchが正式に判断したものではない。
一方、別の格付け会社による評価はすでに存在する。FTによると、Kroll Bond Rating Agency(KBRA)は2026年6月、Anthropicに非公開の発行体格付けBB+を付与していた。KBRAはNorth Starのうち、Anthropicが支払うリース料を返済原資とする180億ドルの劣後債にもBB+を付けており、Blackstoneのファンドはその半分にあたる90億ドルを10%超の利回りで引き受けた。投資適格の格付けが得られれば、保険会社や年金基金などが投資家として参加しやすくなる可能性があると、Invezzやアゴラも伝えている。
投資適格と投機的等級の境界は、S&PとFitchではBBB-とBB+、Moody'sではBaa3とBa1の間にある。KBRAが付けたBB+は、投資適格にわずか1段階届かない水準だ。ただし、KBRAの非公開評価と大手3社が上場後に付ける格付けは別であり、Anthropicの信用格付けがダブルB格になると確定したわけではない。
手元流動性1317億ドルに対し、未開始リースの支払総額は3214億ドル
Anthropicが10月26日に公開したS-1によると、2026年6月30日時点の現金および現金同等物は1124億ドル、短期投資は193億ドルで、手元流動性は合計1317億ドルだった。同時点の借入総額は62億ドルで、これはAmazon向けに発行した転換社債の元本にあたる。手元流動性は借入総額の約21倍に達する一方、未開始のリース契約に基づく将来の支払総額3214億ドルと比較すると、約41%にとどまる。
ただし、3214億ドルは割引前の金額であり、今後複数年にわたって発生する支払いの総額だ。1年間に必要な資金を意味するものではなく、上場で調達する資金や将来の営業キャッシュフローも、この比較には含まれていない。また、Amazon向けの転換社債は、上場直前にAmazonの株式保有上限まで株式へ転換され、上限を超える部分のみが債務として残る予定だ。したがって、手元流動性と借入総額、未開始リースの支払総額を比較した比率は、S-1の数値を基にした単純計算であり、格付け会社が用いる信用評価の指標ではない。
未開始のリース契約は主にAIの計算資源や関連インフラに関するもので、その支払総額は2025年12月末の約502億ドルから、わずか半年で約3214億ドルに増加した。S-1では、一部の契約について、所定の条件を満たすことが履行の前提になると注記している。また、別の項目では、TPUと呼ばれるAI向けチップを中心とするBroadcomとの設備リースについて、利息を除く賃料総額を約1612億ドルと開示した。このリースの一部は2026年に開始しており、追加分は2027年から開始する見込みだ。契約期間中は債務不履行の場合を除いて双方とも解約できず、ほかの債務の不履行がこの契約の不履行にもつながるクロスデフォルト条項が設けられている。
格付けの違いが融資条件に影響することは、Anthropicがすでに締結した契約からも読み取れる。同社は2026年9月、上限額の範囲内で借り入れと返済を繰り返せる150億ドルの担保付きリボルビング融資枠を設定した。満期は2031年9月4日で、Moody's、S&P、Fitchのうち少なくとも2社から投資適格の格付けを得た日以降、Anthropicは自らの判断で保証と担保を解除できる。また、その日以降は融資枠の手数料も格付けに応じて変動する。つまり、投資適格に届くかどうかによって、同じ150億ドルの融資枠でも保証や担保を差し入れ続ける必要があるかどうかが変わる仕組みだ。
BBB-からBB+への1段階の低下で、米生命保険会社の所要資本係数は約1.45倍に
米国の生命保険会社には、保有資産のリスクに応じて必要な自己資本を確保するリスクベース資本規制が適用される。全米保険監督官協会(NAIC)は、保険会社が保有する債券を信用リスクに応じて区分し、それぞれに所要資本を算定するための係数を設定している。区分は原則として格付け会社の評価を基に決まるが、私募債の格付けなどには例外的な取り扱いもある。同じ額の社債を保有していても、信用リスクの区分が下がって係数が上昇すれば、保険会社はより多くの資本を確保しなければならない。
NAICが定める税引き前の所要資本係数は、投資適格の最下位であるBBB-が2.168%なのに対し、BB+は3.151%、BBは4.537%、BB-は6.017%となっている。BBB-からBB+へわずか1段階下がるだけで、同額の社債を保有する際の係数は約1.45倍になる。BBでは約2.09倍、BB-では約2.78倍に拡大する。これらの倍率は、各格付けの係数をBBB-の2.168%で割って求めたものだ。
ただし、所要資本係数が上昇しても、保険会社がダブルB格の社債を保有できなくなるわけではない。また、Anthropicはまだ公募社債を発行しておらず、将来発行する債務がNAICのどの区分に分類されるかも確定していない。それでも、資本負担の大きい社債は、同じ利回りであれば保険会社にとって資本効率が悪くなる。そのため、ダブルB格の社債を米国の生命保険会社に販売するには、追加の資本負担に見合う高い利回りが求められる可能性がある。
信用リスクの違いによる利回りの差は、すでにAIチップ融資の案件にも表れている。FTによると、Apollo主導で約350億ドルを調達した先行案件「Big Sky」では、Broadcomの保証が付いたシニア債の利回りが5.75%だった。これに対し、Anthropicの信用リスクを直接負う約44億ドルの劣後債の利回りは約8.5%に達した。同じ融資案件の中でも、返済の裏付けとなる信用が異なることで、利回りに約2.75ポイントの差が生じた計算になる。
AIインフラへの融資は、日本の生命保険会社にも広がっている。ビジネスジャーナルによると、日本生命は米国のデータセンター向けを中心とするAIインフラ融資の残高を、2026年3月末の約1兆円から2035年度までに2兆円へ増やす計画だ。株式への出資ではなく、プロジェクトファイナンスを活用する方針だという。NAICの所要資本係数は米国の規制であり、日本生命にそのまま適用されるものではない。それでも、AIの計算資源を借り入れによって確保する動きには、日本の保険会社も資金の出し手として加わっている。
Anthropicは投資適格を得られるか 大手3社の判断と劣後債の利回りが焦点に
一方、Anthropicが投資適格の格付けを得る可能性も十分にある。Impax Asset Managementで投資適格債の運用を担当するTony Trzcinka氏はBloombergに対し、Anthropicは非常に潤沢な流動性を確保している一方、将来の支払義務も異例の規模に達していると指摘した。同氏は、現時点のレバレッジを踏まえればバランスシートは投資適格に見合うと評価している。ただし、最終的な格付けは将来の支払予定、事業運営の歴史の短さ、取引相手との循環的な資金関係を格付け会社がどう判断するかによって決まるという。
既存の融資構造や追加の資金調達余力も、Anthropicの信用を支える材料となる。North StarとBig Skyのシニア部分にはBroadcomによる残価保証が付いており、リース対象のチップを売却しても債務を返済しきれない場合、Broadcomが不足分を補う仕組みだ。また、S-1にはGoogle向け200億ドル、Amazon向け150億ドル、Broadcom向け420億ドルの合計770億ドルに上る転換社債の追加発行枠が記載されている。上場が実現すれば、株式市場からの資金調達によって手元資金も増える見込みだ。
これらは、Anthropicが短期的な資金不足に陥るリスクを評価するうえでは重要な材料だ。しかし、資金を確保できるかどうかと、どのような条件で調達できるかは別の問題である。シニア部分がBroadcomの保証によって保護されるなら、Anthropic自身の信用力がより直接的に問われるのは、劣後債や今後Anthropic名義で発行する社債だ。FTによれば、North Starの劣後債だけでも180億ドルに上る。また、770億ドルの転換社債の追加発行枠は特定の取引先との契約に基づくものであり、格付けや市場の需要によって条件が決まる社債市場での資金調達とは性質が異なる。
今後、この見方を検証するうえで重要な条件は2つある。第一に、上場後、Moody's、S&P、Fitchのうち2社以上がBBB-以上(Moody'sではBaa3以上)の投資適格を付与するかどうかだ。これはAnthropicが150億ドルのリボルビング融資枠から保証と担保を解除できる契約条件とも一致する。第二に、次のAIチップ融資でAnthropicの信用リスクを直接負う劣後債が、Big Skyの約8.5%を下回る利回りで販売できるかどうかである。前者が実現すればダブルB格という予想は覆り、後者が実現すれば資金調達条件への悪影響を懸念する見方は弱まる。
実際、将来のキャッシュフローに不確実性があっても、投資適格を得た企業は存在する。SpaceXは2026年6月、Moody'sからBaa1、S&PからBBB、FitchからBBB+という投資適格の格付けを取得した。S&Pは当時、同社のキャッシュフローが2030年まで赤字になると予測していた。
Blackstoneの見通しが妥当だったかどうかは、上場後に大手3社が付ける正式な格付けと、次のAIチップ融資で成立する劣後債の利回りによって明らかになる。2社以上から投資適格を得られれば、Anthropicは既存の150億ドルの融資枠について保証と担保を解除できるようになり、今後の資金調達でも投資適格という評価を交渉材料に使える。一方、ダブルB格にとどまる場合は、巨額のAIインフラ投資を支えるために、どの投資家から、どの程度の利回りで資金を集められるかが重要になる。



