Apple Watchが、単なる通知デバイスやフィットネストラッカーから、パーソナルな健康管理のハブへと進化を遂げようとしている。2024年はメジャーアップデートが見送られた「Apple Watch Ultra」の次期モデルや、待望のヘルスケア新機能に関する具体的なタイムラインが、複数のアナリストやレポートによって示され始めた。
2年間の沈黙を破り登場するとされる「Apple Watch Ultra 3」、そしてついに現実味を帯びてきた「血圧測定」機能。さらにその先には、長年取り組まれながらもいまだ実現していない「非侵襲的血糖値モニタリング」の姿が見え隠れする。果たして2025年のApple Watchで、これら“夢の技術”は実現するのだろうか?
2年ぶりの刷新へ、Apple Watch Ultra 3に高まる期待
2024年に新モデルの登場がなかったことで、ファンの期待が最高潮に達しているのが「Apple Watch Ultra 3」だ。複数の情報筋は、その登場が2025年になることで一致している。
2025年登場が濃厚、アナリスト予測が出揃う
香港の証券会社GF Securitiesのアナリスト、Jeff Pu氏や、BloombergのMark Gurman氏といった信頼性の高い情報源が、Apple Watch Ultra 3が2025年の製品ラインナップに加わることを示唆している。特にMacRumorsが報じたJeff Pu氏の投資家向けロードマップでは、2025年に「Apple Watch Series 11」と共に「Apple Watch Ultra 3」が登場することが明記されている。
2022年の初代登場以来、過酷な環境に挑むアスリートやアウトドア愛好家から絶大な支持を得てきたUltraモデル。2年という開発期間は、単なるプロセッサの更新といったマイナーチェンジに留まらない、意味のある進化を期待させるのに十分な時間だ。
「衛星通信」と「5G」が変える単独での生存能力
Ultra 3で最も期待される進化が、通信機能の抜本的な強化である。Bloombergの報道によると、Apple Watch Ultra 3には衛星通信機能が搭載される可能性があるという。
これは、iPhoneが手元にない、あるいはバッテリーが切れてしまった状況でも、Apple Watch単体で緊急時のテキストメッセージ送信などを可能にすることを意味する。山岳地帯や海上など、携帯電波の届かない場所での活動が多いUltraユーザーにとって、これは文字通り「最後の命綱」となりうるキラー機能だ。
さらに、統合された5Gモデムの搭載も噂されており、これによりセルラーモデルの通信速度と安定性が向上し、iPhoneからの独立性がさらに高まるだろう。こうした通信機能の強化は、「究極のスポーツウォッチ」というUltraのコンセプトを、より高いレベルへと引き上げる戦略的な一手と考えられる。
ヘルスケア機能の進化 ー Series 11に搭載される「血圧測定」の現実味
Apple Watchの進化のもう一つの柱は、ヘルスケア機能の拡充だ。2025年モデルでは、ついに「血圧測定」機能が搭載されるとの見方が強まっている。
ついに実現か、高血圧トレンドの警告機能
Bloombergによると、2025年に登場するApple Watch(Series 11およびUltra 3)には、血圧測定機能が搭載される可能性が高いようだ。この機能は、2024年のApple Watch Series 10で搭載が期待されながらも見送られてきた経緯があり、満を持しての登場となる。
ただし、その実装方法は、従来の血圧計のように収縮期(最高)と拡張期(最低)の血圧値を具体的に表示するものではないようだ。Appleが目指しているのは、ユーザーの平常時の血圧と比較して、著しく高い、あるいは低い傾向が見られた場合に警告を発する「トレンド検出」機能であり、既に導入されている体温の変化を知らせる機能に類似した物になるようだ。
これによりユーザーは、高血圧のリスクに早期に気づき、医師の診断を受けるきっかけを得ることができる。これは、特定の数値を提示して診断する「医療機器」ではなく、日々の健康への意識を高める「ウェルネスデバイス」という、Appleの一貫したアプローチを反映したものと言えるだろう。
Apple Watchの「夢」ー 非侵襲的血糖値モニタリングへの長い道のり
そして、Apple Watchが目指すヘルスケアの最終目標とも言えるのが、針を刺さずに血糖値を測定する「非侵襲的血糖値モニタリング」だ。この革新的技術の実現に向けた、新たなマイルストーンが示された。
2027年「Series 13」がターゲットか?アナリストJeff Pu氏の予測
SNSで共有されたアナリストJeff Pu氏のロードマップによると、Appleは2027年に登場する「Apple Watch Series 13」で、この血糖値測定機能を初めて搭載することを目指しているという。Pu氏は、このモデルが「Apple Watch featuring Blood Monitoring」といった特別な名称で呼ばれる可能性さえ示唆している。
この機能が実現すれば、糖尿病患者やその予備軍にとって、日々の血糖値管理を劇的に変えるゲームチェンジャーとなる。痛みを伴う穿刺(せんし)から解放されるだけでなく、継続的なモニタリングによって、食事や運動が血糖値に与える影響をリアルタイムで把握できるようになるからだ。これは、予防医療の領域に革命をもたらすポテンシャルを秘めている。
なぜこれほど難しいのか?技術的課題と信頼性
しかし、この予測には慎重な見方が必要だ。Pu氏の予測がサプライチェーンからの具体的な証拠に基づくものではなく、あくまでアナリストとしての推測である可能性があるからだ。
実際に、非侵襲的な血糖値測定は技術的に極めて困難なことで知られる。BloombergのMark Gurman氏は過去に、Appleの開発が「概念実証(proof of concept)」の段階には達したものの、センサーが腕時計に搭載するには大きすぎるという課題を抱えていると報じていた。
Appleはこの技術に10年以上を費やしており、その道のりは決して平坦ではない。Appleが過去に血中酸素ウェルネス機能でMasimo社との特許紛争に直面し、米国での機能無効化を余儀なくされたように、ヘルスケア機能の開発には技術的ハードルだけでなく、規制や特許という高い壁も存在する。
そのため、2027年というタイムラインはあくまで現時点での目標であり、今後の開発状況によってはさらに遅れる可能性も十分に考慮しておくべきだろう。
Appleが描くヘルスケアの未来とウェアラブルの次なる戦場
Apple Watchは、発売以来、通知、フィットネス、通信といった多様な機能を提供してきたが、その真の「キラーアプリ」はヘルスケアにある。人々の健康寿命の延伸、生活習慣病の予防、そして緊急時の対応といった領域で、ウェアラブルデバイスは計り知れない可能性を秘めている。
今回の噂が現実となれば、Apple Watchは単なるスマートウォッチの枠を超え、よりパーソナルで包括的な健康管理デバイスへと進化するだろう。Apple Watch Ultra 3の衛星通信機能は、冒険家やプロフェッショナルだけでなく、万が一の事態に備えたい一般ユーザーにも安心感を提供する。そして、血圧測定や、もし将来的に非侵襲型血糖値モニタリングが実現すれば、慢性疾患を持つ人々やその予備軍にとって、日々の健康管理を劇的に変えるツールとなるだろう。
しかし、これらの先進機能の導入は、新たな課題も生み出す。プライバシーとセキュリティ、収集される膨大な健康データの管理、そして前述のような規制や特許に関する問題は、Appleが今後も乗り越えなければならない壁だ。
Apple Watchの進化は、ウェアラブル市場全体の方向性をも示唆している。競合他社もヘルスケア機能の強化に注力しており、今後数年間で、私たちの手首にある小さなデバイスが、個人の健康状態を常時モニタリングし、疾病の早期発見や予防に貢献する「パーソナルヘルスケアハブ」へと変貌を遂げる可能性は高いだろう。
Sources