- 何が起きた: 中国のHarbin Institute of Technologyと中国科学院金属研究所の研究チームが、セメント系電極を櫛形に3Dプリントし、電気を蓄えながら荷重にも耐えるスーパーキャパシタを試作した。
- なぜ重要か: 電極を互い違いに配置することで、部材を厚くしてもイオンの移動距離が長くなりにくい構造を実現した。蓄電機能を建材そのものへ組み込む際の課題の一つに取り組んでいる。
- 次に見るべき点: 圧縮強度は23 MPaに達した一方、−18℃では蓄電性能が大幅に低下した。実用化には、荷重を受けながら充放電を繰り返した場合の耐久性や、凍結・乾燥への対策を確かめる必要がある。
中国のHarbin Institute of Technologyと中国科学院金属研究所の研究チームが、セメント系の電極を櫛形に3Dプリントし、電気を蓄えながら構造材料として荷重にも耐えるスーパーキャパシタを試作した。
米国化学会(ACS)が10月1日に紹介した研究で、試料は23 MPaの圧縮強度を示し、三つのデバイスを接続して小型LEDを点灯させる実験にも成功した。
セメントやコンクリートそのものに蓄電機能を持たせる研究は以前から進められている。今回の特徴は、電極の配置を工夫することで、部材を厚くするとイオンの移動距離も長くなり、蓄電性能が低下するという問題に取り組んだ点にある。
蓄電設備を建物とは別に置くのではなく、壁や床などの構造部材そのものへ組み込むためには、蓄電量だけでなく、強度や水分管理も同じ材料の中で成立させる必要がある。
Haiping Wu氏、Jing Zhong氏、Wencai Ren氏による査読済み論文は、8月17日にACS Nanoでオンライン公開された。10月1日のACS発表は、その研究成果を一般向けに紹介したものだ。
厚くしてもイオンの移動距離を伸ばしにくい櫛形構造
研究チームは、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、セメントを混ぜ、3Dプリンターのノズルから押し出せる電極材料を作った。
これを二つの櫛の歯が互い違いにかみ合うような形で印刷する。二つの電極は接触させず、その間をセメント系のセパレーターで満たして、一体化した構造を形成する。
炭素材料が作る導電経路を電子が移動する一方、セメント系材料の細孔には水分とイオンを含む溶液が存在し、電極間をイオンが移動する。
こうして電子の通り道とイオンの通り道を組み合わせ、電極と電解質の界面に電荷を蓄えるのが、このスーパーキャパシタの基本的な仕組みだ。
セメントそのものが電気を生み出すわけではない。太陽光発電などで得た電力を外部から充電し、必要なときに取り出して使う。
従来の積層型構造では、二つの電極の間にセパレーターを挟むため、イオンは主に部材の厚さ方向へ移動する。
そのため、電極を厚くして蓄電量を増やそうとすると、イオンの移動距離も長くなり、内部まで十分に利用しにくくなる。
今回の櫛形構造では、互い違いに並んだ電極の間をイオンが水平方向へ移動する。
そのため、部材そのものを厚くしても、電極間のイオン移動距離を短く保ちやすい。部材の厚さとイオンの移動距離をある程度独立して設計できることが特徴となる。
補足資料に示された試料では、電極の歯の幅と高さはいずれも3 mm、隣り合う歯の間隔は5 mmだった。
また、電極とセパレーターをともにセメント系材料で作って一体化することで、異なる部材を接着した境界で剥離する問題を抑える狙いもある。
材料の配合だけでなく、電荷が移動する経路と荷重を支える構造を同時に設計した点が今回の特徴だ。
「22.52 μWh/cm²」は何の面積を基準にした数字か
研究チームが最適化した試料では、次の性能が報告されている。
| 指標 | 報告値・条件 |
|---|---|
| 面積当たり静電容量 | 162.14 mF/cm²、電流密度0.46 mA/cm²で測定 |
| 面積当たりエネルギー密度 | 22.52 μWh/cm² |
| 面積当たり出力密度 | 0.49 mW/cm² |
| 動作電圧 | 1.0 V |
| 圧縮強度 | 23.00 MPa |
静電容量はどれだけ電荷を蓄えられるか、エネルギー密度は取り出せるエネルギー量、出力密度はどれだけ速くエネルギーを取り出せるかを見る指標である。
これらは研究チームが作った試料についての測定値であり、建物全体の蓄電性能を示すものではない。
ACSは23 MPaという圧縮強度について、床版や階段などに使われる市販コンクリートに匹敵すると説明している。ただし、この比較だけで建築材料としてそのまま実用化できると判断することはできない。
蓄電性能を読む際には、もう一つ重要な注意点がある。
公開された補足資料の図S18では、印刷された電極部分の投影面積をA、セパレーターを含むデバイス全体の面積をBとして区別している。
計算方法を説明した節1.4では、面積当たり静電容量などを電極の投影面積で割って算出している。
つまり、22.52 μWh/cm²という値は、壁やデバイス全体の表面積を基準にした数字ではない。
単位だけを換算すると、
22.52 μWh/cm² = 0.2252 Wh/m²
となる。
これは1 m²当たり10,000 cm²を掛け、μWhをWhへ換算しただけの値であり、1 m²の大型デバイスを実際に製造して測定した結果ではない。
また、電極以外の部分も含めた部材全体で1 m²当たり0.2252 Whを蓄えられるという意味でもない。
実際の壁や床としての蓄電量を求めるには、部材全体に占める電極の割合や配置、厚さなどを含めて評価する必要がある。
この数字を住宅の壁面積へそのまま掛けても、住宅全体の蓄電容量を求めることはできない。
MITの蓄電コンクリートとは、解決しようとしている課題が異なる
セメントやコンクリートに蓄電機能を持たせる研究では、MITが開発を進める導電性カーボンコンクリート「ec³」も知られている。
MITが2025年10月1日に発表した研究では、電解液や製造方法を改良し、有機電解液を使った構成で1 m³当たり2 kWhを超える蓄電量を報告した。
MITの研究では、硬化した電極を後から電解液へ浸す方法から、コンクリートを混ぜる段階で電解液を加える方法へ変更した。
これにより、電解液が材料内部へ浸透するのを待つ必要が減り、より厚い電極を作りやすくなった。
特に高い性能を示したのは、第四級アンモニウム塩とアセトニトリルを組み合わせた有機電解液だった。
一方、今回の研究が主に変えたのは、電解液そのものではなく電極の形状と配置だ。
櫛形の電極とセパレーターを一体化することで、部材を厚くした場合でもイオンが移動する距離を短く保とうとしている。
つまり、MITの研究と今回の研究では、構造用蓄電材料を大型化する際に解決しようとしている課題が異なる。
MITの2 kWh/m³は体積を基準にした値であり、今回の22.52 μWh/cm²は電極の投影面積を基準にした値である。
試料の構造や電解液も異なるため、この二つをそのまま並べて「どちらの方が蓄電性能が高い」と判断することはできない。
比較するのであれば、MITは厚い材料内部へ電解液を行き渡らせる問題、今回の研究は厚さに左右されにくいイオン移動経路を作る問題に取り組んでいる、と見る方が分かりやすい。
−18℃では蓄電性能が大幅に低下
このスーパーキャパシタでは、セメント内部の細孔に含まれる水分と電解質が、イオンの移動経路として働く。
そのため、温度によって細孔内の水分の状態が変われば、蓄電性能も影響を受ける。
補足資料の図S13では、25℃で測定した静電容量を基準として、異なる温度での性能が示されている。
図から読み取れるおおよその値は次のようになる。
| 測定温度 | 25℃を基準とした静電容量 |
|---|---|
| 40℃ | 約112% |
| 25℃ | 100% |
| 5℃ | 約92% |
| −18℃ | 約8% |
5℃程度では大きな低下を示さなかった一方、−18℃では静電容量が急激に低下した。
研究チームは、細孔内の溶液が部分的に凍結し、イオンが移動できる液体部分が減ったことなどを原因として挙げている。
櫛形構造によってイオンの移動距離を短くしても、その経路自体が凍結してイオンが動きにくくなれば、蓄電性能は大きく制限される。
40℃で静電容量が増えたことも、「高温に強い材料」であることを意味するわけではない。
短時間であれば温度上昇によってイオンが動きやすくなる一方、高温で乾燥した状態が長く続けば、水分の蒸発によって細孔内の電解液の状態が変化する可能性がある。
今回の研究では、湿度を制御した長期試験や、長期間にわたる環境劣化までは検証していない。
実際の建材では、寒さだけでなく、乾燥と湿潤、凍結と融解の繰り返しも問題になる。
研究チームは、凍結・融解によって細孔内部に圧力や局所的な応力が生じ、微細なひび割れや界面の損傷につながる可能性も指摘している。
こうした変化は、電気抵抗と機械的強度の双方へ影響する可能性があるが、今回の短期間の温度試験だけから長期的な耐久性を判断することはできない。
LEDを点灯できても、建物の電源になるまでには課題が残る
ACSが紹介した実証では、同じ板に作られた三つのデバイスを配線し、小型LEDを点灯させている。
研究チームは将来の用途として、非常用照明や自己給電型センサーなどを挙げている。
ただし、これは住宅や建物全体へ電力を供給した実験ではない。
スーパーキャパシタは一般に、電池より蓄えられるエネルギー量は小さい一方、短時間で充放電しやすく、繰り返し利用しやすいという特徴を持つ。
Jing Zhong氏もACSの発表で、太陽光などの再生可能エネルギーから十分な頻度で充電できれば、充放電を繰り返すことで一部の電力需要を賄える可能性があると説明している。
そのため、現時点で想定しやすい用途は、大容量の蓄電池をそのまま置き換えることよりも、頻繁に充電できるセンサーや照明など比較的消費電力の小さい機器への給電だ。
建材として実用化するためには、電気的な性能と構造材料としての性能を別々に満たすだけでは足りない。
凍結を防ぐ電解質や、水分を逃がさない封止を導入した場合でも、十分なイオン伝導性と機械的強度を維持する必要がある。
研究チームは今後の候補として、セメントと相性のよい塩やゲル電解質、保護コーティングなどを挙げている。
次の重要な検証は、実際に荷重を受けた状態で充放電を繰り返し、さらに凍結・融解や乾燥・湿潤を繰り返した後でも、蓄電性能と構造強度の両方を維持できるかどうかだ。
そこまで確認できれば、建物の壁や床そのものに蓄電機能を持たせ、近くのセンサーや照明へ電力を供給するといった用途を、実際の建築設計に近い条件で検討できるようになる。



