中国は2026年7月10日、長征10号Bの初飛行で衛星を予定軌道へ投入し、切り離した第1段を南シナ海の回収船で捕獲することに成功した。軌道投入任務を担った大型ロケットの第1段を制御降下させ、機体を損なわず回収したのは中国では初めてのことである。世界初となったのは、着陸脚を使わず海上の網で機体を受け止める方式だ。中国は、軌道投入任務で使った第1段を垂直降下させて回収した国として米国に続く2番目となったが、商用の再使用が始まったわけではない。回収した機体を再び飛ばせるかが次の試験になる。
二度の着陸失敗と、2月の着水試験を越えた
長征10号Bは北京時間7月10日12時15分、海南商業宇宙発射場から打ち上げられた。第1段は上昇開始から約150秒後、高度約100キロメートルで第2段と分離した。第2段が衛星を軌道へ運ぶ間、第1段は向きを変えて大気圏へ戻り、打ち上げ約8分後に発射場から300キロメートル以上離れた海上で捕獲された。軌道投入と回収という二つの目標を、初飛行でともに達成したことになる。
今回の成功には明確な前史がある。2025年12月3日、民間企業LandSpace(藍箭航天)の朱雀3号は第2段を予定軌道へ入れたものの、第1段の着陸点火後に異常が起きた。機体は着陸区域の端へ落下し、軟着陸に失敗した。同月23日には中国航天科技集団の長征12号Aも軌道投入を完了したが、第1段を回収できなかった。中国の開発陣は、軌道へ荷物を運ぶ飛行と、その役目を終えた大型第1段の帰還を同時に成立させられずにいた。
2026年2月の長征10号系試験では、さらに一歩進んだ。ロケットは低高度を飛行した後、第1段を海上の予定区域へ制御着水させ、2日後に船で引き揚げられた。ただし、この飛行は新型宇宙船「夢舟」の緊急脱出試験と組み合わせた低高度実証であり、衛星を軌道へ送る任務ではなかった。7月の長征10号Bは、高速で飛ぶ軌道投入用第1段の帰還という未達部分を埋めた。
着陸脚を船側へ移した「網」の仕組み
第1段は分離後、慣性飛行と姿勢変更、エンジンによる減速、空気抵抗を使う減速、着陸の4段階をたどった。展開したグリッドフィンで姿勢を整え、タンク内の推進剤を底へ集めてエンジン再始動に備える。大気の濃い領域へ入る前にエンジンを点火して速度と加熱を抑え、最後はグリッドフィンとエンジンを協調させて、回収船に対する速度をほぼゼロまで落とした。
機体の下に脚はない。第1段が回収装置の上へ降りると、機体側のフックが十字状に張った4本のケーブルへ掛かり、滑りながら衝撃を吸収する。捕獲後は複数方向から補助ケーブルを張り、自動ロック台を機体の下へ移して固定する。着陸地点に正確に「立つ」のではなく、ロケットと可動ケーブルが互いの位置を合わせて受け止める設計である。
この動作を支える回収船「領航者」は、全長144メートル、幅50メートル、満載排水量2万5,000トン。風や波、海流をスラスターで打ち消し、位置と船首方向を保つDP2動的位置保持システムを備える。開発を統括した中国運載ロケット技術研究院(CALT)は、着陸脚を省けば飛行する機体を軽くでき、ケーブルを動かせば捕獲可能な範囲も広げられると説明している。ロケット側の複雑さを、船と回収設備へ移す発想だ。
もっとも、重量上の利点が運用全体の安さを保証するわけではない。大型船の航行、網と位置保持装置の整備、捕獲後の固定、港への輸送まで含む実費は公表されていない。海況が回収可能日をどの程度制限するかも分からない。網式が着陸脚方式より経済的かどうかは、複数回の運用データを待って判断する必要がある。
16トン級商業機と有人ロケットをつなぐ設計
長征10号Bは直径5メートルの2段式大型ロケットで、初飛行機は全長約63メートル、打ち上げ重量約760トン、離昇推力約890トンだった。第1段は7基の液体酸素・ケロシンエンジンを束ね、第2段には液体酸素・メタンエンジンを1基載せる。第1段を回収する構成でも、低軌道へ16トンを運ぶ設計だ。低軌道衛星群の一括投入や大型商業衛星を主な用途に据える。
初飛行では回収装置の動作に加え、エンジンの複数回始動と高空点火、高精度の航法制御、推進剤管理、メタンを気化させてタンクを加圧する仕組みも試した。第2段は一度燃焼を止めた後、慣性飛行と姿勢変更を経て再点火し、衛星を予定軌道へ入れている。回収の映像が目を引く一方、商業ロケットとして異なる軌道へ対応するための上段技術も同じ飛行で確かめた。
もう一つの役割は、中国の有人宇宙開発との接続である。長征10号Bの第1段は、新世代有人ロケット「長征10号A」の第1段構成を受け継ぐ。CALTは将来、長征10号Aから回収した部品を長征10号Bの商業飛行へ使い、有人任務に関わる機体の飛行データを増やす構想を示した。商業打ち上げの回数を、有人輸送システムの信頼性向上にも利用する考えである。
中国では再使用ロケットの候補が一つに絞られていない。朱雀3号は直径4.5メートル、回収時の低軌道能力18トン以上、設計上の再使用回数20回以上を掲げる。長征12号Aも2025年の失敗後に回収試験を続けている。長征10号Bの成功は競争の決着ではなく、中国の複数の開発計画が「軌道投入」から「回収」へ進むための基準を作ったと見るべきだろう。
回収成功と安い再使用の間にある距離
先行例は、この先が長いことを物語る。SpaceXは2015年12月21日にFalcon 9で軌道級ロケットの第1段を世界で初めて回収した。同じ第1段を再び打ち上げたのは2017年3月30日で、最初の回収から約15カ月後だった。回収できる機体を、検査し、整備し、顧客の衛星を載せて再飛行させるまでには別の技術と運用体制が要る。
その積み重ねが生む差は大きい。SpaceXが2026年6月に公表した目論見書によると、同年3月末までにFalcon 9の第1段着陸は570回を超え、飛行実績のある第1段を使った打ち上げも540回を超えた。1基の第1段を34回再飛行させた実績があり、2025年のFalcon 9打ち上げ165回のうち157回が再使用機だった。米国ではBlue Originも2025年11月、New Glennの2回目の飛行で大型第1段を大西洋上の船へ着陸させている。
長征10号Bの開発チームは、今回回収した第1段を使う飛行実証を2026年末までに行う見通しだ。そこで確認すべき数字は、着陸回数ではない。回収後の検査で何を交換するのか、整備に何日かかるのか、再飛行で同じ性能と信頼性を保てるのか、そして使い捨て機より顧客価格を下げられるのか。年内の再飛行が成功すれば、中国の再使用ロケット開発は技術実証から運用設計へ移る。失敗すれば、回収時の衝撃や熱、海上運用を含むどこに費用と時間が潜んでいるかが次の課題になる。