太陽光エネルギーの限界を押し広げる競争は、単一の材料から複数の材料を重ね合わせる「タンデム構造」へと主戦場を移している。これまで、市場を支配するシリコンをベースにしたタンデム電池が多く注目を集めてきた。しかし、軽量で曲げることも可能な薄膜太陽電池の可能性を追求する研究者たちは、まったく別の材料の組み合わせに賭けている。

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ショックレー・クワイサー限界との戦い

太陽電池の変換効率には、「ショックレー・クワイサー限界」と呼ばれる単一材料では超えられない物理的な限界が存在する。1961年にウィリアム・ショックレーとハンス・クワイサーが導き出したこの理論は、太陽電池が吸収できる光の波長域には制限があることを示している。入射する光子のエネルギーが材料固有の「バンドギャップ」より小さければ、光は素通りしてしまう。逆にバンドギャップより大きすぎると、余剰エネルギーは電子の励起に使われず、熱として無駄に逃げてしまうのだ。

物理的な制約を突破する定石が、吸収帯域の異なる2つの太陽電池を重ねるタンデム構造である。上層のセルがエネルギーの高い短波長(青い光など)を吸収し、そこをすり抜けた低エネルギーの長波長(赤い光や赤外線)を下層のセルで効率よく拾い集める。理論上、この二段構えによって太陽光のスペクトルを無駄なく使い切ることが可能になる。

シリコン太陽電池は安価で広く普及しているが、重く硬いため設置場所が限られるという弱点がある。建物の屋上や平地に並べるメガソーラーには適しているが、ビルの壁面や電気自動車の屋根、あるいはウェアラブルデバイスの電源として使うには物理的な制約が大きい。そこで期待されているのが、基板に塗布したり蒸着したりして作る薄膜太陽電池である。

薄膜太陽電池の代表格であるCIGSe(銅、インジウム、ガリウム、セレンの化合物)は、光を吸収する能力が極めて高く、シリコンの100分の1以下の厚さで同等の光を捉えることができる。さらに、長期的な耐久性や安定性にも優れている。研究チームは、この実績あるCIGSeをボトムセルとして据え、その上に近年急速に効率を伸ばしているペロブスカイト太陽電池をトップセルとして重ね合わせた。軽量で柔軟なタンデム電池という、シリコンには到達できない領域を目指すアプローチである。

ベルリン・ヘルムホルツセンター(HZB)とフンボルト大学ベルリンの研究チームは、このCIGSeとペロブスカイトを組み合わせた構造の開発を先導してきた。これまで同チームは同じ材料の組み合わせで24.6%という記録を持っていたが、今回はそれを一気に25.5%へと引き上げた(直近の第三者機関による世界記録は、東京都市大学が達成した25.17%だった)。

今回達成された新記録は、欧州の太陽電池テスト施設(ESTI)およびフラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所(ISE)によって独立認証され、権威ある「Solar Cell Efficiency Tables(Green Tables)」に正式に登録された。Green Tablesに掲載されるには、局所的な最高効率だけでなく、実用化の指標として面積が1平方センチメートルを超えている必要がある。今回のセル面積は1.081平方センチメートルであり、実用サイズの入り口を見事にクリアしている。

界面のノイズを塞ぐ

異種材料を重ね合わせれば自動的に効率が上がるわけではない。タンデム太陽電池では、上下のセルがスムーズに電子と正孔を受け渡しできなければ、電流は流れない。材料の境界部分では、せっかく光から変換された電荷が再び結合して熱になってしまう「再結合損失」が起こりやすく、これが効率低下の最大のボトルネックだった。

研究チームは、この界面のロスを塞ぐためにナノスケールの精密なチューニングを行った。まず、光の受け皿となるボトムセル、CIGSeのバンドギャップを1.05 eVと1.1 eVの2種類で調整した。それに合わせ、上下のセルを電気的につなぐ層であるアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)の厚さを最適化し、光の透過性と電気の伝導性のバランスを整えたのである。

さらに決定的な役割を果たしたのが、電荷を運ぶ「交通整理」の刷新だ。正孔(プラスの電荷)だけを効率よく運ぶ材料として、酸化ニッケル(NiOx)と自己組織化単分子膜(SAMs)の組み合わせを綿密にスクリーニングした。これらが界面の欠陥を覆い隠し、不要な電子の逆流を防ぐ防波堤となる。

また、電子(マイナスの電荷)を選択的に引き抜くコンタクト層においては、超薄い1ナノメートルのフッ化リチウム(LiF)によるパッシベーション層を配置した。その上にバックミンスターフラーレン(C60)を蒸着する際、初期の熱蒸着速度を極めて厳密に制御したという。このナノスケールでの接合の最適化が、電荷の移動を滑らかにし、再結合という漏水を塞ぐ働きをした。結果として、太陽光から電気への変換プロセスがスムーズに整流化された。

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さらなる高みへ向けた余白

新旧の記録を並べると、研究チームがいかに着実に壁を突破してきたかが分かる。

指標 変換効率 セル面積
新記録(HZB・フンボルト大) 25.5% 1.081 cm²
前回の世界記録(東京都市大) 25.17% 未詳
HZBチームの前回記録 24.6% > 1.0 cm²
HZB開発のミニモジュール 19.7% 2.25 cm²

記録された25.5%という数値は、CIGSeとペロブスカイトを組み合わせたタンデム太陽電池の歴史において大きなマイルストーンだが、技術の限界点ではない。研究チームを率いるFarias-Basulto博士は、「現在のセル構造の背後にある物理学によれば、25.5%は単なる足がかりに過ぎない」と語る。実際、彼らの実験室で行われている類似のアーキテクチャのテストでは、すでに27.5%の効率に達しているものもあるという。これは、材料が持つポテンシャルがまだ十分に引き出されていないことを如実に示している。

薄膜太陽電池の強みは、あらゆる曲面に貼り付けられるモジュールを作れることにある。この技術が完成すれば、都市の景観を損なうことなく建物を発電所に変え、移動体の航続距離を延ばすことができる。

しかし、そこに到達するまでに立ちはだかる未解決の問いがある。それは、実験室の1平方センチメートルで実現した完璧な界面制御を、量産スケールの面積へと広げたとき、どこまで欠陥を抑え込めるかという問題だ。今回の研究プロジェクト(SOLMATES)の一環として、面積2.25平方センチメートルのミニモジュールで19.7%の効率が実証された。面積が広がるにつれて効率が低下するのは、薄膜プロセスに不可避な不均一性が影響しているからだ。

薄膜に生じる不均一性のギャップを埋め、27.5%という潜在能力を大面積で引き出すことができるか。次世代のエネルギーインフラを支える技術の検証は、次のフェーズに入ろうとしている。