国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、2024年時点でのレアアース採掘における中国の世界シェアは約60%に達している。さらに分離・精製プロセスにおいては世界生産の約91%を中国が握っており、特定の国家に極度に依存する現状は西側諸国にとって重大なサプライチェーンリスクとなっている。近年、中国は国家安全保障を理由にレアアース抽出・分離技術の輸出を禁止するなど、資源を外交カードとして活用する姿勢を鮮明にしており、米国をはじめとする同盟国にとって代替供給源の確保は喫緊の課題である。
こうした状況下で注目を集めているのが、グリーンランド南部のQaqortoq近くに位置するTanbreezプロジェクトである。この鉱山はカコルトク岩(kakortokite)の巨大な鉱床を含み、推定47億トンのレアアース含有物質が存在するとされている。既存のレアアース鉱山の多くが軽希土類を中心とする中で、Tanbreezはその規模において群を抜いている。
その中で重希土類(HREE)の割合が約27%を占めており、世界でも最大規模の重希土類鉱床として認識されている。グリーンランドは氷河に覆われた過酷な環境であるものの、深いフィヨルドを通じて北大西洋への年間を通じた直接の海上輸送が可能であり、地政学的にもアフリカなど他の資源国と比較して政治的安定性が高い。
Critical Metalsは2026年4月にグリーンランド政府から鉱業権の移転承認を受け、European Lithiumからの買収を通じてこのTanbreezプロジェクトの所有権を92.5%へと引き上げ、最終的には完全子会社化した。これにより、中国の直接的な影響が及ばない安全な地域において、極めて重要な戦略資源のコントロール権を米国主導の資本が掌握したことになる。かつて中国系企業が同プロジェクトへの資本参加を模索した際、デンマークと米国政府が水面下で阻止に動いた経緯もあり、本プロジェクトの戦略的価値は国家レベルで保証されている。
15年の長期オフテイク契約が意味するサプライチェーンの構造変化
2026年5月、Critical Metalsは米国の磁石製造企業であるREalloysと15年間にわたる拘束力のあるオフテイク(長期購入)契約を締結した。これは2025年10月に結ばれた10年間の基本合意書を大幅に拡張したものであり、最初の商業的引き渡しが行われない場合の5年間の猶予期間(ロングストップ・デート)が設定されている。
本契約に基づき、REalloysはTanbreezプロジェクトの第1フェーズにおける月間生産量の15%を引き受ける。取引価格は国際的なレアアース酸化物のベンチマークに連動する市場ベースの仕組みが採用されており、同時にREalloysに対する最低価格保証(フロアプライス・プロテクション)や、テイク・オア・ペイ型の保護条項が含まれている。これにより、REalloysは市場価格の乱高下から保護されると同時に、Critical Metals側も確実な収益基盤を確保する。
こうした15年という異例の長期オフテイク契約は、鉱山開発の資金調達(プロジェクトファイナンス)のリスクを低減するための標準的な手法である。将来の生産量に対して確約された買い手が存在することで、金融機関に対する信用力が高まり、初期投資が膨大になる鉱山インフラの立ち上げを円滑に進めることができる。特にレアアース鉱山は環境アセスメントや精製施設の建設に莫大なコストがかかるため、初期段階での強固な買い手の存在はプロジェクト全体の成否を握る。
国家安全保障に関わる企業が、自社での加工インフラが本格稼働する前に上流の供給源を確保に動くという、クリティカルマテリアル調達における新たなトレンドを如実に反映している。生産開始は2028年後半から2029年初頭が見込まれており、初期目標である年間8万5,000トンのレアアース酸化物生産から、将来的には425,000トン規模への拡張が計画されている。
抽出される重希土類とその産業的価値
Tanbreezプロジェクトから採掘されるレアアースには、ジスプロシウム、テルビウム、イットリウムといった極めて希少価値の高い重希土類が含まれている。これらの物質は、航空宇宙、防衛システム、電気自動車(EV)、ロボット工学、および高度な製造業で使用される高性能永久磁石の製造に不可欠である。ネオジム磁石単体では高温環境下で磁力を喪失する特性があるため、ジスプロシウムやテルビウムを添加することで耐熱性を向上させる必要がある。
とりわけ、米軍のF-35戦闘機や原子力潜水艦、さらには巡航ミサイルの誘導システムには大量の高性能磁石が使用されており、高温環境下での磁力低下を防ぐために添加されるジスプロシウムやテルビウムの安定供給は、次世代産業の競争力を左右する。REalloysは今回の契約において、これら特定の重希土類が高い濃度で含まれる精鉱に対する優先権を獲得し、追加生産分に対する第一拒否権も付与されている。
さらにこの鉱床には、半導体やその他の産業用途で重要なハフニウム、セリウム、ランタン、ニオブ、ジルコニウムも含まれている。複数の重要な鉱物が同一の鉱床から安定的に抽出可能である点は、複数のサプライヤーに依存するリスクを軽減する上で非常に有利に働く。単一の鉱山から多種多様な産業用鉱物を調達できることは、ロジスティクスと調達コストの最適化に直結する。
Tanbreezのもう一つの決定的な強みは、他の主要なレアアース鉱床と比較してウランやトリウムの含有量が極めて低いことである。放射性物質の含有量が少ないことは、採掘および精製プロセスにおける環境への負荷を大幅に低減し、厳格な環境規制を敷く欧米のサプライチェーンに組み込む際の政治的および法的なハードルを下げる要因となっている。放射性廃棄物の処理コストが劇的に圧縮されるため、最終的な精鉱の価格競争力向上にも寄与する。
国防生産法など米国の規制強化を見据えた戦略的調達
西側諸国によるレアアースのサプライチェーン多様化の取り組みには、オーストラリアのMount Weldや米国のMountain Pass、カナダのNechalachoなどが挙げられるが、今回の契約はこれら既存のネットワークの補完・強化に繋がる。REalloysはカナダ、米国、ブラジル、カザフスタン、さらにはサスカチュワン研究会議(SRC)などの同盟国ネットワークにおける供給および加工パートナーシップをすでに構築している。
この包括的な調達ネットワークの背景には、米国の連邦調達に関する規制強化の動きがある。国防生産法(Defense Production Act)や国防権限法(National Defense Authorization Act)の枠組みのもと、米国政府は国内または同盟国で処理された重要鉱物の調達を優先する方針を打ち出している。過去数十年にわたり、米国は安価な中国製レアアースに依存してきたが、近年の地政学的緊張の高まりを受け、議会主導でサプライチェーンのデカップリングが法制化された。
2027年からは、中国製レアアースの使用に対する連邦政府の調達制限が一段と強化される予定である。これに先立ち、米国に拠点を置く防衛特化型の垂直統合プラットフォームであるREalloysが、Tanbreezのような米国同盟国のプロジェクトから確実な供給源を確保したことは、戦略上の決定的な布石となる。中国が輸出ライセンス制度を厳格化し、西側企業への供給を制限し始めている現状において、代替となる確実なパイプラインを持つ企業は防衛産業において圧倒的な優位性を確保できる。
原料調達から中間精製、そして下流の磁石製造に至るまでを単一の統合的な傘の下に収めることで、地政学的なショックに対するサプライチェーンの回復力は劇的に向上する。Critical Metalsにとっても、生産開始前に全生産予定量の約75%をREalloysやUcore Rare Metalsなどへの販売契約でカバーできたことは、同プロジェクトが西側諸国のレアアース・エコシステムの要衝となることを証明している。



