太陽光発電には夜間や曇天で出力がゼロになるという根本的な欠点がある。この間欠性は電力系統の安定化を阻み、バッテリー容量への依存を強いるため、再生可能エネルギー普及最大の障壁として長年認識されてきた。宇宙空間なら昼夜も天候も関係ない。高度3万6,000kmの静止軌道(GEO)では太陽光が1年を通じてほぼ一定のエネルギー密度で照射され続け、静止軌道の太陽エネルギー密度は最大約1,360W/㎡、地表が受け取る200〜300W/㎡と比べると4.5〜6.8倍に相当する。西安電子科技大学(Xidian University)が2026年5月に達成した地上75メートルタワーから100メートル先への1,180ワットマイクロ波送電は、半世紀以上前から構想されてきた宇宙太陽光発電(SBSP: Space-Based Solar Power)が実証フェーズへと足を踏み入れたことを示す節目だ。

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宇宙から地球へ電気を届ける仕組み

静止軌道上に展開した大型太陽電池パネルで太陽光を集め、マイクロ波またはレーザーに変換して地上の受電アンテナ(レクテナ)へ届ける。地球の大気圏外で太陽光を集光することで変換ロスを最小化し、大気透過性の高い周波数帯のマイクロ波として地上へ照射するのがSBSPの設計原理だ。地球では高効率な集光が難しいという制約を宇宙で解消し、変換後のエネルギーだけを地球に送り込む。構想から半世紀が過ぎた今、この発想が初めて実証フェーズへと移行している。

西安電子科技大学の范冠亨(Fan Guanheng)准教授はこの軌道上の優位性を「約6倍」と表現し、化石燃料への依存低減と安定電力供給の両立を可能にすると述べている。マイクロ波送電の長所は大気の透過率の高さだ。雨や雲があっても減衰が少ないため、天候に関わらず安定した電力伝送が期待できる。ただし、マイクロ波を特定方向へ集中させるには精密なビーム制御技術が必要であり、軌道上から地上の数キロメートル規模のレクテナへ正確に照射し続けることが工学上の核心的な課題となっている。レーザー方式は高指向性という利点がある反面、大気による散乱・吸収が大きく、商用規模での採用例はない。

逐日プロジェクトの実証実験が示した到達点

「逐日(Zhuri)プロジェクト」は2022年に「一対一・固定点」の全システム検証を完了しており、今回の実験はその延長として「一対多・動的目標」への移行を果たした。75メートルタワーに設置した4.8メートルドーム型集光鏡から発射されたマイクロ波は、100メートル先の固定アンテナへ1,180ワットを届けた。時速30kmで飛行する移動ドローンへ30メートルの距離から143ワットを安定供給することにも世界で初めて成功しており、単一の送信機が複数の移動目標へ同時送電できる能力を初めて示した点が今回の最大の技術的意義だ。この能力は将来の「軌道上電力ステーションが複数の衛星や地上車両に電力を供給する」という運用構想に直接つながる。

エネルギー変換の総合効率は現在20.8%で、直流電力→マイクロ波→直流電力(DC-DC)の全工程を含んだ数値だ。伝送距離100メートルという条件下での値であるため、数万キロメートル規模の軌道実証とは条件が大きく異なる点は留意が必要で、段宝岩(Duan Baoyan)教授自身が「商業的に実行可能になるまでには長い道のりがある」と述べている。重慶市壁山区(Bishan District)には約33エーカー(核心試験場17.5エーカー)の地上試験施設が稼働中だ。重慶大学・中国空間技術研究院(CAST: China Academy of Space Technology)・西安電子科技大学・壁山区政府の4者協定により設立されたこの施設が、商用化に向けた長期試験の基盤として位置付けられている。

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軌道実現を阻む3つの工学的壁

軌道上での大規模実装で最初に壁になるのは熱管理だ。太陽側と影側で温度が極端に変動する軌道環境では、大出力変換器の廃熱を効率よく放散させる設計が不可欠だが、地上で開発した熱制御技術を真空・微小重力・宇宙放射線の環境下でそのまま適用することはできない。この分野の軌道上データはまだ存在しない。

軌道上組み立ての問題は規模の問題でもある。2GWの発電に必要な構造物は数十トンから100トン超とされており、現行ロケットの1回の打ち上げ能力を大幅に超える。CASのロードマップは長征9号(Long March 9)超大型ロケットによる大型部品輸送を想定しているが、長征9号は開発段階にある。天宮(Tiangong)のロボットアームを活用した組み立て実験が2028年に予定されているのも、この課題の検証を目的としたものだ。

現在の総合効率20.8%は採算ラインにまだ届いていない。伝送距離が地上100メートルから数万キロメートルへ跳ね上がるにつれて各変換ステップの損失がどう変化するかは、今後の軌道実験で初めて測定できる。Qian Sihao(銭思昊)准教授は「将来的には数万キロメートルの距離でのエネルギー伝送が可能になる」と述べているが、その見通しの検証が2028年の軌道実験から始まる。

各国の競争と中国が一線を画す理由

宇宙太陽光発電の構想は1968年にPeter Glaserが最初に提唱した。NASAは2012年にSPS-ALPHA概念を発表したが、高コストと技術難易度を理由に開発を凍結した。ESAはSolaris計画として2030年実証機・2035年パイロット機・2040年商用運転という段階的ロードマップを進めており、2024年に技術実証の入札を開始している。JAXAはOHISAMAプロジェクト(180kg衛星・720W・450km軌道)でFY2026の打ち上げを計画中で、英国は2039年商用化を目標に2000億円規模の軌道太陽光発電プログラムを検討中との報道もある。

ESAのSolarisやJAXAのOHISAMAも技術実証フェーズにある点は同じだが、国家計画として商用規模の目標年次と規模を明記しているのは中国だけだ。CASの公式ロードマップは2028年の低軌道(LEO)衛星実験から2030年の静止軌道100kW以上発電、2035年の10MW地上システム稼働、2050年の2GW商用運転まで段階的に拡張する構成をとっており、天宮チーフデザイナーのYang Hong(楊宏)氏が「中国の2060年カーボンニュートラル目標への貢献」として位置付けている点も、プロジェクトに国家戦略上の重みを与えている。2050年に2GWを実現した場合の発電量は日本の標準的な原子力発電所約2基分に相当し、国家規模の電力インフラとして成立しうる規模だ。

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2050年への4段階ロードマップと技術の双刃性

CASのロードマップは技術的なリスクを段階的に取り除きながら規模を拡大する論理で構成されている。天宮のロボットアームを使った2028年軌道実験が低軌道での基礎データを蓄積し、2030年の静止軌道実験でビーム制御と熱管理の課題を洗い出し、2035年の10MW実証で量産型の設計を固める。2050年の1kmアンテナ・2GW商用運転という最終目標は、この積み上げの先に置かれた数値だ。2028年の天宮実験が最初の試金石になり、その結果によってロードマップ全体の信頼性が問われる。

指向性マイクロ波ビームの高出力化は、エネルギー伝送の用途を超えた応用の議論を呼んでいる。SCMPが2026年4月に報じたところでは、中国国内の一部研究論文が、マイクロ波ビームの指向性と出力密度を活用した通信妨害や電子戦への転用可能性を論じているという。これは中国政府やCASの公式文書で言及された内容ではなく、技術的な可能性を学術的に検討した論文レベルの議論だ。衛星からの高出力マイクロ波ビームが持つデュアルユース(民軍両用)の性格は、技術開発が進むにつれて国際社会の注目を集め続ける問題でもある。

地上100メートルでの1,180ワット伝送が証明したのは、「マイクロ波で電力を届けること自体は可能だ」という事実だ。静止軌道3万6,000kmからの伝送で同じことが言えるかどうか——その問いへの答えが、2028年の軌道実験から始まる。