DeepSeekは2026年7月31日、DeepSeek-V4-Flash-0731を公開し、APIのパブリックベータを始めた。100万トークン当たりの料金は、キャッシュが外れた入力0.14ドル、出力0.28ドルである。前日にOpenAIがGPT-5.6 Lunaを入力0.20ドル、出力1.20ドルへ値下げしたため、DeepSeekの動きは即座の対抗値下げに見えやすい。
だが、DeepSeekは価格を変えていない。V4 Flashの0.14ドル、0.28ドルは以前からの単価であり、0731で更新されたのはモデルの能力とAPI機能だ。構造も総2840億、活性130億パラメータのまま、再事後学習だけを施した。今回の更新では、比較軸が単価から、同じ料金でどれだけ仕事を終えられるかというタスク性能へ広がった。
さらに、DeepSeekは今後、1日のうち計7時間をピーク料金にして全課金項目を2倍にする。発効日はまだ決まっていない。低価格の看板は変わらなくても、利用時刻とキャッシュ命中率によってOpenAIとの順番が逆転する可能性が出てきた。
価格据え置きで、事後学習を重ねた
V4 Flash 0731は、4月24日に公開されたPreviewの構造と規模を引き継ぐ。総パラメータは2840億だが、MoE(Mixture of Experts)方式で各トークンの推論時に動くのは130億である。コンテキストは100万トークン、最大出力は38万4000トークンに達する。
DeepSeekの変更履歴は、0731を「再事後学習した」と説明する。大規模な事前学習をやり直したとも、モデルを大型化したとも発表していない。更新対象もV4 Flash APIに限られ、V4 Pro APIとアプリ、Web版は従来のままだ。既存APIのモデル名をdeepseek-v4-flashにすれば、利用者側の呼び出し方を変えずに最新版へ切り替わる。
機能面では、Responses APIへネイティブ対応し、Codex向けの設定を用意した。推論強度はlow、high、maxの3段階から選べる。モデルの重みもMIT Licenseで公開されており、vLLMやSGLangを使って自前で動かせる。ただし、DeepSeekが示すvLLMの構成例はGB300を4基載せた単一ノードだ。APIが安いことと、自社運用の設備が軽いことは同義ではない。
「Opus級」はベンチマークごとに距離が違う
DeepSeekの公式表では、0731のTerminal Bench 2.1が82.7となり、Previewの61.8から20.9ポイント上がった。DeepSWEも7.3から54.4へ47.1ポイント伸び、V4 Pro Previewの12.8を上回る。同じ構造でも、エージェント用の事後学習と実行環境を詰めれば、ツールを使う仕事の成績を大きく動かせることになる。
もっとも、Claude Opus 4.8と同等と一括りにはできない。DeepSeekが掲載した9項目では、0731はすべてOpus 4.8を下回った。差が小さいAgents' Last Examは25.2対25.7、Terminal Bench 2.1は82.7対85.0である。一方、NL2Repoは54.2対69.7、社内評価のDSBench-Hardは59.6対71.7まで開く。
評価条件にも注意が要る。コードエージェントの公開ベンチでは、まだ公開されていないDeepSeek Harnessのminimal modeを使い、推論強度をmaxに設定した。DSBenchの2項目は社内テストである。モデル単体の能力と、ハーネスを含むシステムの能力を分けて読む必要がある。
独立評価のArtificial Analysisでも、0731のIntelligence Indexは旧Flashの40から50へ上昇した。ただし、GPT-5.6 Lunaの51に1点、Opus 4.8の56に6点届かない。Artificial Analysisは一方で、実際の入力とキャッシュ、推論・回答に使ったトークンから、タスク費用をLunaより約60%低いと算出した。0731が迫ったのはOpus全体ではなく、まずLuna級の総合点と、そこへ到達する費用である。
0.14ドルはピーク料金導入後に0.28ドルへ
現行のDeepSeek V4 Flashは、100万トークン当たりキャッシュ未使用の入力0.14ドル、キャッシュ済み入力0.0028ドル、出力0.28ドルだ。Lunaはそれぞれ0.20ドル、0.02ドル、1.20ドルである。通常料金だけなら、DeepSeekは3項目すべてで安い。
同じ作業量で比べると差が見える。入力10万、出力1万トークンの処理を10回行い、キャッシュが一度も当たらないとする。合計は入力100万、出力10万トークンだ。DeepSeekは0.168ドル、Lunaは0.32ドルとなり、DeepSeekが47.5%下回る。各入力は10万トークンなので、Lunaの27万2000トークン超にかかる長文割増も発生しない。
ところが、DeepSeekは北京時間9時〜12時と14時〜18時に、全課金項目を通常の2倍にする制度を予告している。日本時間では10時〜13時と15時〜19時に当たる。発効後のピーク帯で先ほどの処理を走らせるとDeepSeekは0.336ドルとなり、価格が変わらないと仮定したLunaの0.32ドルを5%上回る。
これは予定料金を使った試算であり、現時点の請求額ではない。発効日も未発表だ。それでも、バッチ処理をどの時間帯へ寄せられるかがモデル選定に入ることは確かである。キャッシュ済み入力ではDeepSeekの通常0.0028ドルが大きく効く一方、長いプロンプトを1回で送ればLuna側には2倍の入力料金と1.5倍の出力料金がかかる。価格表の最小値から月額請求は予測できない。
約2万基の契約が映す低価格APIの上流
低価格モデルの競争を支えているのは、疎なモデル構造と事後学習に加え、大規模な計算設備へのアクセスである。Bloombergは7月31日、Moonshot AIがAlibabaと約2万基のNvidia製チップを使う計算資源契約を結んでいると報じた。匿名の関係者によれば、この設備はKimiモデル群に使う総計算能力の相当部分を占める。
Bloombergが報じたのは利用契約であり、Moonshotがチップを購入・所有したという話ではない。公開された要約は型番も明らかにしておらず、2万基をKimi K3専用にしたとも書いていない。それでも、クラウド側のAlibabaを通じてNvidiaの計算資源へ接続する契約は、中国のオープンウェイト開発を支える供給経路を具体的に示している。
Kimi K3は総2.8兆、活性1040億パラメータで、896のエキスパートから16を選んで動かす。疎な構造によって全パラメータを毎回計算せずに済むが、Moonshot自身は推論にも64基以上のアクセラレータを備えたスーパーノードを推奨している。同社は、この規模の疎性ではルーティングと最適化が主要な課題になり、エキスパート間の負荷の偏りが処理速度を下げると説明する。
DeepSeekの0.14ドルとMoonshotのオープンウェイトは、いずれも大規模な計算資源の上で成り立つ。今回確認できたのは、Moonshotが約2万基を契約で利用し、DeepSeekが混雑時間の料金を2倍にする計画だ。モデル性能と単価を比べる際には、こうした供給条件も請求額や提供能力を変える。DeepSeekのピーク料金がいつ始まり、同じハーネスと品質基準で測ったタスク費用がどう変わるか。次の値下げより、その2点が価格競争の実像をはっきりさせる。
