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ElevenLabs、音声生成AIモバイルアプリを正式リリース。クリエイターの動画制作を革新する「Eleven v3」搭載

Y Kobayashi

2025年6月25日6:36AM

音声生成AIを開発するElevenLabsが、待望の公式モバイルアプリケーションをiOSとAndroid向けに正式リリースした。これまでWebブラウザ経由でのアクセスが主だった同社の高品位なAI音声を、スマートフォン上で直接、かつ直感的に生成できるようになった。最新の音声合成モデル「Eleven v3 (alpha)」を搭載し、特にCapCutやInstagramといった動画編集アプリとの連携を強く意識したこのアプリは、コンテンツクリエイターの制作ワークフローそのものを大きく変える可能性を秘めた物と言えそうだ。

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なぜ今、モバイルアプリなのか?クリエイターの「現場の声」が原動力

ElevenLabs App - Create voiceovers anywhere

ElevenLabsのAI音声は、その驚異的な自然さと表現力で、すでに多くのクリエイターやプロフェッショナルから絶大な支持を得ていた。しかし、その利用シーンには一つの課題が存在した。それは、制作の多くがデスクトップPCに縛られていたことだ。

同社のモバイル成長責任者であるJack McDermott氏がTechCrunchの取材で指摘するように、実は多くのクリエイターが、スマートフォンのWebブラウザからElevenLabsにアクセスし、生成した音声を動画編集アプリに取り込むという、やや手間のかかる作業を行っていた。この「現場の声」こそが、今回のネイティブアプリ開発の最大の推進力となったのである。

「私たちは、デスクでの作業という制約から解放された、クリエイティブなワークフローにAI音声ツールを統合する必要性を感じていました」とMcDermott氏は語る。

このアプリの登場により、アイデアが閃いたその場でテキストを入力し、意図した通りのナレーションを生成、そしてシームレスに動画プロジェクトへ組み込む、という一連の流れがすべてスマートフォン上で完結する。これは、制作のスピードと機動性を劇的に向上させる、まさにクリエイター待望の進化と言えるだろう。

アプリで体験するAI音声の最前線:「Eleven v3」の実力

今回のモバイルアプリが単なるWeb版の移植ではないことを最も象徴しているのが、最新の音声合成モデル「Eleven v3 (alpha)の搭載だ。

Eleven v3は、従来のテキスト読み上げ(Text to Speech)の概念を大きく超える性能を持つ。その特徴は、単に流暢に話すだけでなく、声に込められた「感情」や「ニュアンス」を極めて精緻にコントロールできる点にある。公式ブログによれば、v3モデルは以下のような高度な表現が可能だ。

  • ニュアンス豊かなスピーチ: 微妙な間や抑揚をリアルに再現。
  • 感情表現: 喜び、悲しみ、怒りといった感情をテキストの指示で付与。
  • 複数話者への対応: 一つのテキスト内で複数の話者を自然に切り替え。
  • カスタマイズ可能なデリバリー: 話すペースやトーンを細かく調整。

これはもはや単なる「読み上げ」ではなく、AIに指示を出して望む演技を引き出す「声のパフォーマンス」と呼ぶべき領域に達している。クリエイターは、ナレーションに深みを与えたり、ショート動画で複数のキャラクターを演じ分けたりといった、これまで専門の声優や高度な編集技術が必要だった表現を、指先一つで実現できるようになったのだ。

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動画制作フローを革新するシームレスな連携

ElevenLabsがこのアプリで最も重視しているのが、他のクリエイター向けアプリとの連携だ。公式発表では、特に以下のアプリとの連携が強調されている。

  • CapCut
  • InShot
  • Instagram

これらは、ショート動画やSNSコンテンツ制作において、世界中のクリエイターが日常的に使用しているツールである。

アプリ内で生成した音声クリップは、簡単な操作でエクスポートされ、これらの動画編集アプリに直接「ドロップ」できる。これにより、「音声生成→ファイル書き出し→クラウド経由でスマホに転送→動画編集アプリにインポート」といった煩雑な手順は完全に不要になる。

このシームレスなワークフローは、制作効率を飛躍的に高めるだけでなく、クリエイティビティそのものにも好影響を与えるだろう。音声と映像をほぼリアルタイムに行き来しながら編集できるため、より直感的で一体感のあるコンテンツ制作が可能になる。これは、単に音声を生成する機能だけを提供する他のツールに対する、ElevenLabsの明確な差別化戦略でもある。

機能と料金体系 – Web版ユーザーも安心の統合環境

利便性を追求した設計は、機能やアカウント管理にも貫かれている。

  • 完全なアカウント同期: Web版とモバイルアプリで、アカウント、料金プラン、保有クレジット、作成したカスタムボイス、保存したプロジェクトがすべて同期される。
  • 料金体系: 無料プランでは月間10,000文字(約10分程度の音声に相当)まで生成可能。それ以上利用する場合は、Web版と共通のクレジットを消費する。
  • 直感的なUI: テキストを入力し、豊富なライブラリから声を選択、そして生成ボタンをタップするだけという、極めてシンプルな操作性を実現している。

既存のElevenLabsユーザーは、新たな学習コストなしに、これまでの資産を活かしながらモバイルでの制作環境へスムーズに移行できる。このユーザー体験への配慮は、同社がエコシステム全体の価値向上を重視していることの表れだ。

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AI音声アプリ市場の競争とElevenLabsの次なる一手

モバイルAI音声市場には、すでに「Speechify」や「Captions」といった強力な競合が存在する。Speechifyはテキストの聞き流しに、Captionsは動画の自動字幕生成や吹き替えに強みを持つ。

この競争環境において、ElevenLabsの最大の武器は、他を圧倒する「音声の質」と「表現力」にある。特にEleven v3モデルがもたらすパフォーマンス性の高さは、クリエイティブな表現を追求するユーザー層に強く訴求するだろう。

さらに、同社の戦略は単一のアプリに留まらない。昨年リリースした、記事やPDFを音声で聴く「Reader」アプリや、現在アルファ版として公開されているカスタムAI音声アシスタント構築プラットフォーム「11.ai」など、音声AIを軸とした多角的な製品展開を進めている。

今回のモバイルアプリは、これらの広大なエコシステムへの入り口としての役割も担う。将来的には、スピーチ・トゥ・スピーチ(声の変換)や、11.aiのような対話型AI機能がこのアプリに統合されていくことも十分に考えられる。これは、ElevenLabsが目指す「あらゆるコンテンツを、あらゆる声で、あらゆる言語で、世界中のどこでもアクセス可能にする」という壮大なビジョンに向けた、確実かつ戦略的な布石なのである。

この一手は、AI音声技術が単なるツールから、クリエイティビティを拡張する不可欠なパートナーへと進化する未来を、鮮やかに指し示しているのではないだろうか。


Sources

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