「物語を書いて」と指示するだけで、異なる企業が開発した大規模言語モデル(LLM)が、驚くほど似通った物語を生成する。主人公は「Elias(エライアス)」という名前で、職業は灯台守。舞台は波が打ち寄せる孤島の灯台だ。米コーネル大学のSil Hamilton氏とDavid Mimno教授による研究は、こうしたAIの創作に見られる偏りを、2万編の生成テキストから定量的に明らかにした。2026年5月26日に公開された論文「Elias in the Lighthouse, Again? Diagnosing Low Diversity in LLM Stories」は、10月24〜29日にハンガリーのブダペストで開催される自然言語処理分野の国際会議「EMNLP 2026」で発表される予定だ。

研究チームが4社のLLMに生成させた2万編の物語を分析したところ、特定の11語のうち少なくとも1語が登場する作品は、全体の88.3%に達した。「lighthouse(灯台)」は51.2%、「keeper(番人、管理人)」は48.1%の物語に出現していた。登場人物の名前では「Elias」が26.5%と突出し、次いで「Mara(マラ)」が16.7%、「Elara(エララ)」が13.1%を占めた。これらは論文に示された記述統計であり、信頼区間などは付されていないものの、異なるモデルの生成結果が限られた語彙に集中する傾向を示している。

特に注目されるのが、「lighthouse」「Elias」「keeper」という3語だ。これらの単語は、何らかの組み合わせで全体の66.6%の物語に現れていた。さらに、AnthropicのClaudeが生成した物語の56%には、「The Lighthouse Keeper's Secret(灯台守の秘密)」という同じ題名が付けられていたという。物語の舞台は2万編中1万9,864編、登場人物の名前も1万9,864編、職業は1万5,807編で明示されており、各モデルが似たような場所や人物、職業を繰り返し選ぶ傾向が浮かび上がった。

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  "title": "AIが生成した2万編の物語における主要要素の出現割合",
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  "caption": "コーネル大学による生成物語2万編の分析。最後の56%のみClaudeの生成作品を母数とする",
  "source": "arXiv:2605.26492"
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今回の結果は、単にAIが似た雰囲気の文章を書くという印象論にとどまらない。自由な創作を求めたにもかかわらず、過半数の作品に「灯台」という同じ舞台装置が登場している。膨大な学習データを持ち、異なる企業が開発したモデルが、なぜ共通する少数の設定や名前を選ぶのか。研究チームは人間が書いた小説や公開された学習データとの比較を通じて、その原因を探った。

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2万編の小説を分析して見えた、AIに共通する語彙の偏り

今回の研究は、人間の読者に物語を評価してもらう心理実験ではなく、LLMが生成した文章を統計的に調べるコーパス解析である。小説の芸術的な完成度や面白さを主観的に評価するのではなく、登場人物の名前、職業、舞台設定などに使われる単語の出現頻度を分析している。

研究対象には、Anthropicの「Claude Haiku 4.5」、Googleの「Gemini 3.1 Flash-Lite」、OpenAIの「GPT-5.4-Mini」、非営利研究機関Allen Institute for AI(AI2)のオープンウェイトモデル「OLMo 7B Thinking」を選んだ。いずれも2026年4月時点で利用可能だったモデルで、OpenRouter経由でアクセスしている。研究チームは限られた予算で十分なサンプル数を確保するため、各社の最上位モデルではなく比較的小型のモデルを採用し、データ収集にかかった費用は合計180ドルだった。同じモデルファミリーの大型モデルと小型モデルでは、物語の生成傾向がおおむね似ていると著者らは述べているが、論文では大型モデルを同じ条件で体系的に比較した結果までは示されていない。

使用したプロンプトは、意図的に指示を曖昧にした5種類に限られている。「Write a story」「Please write a story」「Write me a story」「Tell me a story」「Please tell a story」で、いずれも「物語を書いて」という簡単な依頼だ。各モデルに5種類のプロンプトをそれぞれ1,000回入力し、4モデル×5プロンプト×1,000回で合計2万編の物語を生成した。文章量は約1,280万語に達する。論文の脚注では、より複雑なプロンプトでも類似の傾向が見られたと述べているものの、今回の分析で体系的に検証したのは、この5種類の短い指示である。

生成された物語から特徴的な単語を抽出するため、研究チームは「GPT-5.4-nano」を使用した。各作品の舞台設定、登場人物のファーストネーム、職業に該当する表現を特定し、抽出結果を確認したうえで、出現頻度や複数モデルでの共通性に基づいて候補を絞り込んだ。その結果、場所に関する247語、名前71語、職業345語の計663語が残った。さらに、Killickらが2012年に提案した変化点検出手法を使い、出現頻度の分布が大きく変わる境界から、特に頻繁に使われる11語を「コア単語」として選定した。

コア単語には「Elias」「Mara」「Elara」などの人名、「keeper」「clockmaker(時計職人)」「baker(パン職人)」「librarian(司書)」などの職業、そして場所を表す「lighthouse」が含まれる。さらに、この11語と次に頻出する50語を合わせた61語のうち、少なくとも1語が登場する物語は全体の98%に達した。名前、職業、場所の3要素がそろった作品も49.1%を占めている。ただし、これらの数値は研究チームが定めた単語の抽出方法と分類基準に依存しており、物語の多様性をあらゆる側面から測る指標ではない。単語が共通していても、物語の展開や内容まで完全に一致するとは限らない。

人間が書いた小説と比較すると「Elias」の出現頻度は約900倍

AIが特定の名前や舞台を繰り返し選ぶのは、人間が書いた小説にも同じ傾向があるからなのだろうか。研究チームはこの疑問を調べるため、生成された2万編の物語を、人間が執筆した英語小説の大規模コーパスと比較した。

比較に用いたのは、Piperが2022年に構築した「CONLIT」コーパスだ。2007〜2021年に刊行された現代英語小説2,700冊を収録しており、12のジャンルにまたがる約2億8,700万語で構成されている。研究チームは、この人間の文学作品群とAIの生成作品群について、特定の単語が100万語当たり何回登場するかを示す「PPM(Parts Per Million)」を比較した。

結果は顕著だった。AIが生成した物語における「Elias」の出現頻度は2,428 PPMだったのに対し、CONLITではわずか2.7 PPMにとどまった。つまり、AIの生成作品では、人間が書いた現代小説と比べて「Elias」が約900倍の頻度で使われていたことになる。これは単語の出現回数を文章量で正規化した比較であり、「Elias」が登場する作品の割合が900倍という意味ではない。

コーパス・データソース 規模と概要 「Elias」の出現頻度 その他の特徴
本研究のAI生成物語 4モデルによる2万編、約1,280万語 2,428 PPM lighthouseが51.2%、keeperが48.1%の作品に登場
人間の文学作品(CONLIT) 現代英語小説2,700冊、約2億8,700万語 2.7 PPM AI生成作品のような極端な語彙の集中は見られない
OLMo 3の事後学習用物語データ 公開データに含まれる7万8,958編 52.7 PPM コア単語を含む作品は3,053編(3.8%)

研究チームは、商業出版された小説だけでなく、インターネット上のアマチュア作品についても調べている。比較に使ったのは、Huangらが2024年に収集したRedditの創作コミュニティ「r/WritingPrompts」の投稿データだ。このデータでも「Elias」の出現頻度はCONLITと同程度であり、AIが生成した物語のような偏りは確認されなかった。したがって、少なくとも調査した人間の創作作品群では、AIと同じ単語の集中は見られない。

また、AIが生成した作品では「lighthouse」だけでなく、関連する「light(光、明かり)」という単語も頻繁に使われていた。2万編のうち1万6,784編に登場し、1作品当たりの平均出現回数は3.2回に達する。こうした結果からは、特定の固有名詞だけでなく、灯台や光に関連する表現も生成作品全体に広く浸透していることがわかる。ただし、人間の小説との比較は観測された単語頻度の違いを示すものであり、その差が生じた原因まで特定するものではない。

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学習データではわずか3.8%、なぜAIの出力では頻出するのか

では、AIが灯台守のエライアスを繰り返し登場させる原因は、学習データにあるのだろうか。この疑問を検証するうえで障害となるのが、商用LLMの訓練データが公開されていないことだ。GPT-5.4-Mini、Claude Haiku 4.5、Gemini 3.1 Flash-Liteの事前学習データや事後学習に用いた選好データは、外部の研究者が詳細に調査できる状態にはない。そのため研究チームは、学習データを公開しているAI2の「OLMo 3」を分析し、特徴的な単語がどのようなデータに含まれているかを調べた。

特に注目したのは、基礎的な言語能力を獲得する事前学習の後に行われる「事後学習(Post-training)」だ。事後学習では、教師あり微調整(SFT)や直接選好最適化(DPO)、強化学習(RL)などを通じて、モデルが望ましい回答を生成するよう調整される。研究チームはOLMo 3の公開された事後学習データから、物語形式の文章7万8,958編を抽出し、前述の11語が含まれているかを調べた。

その結果、コア単語を1語でも含む物語は3,053編で、全体のわずか3.8%だった。OLMo 3の事前学習では約38億9,000万件の文書が使われており、学習文書全体を約40億件として比較すると、3,053編は約 \(7.71 \times 10^{-7}\) に相当する。もちろん、これは事後学習で使われた物語の件数を、事前学習を含む膨大な文書数と比較したものであり、各データがモデルに与えた影響の大きさをそのまま表しているわけではない。それでも、学習データ中ではごく少数の作品に含まれる単語が、生成時には高頻度で現れるという大きな隔たりが確認された。

事後学習データの出典を詳しく調べると、最も多くの物語が含まれていたのは、コーネル大学の研究者らが2024年に公開した「WildChat」に由来するデータだった。WildChatは、実際のユーザーとChatGPTの約100万件の対話を収録したデータセットで、他の学習データセットの作成にも利用されている。論文本文によると、OLMo 3の事後学習用データにはWildChat由来の物語が5万9,266編含まれていたが、そのうちコア単語が登場するのは1,803編にとどまった。

一方、事後学習の手法ごとに比較すると、コア単語を含む作品の比率には違いがあった。教師あり微調整(SFT)用データでは3.0%だったのに対し、直接選好最適化(DPO)では8.0%、強化学習(RL)では10.9%と相対的に高くなっていた。これは、モデルが好ましい出力を学ぶためのデータに、特定の単語を含む物語が比較的多く存在することを意味する。ただし、データの出現頻度と学習による影響は同じではなく、DPOや強化学習が実際にこの偏りを引き起こしたと結論づけることはできない。

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  "title": "OLMo 3の事後学習用物語データにおけるコア単語の割合",
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  "categories": ["事後学習用の物語全体", "WildChat由来の物語"],
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    { "name": "コア単語を含む割合", "values": [3.8, 3.0] }
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  "caption": "OLMo 3の公開事後学習データ(78,958編)とWildChat由来の物語の比較",
  "source": "arXiv:2605.26492"
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研究チームはさらに、事後学習用の物語がどのような内容で構成されているかを調べるため、潜在的ディリクレ配分法(LDA)を使ったトピック分析も実施した。物語を10種類の話題に分類したところ、主要なトピックには日本のアニメやゲーム、米国のアニメ作品などを題材にした二次創作(ファンフィクション)が多く含まれていた。こうした作品には著作権で保護されたキャラクターが登場するものや、成人向けの描写、不適切なユーモアを含むものもあった。

一方、灯台を題材にした物語は独立した大きなトピックを形成せず、一般的な創作を含む複数のグループに分散していた。つまり、学習データ全体が灯台の物語に偏っていたわけではない。にもかかわらず、モデルが自由に物語を書く際には、灯台や特定の人物名が繰り返し選ばれていた。研究チームは、この現象を説明する仮説として、AIの安全性や応答品質を調整する「アライメント」の影響に注目している。

考えられるのは、著作権で保護されたキャラクターや成人向けコンテンツを避けるよう調整する過程で、無難で問題の少ない物語が相対的に選ばれやすくなった可能性だ。灯台守の物語は、こうした条件に適合する「安全な物語」の一つとして、学習データ中の出現頻度以上に生成時の選択に影響を与えているのかもしれない。ただし、これは研究チームが提示した仮説であり、アライメントが直接の原因であると実証したものではない。

10月19日付の大学広報メディア「Cornell Chronicle」の記事で、Hamilton氏は、2024年に公開されたWildChatがこの現象の発生源の一つである可能性に言及している。時系列を踏まえると、WildChatが初期の出典の一つだったとかなり確信しているという。しかし、同氏を含む研究チームは、なぜモデルが灯台の物語を好むのかについて、まだ確定的な説明はできないとしている。異なるモデルが共通のデータセットやその派生データを利用することで、生成される内容の多様性が失われる「モード崩壊(mode collapse)」が関係している可能性はあるものの、その因果関係は今後の検証課題だ。

AIの創造性を左右する仕組みは、まだ解明されていない

今回の研究で確認されたのは、2026年4月時点で利用可能だった4社の比較的小型なLLMに、非常に短い英語のプロンプトを与えた場合、生成される物語の名前や職業、舞台設定が限られた語彙に集中するという事実だ。異なる企業が開発したモデルで共通の傾向が見られたこと、さらに人間が書いた小説や公開された学習データでは同じ単語がはるかに低い頻度でしか現れないことを、定量的に示した意義は大きい。ただし、これらの結果から、すべてのLLMが同じ物語を書くと一般化することはできない。

また、語彙の偏りを生み出す仕組みも解明されていない。事後学習やアライメントが特定の表現を選ばせやすくしている可能性はあるが、研究では調整工程を段階的に取り除くアブレーション実験や、特定のデータセットを除外してモデルを再学習する実験は実施されていない。DPOや強化学習のデータでコア単語の割合が高かったという観測結果も、それらの手法が偏りを増幅させたことの直接的な証拠にはならない。現段階では、学習データ内の単純な出現頻度だけでは説明できない偏りが、生成結果に生じているという理解にとどまる。

検証範囲にも制約がある。学習データを詳細に調査できたのは、公開モデルのOLMo 3だけであり、GPT、Claude、Geminiの内部で同様の現象がどのように生じたかは確認できていない。また、実験で体系的に検証したプロンプトは英語の短い5種類に限られているため、詳細な世界観や登場人物を指定した場合、あるいは日本語を含む英語以外の言語で創作を依頼した場合にも、同じ程度の偏りが生じるかは不明だ。今後は、こうした条件を変えた比較実験に加え、事後学習データの構成やアライメント手法が生成内容の多様性に与える影響を、因果的に検証する必要がある。

Hamilton氏はCornell Chronicleの取材に対し、言語モデルに物語を書かせると似たような作品が繰り返し生成され、大量に集めてみるとその反復が明確になると説明している。一つひとつの文章は自然で独創的に見えても、大量の生成結果を比較すると、限られた表現や設定が繰り返し使われている可能性がある。これは個々のAI生成作品の文学的な価値を直ちに否定するものではないが、生成AIによる創作の多様性を評価するうえで見逃せない問題だ。

AIが生成した文章がウェブサイトや出版物に広く流通するなか、特定の物語や表現への偏りは、今後のコンテンツの多様性にも関わる。今回の研究は、AIが膨大な学習データから文章を生成していても、その出力が必ずしも多様になるわけではないことを示した。なぜ異なるモデルが似た表現へ収束するのか、その仕組みを明らかにすることが、より多様な創作を可能にするAIの開発につながると考えられる。