Tencentは2026年11月4日、AIモデル「Hy4」の正式版を発表した。プレビュー版から事前学習と追加学習の規模を拡大し、視覚理解とPC操作に初めて対応した。画像や図表の内容を読み取るだけでなく、コマンドラインインターフェース(CLI)やグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)を通じてソフトウェアを操作できるという。例えば、資料の図表を読み取り、その情報を使って別のアプリで作業するといった用途が想定される。
ただし、こうした機能を業務で利用するには、回答の正確さだけでなく、指示された操作を確実に完了できるかが重要になる。Tencentは内部評価での性能改善や悪用リスクを抑える学習方針を示したが、公式資料には評価結果や学習内容について説明の食い違いがある。発表された数値が何を測ったものなのか、PC操作の信頼性をどこまで裏付けるのかは慎重に見極める必要がある。
画像理解からPC操作へ
開発チームの説明によると、Hy4は視覚理解、推論、ツールの利用を組み合わせ、画像処理や複雑な図表の理解、視覚情報を使った数学的推論に対応する。PC操作ではCLIとGUIの双方を扱い、3D制作ソフトのBlenderやCADソフトなど、複数のアプリをまたぐ作業も訓練したという。
図表の内容を説明するだけなら、主に情報を正しく読み取り、回答できるかが問われる。一方、その情報を使ってソフトウェアを操作する場合は、指示に沿って作業を最後まで完了できたかも評価しなければならない。公開デモで示された作業例だけでは、一般的な業務におけるタスクの成功率までは判断できない。
誤回答率は改善したのか、公式資料に残る食い違い
Tencentが11月4日に公開した公式発表と開発チームの説明では、「推測による誤り」が23.1%から5.6%に減少したという数値は一致している。しかし、誤回答率については、公式発表が12.95%から7.2%、開発チームの説明が15.76%から5.45%としており、数字が異なる。評価対象もそれぞれ検索最適化と金融・オフィス業務となっている。
| 公式資料 | 誤回答率(プレビュー版→正式版) | 推測による誤り(プレビュー版→正式版) | 説明された評価範囲 |
|---|---|---|---|
| 公式発表 | 12.95%→7.2% | 23.1%→5.6% | 検索最適化に関する内部評価 |
| 開発チームの説明 | 15.76%→5.45% | 23.1%→5.6% | 金融・オフィス業務に関する内部評価 |
両資料とも性能の改善を報告しているものの、評価対象の選定方法や試験数、指標の定義、集計方法は明らかにしていない。そのため、数値の違いが評価条件によるものなのか、記載上の不整合なのかは判断できない。二つの値を平均したり、一方を正しい数値として採用したりする根拠もない。
開発チームは、時間とともに変化する情報の検索、複数の情報源の統合、事実関係の整合性確認などで性能が向上したと説明している。ここでいう「推測による誤り」は、裏付けのない仮定に基づく誤りを指し、誤回答率とは別の指標だ。いずれもPC操作の失敗率を示すものではなく、検索や回答の精度が向上したからといって、複数のアプリをまたぐ作業の成功率まで改善したとは限らない。
ゲーム開発に関する評価でも、Tencentはプレビュー版と比較して「GameDev」が19.1%、「GameLogic」が9.8%改善したと報告している。ただし、SiliconANGLEが指摘するように、改善率の算出に使われた基準スコアは公表されていない。これらはTencentが報告した改善率であり、外部機関による独立した実測結果ではない。
攻撃能力を抑える学習方針と安全性評価
PCを操作できるAIモデルには、サイバー攻撃への悪用というリスクも伴う。Tencentは防御用途を重視した学習方針を示しているが、何を学習データに含めたかについて、公式資料の説明が一致していない。
開発チームの説明では、サイバー分野の学習を、脆弱性の存在を検証する概念実証(PoC)の生成や脆弱性の修正といった防御目的のデータに限定したとしている。攻撃コードの開発だけでなく、ソフトウェアの仕組みを調べる逆解析や侵入テストも除外したという。一方、公式発表では、解析目的の逆解析や侵入テストを学習に取り入れ、攻撃に悪用できる素材は除外したと説明している。どのような基準で学習データを分類したのか、両者の説明がどう整合するのかは明らかではない。
安全性については、Tencent傘下のXuanwu LabとKeen Security Labが、暗号解析や逆解析、脆弱性の悪用に関する課題を調査し、リスクの増大は確認されなかったとしている。ただし、これはTencent側が実施した評価であり、独立した検証や安全性の保証を意味するものではない。
生物分野では、開発チームが「Hy-BioExperimentBench」で30.4/100という結果を報告し、自社が定めた高リスクの閾値を下回ったと説明している。ただし、閾値の具体的な数値は公表されていない。内部の専門家は、知識を実行可能な実験手順へ落とし込む能力には限界があると評価した。防御用途を学習させること、攻撃への悪用リスクを評価すること、通常の業務で正確にソフトウェアを操作できることはそれぞれ別の問題であり、これらの安全性評価からPC操作の成功率を判断することはできない。
モデル重みとシステムカードの公開が今後の焦点
Hy4はTencent CloudのTokenHubやOpenRouterを通じて利用できるほか、WorkBuddy、CodeBuddy、Yuanbao、imaでも提供されるという。Tencentの発表によると、API価格はプレビュー版から据え置かれ、WorkBuddyとCodeBuddyは11月4〜15日に無料で利用できる。TokenHubでは2026年12月31日まで標準料金の50%で提供する予定だ。また、軽量版の「Hy4 Flash」も近日中に提供するとしている。
一方、正式版のモデル重みと、安全性評価などをまとめたシステムカードは、11月4日の発表時点では公開予定の段階にとどまっていた。公式発表では今後数日以内に公開するとしており、開発チームはvLLMやSGLangとの協力にも言及している。APIを通じてモデルを利用できることと、モデル重みや評価条件を外部から検証できることは別であり、正式版のライセンス条件も発表時点の資料からは確定できない。
開発チームは、研究水準の数学問題や長時間にわたるコーディング作業では、最上位の非公開モデルとの性能差が依然として大きいことも認めている。モデル自身を改善する能力や、高度な画像質問応答についても同様だ。今回の機能追加は、複雑な業務を人間の介入なしに完了できることを保証するものではない。
Hy4の実用性を判断するには、誤回答率の評価条件や指標の定義に加え、PC操作で何をもってタスク成功とするのかを明確にした検証が欠かせない。サイバー分野の学習内容に関する説明の食い違いが解消され、モデル重みやシステムカードの公開によって外部から評価を再現できるようになるかが、今後の重要な確認点となる。



