欧州委員会は2026年7月16日、Google Searchのデータ共有とGoogle AndroidのAI相互運用について、デジタル市場法(DMA)に基づく二つの拘束力ある決定を採択した。Googleは適格な検索事業者へ匿名化データを提供し、AndroidではGeminiが使う11のOS機能を競合AIにも同等に開かなければならない。EUが狙うのは、GoogleのAI事業を支える二つの優位である。検索を改善し続ける大規模な利用データと、スマートフォン上でAIを呼び出し、文脈を読み、アプリを動かす経路だ。
4月に公表された案は意見募集の段階だった。今回の最終決定で、検索データは2027年1月、Androidの大半の機能は次期メジャー版のAndroid 18かつ遅くとも2027年8月1日までという工程が確定した。ただし、Googleの検索アルゴリズムや生の検索履歴が公開されるわけではない。共有データをどう加工し、誰にどの条件と料金で渡すかを細かく定めた制度であり、競争促進とプライバシー保護の両立が実装段階で試される。
検索データは何が渡り、何が渡らないのか
DMA第6条11項が対象にするのは、Google Searchで生じるランキングとクエリに加え、クリックや閲覧のデータである。共有先はオンライン検索エンジンで、検索機能を持つAIチャットボットも申請できる。受領者はクエリの意図理解と入力補完、検索順位や情報取得を改善するために使える。インデックスへ優先して収録するウェブサイトの選定にも役立つ。検索付きAIにとっては、最新のウェブ情報を拾い、回答の根拠を補う検索取得系を鍛える材料になる。
欧州委員会が仕様を細かく定めたのは、Googleの従来案が実際には使われていなかったためだ。同委員会によると、従来のデータセットはユニークな検索クエリの90〜100%を除外し、検索機能を持つAIチャットボットも対象外にしていた。Google Searchは欧州で数十年にわたり90%超のシェアを持つとされ、その利用規模から得る改善用データを競合は再現しにくい。今回の決定は、Google自身が検索サービスの改善に収集・利用するデータを基準に、第三者向けの範囲を決めた。
もっとも、受領者が得るのは加工済みの一部データである。ユーザーアカウント情報と検索履歴、正確な検索時刻、広告結果のURLは含まれず、長すぎるクエリや希少な語を含む記録も除かれる。検索アルゴリズムやGoogleの技術を渡す義務もない。受領者は汎用AIモデルの学習、広告や消費者プロファイリング、Google検索結果の体系的な複製に利用できず、検索技術と検索サービスの改善に用途を限られる。
提供は日次バッチで、検索が行われてから少なくとも7日後になる。各受領者が使える期間はアクセス開始から最長5年だ。Googleは共有のために増えた費用と、その提供に必要な資本への合理的な収益を料金に反映できるが、収益率はAlphabetの加重平均資本コスト(WACC)が上限となる。つまり、EUはデータを無償の公共財にはせず、Googleが競合を締め出すほど高い価格を付けにくい算式を置いた。
11のAndroid機能がGeminiとの差を縮める
Android側の決定は、AIアプリをインストールできるという従来の「開放性」より深い。欧州委員会は、欧州のモバイル利用者のおよそ60%がAndroid端末を使う一方、音声での常時呼び出し、画面やアプリの文脈理解、他アプリでの操作といった機能をGeminiがほぼ専有していると判断した。第三者AIが同じ仕事をしようとしても、通常のアプリ権限ではOSに組み込まれたGeminiと同じ応答性や連携範囲を得にくかった。
開放対象の11機能は、四つの群に分かれる。第1はホームボタンやナビゲーションハンドルの長押しと、独自の呼びかけ語による常時音声待受だ。第2は端末内に保存されたアプリデータへの集中アクセス、画面・位置・マイク・カメラなどの文脈取得、先回りした提案である。第3はアプリ操作、別画面での自動操作、明るさやBluetoothなどOS設定の変更。第4はGemini Nanoを含む端末内モデル、第三者が持ち込む端末内モデル、CPUやNPUを使うバックグラウンド実行だ。
アプリ連携の範囲も広い。最終措置はGmailやCalendar、DriveとDocsへの情報取得・操作を第三者AIにも提供するよう求める。MapsとYouTube、MessagesとPhoneも対象で、合わせて8サービスになる。たとえばメールを探して返信を作成し、予定を登録する処理や、買い物リストを読み取って別のアプリで注文を進める処理が対象になり得る。画面自動化は、ユーザーが別の作業をしている間、仮想ウィンドウで複数手順を進める設計まで想定する。
Googleはこれらの相互運用機能を無料で提供し、既定のAIアシスタントに設定することを利用条件にできない。Google以外のメーカーが販売するAndroid端末にも同じAPIを行き渡らせ、新機能をGeminiへ追加するときは第三者にも同時に開く必要がある。大半はAndroid 18で2027年8月1日までに実装する。複数のAIサービスが常時音声待受を同時利用する機能だけはAndroid 19で、期限は2028年8月1日だ。
匿名化と参入資格という二つの関門
検索データ共有には、強い匿名化処理が入る。Googleはユーザー名やIPアドレスなどの直接識別子を削り、正確な時刻や入力形式も外す。氏名や住所に加え、パスワードや銀行口座番号を含み得る希少語は記録ごと抑制する。異常に長いクエリも同様だ。さらに位置、端末種別、言語が同じ利用者を最低1,000人の群にまとめ、欧州委員会は利用者の95%が29,000人以上の群に入ると説明している。
技術処理の後にも制約が続く。受領者はデータを隔離環境に置き、他のデータセットとの結合、第三者への再提供、再識別、匿名化措置の解析を禁じられる。アクセス前に独立監査を受け、共有開始後6カ月以内に初回の遵守監査、その後も年1回の監査が必要だ。匿名化手法と制度は2年ごとに見直され、新しい攻撃手法や市場の変化が出れば、欧州委員会は手続きを再開できる。
申請資格は小規模な開発チームにとって高い壁になる。過去1年にEUで月間平均50,000人以上の検索利用者が必要で、既存事業者はEUで2年以上の提供実績を求められる。設立2年未満の新規参入者は、5,000万ユーロを超える資本投資を受けていなければならない。加えて、EUの制裁対象や、深刻で構造的なサイバーセキュリティー・データ保護リスクを持つ第三国に支配される企業をGoogleは除外できる。
Androidでも、ユーザーの明示的な同意がすべての機能の前提となる。画面自動化、構造化されたアプリ連携、OS連携、端末内アプリデータへの集中アクセス、文脈認識の5領域では、Googleが客観的で非差別的な認証条件を設けられる。条件案は2027年2月1日、最終条件は5月1日までに公開し、個別審査は申請受領後4週間以内に終える。OS機能へのアクセスは無料でも、安全性を証明する開発力と監査対応は必要になる。
2026年8月から始まる長い実装工程
Googleは決定当日、プライバシーと端末セキュリティーを損なう恐れがあると公式に反論した。同社は、端末メーカーがAIアシスタントを審査する現在の仕組みを強調し、外部アプリへ強い権限を与えれば安全策が弱まると主張する。検索データについても、利用者が知らない企業へ私的な検索が渡り、企業秘密や国家安全保障を危険にさらすと訴えた。欧州委員会が将来の証拠に応じて措置を調整する仕組みを認めた点を使い、見直しを働きかける方針である。
EU側は、無条件の開放を命じたわけではないと説明する。検索では匿名化、利用目的の限定、独立監査、Googleによる安全性審査を組み合わせる。Androidではユーザー同意を基本とし、機密性の高い5機能に資格制度を認めた。Googleが提示する端末安全上の懸念は、アクセスを一律に拒む理由にはできないが、必要かつ比例的で、Google自身にも等しく適用する対策なら実装できる。
最初の工程は間もなく始まる。Googleは2026年8月末までに検索データの申請書式と案内ページ、9月までにライセンス雛形と試験用データ、11月までに匿名化データセット、2027年1月までに料金を整える。その後、Androidの資格制度が2月から5月に具体化し、8月までにAndroid 18へ11機能の大半を載せる。2028年8月には、複数AIの音声待受を同時に動かす最後の工程が続く。
今回の仕様決定は、GoogleのDMA違反を認定して罰金を科す手続きではない。既に法律にある義務について、実装可能なAPIとデータ形式を示し、資格や料金、期限まで具体化する決定である。競合が改善に使える品質を匿名化後も保てるか、料金が参入を阻まないか、Androidの認証がGoogle製サービスと同じ基準で運用されるか。この三点が確認できて初めて、EUの二つの決定は検索とモバイルAIの選択肢を増やす。