GameStopという社名を、2021年のミーム株騒動以来ひさびさに耳にしたという方は少なくないはずだ。この米国最大手のゲーム小売チェーンは日本に実店舗を持たないが、2026年7月16日に公開されたBloombergのインタビューで、会長兼CEOのRyan Cohen氏はゲームソフトの物理販売縮小について「完全に、完全に無関係だ」と言い切った。ソフトウェアはもはや事業の1割強に過ぎず、コレクティブル関連が過半を占めるとも語っている。だが同社が米証券取引委員会(SEC)へ提出した四半期報告書を読むと、Cohen氏の発言そのものが実態を誇張していたことが分かる。

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GameStopとは何か、ミーム株の主役がたどった転換点

GameStopは1984年にBabbage'sとしてダラスで創業した。1999年に書籍大手Barnes & Nobleに買収され、翌2000年にビデオゲーム小売りFuncoLandの運営会社Funcoと統合される形で、現在の社名「GameStop, Inc.」に変更された米国最大手のゲーム小売チェーンだ。日本には実店舗を持たず、国内のパッケージゲーム販売はヨドバシカメラなど既存の家電量販店やゲーム専門店が担っている。店舗網は縮小が続いており、米国内の店舗数は2024年2月の2,915店から2026年1月には1,598店へと2年で減った。世界全体でも2,206店に過ぎず、実店舗中心のビジネスモデルからの転換を迫られてきた企業だ。

GameStopの名前が世界的に知られるようになったのは、2021年1月28日にGameStop株(ティッカーシンボル:GME)が取引時間中に瞬間483ドルまで急騰した、いわゆるミーム株騒動がきっかけだった。当時の空売り比率は約140%に達しており、個人投資家の買いが機関投資家の空売りポジションを圧迫する「ショートスクイーズ」の象徴的な事例として語られている。Cohen氏はペット用品通販Chewyの共同創業者で、2020年8月にGameStop株の9%を取得し、2021年1月に取締役に就任した人物だ。ミーム株騒動の熱狂が去った後も取締役会に残り、現在は会長兼CEOとして経営の舵を握っている。

Cohen氏が2020年にGameStop株の9%を取得した経緯は、経営不振企業に出資して改革を迫るアクティビスト投資家の動きに近い。取締役就任からミーム株騒動を経て会長兼CEOに就いた現在まで、店舗数は2年で1,598店まで減り続けている。ミーム株騒動で得た知名度と、そこから積み上がった手元資金力は、通常のアクティビスト投資家が持たない武器であり、それが今回のeBay買収提案のような大胆な動きにもつながっている。

店舗数の減少は、ゲームソフトの主要な購入手段がディスクからダウンロード配信へと移ったことと表裏一体だ。据え置き機・携帯機を問わず新作タイトルの多くがオンラインストアで即日購入できるようになり、店舗で新品ソフトを求める客足自体が細っている。GameStopの実店舗網は中古ソフトの下取り・再販という強みを持っていたが、その強みが生きる市場そのものが縮小してきたことが、店舗閉鎖ペースの背景にある。

8億3530万ドルの内訳、伸びたのはコレクティブルだけだった

2026年5月2日に締めた2026会計年度第1四半期、GameStopの総売上高は8億3530万ドル(約1353億円、2026年7月18日時点の1ドル=162円で換算)で、前年同期比14.0%増となった。内訳を見ると、コレクティブルが3億4890万ドル(構成比41.8%)で前年同期の2億1150万ドル(28.9%)から65.0%増え、単一カテゴリーとして最大になった。一方でハードウェア&アクセサリーは3億3370万ドル(39.9%)と前年比3.4%減、ソフトウェアは1億5270万ドル(18.3%)と前年比13.0%減で、いずれも縮小が続いている。増収14.0%を牽引したのはコレクティブルの成長であり、他の2カテゴリーはむしろ後退した。

営業利益は1億4330万ドルで第1四半期として過去最高を記録した。粗利率の高いコレクティブル(アパレルや玩具、トレーディングカード、雑貨、カード鑑定サービスなどを含む幅広いカテゴリー)の構成比上昇が、押し上げ要因の一つとみられる。純利益は3億8960万ドルで四半期として史上最高となり、営業利益との差は2億4630万ドルに達した。10-Qによれば、この差の主因はデリバティブ資産の未実現利益2億6840万ドルと純受取利息8370万ドルで、税引前利益を5億640万ドルまで押し上げている。コレクティブルへの売上構成の移行は営業利益段階の押し上げ要因であり、純利益との差を生んだのは主に金融資産の評価益であって、事業そのものの利益率とは切り分けて読む必要がある。

小売企業の決算は通常、仕入れ構造や粗利率が異なる複数の商品カテゴリーに分けて開示される。GameStopの場合はハードウェア&アクセサリー、ソフトウェア、コレクティブルという3区分が基本単位で(正式な地域別報告セグメントとは別の分類)、四半期ごとの構成比の変化を追うことで、どの事業が実際に会社を支えているかが見えてくる。今回の四半期で最も目を引くのは、成長率の差が誤差の範囲を超える水準まで開いた点だ。コレクティブルの65.0%増という伸び率は、ハードウェアの3.4%減、ソフトウェアの13.0%減という他の2区分の落ち込みと比べると、事業の重心が明確に一方向へ動いていることを示す数字になっている。

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「カードがゲームを抜いた」を数字で検証する

Cohen氏はBloombergのインタビューで「ソフトウェアは事業全体の12%未満に過ぎず、コレクティブルはすでに事業の半分以上を占めている」と述べた(原文:"Software today makes up less than 12% of the business, and collectibles make up over half the business.")。だが同社がSECに開示した数値では、ソフトウェアの構成比は18.3%でCohen氏の発言の1.5倍近くに達し、コレクティブルは41.8%で「半分以上」には8.2ポイント届いていない。発言と開示のどちらの方向にもずれがあり、しかもその向きは同じだ。事業の実態を、Cohen氏は開示数値以上に劇的な転換として語っていたことになる。

コレクティブルはトレーディングカードのほか、アパレルや玩具、雑貨、カード鑑定サービスまで束ねた区分だ。一方でハードウェア&アクセサリーとソフトウェアを合算すると3億3370万ドルと1億5270万ドルで4億8640万ドルとなり、総売上高に占める比率は58.2%に達する。単一カテゴリーとして最大のコレクティブル(41.8%)と比べても16.4ポイント高い。ハードウェア&アクセサリーにはモバイル関連品や周辺機器も含まれるため単純に「ゲーム販売」とは言い切れないが、この2区分を合わせればなお総売上高の過半を占めている。見出しが語る「カードがゲームを抜いた」は、正確には「コレクティブルが単一カテゴリーとして最大になった」という意味であり、ポケモンカード単独の売上比率はコレクティブル3億4890万ドルの内訳としてGameStopから開示されていない。

カード鑑定サービスは、真贋や状態を第三者機関が査定し等級を付ける仕組みで、高額カードほど鑑定済みのプレミアムが付きやすい。GameStopはこのサービスをコレクティブル区分に含めており、トレーディングカードを鑑定・保証込みの資産として扱い始めていることを示す。

Cohen氏の発言と開示数値の差は、誇張というより経営者的な強調の産物だろう。10-Qや決算発表資料はSECへの法定開示文書として数値の正確性に責任が伴うのに対し、インタビューは将来の方向性を印象づける場だからだ。ただし読者が受け取る「カードがゲームを抜いた」という単純化された物語は、この強調によって後押しされている。

GameStop株は今も個人投資家コミュニティで頻繁に語られる銘柄であり、「カードがゲームを抜いた」という単純な物語は拡散しやすい。eBay買収提案が拒否された直後というタイミングも重なって、Cohen氏の発言は会社の再建ストーリーを強調する効果を持つ。開示数値に基づけば転換は現実に進んでいるが、Cohen氏が語るほど一方向に振り切れてはいない。数字と発言のどちらを起点に読むかで、この決算に対する評価は変わってくる。

eBay買収提案と暗号資産方針、カード経済への全面シフト

2026年5月、GameStopはeBayに対し1株125ドル、対価の50%を現金・50%を自社株とする総額560億ドル(約9兆720億円、162円換算)の買収を提案した。現金部分はGameStopの手元流動資産と、TD Securitiesが提供する最大200億ドルの買収融資枠でまかなう計画だった。だがeBayの取締役会は5月12日、提案を「信頼性も魅力もない」として拒否した。

トレーディングカードやコレクティブル分野に強みを持つeBayを取り込み、より大きなマーケットプレイスを築こうとした構想だったとみられるが、正式な買収としては実現しなかった。もっとも、GameStopはその後もeBay株の買い増しを続け、2026年7月18日のSEC開示では保有比率が9.8%に達したことが明らかになっている。GameStopはコレクティブル売上の拡大と並行して、事業転換を複数の方向で同時に進めていることが分かる。

560億ドルという買収提案額は、GameStopの流動資産84億ドル(現金及び市場性有価証券)の6倍を超える規模だ。自社の手元資金に加えて外部融資枠まで用意して臨んだ点に、小売業の枠内に留まるつもりがない姿勢が表れている。

買収提案の直後となる2026年6月2日には、取締役会が20億ドル規模の自社株買い枠を承認した。同社が自由に使える現金及び市場性有価証券は2026年5月2日時点で83億6810万ドルにのぼる(その後7月にeBay株のデリバティブ現物決済も行っており、直近の残高はこれと異なる可能性がある)。これとは別にデリバティブ取引の担保として9億8330万ドルが拘束されており、GameStopが開示する現金等の合計残高にはこうした拘束分も含まれるため、単純に合算した数字をそのまま使える手元資金とみなすことはできない。投資方針としてビットコインなど暗号資産への投資も許容しており、2025年に発行した転換社債では調達資金の使途にビットコイン取得が明記されている。

ゲーム小売業としては異例の規模の現金を抱え、その使い道を自社株買いと投資の両面で模索している状態だ。ミーム株騒動以降、暗号資産投資、コレクティブルへの重心移動、eBay買収構想へと軸足を移してきた一連の「本業外収益源」探しの延長線上に、今回の自社株買いも位置づけられる。eBay買収という成長投資が退けられた直後に自社株買いへ舵を切った格好であり、余剰資金を溜め込むより株主還元に回すという方針転換のシグナルとも読める。

パッケージ販売からの脱却は、GameStop一社に限った動きではない。ソニーは2026年7月1日、2028年1月からPlayStation向け新作タイトルの物理ディスク生産を終了すると発表した。デジタル配信への移行は業界全体で進んでおり、GameStopのソフトウェア売上が前年比13.0%減となった背景にもこの構造変化がある。誇張を含むとしても、Cohen氏の見立ては業界全体の方向性とは一致している。

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誰が得をし、何が語られていないのか

この転換で得をするのは、まずGameStop自身だ。GameStopの開示は、コレクティブル全体が相対的に高い粗利率のカテゴリーであることを示しており、その構成比が上がるほど利益率が改善する構図になっている(トレーディングカード単独の仕入原価・粗利率は非開示)。カード転売業者や鑑定サービス利用者も、GameStopが実店舗網を使った販売チャネルとして機能する限り恩恵を受ける側だ。一方で割を食うのは、パッケージソフト中心に商売をしてきた中小のゲーム小売店と、物理ディスクでのコレクションにこだわるコアなゲーマー層である。店舗数が2年で1,598店まで減った事実は、後者にとって選択肢そのものが減っていることを意味する。

開示資料が語らないことも2つある。ひとつはコレクティブル3億4890万ドルの内訳だ。ポケモンカードが具体的にいくら占めるか、GameStopは数字を明かしていない。店頭での「最も人気の高い単一商品」というCohen氏の発言に、裏付けとなる金額は付いていない。

もうひとつはトレーディングカード需要の性質だ。構造的な需要か一時的なブームかという論点をCohen氏は語らなかった。トレーディングカード市場は転売目的の投機的需要が価格を押し上げやすいと指摘されており、そうした局面で伸びている今回の数字が、相場が落ち着いた後も同じペースを保てるとは限らない。

コレクティブル分野の成長がGameStopの決算をけん引する構図は、裏を返せばカード相場の変動が今後の業績を直接左右するようになったことを意味する。ゲーム機やソフトの需要が新作タイトルの有無で緩やかに増減するのに対し、トレーディングカードの相場は転売市場の需要次第で急変しうる。GameStopの増益は、こうしたボラティリティの高い市場に賭けた結果でもある。

日本の読者が見るべきは、店舗のない国のカード経済だ

GameStopの増収を最も支えているのはコレクティブルというカテゴリーであり、その店頭人気の中心にあるのが日本生まれのトレーディングカードだ。任天堂・ゲームフリーク・クリーチャーズが生み出し、株式会社ポケモン(1998年設立、2000年に現社名へ改称)が国際展開を担うポケットモンスターのキャラクターIPの二次流通市場が、太平洋の向こうにある小売企業の決算を左右し始めている。店頭で「最も人気の高い単一商品」とCohen氏が語ったと報じられている事実はこの結び付きの強さを裏付けるが、コレクティブル全体に占める金額の内訳はGameStopから開示されていない。ポケモンカードの国際相場が上がれば日本国内のコレクター市場にも波及しうる可能性が高く、GameStopの決算は遠い国の出来事に見えても、価格形成という点では地続きの市場を見ていることになる。

この転換が一時的なブームで終わるのか、構造的な収益源として定着するのかは、次の四半期以降にコレクティブルの成長率が65.0%からどこまで減速するかで見えてくる。ハードウェア&アクセサリーとソフトウェアの合算が総売上高の過半を占め続ける限り、GameStopは依然としてゲーム小売企業であり続けることになる。この均衡がどちらに傾くかは、Cohen氏の発言よりも次に開示される決算数値が先に語るはずだ。