Z.aiは2026年8月14日、コーディングと長期エージェント作業を強化した大規模言語モデル「GLM-5.3」を発表した。GLM-5.2から基盤モデルを作り直したわけではない。約1カ月、実務に近いタスク環境の種類と数を増やし、ポストトレーニングへ投じる計算量を拡大したことが更新のすべてだという。その結果、ソフトウェア開発の指標が上がる一方、脆弱性を見つけて攻撃手順を組み立てる能力も予想以上に伸びた。Z.aiはCoding Planで提供を始めたが、APIは準備中で、モデル重みは安全評価と強化策を終えるまで2週間公開しない。
同じ基盤モデルを、実務に近い環境で鍛え直す
GLM-5.3が引き継いだのは、GLM-5.2で整えた長文処理と強化学習(RL)の仕組みである。GLM-5.2は最大100万トークンのコンテキストを備え、長い作業履歴を圧縮しながら学ぶSingle-Rollout Asynchronous Optimization(SAO)と、学習・推論・検証をつなぐオープンソース基盤slimeを採用した。GLM-5.3ではこの基盤を組み替えず、学習に使う環境を広げた。
従来の短いプログラミング問題に代わり、数日分の専門作業を一つの課題として与える。機械学習基盤の例では、モデルが計算クラスタやストレージを使い、社内文書とコードベース、実験結果を参照してボトルネックを診断する。そのうえで修正を実装し、実験を回し、正しさを保ったまま処理を速めなければ報酬を得られない。利用者が細かな手順へ分解する前提から、モデル自身が長い作業を完遂する訓練へ重心を移したわけだ。
課題環境そのものも自動生成する。研究エージェントが実務のパターンを実行可能な環境へ変換し、別の判定エージェントが解けるかを試す。正解を見ずに作った検証器には、正解例を通すか、何もしない解答を拒むか、未完了状態を誤認しないかという検査を課す。ただし人手は消えていない。Z.aiも環境生成と検証にはなお相当量の人間の作業が必要だと認めている。
4.6から28.3へ、ただし順位より条件を見る
公開ベンチでは、Terminal-Bench 3.0がGLM-5.2の4.6から28.3へ、DeepSWE v1.1が46.2から66.9へ上がった。105件のコマンドライン作業を扱うAgents' Last Examも23.8から28.5へ伸びた。ただしZ.aiが社内のZ.ai Code Benchで説明する「50%向上」は、テストセットを公開していないため第三者が同じ条件を再現できない。公開ベンチの大幅な伸びと、非公開評価の主張は分けて読む必要がある。
社内ベンチの内訳には、性能と出力コストの変化も出ている。最大の思考強度では、GLM-5.3が約75,000出力トークンで34.5%に達し、GLM-5.2は96,000トークンで23.4%だった。高設定では約50,000トークンで31.4%となり、Claude Opus 4.8の120,000トークン、29.5%を上回ったという。一方、Claude Fable 5は最大設定で39.5%に達しており、Z.aiの表でも閉鎖モデルの先頭を越えたわけではない。
Terminal-Bench 3.0の28.3は、Claude Code 2.1.207を実行基盤にし、40万トークンのコンテキストと最大12万8,000トークンの出力を許した3回の平均である。各試行は最大600ターン、10時間に及ぶ。長く自律的に働く能力を測るには適した条件だが、短い対話の速度や、同じ入力に対する安定性をそのまま表す数字ではない。
攻撃工程を進むほど、伸びと残る差が大きい
Z.aiはポストトレーニングへ脆弱性発見のデータと環境を加えた。狙いはコードから欠陥を見つける能力の強化だったが、訓練を増やすにつれて、複数段階の攻撃をつなぐ計画まで形成し始めたという。白箱のソースコードから脆弱性を見つけ、障害を起こして検証するCyberGymでは、GLM-5.2の77.2%から84.5%へ上昇した。比較表のFable 5は83.8%、GPT-5.6 Solは83.6%である。
より深い攻撃推論を扱うExploitBenchでは24.4%から54.4%へ倍増した。それでもFable 5は78.0%、GPT-5.6 Solは76.5%で、差はまだ大きい。ExploitGymでも2時間相当で29件から105件、6時間相当で39件から130件へ増えたが、Fable 5は181件と247件、GPT-5.6 Solは216件と293件を完了した。攻撃工程を扱う二つの指標で大幅な伸びが出た一方、閉鎖モデルとの差は残る。
数字の測り方にも注意が要る。CyberGymの84.5%は1,507タスクを時間無制限で1回ずつ実行したPass@1である。ExploitBenchは41タスクを3回修正し、各回で達成した能力の和集合からカバレッジを算出する。ExploitGymの時間枠は、各モデルの処理速度を使ってAPI推論時間を換算した値だ。三つの指標は、同じ成功率を別名で表したものではない。
2,436件の台帳と、2週間の公開猶予
実コードへの移行はすでに始まっている。Z.aiはGLM-5.2以降のモデルを複数の中国のセキュリティチームと運用し、専門家のレビュー、選別、重複排除を経て、269のオープンソースプロジェクトから2,436件の脆弱性を台帳へ収録したと説明する。8月15日時点で外部に公開済みなのは53件、未公開は2,383件である。深刻度はCriticalが107件、Highが990件、Mediumが1,286件、Lowが53件だ。最古の欠陥は1981年までさかのぼり、発見までの平均期間は26.6年とされる。
公開済み53件にはCVE番号や対象プロジェクトを追えるものがある。一方、2,383件は開示手続き中で、外部から内容を検証できない。2,436件もGLM-5.3単独の成果ではなく、GLM-5.2以降のモデル群による集計だ。ここを切り分けなければ、発表直後のモデルが数千件を新たに発見したように誤解してしまう。
利用条件にも境界がある。GLM-5.3は100万トークンのコンテキストと最大12万8,000トークンの出力に対応し、思考強度をlow、high、maxから選べる。ただし思考機能は無効化できない。既存アプリがthinking.type: "disabled"を送っている場合、enabledへ切り替えてreasoning_effortをlowに設定してからモデルIDを更新しないとリクエストは失敗する。
現時点で使えるのはGLM Coding Planで、一般APIはまだ「coming soon」とされ、価格表にもGLM-5.3は載っていない。モデル重みの公開予定は発表から2週間後であり、その前に安全評価とhardeningを終えるという。8月末ごろ、重みに加えて評価結果や安全対策がどこまで開示されるかが、外部から検証できる範囲を測る判断材料になる。



