スポーツ中継や海外ドラマの視聴中に、使っていたDNSサーバーやVPNが急につながらなくなる事例が増えている。海賊版対策を目的にした通信遮断が無関係な利用者を巻き込む「巻き添え遮断」は、欧州で常態化しつつあるのだ。そうした中、Googleは2026年6月25日、EU著作権指令(DSM指令)レビューの意見公募に、DNSリゾルバー・IPアドレス・VPNのブロッキングに反対する21ページの意見書を提出した。

だがこの意見書は、Google自身がフランスの裁判所でブロッキング命令への異議申し立てを退けられてから3カ月後というタイミングで出されている。反対の論拠として並べた巻き添え被害の数字は、Google自身の係争とも無関係ではない。

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6月25日、Googleが欧州委員会に突きつけた21ページ

Googleは2026年6月25日、欧州委員会の意見公募「Have Your Say」(2019年DSM著作権指令のレビュー、イニシアチブID 18172)に対し、フィードバックID F33504634として21ページ・456キロバイトの意見書を提出した。提出者はGoogle(従業員250人以上の大企業区分)、担当者はAnnelise Badinand、EU透明性登録番号は03181945560-59と記載されている。意見公募は2026年5月18日に始まり、締切は6月25日だった。Googleの提出はその締切当日にあたる。

この意見公募が扱う論点は幅広い。生成AIによる著作権ライセンスの課題、オンライン海賊版対策、演奏者・製作者への報酬、研究目的での著作物アクセスまでが対象範囲に含まれる。Googleが意見書で焦点を当てたのは海賊版対策の一角、DNSリゾルバー・IPアドレス・VPNのブロッキングだ。Googleは意見書で、これらの手段は「コンテンツを一切削除せず、別のDNSリゾルバーを使えば容易に回避される」ため無効だと主張しているという。加えて「不釣り合いであり、合法的サービスを巻き込み、域外適用の懸念を生み、ドメイン全体を遮断する」とも述べているとTorrentFreakが報じている。

Googleが列挙した実例はポルトガル・イタリア・フランス・スペインなど複数カ国に及ぶ。最も古い実例は2019年12月のポルトガルだ。現地ISPがGoogleのホスト型仮想IPアドレスを遮断した際、「Google関連のコアサービスを阻害し、同じ仮想IPを共有する他の正当なGoogle Cloud顧客の正規トラフィックまで遮断した」とGoogleは意見書で振り返っている。なかでも巻き添えの規模を示す実測データが伴うのがイタリア・フランス・スペインの3件だ。共有インフラを狙ったブロッキングが無関係な利用者を巻き込む理由は、DNSリゾルバーとIPアドレスという2つの仕組みの違いにある。

なぜ1件のブロックが数百万ドメインを巻き添えにするのか

DNSリゾルバーとは、ユーザーが入力したドメイン名をサーバーのIPアドレスに変換する仕組みだ。Google Public DNSやCisco OpenDNSのような大手DNSリゾルバーは、世界中の膨大な数のドメインへの問い合わせを一手に処理している。当局が海賊版サイトを遮断したいとき、そのドメインへの問い合わせをDNSリゾルバー側で止める手法が使われる。だがサブドメイン単位の誤判定やシステムの誤作動が起きると、無関係なサービスまで巻き込まれる。

実際に2024年10月、イタリアの海賊版対策制度「Piracy Shield」はGoogle Driveのサブドメインを誤って遮断対象に指定した。ブロックは約6時間続いたとされる。Piracy Shieldは放送権を持つ事業者の申告に基づき自動でドメインやIPアドレスを遮断リストに追加する仕組みで、人手による事前審査を経ない即時性が特徴だが、その速さが誤判定のリスクと表裏一体になっている。

IPアドレスのブロッキングは、巻き添えの規模がさらに大きくなりやすい。CloudflareAkamaiのようなCDN(コンテンツ配信ネットワーク)事業者は、コスト効率のために1つのIPアドレスに数百万ものドメインを割り当てる「共有IP」方式を採る。2024年2月24日、Piracy ShieldはCloudflareの共有IPアドレス「188.114.97.7」を遮断対象に指定した。このIPが属すCloudflareのネットワーク全体(自律システム番号AS13335)には、IPinfoの統計で当時4224万3794ドメインが紐づいていたとされる。

この数字が示すのは、ブロックされたIP1つに直接ぶら下がっていたドメイン数ではない。Cloudflareの共有IP方式が巻き添えを生むときの潜在的な規模を示す物差しだ。それでも、受刑者と家族の通信を支援する慈善団体ODV Prison Volunteers Associationや通信会社Elimobile.itなど、無関係な組織のサイトが実際にアクセス不能になったことは複数の報道で確認されている。

当局がIPアドレス単位のブロッキングを選ぶのには理由がある。個々の海賊版ページを特定してドメイン単位で遮断するには、権利者側が侵害コンテンツを継続的に監視し、随時ブロックリストを更新する手間がかかる。共有IPアドレスをまとめて遮断すれば、その手間を省いて即座に効果を出せる。だが同じ理由で、そのIPアドレスに同居する無関係なドメインは一律に巻き添えを受ける。速度と精度はトレードオフの関係にあり、Piracy Shieldのような即時遮断型の制度ほど巻き添えのリスクが高くなる。

フランスでは放送局Canal+の申し立てにより、Google・Cloudflare・Ciscoの各DNSリゾルバーに対する遮断命令が出た。Ciscoはこれを受け、2024年6月28日付でOpenDNSサービスのフランス国内提供そのものを停止した。個別のドメインだけを遮断する代わりに、サービス提供そのものを止めるという踏み込んだ対応だった。

スペインではサッカーリーグLaLigaの生中継のたびに、IPブロッキングによる巻き添えが繰り返されている。調査機関Open Observatory of Network Interference(OONI)が2026年1月から6月にかけてスペイン国内から920万ドメインを対象に実施した調査によれば、少なくとも55万4507ドメイン(調査対象の約5.8%)が一度はブロックされた。影響を受けたIPアドレスは7441個、Amazon・Cloudflare・Alibaba Cloud・Akamai・Meta・Microsoftなど36の組織に及ぶ。LaLiga中継のたびに実施されてきたIPブロッキングが、こうした無関係な企業のクラウドサービスを繰り返し巻き込んできたことになる。

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反対を訴える論者は、実は負けた裁判の当事者だった

2026年3月27日、パリ控訴裁判所はGoogle・Cloudflare・Ciscoの3社が起こした計5件の異議申し立てをすべて棄却した。争点はCanal+の申し立てに基づくDNSブロッキング命令の是非で、裁判所はDNSブロッキングを「技術的に実行可能かつ比例的」と判断した。Ciscoが主張した地理制限型DNSフィルタリングの実施コストの高さについても、裁判所は「客観的根拠に基づかない」として退けた。

Googleが意見書を欧州委員会に提出したのは、この棄却から3カ月後の6月25日だった。Googleは、DNSブロッキングの是非を欧州委員会に問う意見書の提出者であると同時に、同じ争点でフランスの裁判所に敗れてからまだ日が浅い当事者でもある。意見書にもここまでのメディア報道にも、この利害関係を明示的に強調した記述は見当たらない。

動機が自己防衛的であることは、指摘内容の技術的な妥当性を直ちに否定する理由にはならない。イタリアの共有IP遮断が孕む巻き添えリスクの規模感も、スペインの55万4507ドメイン誤ブロックの数字も、OONIの独自調査やIPinfoのデータからも確認できる。Googleの意見書はこれらの独立した測定結果と矛盾しておらず、当事者による主張であっても、そのデータ自体の信頼性は別の物差しで評価できる。

大西洋両岸で同時進行する規制拡大と司法の揺り戻し

大西洋の反対側でも、ブロッキングを巡る綱引きが同時に進行している。2019年の陪審評決でCoxに命じられた10億ドルの賠償額は、2024年の段階で第4巡回区控訴裁判所がすでに取り消し、損害額の再算定を差し戻していた。米連邦最高裁が2026年3月25日に覆したのは、その土台になっていた寄与侵害責任(contributory copyright liability)の認定そのものだ。9人全員がCoxの勝訴という結論では一致したが、判決を主導した多数意見(7人)は、ISPが寄与侵害責任を問われるのは「侵害を積極的に誘発した」か「サービスを侵害目的に調整した」場合に限られるとの基準を示した(Sotomayor・Jackson両判事は結論のみに同意し、この基準づけには同調しなかった)。司法によるブロッキング拡大の道は、この判決で狭まったことになる。

司法ルートが狭まれば、次は立法ルートが動く。米下院では2025年半ば、Issa下院議員(共和党・カリフォルニア州)が主導する討議草案「American Copyright Protection Act(ACPA)」の内容がTorrentFreakに報じられた。草案はISPやDNSリゾルバーに「すべての合理的な措置」によるブロッキング命令への対応を義務付け、年間利用者5万人未満のDNS事業者や米国市場シェア1%以下のISPを適用除外とする内容だった。

この法案が「代替的なサイトブロッキング経路」と呼ばれるのは、DNSブロッキングを回避する意味ではなく、2012年のSOPA廃案以来となる米国内での新たなブロッキング立法という位置づけを指す。むしろEUの議論と同じく、DNSリゾルバーを命令対象に含める点で足並みが揃っている。米下院知的財産小委員会は2026年6月30日、著作権保護とインターネット上の執行をテーマに公聴会を開き、委員長のIssa議員はサイトブロッキング法案を近く週内に提出する意向と「最終的な妥協案の文言が調整済み」であることを明らかにした。この法案が2025年のACPA討議草案をそのまま引き継ぐものかは記事執筆時点で確認できていないが、下院で同種の法制化準備が最終段階に入っていることは確かだ。Googleの意見書提出は、この公聴会のわずか数日前だった。

同じ構図は2012年にも一度起きている。当時の米国では、DNSブロッキング条項を含む法案「SOPA(Stop Online Piracy Act)」が審議されていたが、GoogleやWikipediaが主導したブラックアウト抗議を受けて廃案になった。あれから14年、テック企業と権利者団体の対立構図は、DNSブロッキングという同じ技術的争点を巡って再燃している。異なるのは、当時は法案そのものが葬られたのに対し、今回は最高裁が司法ルートを狭めたことで、権利者側が立法ルートへ軸足を移している点だ。

利害関係を整理すると、規制縮小で得をするのはGoogle・Cloudflare・Cisco陣営と、欧州3300社以上のISPを代表する業界団体EuroISPAだ。EuroISPAは2026年6月、欧州委員会に対し、過度なブロッキングによる巻き添え被害について権利者側に金銭的責任を負わせるよう求める意見書を提出し、2026年4月のCEPS(欧州政策研究センター)調査を根拠に引用している。逆に規制縮小で不利益を被るのは、LaLiga・Canal+ら放送権利者陣営と、Piracy Shield制度を運営するイタリアのAGCOM(通信規制当局)だ。ブロッキング手段が制限されれば、違法配信対策の実効性そのものが問われかねない。

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日本が2018年に見送った論点が、いま欧州で現実になっている

日本もかつて同じ論点に直面した経緯がある。2018年、政府の知的財産戦略本部はサイトブロッキングの法制化を検討したが賛否が対立し、「本検討会議において合意を見ることはできなかった」と結論づけられた。焦点になったのは憲法21条が保障する通信の秘密で、特定の海賊版サイトを狙い撃ちするはずのブロッキングが、実際には通信内容全体を検閲する仕組みと技術的に不可分だという懸念だった。

通信の秘密とは、憲法21条2項が定める、通信内容や通信当事者の情報を国家や第三者に知られない権利を指す。DNSブロッキングを実施するには、利用者がどのドメインに接続しようとしたかをリゾルバー側で把握し、遮断リストと照合しなければならない。この照合作業そのものが通信の秘密を侵しかねないという理屈が、2018年の検討会で反対派の中心的な論拠になった。

この結論は今も維持されている。2024年5月に改定された政府の「インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー」でも、ブロッキングの法制度整備は他の対策の効果を見ながら検討するとされ、法制化は継続的に見送られたままだ。

欧州で今起きているのは、日本が2018年に理論として議論した懸念が、具体的な数字を伴って現実化した事例といえる。共有IPアドレス1つの遮断がCloudflareの全ネットワーク規模(4224万ドメイン)に匹敵する巻き添えリスクを孕み、サッカー中継のたびに55万件超のドメインが実際に誤ブロックされる。通信の秘密を理由に法制化を見送った日本の議論は、こうした巻き添え被害の実測データを欠いたまま行われていた。日本が将来この論点を再び検討する局面が来れば、欧州の実例は賛成派・反対派どちらの立場からも引用できる材料になるだろう。

分岐点はEuroISPAの金銭責任提案、独立データが示す転換の条件

欧州委員会は今回のレビューと並行して対象を絞った立法措置の可能性についても意見を募っており、指令改定に踏み込むのか、より限定的な措置にとどめるのか、方向性も時期もまだ示されていない。判断を左右する要素のうち、最も見極めが難しいのはEuroISPAが求める金銭的責任の所在だ。欧州3300社以上のISPを代表するこの業界団体は、2026年4月のCEPS調査を根拠に、巻き添え被害のコストを権利者側に負わせる仕組みを提案している。Googleの意見書が当事者性という弱点を抱えるのに対し、EuroISPAの提案は業界団体としての集合的な主張であり、欧州委員会にとって無視しにくい重みを持つ。

米国側がACPA討議草案の内容をどこまで具体化するかも、欧州側の判断に影響しうる。草案がDNSリゾルバーを命令対象に含める設計を維持したまま議会審議入りすれば、欧州委員会がDNS・VPNブロッキングを指令の対象から外す判断とは逆方向に、大西洋両岸の規制の枠組みが乖離する可能性が残る。

OONIやIPinfoが積み上げた独立データは、Googleの当事者性とは切り離してすでに存在している。この独立データの蓄積と、Cox対Sony判決で司法ルートが狭まった流れを踏まえれば、欧州委員会がDNS・VPNブロッキングを指令の対象から除外し、権利者側に立証責任を課す方向へ傾く公算はやや高い。ただしその転換には、権利者側がPiracy Shieldに代わる誤ブロックの少ない遮断手段を提示できるかどうかが条件になる。示せなければ、即時遮断型の制度がむしろ標準として温存される可能性が残る。