壮大なビデオゲームを想像してほしい。あなたの好きなヒーローが主人公として登場する。そこに、鏡像の双子のような別キャラクターがときどき現れ、触れるものを何でも爆発させる。さらに難易度を上げる要素として、謎の「手下の巣」があらゆる角に潜み、ゲームのルールを変えてくるのに、姿は決して見せない。

これらのキャラクターを物質の種類だと思えば、このビデオゲームはほぼ宇宙の仕組みそのものだ。

ヒーローは通常の物質(regular matter)であり、私たちが周囲で見られるものすべてだ。反物質(antimatter)は、科学者がよく理解しているのに、ほとんど見つけられない「鏡像の爆発する双子」である。そしてダークマター(dark matter)が、見えない手下たちだ。ダークマターはどこにでもあるのに、私たちには見えず、科学者はそれが何なのか分かっていない。

名前は似ているが、ダークマターと反物質はまったく別物だ。興味深いことに、私のような物理学者反物質とは何かを正確に理解しているのに、周囲にはほとんど存在しない。一方で、ダークマターが何であるかは分からないのに、こちらはあちこちに大量にある。

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反物質:鏡像の双子

あなたの周りにある通常の物質はすべて、原子という基本的な構成要素でできている。原子は、陽子(proton)と呼ばれる正の電荷を持つ粒子を中心に持ち、その周囲を微小な電子(electron)と呼ばれる負の電荷を持つ粒子が取り巻いている。

反物質は、通常の物質の「電荷が逆の双子」だと考えるとよい。

陽子電子のようなあらゆる粒子には、反物質側の「きょうだい」がいる。例えば電子には陽電子(positron。反電子)があり、陽子には反陽子(antiproton)がある反陽子と陽電子は、反物質の原子、つまり反原子(anti-atom)をつくる。これらは鏡の像のような存在だが、電荷が反転している。物質と反物質が出会うと、互いを打ち消し合い、光とエネルギーの閃光となって消滅する

幸いなことに、反物質は宇宙では非常にまれだ。しかし、カリウムのような一部の特殊な通常原子は崩壊して反物質を生み出す場合がある。例えば、バナナやカリウムが豊富な食品を食べると、こうした反物質を生み出し得る原子をごく微量に摂取していることになる。その量は健康に影響するには小さすぎる

反物質が発見されたのは約100年前だ。現在では、科学者は研究室で反物質を生成し、保存し、研究できる。その性質も非常によく理解されている。医師はPET検査(PET scan)にすら利用している。反物質を生み出す原子をごく少量、体内に注射し、それらの原子が体内を移動するにつれて起きる、反物質と通常物質の消滅が生む光の閃光を撮影する。これにより医師は体内で何が起きているかを確認できる。

また科学者は、宇宙が誕生したとき、物質と反物質はほぼ同量だったことも突き止めている。両者は出会って互いに消滅した。幸運にも、通常の物質がほんの少しだけ多く生き残り、それが恒星や惑星、そして私たち自身をつくった。

物質と反物質は触れ合うと互いを消滅させるのに、かつて両者が同量だったのなら、なぜ今の宇宙には反物質よりも物質のほうがはるかに多いのだろうか。

ダークマター:見えない手下たち

ダークマターは、はるかに謎が多い。メリーゴーラウンドで非常に速く回ったことはあるだろうか。もしあるなら、特に自分しか乗っていないとき、振り落とされずに乗り続けるのがどれほど大変か分かるはずだ。

では、あなたと一緒に見えない手下が大勢そのメリーゴーラウンドに乗っていると想像してほしい。あなたには見えず触れられないのに、その手下たちはあなたを支え、猛烈な回転でも飛ばされないようにしてくれる。手下がいると分かるのは、メリーゴーラウンドが見た目より重く、押して回転させるのが難しくなるからだ。見えない手下たちは誰とも遊ばず会話もしない。ただそこにいて、あらゆるものに重さを足している。

約50年前、天文学者のVera Rubinは、渦巻銀河(spiral galaxies)でよく似た謎を見つけた。回転する銀河は宇宙規模のメリーゴーラウンドのようなものだが、彼女は奇妙なことに気付いた。銀河の外縁部の恒星が、理屈の上ではあり得ないほど速く回転していたのだ。本来なら花火の火花のように宇宙空間へ飛び散ってしまうはずだが、そうはならなかった。

それは、子どもたちがメリーゴーラウンドで信じられない速度で動いているのに、なぜか完璧にその場にとどまり続けているのを見ているようなものだった。

天文学者Vera Rubinは、渦巻銀河における大きな食い違いを見いだした。科学者は現在これをダークマターとして理解している。(Credit: Carnegie Institution for Science, CC BY)

唯一の説明は何か。目に見えない「何か」が海のように広がり、追加の重力で全体をつなぎ止めているに違いない。科学者はこの謎の物質を「ダークマター」と呼んだ。

それ以来、天文学者は宇宙のいたるところで同様の奇妙な振る舞いを観測してきた。大規模な銀河団(large clusters)の内部では銀河が予想外の動きをする。光は本来よりも銀河の周りで強く曲げられる。銀河は、見えている物質だけでは説明できないほど強くまとまっている

まるで宇宙の遊び場で、ブランコがひとりでに揺れ、シーソーが誰も座っていないのに傾くようなものだ。

ダークマターという名は、科学者がそれが何かを突き止めるまでの仮の呼び名にすぎない。過去50年にわたり、多くの科学者が、ダークマターを検出したり研究室で生成したりするための実験を続けてきた。しかし、これまでのところ成果は得られていない

ダークマターが何であるかは分からないが、どこにでもある。科学者がまだ発見していない特異な粒子かもしれない。まったく予想外の何かかもしれない。それでも天文学者は、銀河の回転速度を観測することで、宇宙全体の通常物質すべてを合わせた量より、ダークマターのほうが約5倍多いことを推定できる。


本記事は、ミシシッピ州立大学 核物理学教授 Dipangkar Dutta氏によって執筆され、The Conversationに掲載された記事「How are dark matter and antimatter different?」について、Creative Commonsのライセンスおよび執筆者の翻訳許諾の下、翻訳・転載しています。