2026年4月30日、インターネットの名前空間が14年ぶりに開放された。ICANNが新gTLD(汎用トップレベルドメイン)の申請窓口「TAMS」を稼働させ、受付期間は8月12日までとされた。しかし申請のための基本費用は約3,500万円。レジストリ運用の初年度コストまで含めれば5,000万円を超えるとされ、新ドメインがネット上で使えるようになるのは最短でも2028年以降だ。裏取引を禁じた新ルールと27言語への対応拡大が加わり、ドメイン名の地政学的争奪戦が始まった。

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14年ぶりの申請窓口オープン。2026年ラウンドの全体像

インターネットのドメイン名システム(DNS)を管理する非営利団体ICANNは、2026年4月30日に新たなトップレベルドメインの申請窓口「TAMS」を稼働させた。申請の受付期間は同年8月12日までと設定されている。前回の2012年ラウンドでは「.microsoft」や「.tokyo」など1,200以上の新gTLDが誕生した。企業や自治体にとって、自社の名前を冠したデジタル資産を獲得する数十年に一度の機会だ。

実際に提出された申請文字列と申請者のリストは、締め切りから約9週間後の10月下旬に「Reveal Day」として公式に発表される。現時点では特定の企業がどのドメインを申請したかは非公開のままだ。審査や異議申し立て、技術テストなどのプロセスを経るため、新しいドメインがインターネット上で実際に稼働し始めるのは最速でも2028年第2四半期以降と予測されている。

18.5万ドルから22.7万ドルへ。表面的な費用と隠れたコスト

今回の申請で、ICANNへ支払う基本評価手数料は227,000ドル(約3,500万円)に設定された。2012年の前回ラウンドでは185,000ドルだったため、約22.7%の値上げだ。資金的・リソース的な制約がある発展途上国の組織などに向けては、申請者サポートプログラム(ASP)が導入され、適格と認められれば申請料金が75〜85%減額される。

ただし、227,000ドルはあくまで審査の入り口に立つための費用にすぎない。専門家の試算によれば、独自のレジストリを運用するためのバックエンド技術の構築、法務・商標関連の弁護士費用、そして初年度の維持費を含めると、最低でも35万〜50万ドル以上の初期投資が必要になる。企業は単なるドメイン取得に留まらず、インフラストラクチャの運用者としての責任とコストを引き受ける。独自gTLDは初年度5,000万円超の経営判断だ。ライバルに奪われないブランド名前空間という唯一無二の資産と釣り合うかどうかの見極めが、企業のデジタル戦略部門に問われる。

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プライベートオークションの禁止と競合解決の仕組み

ドメイン申請で最も複雑なのは、複数の組織が同じ文字列を申請した場合の競合解決プロセスだ。2012年のラウンドでは、競合する申請者同士がICANNの公式オークションを回避し、当事者間で金銭的な決着をつける「プライベートオークション」が横行した。敗者が多額の和解金を受け取って申請を取り下げるという事態が相次いだ。

今回の2026年ルールでは、このプライベートオークションが明示的に禁止された。同一文字列の競合が発生した場合、解決手段はICANN主導の公式オークションか、コミュニティ優先評価(CPE)のいずれかに限定される。さらに、競合するドメインを申請した者同士が、申請内容や戦略について直接的・間接的に連絡を取り合うことも厳しく禁じられた。資金力を背景にした裏取引を排除し、公平で透明性の高いプロセスを担保する仕組みだ。

27の文字体系サポートがもたらすインターネットの多言語化

今回のラウンドで特筆すべきもう一つの変更点は、国際化ドメイン名(IDN)のサポート拡大だ。アラビア語、中国語、タイ語など、27種類の異なる文字体系での申請が正式に受け付けられるようになった。これはラテン文字(アルファベット)を母語としない数十億人のユーザーにとって、インターネットへのアクセス性を根本から変える技術的アプローチだ。

非英語圏のデジタル経済圏が拡大する中、ローカル言語のドメインは地域に根ざしたブランド構築や直感的なナビゲーションを可能にする。多言語対応と前述の申請者サポートプログラム(ASP)の組み合わせは、グローバルサウスの企業やコミュニティがインターネットのインフラストラクチャ層に直接参画する道を開く。2026年の新gTLDプログラムは、名前空間の拡張を超え、次世代のインターネットの多様性を決定づける転換点となる。