材料を加熱して作るとき、科学者が記録してきたのは出発物質と最終産物だけで、加熱の途中で何が起きるかはほとんど無視されてきた。Warwick大学とBirmingham大学の研究チームが単一源前駆体の加熱過程を連続的に追跡したところ、従来の手法では見えなかったβ-BiVO₄(バナジン酸ビスマスの新多形体)と、リチウムを初回約300mAh/g・15サイクルで400mAh/gまで蓄える黒色中間相が現れた。Nature Communications[1]掲載のこの研究は、「最終産物を狙う」から「加熱経路を設計する」へ材料探索の視点を転換させる可能性がある。
最終産物中心の合成では隠れた相を失う
材料合成では、粉末や分子前駆体を加熱し、冷却後に得られた結晶を調べる手法が標準的に使われてきた。この方法は熱力学的に落ち着いた相を特定しやすい一方、加熱の途中で短時間だけ現れる相を取り逃がす。BiVO₄の場合も、よく知られたモノクリニック型(m-BiVO₄)が太陽水分解や有機汚染物質の分解に向けて研究されてきた。今回の発見は、加熱中の中間段階そのものが機能材料の候補になり得ることを示す。
Sebastian Pike博士は、大学発表の中で「加熱で材料を作る際、科学者は通常、Aから生じる最終産物Bに注目する。だが本研究は、AとBの間に魅力的な段階が存在し、その隠れたステップが同じくらい重要になり得ることを示している」と述べている。この言葉が指すのは、反応経路を副産物として扱わず、探索対象として測る発想だ。結晶多形は医薬品分野では性質を左右する要素として知られてきたが、エネルギー材料での活用はまだ広がる余地がある。
Zn含有単一源前駆体が温度ごとの変換を見せた
V、Bi、Znを含む特別に設計された単一源前駆体(single-source precursor、SSP)が、今回の合成の出発点になった。研究チームは、可変温度粉末X線回折(variable temperature powder X-ray diffraction、PXRD)、固体核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance、NMR)分光、X線ペア分布関数(pair distribution function、PDF)解析を組み合わせた。さらに、熱重量分析-質量分析(TGA-MS)と密度汎関数理論(density functional theory、DFT)計算を使い、分子が酸化物材料へ変わる過程を追跡した。最終産物を測る実験ではなく、温度ごとの構造変化を連続的に読む実験設計である。
単一源前駆体では、V、Bi、Znが同じ分子設計の中に置かれる。加熱時にはその分子が分解し、金属元素が近い距離に保たれたまま酸化物へ組み替わるため、通常の固体混合とは異なる局所環境を作れる。今回のβ-BiVO₄は、こうした加熱中の動的条件下で現れた動力学的多形体であり、通常の冷却後に残る相とは異なる。高温では立方晶のβ-BiVO₄として結晶化するが、冷却するとm-BiVO₄へ変化する点が重要だ。
m-BiVO4とβ-BiVO4の差は密度とバンドギャップに出る
β-BiVO₄は、立方晶系の空間群P2₁3、格子定数a = 6.9916(2) Åを持つ新しい結晶相として解析された。構造中のBiは、従来のm-BiVO₄とは異なる歪んだBiO₆八面体配位を取る。さらに、Biが3回対称軸に沿って無秩序に配置する特徴も報告されている。結晶構造の差は、密度と電子構造の差として表れる。
| 項目 | モノクリニック型m-BiVO₄ | 新たに見つかったβ-BiVO₄ |
|---|---|---|
| 結晶系 | モノクリニック型 | 立方晶系 |
| 密度 | 6.8g/cm³ | 6.3g/cm³ |
| Bi配位 | 既知のBiVO₄構造 | 歪んだBiO₆八面体配位 |
| バンドギャップ | 可視光応答型材料として約2.4eVが文脈値 | m-BiVO₄より1.09〜1.58eV大きい |
バンドギャップは、電子が価電子帯から伝導帯へ移るために必要なエネルギーを表す。値が小さいほど長波長の光を吸収しやすく、値が大きいほど高エネルギー光に応答する傾向がある。β-BiVO₄のバンドギャップがm-BiVO₄より1.09〜1.58eV大きいという結果は、同じ化学組成でも結晶相の選択によって光応答や電子物性を調整できることを示す。太陽燃料生成や高性能エレクトロニクスへの応用を考える際、組成変更ではなく多形制御が設計変数になる。
200°Cの黒色中間相は電池材料の候補になった
200°C段階では、V₄O₉と(NH₄)V₄O₁₀の混合物に似た組成を持つ非晶質黒色相が確認された。この相はV(IV)含量が約3%であるにもかかわらず暗色を呈し、結晶性の最終産物とは異なる中間材料として現れた。電気化学測定では、拡張電圧範囲で初回サイクル時に約300mA·h·g⁻¹のリチウム貯蔵容量を示した。その後、15サイクルで400mA·h·g⁻¹まで容量が増加する傾向が報告されている。
論文では、この容量変化はサイクル中の段階的な構造再配列と説明されている。ただし、容量増加の詳細な機構を一般化するには、追加の電気化学解析と長期サイクル評価が必要だ。重要なのは、最終的に得られる結晶相ではなく、加熱途中の非晶質相が電池材料として測定可能な性能を示した点にある。中間相を失敗作と見なさず、温度と時間で取り出す対象に変えることが、材料探索の幅を広げる。
Dominik Kubicki博士は「興味深いのは、これらの途中段階の材料が踏み石に過ぎないわけではなく、それ自体で有用な性質を持ち得る点だ。形成過程を理解し制御すれば、電池、触媒、太陽エネルギー向けのより良い材料設計を始められる」と述べている。BiVO₄は太陽水分解材料として知られてきたが、今回の研究では同じ反応経路から電池材料候補も現れた。加熱の途中を測る実験は、材料の完成形を探す作業から、生成過程を設計する作業へ研究の焦点を移している。