Intelが、宇宙機での利用を狙うSoC「Starfire」の製品資料を公開した。CPUコアとNPUにはIntel 18A、GPUにはIntel 3を使い、Foverosで一つのパッケージにまとめる。最大75 TOPSの指標に加え、CPU、GPU、NPUを統合した異種演算構成が特徴である。
ただし、Starfireがすでに軌道へ上がった事実はない。2026年7月9日付の資料はサンプル提供時期を同年第3四半期とし、放射線特性は「評価中」と明記する。新しいのは飛行実績ではなく、米国内で量産中の先端プロセスとPC向けでも展開する異種チップレット設計を、政府・宇宙市場へ持ち込もうとしている点である。
18AとIntel 3を一つのFoverosパッケージへ
Starfireには低消費電力版と高性能版があり、どちらも4基のPコアと4基のLPEコアを備える。低消費電力版はPコアが1.0GHz、LPEコアが850MHzで、GPUは800MHzから1.0GHz。高性能版では、それぞれ3.1GHz、2.1GHz、2.0GHzまで引き上げる。
| 仕様 | 低消費電力版 | 高性能版 |
|---|---|---|
| CPU | 4 Pコア+4 LPEコア | 4 Pコア+4 LPEコア |
| NPU | 3タイル、Intel 18A | 3タイル、Intel 18A |
| GPU | 4 Xeコア/64 EU、Intel 3 | 4 Xeコア/64 EU、Intel 3 |
| AI性能 | 最大45 TOPS | 最大75 TOPS |
| TDP | 10W | 35W |
共通仕様には、PCIe 4.0を12レーン、LPDDR5またはDDR5メモリ、接合部温度でマイナス55℃から125℃、設計上の寿命10年以上が並ぶ。資料が示すのは保証期間ではなく「Lifetime」であり、10年以上の無故障動作を約束したとは読めない。温度も外気温ではなく、チップ内部の接合部温度の範囲だ。
異なるプロセスで作る計算ブロックを組み合わせられるのがFoverosの役割である。Intel 18AはRibbonFETと背面電力供給のPowerViaを採用し、米国内で量産されている。PC向けCore Ultra Series 3でも、Intelは18AとFoverosを使ったマルチチップレット構成を展開してきた。Starfireは同じ異種統合の考え方を宇宙用へ持ち込む提案だが、IntelはPanther Lake派生製品だとは説明していない。
75 TOPSだけでは宇宙での用途が決まらない
Starfireの最大75 TOPSは目を引く。だが資料には演算精度の記載がなく、CPU、GPU、NPUがそれぞれ何TOPSを担うのかも示されていない。精度が違えば同じチップでも値は変わる。複数の演算器を合算したプラットフォーム全体のTOPSは、単体アクセラレータの数字とそのまま比べられない。
宇宙機のオンボードAIが担う仕事は、地上のデータセンターとは異なる。NASAは次世代のHigh Performance Spaceflight Computing(HPSC)について、センサーデータを機上で分析し、通信遅延の大きい場所でも自律判断できることを用途に挙げている。限られた電力と通信帯域のなかで、観測画像の選別や航法判断をどれだけ安定して続けられるかが、実質的な性能を左右する。
比較対象となるMicrochipのPIC64-HPSCは、8基のRISC-V X280コアと最大2 TOPSのINT8ベクトル演算を公表している。見かけの数字はStarfireが大きいが、演算精度が違うため性能差を示さない。しかしPIC64-HPSCは、デュアルコア・ロックステップと障害監視を製品資料に載せる。SpaceWireと240GbpsのTSN Ethernetに加え、耐量子暗号を含むセキュリティ機能も備える。一方、Starfireの1枚資料が示す接続はPCIeとメモリに限られ、宇宙機向けインターフェース、障害を封じ込める仕組み、ソフトウェア環境はまだ分からない。
75 TOPSだけで搭載判断はできない。どの精度と消費電力で持続できるのか、放射線によるビット反転を検出・訂正しながら性能を保てるのか。そこが実際の搭載判断を左右する。
放射線欄の「評価中」が製品段階を決める
Intelの資料で最も注意すべき一行は、放射線の欄にある「TID、SEL、SEEの評価中」だ。TIDは時間とともに蓄積する電離放射線の総量で、しきい値電圧の変化や漏れ電流の増加を招く。SEEは高エネルギー粒子が一度通過したことで起きる影響の総称である。ビット反転で済む場合もあれば、SELによって過大電流が流れ、回路が破損することもある。
宇宙用部品では、温度範囲と寿命の表示だけでこのリスクを判定できない。たとえばPIC64-HPSC1000-RHは、Starfireと同じマイナス55℃から125℃という温度範囲に加え、TIDを最大200krad(Si)、SEL耐性を最大78MeV・cm²/mgとして公表する。この数値が、利用できる軌道や遮蔽、ミッション期間を決める材料になる。
Starfireには、TIDの耐量、SELが起きなかった線エネルギー付与の上限、SEEの発生断面積、試験に使った粒子と動作条件がまだない。放射線に強い回路をプロセスで作り込んだのか、設計上の冗長化で補うのか、システム側の遮蔽を前提にするのかも不明だ。「space grade survivability」は製品目標を表すが、現時点で宇宙飛行向け認定の完了を意味しない。
NASAのHPSCも2026年に放射線、熱、衝撃、機能の各試験を続けている。NASAは現在の試験後に宇宙飛行向け認証を受け、将来の月・惑星・有人探査ミッションへ組み込む計画だと説明している。初期サンプルが動作したことと、長期間の宇宙飛行に耐えることの間には、試験結果と設計審査が残る。Starfireも同じ順序を飛ばせない。
米国内製造の政府向け提案、次は試験データ
Starfireの資料は「競争力のある価格」と「米国内製造」を太字で並べ、Intel Government Technologiesの連絡先を置く。価格表も注文番号もなく、現段階では政府・防衛産業の顧客を探すための提案書という性格が強い。Intelは別の政府向け資料で、RAMP-Cを通じてBoeingやNorthrop Grummanなどの防衛産業企業をIntel 18Aの試作環境へ受け入れたと説明している。先端ロジックを米国内で設計から量産まで追跡できることは、Starfireが訴える価格以上に具体的な調達上の利点になる。
もっとも、米国内製造は宇宙での信頼性を代替しない。2026年第3四半期のサンプルで確認したいのは、TIDとSELの合否を示す数値、SEEの発生率、ロットごとのばらつきだ。障害検出と復旧の仕組みも欠かせない。AI性能についても、45 TOPSと75 TOPSの内訳、演算精度、持続時の温度と消費電力が必要になる。搭載先の軌道と想定ミッションが分かれば、Starfireが狙う市場を絞り込める。評価ボード、OS、開発環境の公開は、顧客が試作を始める条件になる。
Intel 18Aを宇宙へ持ち込む構想は、宇宙機に機上AIとチップレット設計を取り込む選択肢を増やす。Starfireを製品として評価できるのは、次の販促資料ではなく、放射線試験の条件と結果が公開されたときである。