超高速撮影には、時間分解能と観測できる時間の長さの間にトレードオフがある。コマとコマの間隔を短くすれば、フェムト秒($10^{-15}$秒)からピコ秒($10^{-12}$秒)という極めて短い時間に起こる電子やプラズマの変化を捉えられる。一方で、撮影できる時間全体は短くなる。
逆に、ナノ秒($10^{-9}$秒)やマイクロ秒($10^{-6}$秒)にわたって進む物質の変形や衝撃波の広がりまで観察しようとすると、撮影間隔を広げる必要があり、現象が始まった直後の変化を捉えにくくなる。
レーザーを固体や液体に照射した際に起こる現象では、照射直後の微視的な変化が、その後の物質の破壊や流体運動につながる。最初の急激な変化を見るには細かな時間間隔が必要だが、その後の展開まで追うには長い観測時間が必要になる。
東京大学大学院工学系研究科の研究チームが学術誌『Optica』に発表した今回の研究は、撮影間隔を一定にするのではなく、時間の経過に合わせて段階的に広げることで、この問題を解決しようとするものだ。
撮影間隔を広げながら、一つの現象を追う
一般的な高速度撮影では、一定の時間間隔で画像を記録する。例えば1ピコ秒ごとに撮影すれば、10枚の画像で捉えられる時間はおよそ10ピコ秒に限られる。
しかし、強いレーザー光を物質に照射した後の変化は、時間の経過とともに速度が大きく変わる。
照射直後のフェムト秒からピコ秒領域では、多光子吸収や電離、プラズマ生成など、電子に関係する非常に高速な現象が起こる。その後、数百ピコ秒からナノ秒の領域になると、応力波や衝撃波の伝播、プラズマプルームの膨張、物質の除去や飛散といった力学的な現象が目立つようになる。
最初の変化を捉えるために撮影間隔を極端に短くすると、ナノ秒領域まで記録を続けることが難しい。
こうした問題に対して従来から使われてきた代表的な手法が、ポンプ・プローブ法である。同じ条件のレーザーパルスを試料に繰り返し照射し、現象を起こすポンプ光と観測に使うプローブ光のタイミングを少しずつ変えながら画像を取得する。それぞれの時刻で得た画像をつなぎ合わせることで、非常に高速な現象の時間変化を再構成できる。
ただし、この方法は、現象をほぼ同じ条件で繰り返し再現できることを前提としている。
材料の微細構造や表面状態にばらつきがある場合や、液体中の揺らぎ、破壊のように一度起これば元に戻らない現象では、照射するたびに結果が変わる可能性がある。複数回の実験から得た画像を組み合わせても、一つの事象の中で、最初の変化がその後の破壊や流体運動へどのようにつながったのかを直接追えるとは限らない。
そこで研究チームは、一度のレーザー照射で現象の時間変化を記録する「シングルショット計測」の時間範囲を広げることを目指した。
変化が速い最初の段階では短い間隔で撮影し、その後、現象がゆっくりになるにつれて撮影間隔を広げる。一定間隔ではなく、対数目盛りのように時間間隔を広げていく考え方である。
波長ごとに異なる遅延を与える「BRIDGE」
この仕組みを実現するために研究チームが開発したのが、「BRIDGE(Band-Resolved Individual Delay Generation)」と呼ばれる光学技術である。
フェムト秒単位の現象を撮影するには、非常に短い時間だけ発光する超短パルスレーザーが使われる。こうしたレーザーパルスには、ある程度の幅を持った複数の波長成分が含まれている。
BRIDGEでは、この波長の違いを利用する。
まず、角度によって透過する波長が変わる光学フィルターを使い、連続したスペクトルから複数の波長帯を取り出す。さらに、それぞれの波長帯に異なる長さの光路を割り当てる。
光は進む距離が長いほど到着が遅くなる。そのため、波長ごとにミラーの間を進む距離を変えれば、それぞれを異なる時刻に試料へ到達させることができる。
従来の一部の波長分散型イメージングでは、回折格子や光ファイバーなどの分散を利用して波長ごとに時間差を作る。この場合、波長と遅延時間の関係は媒質の特性に大きく左右されるほか、パルス自体が時間方向に広がり、時間分解能が低下する問題がある。
BRIDGEでは、波長帯ごとに独立した自由空間の光路を与えることで、こうした分散によるパルスの広がりを抑えながら、遅延時間を個別に設定できるようにした。
データを表で見る
| 時間 (秒) | |
|---|---|
| 各コマの露光時間 | 0.00000000000026 |
| 最小フレーム間隔 | 0.0000000000006 |
| 設定可能な最大遅延時間 | 0.00000001 |
今回のシステムでは、11枚の画像をそれぞれ約260フェムト秒という短い露光時間で記録する。最も短いフレーム間隔は600フェムト秒で、そこから最大10ナノ秒まで遅延時間を設定できる。
つまり、サブピコ秒領域で始まる非常に速い変化から、ピコ秒を経てナノ秒領域へ進む現象までを、1回の撮影で追跡できる。
ただし、この方式で得られる11枚の画像は、一般的な動画のように一定のフレームレートで連続撮影したものではない。
11の異なる波長帯を使い、あらかじめ設定した異なる時刻に試料を照らして得られる11枚の静止画である。撮影間隔自体がフレームごとに異なることが、BRIDGEの特徴となる。
固体へのレーザー照射を1回で追跡
研究チームはBRIDGEを使い、フェムト秒レーザーを固体へ照射した際に起こるレーザーアブレーションを撮影した。試料にはガラスとハイドロキシアパタイトを使用した。ハイドロキシアパタイトは、骨や歯を構成する主要な無機成分の一つである。
強いフェムト秒レーザーを固体表面に集光すると、照射直後には電離やプラズマ生成などが起こる。その後、時間がピコ秒からナノ秒へ進むにつれ、応力波や衝撃波が伝わり、プラズマプルームが膨張し、最終的には物質や破片が飛散する。
研究チームは、こうした異なる時間スケールの現象を、一度のレーザー照射から得た11枚の画像で追跡した。
画像には、フィラメントや空気中のプラズマ、アブレーションプルーム、衝撃波、ガラス内部を伝わる応力波、物質の噴出や破片の飛散などが時間の経過に沿って記録された。
また、ナノ秒領域になると、ガラスとハイドロキシアパタイトの間で、物質の広がり方や破片の飛散に違いが見られた。
重要なのは、こうした一連の変化を、時刻ごとに別の試料へレーザーを照射して再構成したのではなく、一度の照射から得た画像として記録した点にある。
これにより、フェムト秒領域で始まった変化と、その後のナノ秒領域における力学的な応答を、同じ事象の中で比較できる。
ただし、今回示された画像だけから、初期の電子状態の違いが後の破壊形態をどのように決定したのかまで明らかになったわけではない。
単一ショット撮影は、一回ごとに異なる現象を捉えることに強みがある一方、再現性や材料間の違いを評価するには、条件を変えた繰り返し実験や定量的な解析も必要になる。
水中で生じる衝撃波も撮影
研究チームは、固体への照射だけでなく、水中にレーザーを集光した際に起こる光学ブレークダウンと衝撃波の発生過程にもBRIDGEを適用した。
液体中へ強いレーザー光を集光すると、局所的な電離によってプラズマが発生し、その急激な圧力変化から衝撃波などが生じる。
今回の撮影では、フェムト秒領域で起きた局所的なブレークダウンが、その後のピコ秒領域で広がり、さらにナノ秒領域で非対称な衝撃波へ発展する様子が、一度の撮影で得た画像列に記録された。
この実験が示しているのは、非常に短い時間に始まった局所的な変化と、後に生じるより大きな流体運動を同じ一連の事象として観察できるというBRIDGEの特徴だ。
一方で、この結果を必要以上に広く解釈することはできない。
公開された研究から、衝撃波の伝播速度や圧力、放出エネルギーなど、流体力学的なあらゆる量が定量的に明らかになったわけではない。今回の成果の中心は、異なる時間スケールで進む変化を単一ショットの画像列として捉えたことにある。
また、ハイドロキシアパタイトや水を使っていることから医療応用を連想しやすいが、今回の研究は光学・レーザー物理に関する基礎的な実験である。人体や実験動物、生体組織を対象に医療効果を検証した研究ではない。
幅広い時間スケールを1回の撮影でつなぐ
本研究は2026年9月25日付で学術誌『Optica』に公開された。論文は第13巻第10号の2028〜2037ページに掲載されている(DOI: 10.1364/OPTICA.610944)。
論文の著者は島田啓太郎氏、東航平氏、堀内純氏、Dylan Thomas氏、太田雅人氏、中川桂一准教授。筆頭著者の島田氏は研究当時、東京大学大学院工学系研究科の特任研究員を務めており、現在は米ローレンス・バークレー国立研究所で博士研究員を務めている。
研究チームは以前から、異なる時間スケールを一度に撮影するための光学技術を開発してきた。
2023年には、「スペクトル回路」と呼ばれる仕組みを使い、複数の時間スケールをまたぐ高速現象をシングルショットで捉える撮影法を報告している。今回のBRIDGEでは、波長帯ごとに独立した光路を割り当てることで、それぞれの撮影時刻をより自由に設定できるようにした。
研究チームは将来の応用先として、レーザー加工の観察や最適化、材料の不可逆な構造変化の計測、高エネルギー密度現象など、繰り返し再現することが難しい高速現象の観察を想定している。
一方、実用化に向けては課題もある。
BRIDGEでは、プローブ光を複数の波長帯に分け、それぞれを1枚の画像に割り当てる。そのため、1フレーム当たりに利用できる光量は減少する。十分な画質や空間分解能を得るには、高感度の検出器や精密な光学調整が必要になる。
また、フレームごとに異なる波長を使うため、観察対象の吸収率や反射率が波長によって大きく異なる場合には注意が必要だ。
画像の明暗が時間変化によって生じたのか、それとも波長によって試料の見え方が変わったためなのかを区別しなければならない。材料によっては補正や追加の校正が必要になる可能性がある。
今回の研究で使われたガラス、ハイドロキシアパタイト、水以外にも、この手法がどの程度幅広い材料や現象へ適用できるのかは今後の検証課題となる。
BRIDGEの特徴は、単純に「より速いカメラ」を作ったことではない。現象の進み方に合わせて撮影間隔そのものを変え、非常に速い初期変化と、それより遅い後続現象を一度の撮影でつなげた点にある。
600フェムト秒という短い間隔から10ナノ秒まで、11枚の画像を異なる時刻に配置することで、従来は別々に観察しやすかった時間領域を一つの事象として追える可能性を示した。
今後、より多様な材料や現象で再現性と定量性が確認されれば、レーザー加工や材料科学など、一度きりの高速現象を詳しく調べるための新たな計測手段になり得る。
