イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校とノートルダム大学の研究チームが、直径5µmの青色マイクロLEDで2.75 GHzの変調帯域を測定したと、IEEE Electron Device Lettersに受理された論文で報告した。変調帯域は、電気信号に応じて光の強さをどれだけ高速に変化させられるかを示す指標で、今回の素子は電流密度15.1 kA/cm²、電気入力25 mWの条件でこの値を達成した。大学は量子井戸LEDとしての世界記録と説明しているが、対象を限定しなければ、2024年に別の研究グループが3.73 GHzを報告している。今回の研究で重要なのは、同じ層構成のエピウェハーから直径100〜2µmの5種類の素子を作製し、サイズによる性能の違いを系統的に調べた点にある。最も高速だったのは直径5µmの素子で、さらに小さい2µmでは帯域が低下した。研究チームは、小型化によって高速化が進む一方、ある段階から別の要因が性能を制限するようになる仕組みを、測定と計算によって明らかにした。
直径5µmで2.75 GHzを達成、測定したのは小信号の変調帯域
論文は大学院生のAbdelghany Abouelnaggaを筆頭とする7人の共著で、最終編集前の著者版が公開されている。投稿日は2026年7月10日で、DOI(10.1109/LED.2026.3745737)は10月21日に登録された。研究にはイリノイ大学のCan Bayram教授、Peter Dragic准教授、Milton Feng名誉教授と、ノートルダム大学のPatrick Fay教授の研究グループが参加しており、大学もプレスリリースで成果を紹介している。
研究チームは、6インチのQromis Substrate Technology基板上に成長させた青色発光用のエピウェハーを使用した。発光層はInGaN(窒化インジウムガリウム)とGaN(窒化ガリウム)からなる6層の多重量子井戸構造で、円形の発光素子を直径100、20、10、5、2µmの5種類に加工した。最も高い変調帯域を記録したのは直径5µmの素子で、電流密度15.1 kA/cm²のときに2.75 GHzに達した。論文の要旨では、この結果を「2.7 GHz超」と表現している。
今回測定したのは、小信号に対する光出力の周波数応答である。研究チームは直流のバイアス電流に−20 dBmの微弱な高周波信号を重ねて素子を駆動し、出射光をマルチモードファイバーで集め、25 GHzまで応答する光検出器で測定した。信号の周波数を上げながら光出力の応答を調べ、低周波数域と比べて応答が3 dB低下する周波数を変調帯域と定義している。論文ではビットレート(Gbps)、ビット誤り率、アイパターンのいずれも報告していない。したがって、2.75 GHzは素子の応答速度を示すものであり、実際に何Gbpsでデータを伝送できたかを表す数値ではない。
25 mWという電力も、2.75 GHzを達成した動作点で素子に供給した電気入力であり、光出力を表すものではない。論文本文には光出力の具体的な数値が示されていない。公称直径5µmから円形の接合面積を計算すると約1.96×10⁻⁷ cm²となり、15.1 kA/cm²の電流密度は約3.0 mAの電流に相当する。ただし、論文ではエッチングによる側壁の損傷によって実効的な接合面積が公称値より小さくなっている可能性を指摘しており、この換算値はあくまで目安である。
これほど高い電流密度が必要になる背景には、InGaN/GaN LEDの発光層に生じる内部電場がある。論文によると、c面と呼ばれる結晶面に成長させたInGaN/GaN LEDでは、結晶の分極によって発光層内に電場が生じ、電子と正孔が空間的に引き離される。その結果、電子と正孔が再結合して光を放出するまでに時間がかかり、変調帯域は従来1 GHz前後、あるいはそれ以下に制限されてきた。電流密度を高めて大量の電子と正孔を注入すると、これらのキャリアが内部電場を遮蔽し、再結合が速くなることで変調帯域が広がる。つまり、高速化には高い電流密度で安定して動作する素子が欠かせない。
高電流密度への耐性は素子サイズによって異なっていた。直径5µmの素子では25 kA/cm²まで電流と電圧の関係が直線性を保った一方、20µmの素子では自己発熱によって特性の傾きが変化し、2µmの素子では10 kA/cm²付近から劣化が始まった。このため研究チームは、発熱や劣化の影響が顕著になる前の電流密度で変調帯域を測定している。測定時の電流密度は20µmで6.4 kA/cm²、2µmで9.5 kA/cm²、5µmで約15 kA/cm²だった。各サイズの変調帯域は同じ電流密度で比較したものではなく、それぞれの素子が安定して動作する範囲で得られた値である。
「世界記録」は量子井戸LEDに限定、先行研究との比較には注意が必要
2.75 GHzを「世界記録」と位置づけているのは大学のプレスリリースであり、論文本文にはその表現は登場しない。大学は「量子井戸LEDにおける変調速度の世界記録」と説明し、業界で標準的に使われる量子井戸構造のLEDに対象を限定している。また、一部の非標準的なLED構造はさらに高い周波数で動作するものの、出力される光が弱く不安定になるとも説明している。したがって、この記録をマイクロLED全体の最高速度と受け取るのは適切ではない。
論文のTable Iでは、標準的な多重量子井戸マイクロLEDとの比較として、室温で測定された過去6件の研究結果をまとめている。ただし、引用された6件すべてについて発光層の構造を個別に確認できているわけではない。比較表で最も高い2.64 GHzを記録したLiらの2024年の論文は、題名に「Nano-Engineered InGaN Active Region(ナノ構造化されたInGaN活性層)」を掲げており、一般的な量子井戸構造と同じとは限らない。以下の表には、論文のTable Iに掲載された6件に加え、同表に含まれていないRogersらの2024年の論文と、台湾Ennostarが2026年8月に発表した結果も掲載した。
| 報告 | 直径(µm) | 色 | 帯域(GHz) | 定義 | 電流密度 | 種別 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 今回の論文(2026) | 5 | 青 | 2.75 | E-E | 15.1 kA/cm² | 論文 |
| Li 2024 | 20 | 青 | 2.64 | E-E | 記載なし | 論文(Table Iの引用値) |
| Rao 2024 | 20 | 青 | 2.30 | E-E | 記載なし | 論文(Table Iの引用値) |
| Xu 2025 | 20 | 青 | 1.60 | E-O | 記載なし | 論文(Table Iの引用値) |
| Jin 2025 | 10 | 緑 | 1.27 | E-E | 記載なし | 論文(Table Iの引用値) |
| Pezeshki 2025 | 7 | 青 | 2.00 | E-E | 記載なし | 論文(Table Iの引用値) |
| Lin 2026 | 20 | 黄 | 2.14 | E-E | 記載なし | 論文(Table Iの引用値) |
| Rogers 2024 | 記載なし | 青 | 3.73 | E-O | 11 kA/cm² | 論文(IEEE Photonics Technology Letters) |
| Ennostar 2026 | 非公表 | 青 | 3.3 | 非公表 | 5 kA/cm² | 企業発表 |
今回の2.75 GHzは、論文の比較表に掲載された6件の最高値である2.64 GHzを上回る。一方、2024年には別の研究グループが青色GaNマイクロLEDで3.73 GHzを報告しており、測定条件は室温、電流密度11 kA/cm²、帯域の定義はE-Oだった。Rogersらは、この3.73 GHzを当時のマイクロLEDで報告された最高値と説明している。ただし、今回の論文とRogersらの研究では帯域の定義が異なるため、数値だけで性能の優劣を直接判断することはできない。Rogersらの素子が量子井戸構造に該当するかどうかや、今回の比較表に含まれていない理由も、論文からは明らかではない。
表の「定義」は、入力信号と出力信号のどの関係から帯域を求めたかを示す。E-Oは電気信号に対する光出力の応答を表す「electro-optical」の略である。一方、E-Eについては今回の論文内で明確な定義が示されていないため、表では原文の表記をそのまま使用している。今回の論文も、Table Iでは自身の測定結果をE-Eと記載しながら、本文では電気信号から光出力への応答を測定したと説明しており、記述が一致していない。異なる定義で測定された帯域は単純比較できず、さらに比較対象の6件には電流密度が記載されていないため、同一条件で従来の記録を上回ったとも断定できない。
企業からも、今回の結果を上回る数値が発表されている。台湾のEnnostarは2026年8月、青色マイクロLEDの単一チャネルで、−3 dB変調帯域が電流密度2 kA/cm²で2.1 GHz、5 kA/cm²で最大3.3 GHzに達したと発表した。ただし、これは査読付き論文ではなく企業発表に基づく数値であり、素子サイズと変調帯域の定義は公表されていない。
イリノイ大学の研究グループにも、今回より高い変調速度を報告した過去の研究がある。2009年にはMilton FengとNick Holonyak Jr.らが、発光トランジスタで4.3 GHz、これを応用した電荷傾斜型LED(tilted-charge LED)で7 GHzの変調速度を達成したと、Applied Physics Lettersの同年6月15日号で報告している。当時、LEDの変調速度の記録は1.7 GHzとされていた。電荷傾斜型LEDは通常の量子井戸LEDとは構造が異なるため、今回の比較対象には含まれないが、Fengは今回の論文にも共著者として参加している。以上を踏まえると、今回の2.75 GHzが確実に上回ったといえるのは、論文の比較表に掲載された室温測定の6件であり、マイクロLED全体の最高値というわけではない。
小型化による高速化は直径5µmまで、2µmで性能が低下する理由
今回の研究では、素子の直径を100µmから5µmまで小さくするにつれて変調帯域が拡大し、5µmで最大の2.75 GHzに達した。しかし、さらに小さい2µmの素子では帯域が低下している。各サイズの最大帯域は発熱や劣化が顕著になる前の電流密度で測定されており、100µmの素子は32 A/cm²、2µmの素子は約9.5 kA/cm²で評価された。論文本文で実測の変調帯域が具体的な数値として示されているのは、5µmの2.75 GHzのみである。筆頭著者のAbouelnaggaは大学のプレスリリースで、直径100µmから2µmまで系統的に小型化した結果、必ずしも小さいほど優れているわけではなく、5µmが最も高い性能を示したと説明している。
小型化によって高速化する効果と、反対に性能が低下する原因は、素子の異なる電気的特性から生じる。LEDのpn接合はコンデンサーのように電荷を蓄える性質を持ち、接合容量が大きいほど、高周波信号に対する充放電が遅れて応答速度が制限される。この制限を決めるのが抵抗と容量の積で表されるRC時定数であり、素子を小さくすれば面積に応じて接合容量も減少する。一方、金属電極と半導体の接触部分に生じるコンタクト抵抗や、電流が電極から発光層へ広がる際の電流拡散抵抗は、素子面積が小さくなるにつれて増大する。容量の減少による利点よりも抵抗の増加による影響が大きくなると、素子をさらに小さくしても変調帯域は広がらなくなる。
もう一つの重要な要因が、高周波信号の反射を引き起こすインピーダンス不整合である。今回の測定系は50Ωを基準に設計されており、LED側のインピーダンスがこの値から大きく離れると、供給した高周波信号の一部が素子に伝わらず、反射してしまう。研究チームは、反射特性とインピーダンスの関係を表すスミスチャートを使い、100 MHzから5 GHzまでの周波数範囲で各素子の特性を解析した。その結果、100µmの素子では大きな接合容量が帯域を制限していたのに対し、直径20µm未満では容量の影響が大幅に減少する一方、抵抗の増大と50Ωとのインピーダンス不整合が目立つようになった。つまり、小型化が進むにつれて、帯域を制限する主な要因が接合容量から抵抗やインピーダンス不整合へ移っていくことが分かった。
研究チームは各サイズの素子について等価回路を構築し、測定結果から抵抗と容量を抽出した。その値を使って、RC特性によって応答が低下し始める周波数に相当する「RC極の計算帯域(fRC)」を求めている。以下は論文のTable IIに掲載された数値であり、実際に測定した変調帯域ではない。表中の活性層の容量は、LEDの接合容量を等価回路上で表したものである。計算に使う素子の微分抵抗は、直径20µm以下では10 kA/cm²、100µmでは500 A/cm²の電流密度で評価している。
| 直径(µm) | 活性層の容量(pF) | コンタクト抵抗(Ω) | 電流拡散抵抗(Ω) | RC極の計算帯域(GHz) |
|---|---|---|---|---|
| 100 | 45.10 | 6.10 | 2.50 | 0.29 |
| 20 | 2.862 | 30.70 | 50.71 | 3.56 |
| 10 | 0.639 | 61.50 | 202.83 | 4.61 |
| 5 | 0.133 | 123.15 | 811.32 | 5.57 |
| 2 | 0.031 | 307.20 | 5071.08 | 4.09 |
直径100µmの素子では活性層の容量が45.10 pFと大きく、RC極の計算帯域は0.29 GHzにとどまった。一方、5µmでは容量が0.133 pFまで低下し、計算帯域は5.57 GHzに拡大している。しかし、さらに小さい2µmでは容量が0.031 pFまで減少したにもかかわらず、計算帯域は4.09 GHzに低下した。これは、抵抗の増加に加えて、素子サイズによらず共通して存在するパッドの寄生容量の影響が相対的に大きくなるためである。特に電流拡散抵抗は、100µmの2.50Ωから2µmの5071.08Ωへと約2000倍に増加している。研究チームは、コンタクト抵抗と電流拡散抵抗の増加、p側パッドに存在する0.18 pFの寄生容量、さらに高電流密度への耐性の低下が重なり、2µmでは小型化による容量低減の利点を十分に生かせなかったと説明している。
この計算結果を解釈するうえでは、いくつか注意点がある。まず、直径20µmから5µmにかけて活性層の容量が面積比から予想される以上に減少しているが、論文ではドライエッチングによる側壁の損傷で実効的な接合面積が小さくなったためと説明している。また、5µmの素子ではRC極の計算帯域が5.57 GHzだったのに対し、実測の変調帯域は2.75 GHzにとどまった。論文によると、5µm以下の素子では電子と正孔の再結合速度で決まる帯域とRC特性で決まる帯域が近づき、両者の影響によって実際の帯域はそれぞれの上限よりも低くなる。さらに結論では、高周波信号の反射も実測帯域を制限していると指摘している。
なお、今回比較したのは直径100、20、10、5、2µmの5種類であり、5µmと2µmの間のサイズは測定していない。したがって、5µmが最も高速だったという結果は、今回の素子構造と測定条件で得られたものであり、あらゆるマイクロLEDにとって直径5µmが最適であることを意味しない。
データセンターの光インターコネクトへの応用を想定、データ伝送の実証は今後の課題
今回の論文が主な応用先として想定しているのは、データセンター内の光インターコネクトである。AIや高性能計算の普及によって配線に求められる帯域密度は高まり続けているが、電気配線ではSerDes(シリアライザ/デシリアライザ)などの回路が消費する電力が、レーン当たりの伝送速度を引き上げるほど増大する。そこで研究チームが注目するのが、マイクロLEDを高密度に並べ、多数の光チャネルでデータを並列に伝送する方式だ。個々のチャネルを極端に高速化するのではなく、多数のチャネルで通信容量を分担することで、全体として高い帯域密度を確保するという考え方である。
こうした構想を具体的な装置として示した先行研究に、Microsoft Researchの「MOSAIC」がある。SIGCOMM 2025で発表されたMOSAICは、少数の超高速チャネルに代わって多数の比較的低速なチャネルを並列に使用する方式で、試作機では100チャネルを各2 Gbpsで動作させた。20 mの伝送距離では25チャネルのビット誤り率を測定し、すべてのチャネルで誤り訂正によって補正可能なしきい値を下回ったと報告している。Microsoftは、従来の800 Gbpsの通信を8チャネル×100 Gbpsで構成するのに対し、MOSAICでは400チャネル×2 Gbpsで構成できると説明しており、使用するマイクロLEDの直径は5〜10µm程度を想定している。ただし、800 Gbps以上への拡張や最大50 mの伝送距離は構成例として示されたものであり、試作機で実証された性能ではない。
今回の研究で最も高速だった直径5µmの素子は、MOSAICが想定する5〜10µmの範囲に収まる。ただし、変調帯域とビットレートは異なる指標であり、今回の論文では実際のデータ伝送試験を行っていない。そのため、2.75 GHzの変調帯域を持つ素子で何Gbpsのデータを送れるかは、現時点では明らかになっていない。Abouelnaggaは大学のプレスリリースで、直径5µmの素子なら多数の発光素子を小さな2次元アレイに集積し、それぞれに異なるデータを載せられる可能性があると述べている。また論文では、直径数µmまで小型化した素子は出射光の指向性が高まり、外付けのマイクロレンズアレイへの依存を減らせる可能性も指摘している。
研究チームは、変調帯域をさらに広げるための改善策も示している。論文の結論では、今回測定した素子は50Ωの測定系とのインピーダンス不整合が大きく、適切なインピーダンス整合によって性能を大幅に改善できる可能性があると説明した。素子構造の改善策としては、p側コンタクトの最適化に加え、パッド下の導電性n-GaNを深くエッチングし、0.18 pFのパッド寄生容量を低減する方法を挙げている。
今回の研究は、マイクロLEDの小型化が一定の段階を超えると、接合容量よりも抵抗やインピーダンス不整合が高速化を妨げるようになることを明らかにした。今後は、これらの制限を改善した素子で実際にデータを伝送し、達成可能なビットレートとビット誤り率を測定する必要がある。その結果によって、今回の2.75 GHzという変調帯域が、データセンター向け光インターコネクトの送信器としてどこまで実用的な性能につながるのかが明らかになるだろう。
