地球外知的生命探査(SETI:Search for Extraterrestrial Intelligence)では、半世紀以上にわたり、人類が利用する通信技術を手がかりに宇宙からの人工信号を探してきた。代表的な探索対象は、自然界では生じにくいと考えられる狭帯域の電波や規則的なレーザーパルスなどだ。しかし、地球外文明が人類と同じ通信技術や情報の表現方法を使っているとは限らない。人間にとって理解しやすい信号ばかりを探していては、まったく異なる方法で存在を知らせようとする文明を見逃してしまう可能性がある。

2026年9月7日、Cameron Brooks、Estelle Janin、Gage Siebert、Cole Mathis、Orit Peleg、Sara Imari Walkerの研究チームは、この問題に新たな視点を持ち込む論文「A firefly-inspired model for detecting the alien」を学術誌『Scientific Reports』に発表した。研究チームが着目したのは、ホタルが周囲の発光に埋もれないよう、独自の点滅パターンで交尾相手に存在を知らせる仕組みだ。この生物学的な通信戦略を数理モデルとして応用し、宇宙の自然放射と区別しやすい人工信号の構造を導き出す手法を考案した。

ただし、今回の研究で地球外文明からの信号が発見されたわけではない。研究チームが行ったのは、既知のパルサーのデータと数学的な最適化手法を組み合わせた、概念実証のための単純化されたモデル(トイモデル)による検証だ。著者らも、現実の観測結果を予測できる完成した手法ではなく、定量的な思考実験であることを明記している。既存のSETIを置き換えるのではなく、詳しく調べるべき信号を絞り込むための新たな評価方法として位置づけられる。

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メッセージを解読せず、自然界の信号との違いを探す

SETIにおける難しさの一つは、知的生命が発した信号と自然現象による放射をどう区別するかという問題だ。数学的な数列や人工的な変調パターンを探す方法では、未知の文明がまったく異なる通信方式を使っていた場合、その信号を見落とす恐れがある。一方、極めて規則正しい信号だからといって、知的生命が発したものとは限らない。その代表例が、高速で自転する中性子星「パルサー」である。

パルサーは自転に伴って規則的な電波パルスを放射する天体だ。1967年に最初のパルサーが発見された際、そのあまりに正確な周期性から、地球外知的生命が発した信号ではないかという可能性も検討された。発見された信号源は「LGM-1(Little Green Men:小さな緑の宇宙人)」という愛称で呼ばれたが、後に自然の天体現象であることが判明した。この歴史は、規則性だけでは人工信号と自然信号を区別できないことを物語っている。

今回の研究では、信号に込められた情報の意味を理解することよりも、周囲の自然信号とどれほど異なる構造を持っているかを重視した。具体的には、背景となるパルサーの電波パルスと比較し、周期や発信時間が最も重なりにくい信号を数学的に求める。信号の内容を解読できなくても、自然界の放射とは異なる特徴を持つなら、追加調査の候補にできるという考え方だ。

この発想の背景には、人間以外の生物が使う通信手段への関心がある。地球上では鳥の鳴き声やクジラの歌、昆虫の発光など、多様な生物が周囲の雑音や他の個体の信号に埋もれず、仲間に情報を伝える仕組みを発達させてきた。仮に地球外文明が自らの存在を遠方へ知らせようとするなら、その信号も自然界の放射から識別しやすい形に工夫されている可能性がある。研究チームは、こうした仮説を検証する題材としてホタルの求愛行動を選んだ。

ホタルの発光戦略を電波信号の数理モデルに応用

ホタルは繁殖期になると、種ごとに特徴的な点滅パターンで光を発し、交尾相手を引き寄せる。複数の種類のホタルが同じ場所に生息している場合、周囲ではさまざまな周期の光が点滅するため、自分の信号を他の個体の発光と区別してもらう必要がある。単に明るく光るだけでなく、発光のタイミングや持続時間を変えることが、仲間に存在を知らせるうえで重要になる。

ただし、発光には代謝エネルギーが必要であり、捕食者に発見される危険も伴う。そのため、ホタルの発光パターンには、他種と区別しやすいことと、発光に伴うコストや危険を抑えることの間にトレードオフがあると考えられている。研究チームは、2022年に報告されたホタルの発光パターンの進化モデルを基に、この関係を宇宙の電波信号へ応用した。実際のホタルを使って宇宙通信を実験したわけではなく、発光行動を説明する数学的な仕組みを利用した研究である。

今回のモデルでは、信号を「オン」と「オフ」の2状態を繰り返すパルス列として表現する。その構造を決める主な要素は、繰り返しの間隔を表す周期(Period:(P))、1回のパルスが続く時間((\tau))、そして信号の時間的な位置関係を表す位相(Phase)だ。周期に対して信号がオンになっている時間の割合を「絶対デューティ比(Absolute Duty Cycle)」と呼び、次の式で表す。

[ D=\frac{\tau}{P} ]

絶対デューティ比は0から1までの値を取り、例えば0.36なら周期の36%の時間にわたって信号を発していることになる。研究チームは、このデューティ比を送信に必要なエネルギーの代替指標として採用した。発信時間が短ければエネルギー消費も少なくなるという単純化した仮定であり、送信装置の実際の消費電力や必要なエネルギー量を計算したものではない。

最適化に用いるコスト関数は、背景信号との類似度と、送信時間に基づくエネルギー指標を組み合わせたものだ。コストを0〜1の範囲で表すと、次のようになる。

[ C=w_sS+(1-w_s)D ]

ここで、(S) は背景パルサー群との平均類似度、(D) はデューティ比、(w_s) は類似度をどれだけ重視するかを決める0〜1の重み係数である。論文では、この値を100倍した百分率のコストも使用している。類似度は、2つの信号でオンとオフの状態が一致する最長の時間区間を、位相の違いも考慮して評価する仕組みだ。コストが低いほど、設定された条件の下で望ましい信号構造と判定される。

(w_s=1.0) の場合はエネルギー消費を考慮せず、背景信号との類似度を最小化することだけを目指す。一方、(w_s) を小さくすると、背景との違いを保ちながら、信号を発する時間を短くすることにも重みが置かれる。つまり、他の信号と区別しやすいことと、発信に伴うコストを抑えることの両立を図るモデルだ。ただし、エネルギー消費の評価はデューティ比に依存しているため、この最適解が現実の通信装置でも最も省エネルギーになるとは限らない。

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3,724基のパルサーデータを使って自然の電波信号を再現

人工信号を自然界の放射から区別するには、比較対象となる自然信号の特徴を把握する必要がある。研究チームが選んだのは、強い周期性を持つパルサーだ。パルサーは高速で自転する中性子星で、その放射ビームが地球の方向を向くたびに規則的なパルスとして観測される。こうした特徴は、人為的に周期を設定した送信機の信号とも似ているため、今回の研究では人工信号を区別するための比較対象に採用された。

研究チームは、オーストラリア国立望遠鏡機構(ATNF)が管理するパルサーカタログのバージョン2.8.1に収録された3,724基のデータを利用した。ただし、実際に観測されるパルサーの電波は、強度が連続的に変化する複雑な波形である。今回のモデルでは、電波の流束密度が設定したしきい値を超えた部分を「1」、それ以外を「0」とする2値信号に変換した。この処理により比較は簡単になるが、パルスの立ち上がりや減衰、内部の微細な強度変動といった情報は失われる。

主な検証では、地球から半径5キロパーセク(約1万6,300光年)以内に位置し、1,400MHzでの平均流束密度が1mJy(ミリジャンスキー)を超える158基のパルサーが選ばれた。1,400MHzは、中性水素の21cm線に対応する1,420.4MHzに近い周波数で、SETIでも重要視されてきた電波帯域に位置する。研究チームは、この158基のパルス構造を自然由来の背景信号として扱い、それらと区別しやすい仮想的な人工信号を生成した。

信号の探索範囲は、周期と絶対デューティ比をそれぞれ100分割した100×100の格子として設定された。各パラメータの範囲は、背景となるパルサー集団の平均値や標準偏差を基に決めている。そのため、現実のパルサーとかけ離れた極端な信号を無制限に探すのではなく、パルサーの特徴を基準とした一定の範囲内で、背景との類似度が低い信号を探索する仕組みになっている。

ただし、ここで評価されたのは、数式に基づくコスト関数をどこまで小さくできるかという点だ。実際の電波望遠鏡で人工信号を検出できる確率や、自然現象を人工信号と誤認する偽陽性率を測定したわけではない。実観測での検出性能を判断するには、別途検証が必要になる。

エネルギー制約を加えると、パルスの発信時間が約92分の1に

研究チームは、100×100の探索範囲に対して、重み係数 (w_s) を0.0、0.2、0.5、0.8、1.0と変化させ、それぞれの条件でコストが最小になる信号を求めた。その結果、エネルギー消費を考慮するかどうかによって、最適な信号構造が大きく変わることが分かった。

エネルギー消費をまったく考慮せず、背景との違いだけを重視する (w_s=1.0) の条件では、周期が約25ミリ秒弱、絶対デューティ比が約0.36(36%)の信号が選ばれた。これは、1周期の3分の1以上の時間にわたって電波を発する、比較的オン時間の長いパルス列だ。背景との類似度を最小化するという目的に限れば、このような構造が最適と判定された。

ところが、重み係数を (w_s=0.8) に下げ、送信時間を短くすることにも重みを与えると、最適なデューティ比は約0.0039(0.39%)へと急減した。(w_s=1.0) の場合と比較すると、オンになっている時間の割合は約92分の1である。さらに、今回試した (w_s=0.5)、0.2、0.0の条件でも、同じ短いパルス構造が選ばれた。モデル内では、エネルギー消費を考慮しない場合と、少しでも考慮する場合とで、最適解が大きく分かれたことになる。

重み係数による最適デューティ比の変化横棒グラフ。カテゴリ 2 件、系列: 最適デューティ比(単位: %)ws=1.0(際立ち重視)ws=1.0(際立ち重…ws=1.0(際立ち重視) — 最適デューティ比: 36%36ws=0.8以下(省エネ考慮)ws=0.8以下(省エ…ws=0.8以下(省エネ考慮) — 最適デューティ比: 0.39%0.39単位: %
データを表で見る
最適デューティ比 (%)
ws=1.0(際立ち重視)36
ws=0.8以下(省エネ考慮)0.39
重み係数による最適デューティ比の変化類似度の重みwsを1.0から0.8に下げると、デューティ比は約92分の1になった出典: Scientific Reports (2026), DOI: 10.1038/s41598-026-67878-z

この結果は、自然界の規則的な電波信号から区別しやすく、なおかつ発信時間を抑えるという条件を設けた場合、ごく短いパルスを繰り返す信号が選ばれる可能性を示している。ただし、これは今回設定したコスト関数と探索範囲に基づく結果であり、地球外文明が実際にそのような通信方式を採用することを意味しない。また、デューティ比の減少は送信時間の割合を表すもので、実際のエネルギー消費量が92分の1になると実証したものでもない。

研究チームはさらに、最適化した仮想信号と158基の背景パルサーについて、同じコスト関数を適用して比較した。(w_s=0.0) の条件では、仮想信号のコストは背景パルサーの84.30%より低い位置にあった。背景との違いだけを重視する (w_s=1.0) では、論文の図3の説明によると、その割合は99.69%に達した。もっとも、これは設定した数理モデル内でのコスト比較であり、人工信号を99.69%の精度で検出できたという意味ではない。

興味深いことに、(w_s=1.0) の条件では、最適化した仮想信号と同等か、それより低いコストを示す自然天体が2基存在した。「J1748-2446C」と「J1824-2452A」だ。両者は自転周期が1〜10ミリ秒のミリ秒パルサーであり、特殊な進化過程によって高速回転するようになった自然の天体として説明できる。研究チームも、これらを地球外文明からの信号だと主張しているわけではない。

この2基の存在は、モデルで特異なスコアが得られたからといって、その信号が人工的に作られたとは判断できないことを示している。研究チームはミリ秒パルサーに合わせて探索範囲を広げた場合も検討しており、周期1〜10ミリ秒の範囲では、さらに低いコストを持つ仮想信号を生成できた。最適解は探索範囲や計算の細かさによって変わり得るため、特定のスコアを人工信号の絶対的な判定基準にすることはできない。

研究チームは、背景パルサーを選ぶ条件を変更した場合についても分析した。主な検証では平均流束密度を基準に158基を選んでいたが、概算したパルス流束を使う条件では対象が803基に増加した。それでも、エネルギー制約を加えるとデューティ比が大幅に短くなるという定性的な傾向は維持された。ただし、こうした条件変更に対する安定性が確認されたことと、実際の観測データで有効に機能することは別の問題である。

今回の研究と従来の代表的なSETI手法の違いを整理すると、次のようになる。

比較項目 従来の代表的なSETI手法 今回のホタル着想モデル
主な探索対象 狭帯域電波、レーザーパルス、人工的な変調など 背景パルサーと構造的に異なるパルス列
判定に使う特徴 周波数、帯域幅、周期性、変調など 周期、デューティ比、背景信号との類似度
自然背景の扱い 自然放射や雑音を除去・識別する 自然信号の分布を、信号の識別性を評価する基準として利用
信号の意味の解読 検出段階では必須ではないが、内容の解読も研究対象 意味の解読を前提としない
得られる結果 条件に合う観測信号の候補 設定した条件下で背景との違いが大きい信号構造
主な限界 想定外の通信方式を見落とす可能性 構造的な特異性だけでは人工信号と判断できない

従来のSETIにも、信号の意味を解読せずに人工的な特徴を探す手法は存在する。そのため、今回の研究が初めて「解読しない探索」を提案したわけではない。新しいのは、ホタルなど人間以外の生物が発達させてきた通信戦略を手がかりに、自然背景との構造的な違いと発信コストの関係を数理的に評価した点だ。研究チームは、こうした生物学的な視点が、従来とは異なる種類の信号を探索する手がかりになると考えている。

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信号の「際立ち」は人工的に作られた証拠ではない

今回のモデルを実際のSETIに応用するうえで、最大の問題となるのは、自然界の信号と大きく異なることが、必ずしも人工的な起源を意味しない点だ。天文学では、それまで知られていなかった特異な信号が、後に新しい自然現象として説明される例が繰り返されてきた。1967年のパルサー発見に加え、高速電波バースト(FRB)や超長周期で電波を放つ天体なども、従来の理解では説明が難しい信号として研究されている。こうした現象を考えると、背景パルサーと異なる信号を検出した場合でも、まず未知の天体物理現象である可能性を検討する必要がある。

今回の手法が役立つとすれば、人工信号であることを直接証明するためではなく、詳しく調べる価値のある信号を選び出すためだ。電波望遠鏡が収集する膨大なデータから、既知の自然信号と異なる周期や発信時間を持つ候補を抽出し、追加観測や別の解析手法によって調べる使い方が考えられる。ただし、そのような運用で検出率や偽陽性率がどの程度になるかは、今回の研究では検証されていない。

モデル自体にも、いくつかの重要な制約がある。まず、実際のパルサーの電波波形をオンとオフの2値信号に単純化したことで、パルスの立ち上がりや立ち下がり、内部の微細な強度変動などが失われている。こうした連続的な波形の特徴には、信号の発生機構や情報の有無を判断するうえで重要な手がかりが含まれている可能性がある。著者らも、これらの情報を保持した解析手法の開発が今後の課題になると認めている。

さらに、今回の最適化は周期とデューティ比という2つの主要なパラメータに基づいているため、解が探索範囲の端に偏りやすい。研究チームは、背景パルサーが多く分布する領域を避けた結果、周期やデューティ比の極端な値が最適解として選ばれる傾向を確認した。これは、自然信号と本質的に異なる構造を見つけたというより、設定された探索範囲の中で比較対象が少ない領域を選んでいる可能性を意味する。探索範囲や格子の細かさを変えれば、最小コストの値や最適解が変化する余地もある。

また、モデルで使われる「進化」という言葉にも注意が必要だ。元になったホタルの研究では、世代を重ねる中で発光パターンが変化する進化モデルが使われていた。一方、今回のSETIモデルでは、複数の地球外文明が世代交代や競争を通じて通信技術を進化させる過程を再現したわけではない。あらかじめ設定した探索範囲内でコスト関数を計算し、最小となる信号構造を選び出している。

実際の地球外文明がこのような通信方式を採用すると仮定する場合も、別の条件が必要になる。例えば、送信側が地球から観測できるパルサーを把握し、その背景と区別しやすいパターンを意図的に選んでいる可能性を考えなければならない。数千光年離れた文明から届く電波は数千年前に発せられたものであり、送信時と受信時で背景となる天体の状態が変化している可能性もある。研究チームは、パルサーの周期が時間とともに変化する影響について、現在のモデルでは十分に扱っていないことも説明している。

それでも今回の研究には、SETIの探索対象を広げるという意義がある。地球外文明が人類と同じ通信技術を使うと仮定せず、地球上の多様な生物がどのように存在を知らせているかを手がかりにすることで、新しい信号の評価方法を考えられるためだ。今後は、実際の電波望遠鏡の観測データに適用し、複雑な背景ノイズの中で候補を検出できるか、既知の自然現象をどの程度正しく区別できるかを検証する必要がある。

今回の研究が示したのは、地球外文明の通信方式そのものではなく、未知の信号を探すための新たな考え方だ。 ホタルの発光から導いた「周囲と区別しやすく、発信コストを抑えた信号」という視点が、実際のSETIで有効な探索指標となるかどうかは、今後の観測データを使った検証にかかっている。