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MicronもDDR4生産終了を決定:価格はDDR5と逆転する可能性も

Y Kobayashi

2025年6月14日

半導体大手Micronが、DDR4メモリの生産終了(EOL: End of Life)を顧客に通達したことが報じられている。Samsung、SK hynixに続くこの決定は、メモリ市場の「ビッグ3」がDDR4から事実上総撤退することを意味し、一つの時代の終焉を告げる象徴的な出来事だ。

しかし、ここで奇妙な現象が起きている。市場にはDDR4を搭載したPCが今なお数億台規模で稼働しており、その需要は衰えるどころか、むしろ旺盛だ。需要があるにもかかわらず、なぜメーカーは供給を止めるのか?この逆説的な状況こそ、AIという巨大な波が半導体業界の勢力図をいかに根底から塗り替え、その余波が我々一般ユーザーのPC環境にまで及んでいるかを如実に物語っている。

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「最後のドミノ」が倒れた日 – 大手3社がDDR4から完全撤退

今回のニュースの核心は、Micronが「最後のドミノ」であったという点にある。すでに競合であるSamsungは2025年内の生産終了を表明しSK hynixも同様の動きを見せていた。そこにMicronが追随したことで、世界のDRAM市場で圧倒的なシェアを誇る大手3社が、DDR4という巨大市場から一斉に舵を切ることが確定した。

DigiTimesの報道によると、MicronのDDR4チップ出荷は、今後6ヶ月から9ヶ月(2〜3四半期)をかけて段階的に縮小される。これは、市場に急激な断絶をもたらすのではなく、ソフトランディングを目指す意図の表れともとれるが、DDR4時代の幕引きが公式に始まったことに変わりはない。

この動きは、Intelの第6世代Coreプロセッサ(Skylake)から第10世代(Comet Lake)まで、そしてAMDのAM4プラットフォーム(Ryzen 5000シリーズまで)といった、一昔前の、しかし今なお現役で活躍する数多くのPCにとって、まさに「悪い知らせ」である。特に、長期にわたる互換性とアップグレードの容易さで「延命」のしやすさを誇ってきたAMDのAM4プラットフォームは、その最大の強みを根底から揺さぶられることになるだろう。

なぜ旺盛な需要を背に撤退するのか? AI時代が求める「選択と集中」

消費者の視点から見れば、需要のある製品の生産を止めるという判断は不可解に映るかもしれない。しかし、これは半導体メーカーの極めて合理的な経営判断、いわば「戦略的再配分」の結果なのだ。

利益率のジレンマ:DDR4 vs DDR5/HBM

現在の半導体業界における最大の成長ドライバーは、言うまでもなくAIだ。AIサーバーに不可欠なHBM(High-Bandwidth Memory)は、極めて高い利益率を誇る金のなる木であり、その需要は爆発的に伸びている。Micron自身も次世代HBM4メモリのサンプル出荷を開始するなど、開発競争は熾烈を極めている。

一方で、DDR4は長年の量産効果と、後述する中国メーカーとの競争激化により、利益率が大幅に低下した「コモディティ(汎用品)」と化してしまった。企業にとって、限られた製造ラインや開発リソースを、低収益のDDR4に割り当て続けることは、高収益なDDR5、LPDDR5、そしてHBMへの投資機会を失うことを意味する。いわば、DDR4の生産継続は、莫大な「機会費用」を払い続ける行為に他ならないのだ。

中国メーカーとの競争激化というもう一つの側面

大手の撤退を後押ししたもう一つの要因が、中国メモリメーカーの台頭である。CXMT(ChangXin Memory Technologies)などに代表される中国勢は、近年DDR4の生産能力を急速に拡大し、低価格を武器に市場シェアを奪ってきた。この価格競争が、DDR4の収益性をさらに悪化させたことは想像に難くない。

大手3社にとって、もはや旨味のなくなったDDR4市場の覇権を中国メーカーと争うよりも、技術的優位性の高いDDR5やHBMといった次世代メモリ市場へ完全にシフトし、そこで確固たる地位を築く方がはるかに賢明な戦略なのである。

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「DDR5より高価に」- 価格高騰と供給不安の現実味

大手メーカーの撤退がもたらす最も直接的な影響は、DDR4メモリの価格高騰だ。すでにその兆候は市場に現れている。

台湾の市場調査会社TrendForceは、2025年第2四半期におけるPC向けDDR4の契約価格が13~18%上昇すると予測。さらにスポット市場では、5月単月で価格が50%も急騰したとの報道もある。市場は明らかにパニックに近い状況を呈している。

さらに衝撃的なのは、Micronのチーフ・ビジネス・オフィサーであるSumit Sadana氏が示唆した未来だ。同氏は、DDR4が深刻な供給不足に陥り、将来的にはDDR5やLPDDR5よりも高価になる可能性があると指摘している。

これは経済学の基本原則に照らし合わせれば、十分に起こりうるシナリオだ。需要曲線が大きく変わらない一方で、供給曲線が急激に左へシフト(供給が激減)すれば、均衡価格は必然的に上昇する。最新世代のDDR5が大量生産によって価格が安定していくのとは対照的に、旧世代のDDR4は希少性から「レガシー・プレミアム」が上乗せされるという価格の逆転現象が現実味を帯びてくる。

既存ユーザーへの警鐘と、空白の市場を埋める者たち

この状況は、DDR4ベースのPCを使い続けるユーザーに、厳しい選択を迫る。

メモリ増設によるパフォーマンス向上という、最も手軽でコストパフォーマンスの高い「延命措置」が、今後は高コストかつ困難になるからだ。アップグレードを検討しているユーザーは、まさに「今すぐに行動すべきか」という決断を迫られている。

では、大手3社が去った後のDDR4市場は、一体誰が担うのだろうか。

その筆頭として名前が挙がるのが、前述のCXMTや、台湾のNanya、Winbondといったメーカーだ。彼らが大手の抜けた穴を埋めるべく、DDR4の生産を継続、あるいは拡大する可能性もある。だが、CXMTに関しては、中国の国策の影響で、DDR5及びHBM生産に舵を切り、DDR4の生産を終了するとの噂も流れている。これが事実ならば、DDR4の供給に大きな影響が出ることは必至だ。

また、別の問題も浮上する。それは「品質と信頼性の壁」だ。長年にわたり世界中のPCメーカーに採用されてきた大手3社の製品が持つ品質、互換性、そして長期的な信頼性を、新興メーカーが同等レベルで提供できるかは未知数である。特に、PCの安定動作に直結するメモリにおいて、品質のばらつきは深刻な問題を引き起こしかねない。

ただし、すべてのDDR4が消え去るわけではない。Micronは、自動車、産業、ネットワークといった、製品の信頼性と長期安定供給が何よりも優先される特定分野の長期契約顧客に対しては、DDR4の供給を継続するとしている。これは、コンシューマ市場とは異なる、もう一つのDDR4の生き残り戦略を示している。

技術革新の必然と、ユーザーに求められる新たな視点

Micronを最後の一社とするメモリ大手3社のDDR4生産終了は、単なる一コンポーネントの世代交代ではない。これは、AIという巨大な技術トレンドが半導体産業の構造を根底から変え、その戦略的優先順位の変更が、最終的に我々コンシューマのPC環境にまで影響を及ぼすという、壮大な連鎖反応の一端である。

既存のPCユーザーにとって、これは短期的に見ればコスト増につながる厳しいニュースだ。しかし、長期的な視点に立てば、これは技術革新に伴う必然的なプロセスでもある。DDR5はDDR4に比べて帯域幅が広く、エネルギー効率も高い。AI機能がPCにも当たり前に搭載される未来を見据えれば、より高性能なメモリへの移行は避けられない道程なのだ。

この大きな変化の波の中で、我々ユーザーに求められるのは、もはや「いつメモリを買い足すか」という短期的な視点だけではない。「自身のデジタルライフにおいて、PCに何を求め、いつ次世代へ移行するべきか」という、より長期的で戦略的な視点から、自らのPC環境を再評価することなのかもしれない。DDR4の終わりの始まりは、我々一人ひとりにとって、新たな始まりを考えるきっかけを与えている。


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