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Microsoft、軽量CLIエディタ「Edit」をWindows 11に標準搭載へ ― オープンソースで開発者・初心者双方に光

Y Kobayashi

2025年5月22日

かつてMS-DOSのコマンドプロンプトで開発者やパワーユーザーの傍らにあったテキストエディタ「Edit」。その名を冠した新たなコマンドラインインターフェース(CLI)テキストエディタが、Microsoftによって現代に蘇ろうとしている。Buildカンファレンスで発表されたこの新しい「Edit」は、オープンソースプロジェクトとしてGitHubで公開され、将来的にはWindows 11に標準搭載される予定だ。これは単なるノスタルジーか、それとも現代のニーズに応える戦略的な一手なのだろうか?

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帰ってきた「標準」、64bit版Windowsの空白を埋める一手

長らく、64bit版のWindowsには標準のCLIテキストエディタが存在しなかった。32bit版WindowsにはMS-DOS由来の「edit.com」が含まれていたが、64bit環境ではその姿を消していたのだ。開発者やシステム管理者は、VimやNanoといったサードパーティ製エディタを別途インストールするか、あるいはGUIのテキストエディタとコマンドラインを行き来する必要があった。

MicrosoftのWindows Terminal担当プロダクトマネージャー、Christopher Nguyen氏は公式ブログで、「Edit開発の動機は、64bit版WindowsにおけるデフォルトCLIテキストエディタの必要性だった」と語る。この「不在」を解消し、誰もが手軽に利用できるエディタを提供することが、新しい「Edit」の使命と言えるだろう。

これは開発者体験向上を目指すMicrosoftの広範な取り組みの一環と見られる。コマンドラインでの作業効率を上げることは、多くの開発者にとって喫緊の課題であり、その解決策の一つとして「Edit」が位置づけられているのは想像に難くない。

なぜVimやNanoではダメだったのか? 「モデルレス」へのこだわり

「Vimの終了方法が分からない」というミームは、プログラマー界隈ではあまりにも有名だ。Vimは非常に高機能で強力なエディタだが、モードの概念があり、習得には一定の時間を要する。

Microsoftはこの点を意識しており、Nguyen氏は「組み込みのデフォルトエディタでこれを避けたかったため、Windows用にはモーダルエディタ(ユーザーが異なる操作モードやその切り替え方を覚える必要があるもの)ではなく、モデルレスエディタが望ましいと判断した」と述べている。

この判断は、初心者からベテランまで、幅広いユーザー層をターゲットにしていることを示唆している。GitHubのプロジェクトページに「その主な目標は、コマンドラインに不慣れなユーザーでも簡単に使える、アクセスしやすいテキストエディタを提供することだ」と、あるように、シンプルで直感的な操作性を重視した結果が、「モデルレス」という選択なのだろう。

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軽量かつ現代的、新生「Edit」の主な特徴

新しい「Edit」は、MS-DOS時代のそれとは異なり、現代的な機能と利便性を備えている。

  • 驚異的な軽量性: ファイルサイズは250KB未満。これにより、Windows 11のOSイメージに含める際のフットプリントを小さく保つことができる。
  • テキストベースのユーザーインターフェース (TUI): GUIではなく、コマンドライン内で完結するインターフェースを持つ。
  • マウスサポート: CLIツールでありながら、マウスによる操作も可能。
  • キーバインド: 全てのメニューオプションにはキーバインドが用意されており、キーボード中心の操作も快適。
  • 複数ファイル編集: 複数のファイルを同時に開き、Ctrl+P(または画面右下のファイルリストをクリック)で切り替え可能。
  • 検索と置換: Ctrl+Rまたはメニューから利用可能。大文字・小文字の区別や正規表現にも対応。
  • ワードラップ: Alt+Zまたはメニューからオン/オフを切り替えられる。
  • オープンソース: MITライセンスの下、GitHubでソースコードが公開されており、誰でもビルドや改良に参加できる。The Registerによると、Rustで記述されているという。

これらの特徴から、新しい「Edit」は単なる「昔の名前で出ています」的な存在ではなく、現代のCLI作業を効率化するための実用的なツールを目指していることがわかる。

AI時代にあえてのシンプルさ? 開発者の新たな選択肢となるか

新しいエディタは、執拗なAIの誇大広告、Copilot広告、そしてシステムに溢れる不要な機能にうんざりしているPCユーザーにアピールする可能性もあるだろう。

軽量でシンプル、そして(今のところ)AI機能とは無縁の「Edit」の登場は、ある種の清涼剤として受け止められるかもしれない。開発者が純粋にコーディングや設定ファイルの編集に集中できる、ミニマルな環境を提供するという価値は、情報過多の現代においてむしろ新鮮だ。

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今後の展開と入手方法

Microsoftによると、「Edit」は今後数ヶ月以内にWindows Insider Programでプレビュー版が提供され、その後、正式にWindows 11の一部として出荷される予定だ。
しかし、待てないというユーザーは、すでにGitHubの公式リポジトリからソースコードをビルドしたり、最新バージョンをインストールしたりすることができる。

フィードバックや質問は、同リポジトリで受け付けているとのことなので、興味のある開発者は積極的に関わってみるのも良いだろう。

古くて新しい「標準」への期待

Microsoftが送り出す新しい「Edit」は、単に過去の遺産を復活させる試みではない。64bit版WindowsにおけるCLIテキスト編集の「標準」となることを目指し、軽量性、シンプルさ、そしてオープンソースという現代的なアプローチを取り入れた意欲的なプロジェクトだ。

VimやEmacsのような高機能エディタの牙城を崩すものではないかもしれないが、コマンドラインに不慣れなユーザーへの入門ツールとして、また、熟練者が手早くファイル編集を行うための軽量オプションとして、その存在価値は大きい。

特に、WSL (Windows Subsystem for Linux) の普及によりWindows上でのCLI利用が増加している現在、このようなネイティブなCLIエディタの充実は歓迎すべき動きと言えるだろう。

「AI疲れ」が囁かれる中で、このシンプルで実用本位なツールが、多くのWindowsユーザーにとって新たな「古き良き相棒」となるのか、大いに注目したいところだ。


Sources

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