シンガポールの新興企業Nexstromは2026年9月22日、Xora Innovationが主導するシードラウンドで1200万ドル(約18.8億円)を調達したと発表した。資金の使い道は、2D半導体の材料であるTMD(遷移金属ダイカルコゲナイド)を300mm(12インチ)ウェハー上に直接成長させる装置「North Star」の商用化である。2D材料のトランジスタについては2026年6月、ASML、TSMC、imecが300mmウェハー上での統合を実証したが、そのチャネルは別の基板で育ててから転写したものだった。量産ラインが求める品質の膜を、ウェハーの上で直接そろえて育てられるか。Nexstromが答えを示そうとしているのはこの一点であり、同社の資料と経営陣の発言を突き合わせると、その到達点が「300mmで達成」なのか「10月末に完了予定」なのかという時点の差も見えてくる。

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累計1500万ドルのうち2割は株式を渡さない資金

今回のラウンドはXora Innovationがリードし、Foothill VenturesとSEEDSが参加した。同社によれば累計の調達額は1500万ドル(約23.6億円)で、このうち300万ドルは非希薄化資金だという。

非希薄化資金とは、助成金のように株式を渡さずに受け取る資金を指す。累計1500万ドルのうち2割にあたる300万ドルは、株式を渡さない非希薄化資金である。出し手は明かされておらず、評価額と投資家ごとの出資額も公表されていない。円換算は1ドル=157円(2026年9月22日時点)で計算した。

Nexstromは投資家がつくった会社でもある。公式サイトの年表は、2024年にLance LiとXora Innovationが同社を創業したと記す。同社はXoraのベンチャービルディング、つまり投資会社が事業の立ち上げ段階から関わる枠組みの中で生まれた。XoraはTemasekの傘下にあるVCと報じられている。参加したSEEDSは、Enterprise SingaporeとEDB(シンガポール経済開発庁)の投資基盤であるSG Growth Capitalに属する政府系の投資主体だ。

経営陣には、TSMCで研究に携わった人物が並ぶ。CEOのPhoebe Tan博士は共同創業者で、チーフサイエンティストのLance Li博士はTSMCでポストシリコン電子デバイスの研究を率いた経歴を持つ。Li博士は2012年から単結晶MoS2(二硫化モリブデン)のCVD(化学気相成長)に取り組んできた研究者で、プレスリリースは2018年以降Clarivateの高被引用研究者に選ばれていると記す。取締役会のアドバイザーには、2018〜2020年にTSMCの研究担当副社長を務めたStanford大学のPhilip Wong教授が入った。

この布陣が売るのはチップの材料を育てる装置で、チップそのものは作らない。EDBによれば、シンガポールは世界の半導体の10個に1個、半導体装置の5台に1台を担う。Nexstromはファウンドリと競合する立場を取らず、材料と装置を供給する側に立つ。政府系の投資主体が出資に加わり、装置産業が集まる国で、装置会社として出発したことになる。

厚さ1nm未満の結晶がシリコンの先を担う候補になる理由

トランジスタを小さくするには、電流の通り道であるチャネルも薄くしなければならない。imecによれば、シリコンのチャネルは厚さが10nmを切ると移動度(電子の動きやすさ)とオン電流が大きく落ちる。TMDは、モリブデンやタングステンなどの金属と硫黄やセレンが層をなす結晶で、単層の厚さは約0.7nmしかない。

シリコンが性能を落とす厚さよりさらに薄いチャネルを、結晶そのものの厚みで作れる。この性質が、TMDが次世代チャネルの候補に挙がる理由である。XenoSpectrumでは短チャネル効果の基礎をMoS2ウェハーの転写レス成長の研究記事で扱った。

ただし、薄いだけではトランジスタにならない。2021年にNature Electronicsへ掲載されたDasらの総説は、最良のTMDでも金属との接触比抵抗が高濃度にドープしたシリコンより約1桁高いと指摘する。imecのGouri Sankar Karも、2D TMDではこれまで接触抵抗を下げるために接触面積を大きく取る必要があり、それが微細化を妨げてきたと説明している。

もう一つの壁が膜そのものだ。IntelのKevin O'Brienは2024年10月のSemiconductor Engineeringの記事で、膜品質の向上と一貫性なしに2D半導体は量産できないと述べた。同じ記事でCEA-Letiは、最良のCVD膜はサファイアなどの基板上で600°Cを超える温度で成長させたものだと説明している。性能の良い膜はあっても、それがシリコンウェハー全面に、どの場所でも同じ品質で育つとは限らない。

Nexstromが狙うのは、この二つの壁のうち膜の側である。Li博士はプレスリリースで「課題は2D材料の可能性を示すことではなく、先端ファウンドリが求める規模と品質で製造することだ」と述べ、Wong教授も「業界は300mm基板上の高品質で均一な2D材料を必要としている」とコメントした。接触抵抗の問題は、同社の装置が直接には扱わない領域として残る。

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「300mmで達成」と「12インチは10月末」、同じ会社の二つの時制

製品のNorth Starは、300mm(12インチ)ウェハー上にTMDを直接成長させる装置だ。公式サイトはコールドウォール型のCVD装置と説明し、2025年にMOCVD(有機金属気相成長)のプラットフォームを100mmウェハーまで広げたと記す。問題は、その先の12インチがどこまで進んでいるかである。

同社自身の表明を並べると、時制がそろっていない。プレスリリースの会社概要は、12インチの単結晶2D半導体を製造する「業界初のプラットフォームを開発した」と完了形で書く。ところが同じリリースの本文には「業界初の12インチ2Dウェハー成長に向けて進んでいる」という進行形の記述もある(原文:"driving toward the industry's first 12-inch 2D wafer growth")。公式サイトの年表は2026年の項目に「300mmウェハー上で商用グレードのTMD合成を達成」と記す。

CEOのPhoebe TanはTechCrunchに対し、別の段階を語った。導入したばかりの12インチ装置でウェハー上の材料結果を得たと述べたうえで、2インチから6インチまで段階的に広げてきた工程について「8インチと12インチは10月末までに完了する予定だ」と説明している。つまり、プレスリリースと公式サイトが300mmでのTMD成長を達成済みと書く一方で、CEOは12インチの工程完了を2026年10月末の予定として語っている。

二つの表明は、両立しうる。12インチの装置で材料の手応えを得たことと、12インチの工程を完了させることは別の段階を指している可能性があるからだ。

それでも読者がここから読み取れるのは、12インチの装置が動き始めて材料の結果が出た段階までである。300mmで量産に使える膜を安定して育てる工程が完成したとは、同社のCEO自身が述べていない。第三者による300mmウェハーの品質評価も公開されていない。TechCrunchによれば業界の一部企業がサンプルを試験しているが、社名は明かされていない。

「業界初」という表現にも留保が要る。MIT発のCDimensionは2025年7月に300mmウェハー全面での2D材料成長を発表している。単結晶かどうかなど何を基準に「初」とするかで、この主張が成り立つかは変わる。

性能の数字も同じ構図にある。公式サイトは性能として「欠陥密度を最大100分の1に」「スイッチング電力を最大75%削減」「ゲート長を2倍超縮小」と掲げるが、何と比べた値か、どのウェハー径と測定条件で得た値かは示していない。比較対象がシリコンなのか、他の成長法によるTMD膜なのかで、数字の意味は大きく変わる。現時点でこれらは同社の主張として読むしかない。

1000°C、300°C、200°C:膜をウェハーに載せる三つの経路

2026年6月、ASML、TSMC、imecは、MoS2を使うn型トランジスタ(nFET)とWS2やWSe2を使うp型トランジスタ(pFET)を同じ300mmウェハー上に作り込んだと発表した。ゲート電極を並べる間隔であるコンタクテッドポリピッチ(CPP)は50nmで、動作したトランジスタは94%だった。チャネルの材料は、あらかじめタングステンを埋め込んだ溝を加工したウェハーの上へ、別の場所で育てた膜を転写している。業界の主要3者がそろって示した300mm統合の道は、直接成長ではなく転写だった。

転写が選ばれる理由は温度にある。imecによれば、2D材料をウェハー上で直接成長させるには通常約1000°Cが必要になる。一方で、別の基板で育てた膜を移す転写工程は約300°Cで済む。

配線層を作るBEOL(配線工程)やウェハー裏面の工程は、すでに作り込んだデバイスを傷めないよう400°C未満に抑えなければならない。1000°Cの成長を完成途中のウェハーの上で行えば、下にある回路がその熱に耐えられない。だから高温の成長は別の場所で済ませ、低温の転写で持ち込むという分業になる。

この壁を温度から崩そうとしているのが、MIT発のCDimensionだ。同社は2025年7月、約200°Cで300mmウェハー全面にMoS2の単層を成長させる独自工程を発表し、実用化までの期間を半分にできると主張した。IEEE Spectrumが伝えたこの発表は、BEOLの400°C未満という制約の内側に成長温度を収めたという主張である。

公表されている各経路を並べると、次のようになる。温度は各出典が示す代表値で、同じ条件で測った値ではない。

経路 公表されている温度 300mmでの状況 出典
直接成長(一般) 約1000°C 記載なし imec
高品質なCVD膜(サファイアなどの基板上) 600°C超 記載なし CEA-Leti(2024年10月)
別基板で成長させて転写 約300°C(転写工程) ASML、TSMC、imecが50nm CPPのn型とp型を統合、動作率94%(2026年6月) imec
CDimensionの低温直接成長 約200°C(同社の主張) 300mm全面にMoS2単層(2025年7月発表) IEEE Spectrum
Nexstrom North Star 非公表 300mmへの直接成長を掲げ、12インチ工程は10月末完了予定 同社、TechCrunch
参考:BEOLと裏面工程の上限 400°C未満 記載なし imec

2D材料をウェハーに載せる経路は、直接成長が通常約1000°C、別基板で育てて転写する方式が約300°C、CDimensionの低温成長が約200°Cで、Nexstromは300mmへの直接成長を掲げるが成長温度を公表していない。温度の列で値が埋まっていないのは、Nexstromの行だけだ。Nexstromの膜がどの温度で育つかによって、デバイスを作り込んだウェハーに直接載せられるのか、それとも別の基板で育てて転写する前工程の供給役になるのかが分かれる。

NexstromとCDimensionは、どちらも「ウェハーの上で直接育てる」ことを売りにする点で同じ側に立つ。違いは公表の軸である。CDimensionは温度を前面に出し、Nexstromは300mmという径と単結晶の品質を前面に出す。Li博士が2012年から取り組んできたのは単結晶MoS2の成長であり、同社が品質の均一性を主張の中心に置くのはこの経歴と一致する。

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2030年代前半の導入窓に、12インチの装置は間に合うか

Nexstromは装置の商用生産の準備が整う時期を2030〜2035年と見込んでいるとTechCrunchは伝える。この時期を、同社と業界の節目と同じ暦に並べると次のようになる。

時期 出来事 出典
2012年 Lance Liのグループが単結晶の単層MoS2のCVD成長を報告 Li研究室サイト
2024年 Lance LiとXora InnovationがNexstromを創業 同社公式サイト
2025年 MOCVDプラットフォームを100mmウェハーまで拡張 同社公式サイト
2025年7月 CDimensionが約200°Cでの300mm MoS2成長を発表 IEEE Spectrum
2026年6月 ASML、TSMC、imecが300mm50nm CPPの2Dトランジスタを発表(転写方式) imec
2026年9月22日 Nexstromが1200万ドルのシード調達を発表 同社プレスリリース
2026年10月末(予定) 8インチと12インチの工程完了 TechCrunch(CEO発言)
2030年ごろ imecのロードマップ上のA7ノード。2D材料はA7の周辺デバイスから導入する方針 Tom's Hardware(2023年時点の報道)、imec
2030〜2035年(見込み) Nexstromの装置の商用生産準備 TechCrunch
2036年まで A5〜A2ノードで原子レベルのチャネル Tom's Hardware(2023年時点の報道)

Nexstromは2024年の設立から2年でウェハー径を2インチから6インチまで広げ、8インチと12インチの工程完了を2026年10月末に置くが、商用生産準備は2030〜2035年と見込んでおり、imecがA7ノード(2030年ごろ)から2D材料を周辺デバイスに導入するとした時期と重なる。imecは2D材料を、最先端のトランジスタのチャネルより先に、まずBEOLやウェハー裏面に置く平面トランジスタのような周辺デバイスから使い始める方針を示している。A7を2030年ごろとする年次は2023年時点のロードマップ報道であり、その後に改訂されている可能性はある。

この重なりには、前の表と合わせて読むと一つの条件が付く。imecが最初の用途に挙げるBEOLや裏面は、400°C未満という制約がかかる場所そのものだ。そこへ直接成長の膜を持ち込むには、低温で育てるか、転写と組み合わせる必要が出てくる。Nexstromの成長温度が公表されていない以上、同社の装置が導入の最初の窓に入れるかどうかは、今の資料からは判断できない。

時期そのものが後ろへずれる要因もある。imecのKarは2024年10月、CFET(nFETとpFETを縦に積む構造)がシリコンの微細化を最大20年延ばしうると指摘した。シリコンが延命すれば、2D材料をチャネルに使う最先端ノードの需要はそれだけ先へ送られる可能性がある。IntelのO'Brienが量産の前提に挙げた膜品質の一貫性は、Nexstromについて第三者の評価データがまだ公開されていない項目である。

判断材料は近い順に三つある。10月末に8インチと12インチの工程を予定どおり完了したと示せるか。成長温度と、性能値の比較対象を公表するか。サンプルを試験している企業の名前や評価結果が表に出るか。この三つがそろい、300mm全面で均一な単結晶膜を再現できると第三者が確かめれば、ファウンドリは2D材料の供給源を外部に一つ持つことになり、imecが描く2030年代の段階導入に材料を渡す側の候補が具体的な装置の形で現れる。