NVIDIAは2026年10月28日、40言語の音声を文字に起こせるAIモデル「Nemotron 3.5 Transcribe」を公開した。数字の表記方法や専門用語を指示することで、同じ音声から用途に応じた文字起こし結果を生成できるのが特徴だ。通常の音声認識に加え、発話者を区別した文字起こしや、英語と他言語の間の翻訳にも対応する。公式モデルカードによると、日本語も対応言語に含まれている。

NVIDIAが公開した技術報告では、英語の公開9データセットにおける平均単語誤り率(WER)が4.71%となり、比較対象の公開重みモデルを上回る結果を記録した。ただし、この数値だけで日本語の認識精度や専門用語への対応力まで判断できるわけではない。QwenやWhisperなどの既存モデルと比較する際には、文字起こしの正確さだけでなく、指定した表記への追従性、話者の区別、そして実際に動作させるための計算資源も重要になる。

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専門用語や表記方法を指示できる音声認識モデル

Nemotron 3.5 Transcribeは、最大1時間の録音をまとめて処理できる音声認識モデルだ。文字起こしは40言語、英語との双方向翻訳は31言語、話者を区別した文字起こしは13言語に対応し、最大8人の話者を扱える。ただし、40言語すべてで同じ機能を利用できるわけではない。入力音声は16kHzのモノラル形式で、認識結果はテキストとして出力される。タスクごとの対応範囲は、NVIDIAの発表と公式モデルカードで確認できる。

特徴的なのは、認識する言語だけでなく、文字起こしの仕上がりも指示できることだ。例えば、言い淀みを残して発話を忠実に記録するか、数字の表記を整え、不要な言い淀みを除いて読みやすくするかを指定できる。専門用語や固有名詞の候補、望ましい表記も与えられるため、同じ録音でも利用目的に応じた出力が得られる設計となっている。ただし、文字起こしの形式を制御できることと、会議の内容を正確に理解して要約できることは別の能力である。

この仕組みは、音声認識の結果を別の言語モデルで整形するだけの構成とは異なる。NVIDIAの技術報告(Figure 2および第2章)によると、約6億パラメータの音声認識器と、約1億パラメータの学習済みパラメータを固定した「Sortformer」が並列に動作する。Sortformerは、誰がいつ発話しているかを推定する話者分離(Diarization)を担当する。音声認識器が抽出した音響特徴に、時間ごとの話者活動情報を組み合わせて言語モデルへ渡すことで、発話内容と話者情報を反映した文章を生成する。つまり、文章を生成した後に話者ラベルを付けるのではなく、生成の段階から話者情報を利用している。

内部処理では、短い音声区間で学習された話者分離器を効率的に活用するため、30秒単位で音声の特徴を抽出する。その後、各区間の特徴をつなぎ合わせ、長時間の録音でも話者ラベルの一貫性を保つ役割を言語モデルが担う。ただし、30秒ごとに認識結果をリアルタイムで返す仕組みではない。文章生成後には、CTC(Connectionist Temporal Classification)を利用した時刻推定用アダプターが音声とテキストを対応付け、単語ごとのタイムスタンプを生成する。なお、話者ラベルは発話者を区別するためのものであり、人物の身元を特定する機能ではない。

指示によって表記を変えられる能力は、学習データの構成とも関係している。NVIDIAが公開した「Granary v2」には、同じ発話について、言い淀みを含む逐語的な文字起こし、数字などの表記を整えながら言い淀みを残すもの、さらに言い淀みを除去したものなど、複数の正解データが用意されている。NVIDIAは、こうした指示と正解の組み合わせによる教師あり学習を行い、その後、認識精度を高めるための短期間の強化学習を追加したと説明している。単に音声を文字へ変換するだけでなく、目的に合った表記を生成する方法まで学習させているわけだ。

QwenやWhisperとの精度比較、英語の平均WERは4.71%

Nemotron 3.5 Transcribeは、英語の公開9データセットで平均単語誤り率(WER)4.71%を記録した。WERは、正解の文章に対して単語の置換、削除、挿入がどれだけ発生したかを、正解の単語数で割った指標である。数値が低いほど文字起こしの誤りが少ないことを意味する。NVIDIAの技術報告にあるTables 6、7、9を比較すると、公開重みモデルに対する優位性と、商用サービスを含めた場合の位置づけが見えてくる。

モデル 英語・公開9セット平均WER 長文3セット平均WER 多言語7言語平均WER
Nemotron 3.5 Transcribe 4.71 10.98 4.62
Qwen3-ASR-1.7B 4.94 未掲示 6.49
Granite-Speech-5.0-2B 5.06 未掲示 未掲示
Canary-Qwen-2.5B 5.38 14.08 未掲示
Parakeet-TDT-0.6B-v3 5.58 13.37 未掲示
Voxtral-Small-24B(2507版) 5.81 未掲示 6.52
Whisper-large-v3 6.66 13.92 7.94
OpenAI gpt-transcribe(技術報告での表記) 5.49 未掲示 未掲示
ElevenLabs Scribe v2 4.55 9.05 3.56
OtterAI speech-v3.1 3.88 未掲示 未掲示
AssemblyAI Universal-3 Pro 未掲示 10.35 未掲示

※数値はすべて%。「未掲示」は該当する比較結果が掲載されていないことを意味し、機能が未対応であることを示すものではない。

英語の結果は9データセットの単純平均で、比較値の参照日は2026年10月21日だ。長文の結果はEarnings21、Earnings22、CORAALの3データセットを対象としており、CORAALには地域別の平均値を使用している。また、録音を55分ごとに区切り、隣接する区間を5秒間重複させる条件で評価している。多言語の結果はドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、オランダ語、ヒンディー語の7言語について、それぞれの平均値を単純平均したものだ。日本語は含まれておらず、多言語比較値の参照日は2026年10月2日となっている。

公開重みモデルとの比較では、Nemotronは英語の平均WERで最も低い値を記録した。長文音声でもWhisper-large-v3の13.92%に対して10.98%と、良好な結果を示している。一方、商用サービスまで比較対象を広げると、ElevenLabs Scribe v2は英語4.55%、長文9.05%、多言語3.56%と、いずれもNemotronより低いWERを記録している。公開重みモデルの中で優れた結果を得たことと、すべての音声認識サービスを上回ることは区別しなければならない。

英語の公開9データセット平均では、Nemotronの4.71%とQwen3-ASRの4.94%の差は0.23ポイントだ。Qwen3-ASRを基準にした相対的な誤り率の減少は、0.23÷4.94×100で約4.7%となる。ただし、これはNVIDIAが報告した比較値から計算したものであり、すべてのモデルについてプロンプトや推論条件を完全に統一した網羅的な比較ではない。この差だけで統計的な有意性や運用コストの優劣まで判断することはできない。また、この技術報告はNVIDIAの研究者によるもので、査読を経たことは確認されていない。

個別のデータセットでは、競合モデルがNemotronを上回る例もある。会議音声の「AMI」ではGranite-Speechが6.96%だったのに対し、Nemotronは7.81%だった。また、劣化した音声を含む「URGENT24」ではQwen3-ASRが9.93%、Nemotronが11.00%となっている。平均WERだけでは、特定の録音環境における優劣を判断できないことが分かる。専門用語や複数の話者を含む録音では、単純な認識精度に加えて、出力をどこまで制御できるかも重要な比較項目となる。

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専門用語の指定で誤り率が大幅に低下、話者分離にも強み

専門用語や固有名詞を事前に指定する機能について、NVIDIAは具体的な評価結果を公開している。技術報告のTable 11によると、ContextASR-Benchの「Speech English」では、用語を指定しない場合の全体WERが3.33%、固有表現の誤り率を測るNE-WERが12.21%だった。これに対して詳細な用語指定を加えると、全体WERは1.71%、NE-WERは2.20%まで低下した。固有表現の誤り率は大幅に改善しており、適切な用語情報を与える効果が確認できる。

ただし、指定の仕方によって結果は大きく変わる。曖昧な用語指定では全体WERが3.34%、NE-WERが12.26%となり、指定しない場合からほとんど改善しなかった。つまり、専門用語を指示できる機能があっても、漠然とした指示から正しい表記を自動的に補完できるとは限らない。実際に利用する際には、対象となる固有名詞や専門用語を具体的に指定する必要がある。

競合モデルとの比較でも、Nemotronがすべての指標で優位に立つわけではない。同じ詳細な用語指定の条件では、Qwen3-ASRの全体WERが1.53%、NE-WERが2.76%となり、Nemotronは固有表現の認識精度で上回る一方、全体WERではQwen3-ASRの方が低かった。さらに、Qwen3-Omni-30B-A3Bは全体WER1.13%、NE-WER1.55%を記録している。これらのQwen系モデルの数値はNVIDIAが追加で内部測定した結果であり、Nemotronの改善幅が大きいことを、そのまま絶対的な認識精度の優位性と解釈することはできない。

指定した表記への追従性を評価する「Preference-ASR」では、また異なる傾向が見られた。NemotronのWERは指示なしの7.56%から、指示ありでは6.16%へ低下した。一方、Canary-Qwenは8.16%から8.36%、Qwen3-Omniは8.30%から10.34%へと悪化している。この評価は、通常の文字起こしとは異なり、指定した表記に従っているかどうかも採点に反映される。用語集を用意でき、議事録や専門文書で使う表記ルールが定まっている環境では、Nemotronの指示追従能力を評価する価値がある。

複数話者の音声認識については、発話内容の正確さと話者への割り当てをまとめて評価する「cpWER」が使用されている。この指標では、推定した話者ラベルと正解の話者との対応を最適化した上で、単語誤り率を計算する。文字起こしの内容だけでなく、誰の発話として記録されたかも評価対象となる点が、通常のWERとの違いだ。技術報告のTable 14に掲載された、同じ音声と採点条件による6条件の平均結果は次の通りである。

手法 平均cpWER(%)
Nemotron 3.5 Transcribe 15.80
DiCoW v3.3+DiariZen-v2 16.83
Multi-talker Parakeet+Nemotron 3 Diarization 18.71
MOSS-Transcribe-Diarize 19.26
VibeVoice-ASR 24.25

6条件の平均ではNemotronが最も低いcpWERを記録した。ただし、個別の条件では競合が上回る例もある。離れた位置に設置した単一チャンネルのマイクで収録したNOTSOFAR1では、Nemotronが25.91%、DiCoWが24.80%だった。また、Mixer6ではNemotronの14.80%に対し、MOSSは13.25%を記録している。

マイクの条件による影響も大きい。Nemotronは、会議参加者それぞれのヘッドセットマイクから得た音声を混合するIHM条件ではcpWERが10.29%だったが、離れた位置の単一マイクを使うSDM条件では17.34%に悪化した。発話内容と話者情報を統合して処理する仕組みは有効だが、録音環境による精度の違いまで解消できるわけではない。会議室などで利用する場合は、実際のマイク配置や話者の重なり方を再現した評価が欠かせない。

日本語の認識精度と第三者ベンチマークの評価

Nemotron 3.5 Transcribeは、日本語の文字起こしに加えて、英語との翻訳、話者を区別した認識、複数言語が混在する発話にも対応している。ただし、NVIDIAは日本語を最上位の「Leading」ではなく、「Production-ready」に分類している。公式モデルカードに掲載された日本語評価では、FLEURSの文字誤り率(CER)が4.42%、CoVoST2の音声認識タスクでは10.61%となった。後者は翻訳品質の評価ではなく、文字起こしの精度を示す数値だ。

CERは文字単位の誤り率であり、単語単位で計算するWERとは分母が異なる。そのため、日本語のCER4.42%を、英語の平均WER4.71%や、日本語を含まない7言語平均WER4.62%と直接比較することはできない。また、日本語について競合モデルを同一条件で比較した独立評価は、今回確認できていない。日本語に対応していることは確かだが、日本語の文字起こしで最も精度が高いと判断する根拠はない。

開発元以外による評価としては、Artificial Analysisの非ストリーミング音声認識ベンチマークがある。同社のAA-WERは約8時間の音声を使用し、AgentTalkを50%、VoxPopuli-Cleaned-AAとEarnings22-Cleaned-AAをそれぞれ25%とする時間加重平均で算出される。2026年10月28日に確認された公開重みモデルのランキングでは、Voxtral Smallが1位、Nemotronが2位となっていた。両モデルの表示上のWERはいずれも2.8%だったが、数値は丸められているため、厳密な同率首位を意味するものではない。

別の独立評価として、Bluejay LabsのMISTTもある。このベンチマークでは、音声エージェントの通話、医師と患者の会話、5言語の議会音声などを含む2,999クリップに加え、100本の音声から生成した400本の劣化音声を使用している。英語の評価では、Pulse ProがWER3.38%(95%信頼区間3.10〜3.66%)、Amazon Transcribeが3.43%(同3.12〜3.72%)を記録した。Nemotronは3.54%(同3.23〜3.86%)、ElevenLabs Scribe v2は3.60%(同3.26〜3.97%)だった。

信頼区間は1,000回のブートストラップ法によって算出されており、各モデルの区間は重なっている。したがって、WERの点推定値だけを基に、各モデルの優劣が統計的に確定していると判断することは難しい。また、Artificial Analysis、MISTT、NVIDIAの公開9データセットでは、評価する音声の種類や重み付けが異なる。Nemotronの2.8%、3.54%、4.71%という数値を単純に並べ、同じ条件で認識精度が変動したと解釈するべきではない。

さらに、文字起こしの正確さと、音声の内容を理解して質問に答える能力も区別する必要がある。NVIDIAが実施した音声理解、推論、音声指示への追従に関する評価は英語のみを対象としている。MMAU-Proの音楽以外の問題では、Nemotronの正答率が52.7%だったのに対し、Qwen3-Omniは57.5%を記録した。音声に関する質問応答機能はVoxtralなどにも搭載されている。日本語の文字起こしに対応していることから、日本語の音声理解や推論でも同等の性能が得られると判断することはできない。

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最大2238倍速の処理性能、その測定条件と必要なGPU

NVIDIAはNemotron 3.5 Transcribeについて、最大2238 RTFxという処理性能を公表している。RTFxは、実際の処理時間に対して何倍の長さの音声を処理できるかを示す指標だ。2238 RTFxであれば、実時間の1秒当たり、合計2238秒分の音声を処理できる計算になる。ただし、これは多数の音声を同時に処理した場合の総スループットであり、1本の録音に対する応答時間を表すものではない。

技術報告の第4.13節によると、この最大性能は96GBのメモリを搭載した「RTX PRO 6000 Blackwell Server Edition」を使用し、NVIDIA NIMによる最適化とNVFP4量子化を組み合わせた条件で得られた。さらに、次に生成されるトークンの候補を先読みし、モデル本体で検証する投機的デコーディング手法として「DFlash2」を採用している。測定では30秒の録音を高い同時実行数で処理しており、単語ごとのタイムスタンプは要求していない。したがって、この値を一般的なGPUや標準設定で得られる処理性能とみなすことはできない。

NVIDIAは、単一の30秒の音声を0.13秒で処理した結果も示している。ただし、これは最大2238 RTFxとは異なる負荷条件で得られた数値であり、両者を同一条件の測定結果として扱うことはできない。さらに、録音が10分に延びると、最大スループットを得るための手法はDFlash2から、複数トークンを予測する「MTP(Multi-Token Prediction)」へと変わる。実際の処理性能は、録音の長さ、同時に処理する要求数、使用するデコーディング手法によって左右される。

重要なのは、こうした最適化が公開時点のNeMoやvLLMの実装には統合されていないことだ。NVIDIAは、公開された開発者向け実装では、最適化済みの環境と比べて処理速度が概ね半分になると見込んでいる。最大2238 RTFxという数値は、公開実装を使って第三者が再現した結果ではない。導入時に期待できる性能を判断するには、実際に利用可能なソフトウェア環境で測定する必要がある。

モデルカードに掲載された別条件の性能目安では、H100とBF16を使用したバッチ処理で、MTP2が約410 RTFx、MTP8が約270 RTFx、DFlash2のK7が約340 RTFx、K15が約260 RTFxとされている。MTPの末尾に付く数字やDFlash2のKに続く数字は、先読みする候補トークン数を示す。いずれも起動時間を除いた処理量であり、単一要求の応答時間ではない。また、先読みするトークン数を増やせば必ず処理が高速化するわけではないことも、この結果から分かる。

GPUメモリについては、モデル名の「30B-A4B」だけで必要容量を判断しない方がよい。Nemotron 3.5 Transcribeの総パラメータ数は約340億で、テキスト生成時に有効になるパラメータは約43億とされる。有効パラメータ数が少なくても、推論時にはモデル全体の重みを保持する必要があるため、約40億パラメータの小型モデルと同程度のメモリで動作するとは限らない。特に、量子化形式によって必要なメモリ容量が変わる点に注意が必要だ。

公式モデルカードでは、標準的なBF16構成にH100を使用し、FP8では48GBのL40SやH100、NVFP4ではRTX 5090への対応を挙げている。ただし、量子化によるメモリ使用量の削減には、認識精度とのトレードオフがある。技術報告の第4.12節によると、単一のGB300を使った77の評価セットでは、量子化による誤り率の平均相対増加がFP8で1.0%、NVFP4で3.6%だった。非英語や話者付き認識で精度が低下する評価項目もあるため、英語の平均性能が近いからといって、あらゆる用途で同じ結果が得られるわけではない。使用する言語や録音条件を踏まえ、メモリ容量と認識精度の両方から適切な量子化形式を選ぶ必要がある。

Qwen、Parakeet、Voxtralとの違いと用途別の選び方

音声認識モデルを選ぶ際には、WERの順位だけでなく、処理方式や対応言語、利用可能な計算資源も重要になる。例えば、Qwen3-ASRは録音をまとめて処理する方式とストリーミング認識の両方に対応する。一方、Nemotron 3.5 Transcribeは、録音済みの音声に対して、表記方法や専門用語、話者付き出力を指定する用途に特徴がある。

各モデルの仕様を、Nemotron、Qwen3-ASR、Parakeet、Voxtralの公式モデルカードに基づいて整理すると、次のようになる。

モデル 対応言語・主な機能 モデル規模・ライセンス
Nemotron 3.5 Transcribe 40言語、録音一括処理、13言語の話者付き認識、指示による表記制御、日本語対応 総34B・有効約4.3B、OpenMDW-1.1
Qwen3-ASR-1.7B 30言語+中国語22方言、録音一括処理とストリーミング、日本語対応、別モデルによる時刻推定 1.7B、時刻推定用に別途0.6Bモデル、Apache 2.0
Parakeet-TDT-0.6B-v3 欧州25言語、時刻付き認識、大量処理向け、日本語非対応 0.6B、CC BY 4.0
Voxtral-Small-24B-2507 8言語、日本語非対応、文字起こし最大30分・音声理解最大40分、質問応答・要約 24B、32kコンテキスト、Apache 2.0

Qwen3-ASRで単語の時刻を取得する場合は、日本語を含む11言語に対応した「Qwen3-ForcedAligner-0.6B」を別途使用する。

リアルタイムで認識結果を返す必要がある場合は、ストリーミングに対応するQwen3-ASRが比較候補となる。日本語の録音を扱うなら、対応言語に日本語を含まないParakeet-TDT-0.6B-v3やVoxtral-Small-24B-2507は、同じ用途の候補にはならない。一方、対応言語が合致する場合には、0.6Bの小型なParakeetでタイムスタンプ付きの文字起こしを行ったり、Voxtralで音声についての質問応答まで扱ったりする選択肢がある。モデルのパラメータ数は実際のGPUメモリ使用量や運用費用を直接示すものではなく、ライセンス条件もモデルごとに異なるため、導入形態に合わせた確認が必要だ。

NVIDIAは、特定分野への追加学習に利用できるデータセットも公開している。Granary v2では、公開されたラベルの一覧データが46万3,062時間、48言語、16の元コーパスに及ぶ。ただし、これはNemotronの全学習データを公開したものではなく、元の音声データはそれぞれのライセンス条件に従って別途取得する必要がある。同じ発話に対して複数の表記を用意したデータは、認識精度の向上だけでなく、用途に応じた出力形式を学習させる際にも役立つ。

追加学習の効果を示す事例として、NVIDIAはインドの医師と医学生の音声を利用した医療分野への適応実験を報告している。この実験では855クリップを調整に使用し、調整用データとは異なる話者を含む2,764クリップで評価した。その結果、最も良好なプロンプトを使用した場合のWER22.44%が、追加学習後には12.17%まで低下した。相対的な誤り率の減少は45.8%に達する。

ただし、専門分野での精度向上には別の側面もある。一般的な音声認識データセットであるLibriSpeech cleanでは、追加学習前のWER1.54%が1.69%に悪化した。また、医薬品のブランド名など、一部の評価項目では医療分野に特化した他のモデルが優位だった。特定領域への適応によって大きな改善が得られる一方、一般的な音声への対応力が低下する可能性もあることを示している。なお、今回の結果はインドの医療音声を対象としたもので、日本語でも同程度の改善が得られると実証されたわけではない。

Nemotron 3.5 Transcribeの導入を検討する場合は、まず実際に扱う録音を使い、専門用語の指定がどの程度有効かを確かめる必要がある。複数話者の認識では、発話の重なりやマイクの配置を含めて比較し、使用するGPUと公開実装の組み合わせで得られる処理性能も測定したい。追加学習を行う場合は、学習に使っていない話者の音声で改善が再現されるかに加え、一般的な録音で精度が低下していないかも確認すべきだ。

Nemotron 3.5 Transcribeの特徴は、単純な文字起こしの精度競争にとどまらず、専門用語や表記ルール、話者情報を反映した記録を生成できる点にある。ただし、その利点を実際の運用で生かせるかどうかは、録音条件や対象言語、計算資源によって変わる。今後は日本語を含む独立した比較評価と、公開実装を使った実運用に近い条件での検証が、導入判断の重要な材料となるだろう。