OpenAIは2026年11月3日、マツダと自動車の空力性能や衝突安全性の向上を目指す共同研究を開始すると発表した。レーシングチームのChip Ganassi Racing(CGR)と進める既存部品のCADデータ化や、OpenAI社内での電子機器の設計・試作についても成果を公表している。AIの活用範囲は、実物の部品から設計データを復元する作業に加え、新しい車体形状の探索や、回路基板を含む機器全体の設計にまで広がりつつある。一方、同社の試作では製造に必要な公差や組立条件への対応が不十分で、複数回の修正を要したことも明らかになった。

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マツダは車体形状の最適化、CGRは既存部品のCADデータ化を検証

OpenAIの研究チームと顧客への技術導入を支援するチームは、マツダの空力・衝突安全技術者と共同研究を開始する。気流や車体構造の挙動をシミュレーションし、デザインやコストも考慮しながら性能を改善する手法を探る計画だ。具体的には、車体前部の新しい形状をモデル化し、周囲の気流を解析することで、空気抵抗を低減できる設計案を絞り込む。OpenAIは数か月以内に研究の進捗と結果を共有するとしているが、現時点では量産車への採用計画や具体的な性能改善率は公表していない。

一方、CGRとの取り組みでは、新しい形状を生み出すのではなく、すでに存在する部品の設計データを復元する。OpenAIはCGRの研究開発チームと協力し、部品の3Dスキャンデータから、編集可能なCADモデルと2次元の製造図面を作成する工程を検証している。元の設計ファイルが残っていない部品で特に有用な手法とされるが、生成されたデータの精度や実際に製造できるかどうかはCGRの技術者が確認する。

OpenAIとCGRの協業は、当初、車両センサーやレース、ピット作業で得られるデータの分析を中心に進められてきた。今回の取り組みは、そうしたデータ活用に加え、AIによる支援を部品設計や試作の工程にも広げるものだ。マツダが新しい形状の探索を目指すのに対し、CGRは実物から設計情報を復元することを重視しており、AIの異なる活用方法が示されている。

GPT-6/Astraによる機器設計、1週間未満で設計するも製造には修正が必要

OpenAIは社内実験として、GPT-6/Astraを使った電子機器の設計・試作にも取り組んだ。AIに機能要件を定義させ、外観や筐体、内部構造に加えて、プリント基板の部品選定、配置、配線まで設計させる試みだ。ユーザーインターフェースやファームウェア、Codexとの接続も対象に含まれ、人間が直接設計データを編集せずに機器全体を設計することを目指した。

この実験には社員2人が参加し、通常業務と並行して1週間未満で設計作業を進めた。その後、委託メーカーが1か月未満で小ロットの試作品を製造したという。ただし、1週間未満という期間は設計段階に限られ、製造まで含めた所要時間ではない。また、今回の成果はあくまで小規模な試作であり、市販製品や量産工程での実績を示したものではない。

実際、製造に進むまでには複数回の設計レビューと修正が必要だった。OpenAIによると、モデルは寸法に許容されるばらつきを示す「公差」や製造上の制約、部品の組立方法などを一貫して設計に反映できなかったという。CAD上で成立する形状を生成できても、そのまま実際の製品を製造できるとは限らない。部品同士の干渉や加工精度、組立工程など、製造現場で満たすべき条件を別途確認する必要がある。

OpenAIのロボット工学チームや計算基盤を担当するハードウェアチームも、CodexやChatGPTをCADモデルの作成・修正、製造図面の作成、シミュレーション設定、設計レビューに利用している。顧客への導入を支援するエンジニアのGrace Lam氏は、Codexによってアイデアを設計済みの部品に仕上げるまでの作業が大幅に速くなったと説明した。ただし、具体的な時間短縮率は示されておらず、製造までの全工程が自動化されたわけではない。

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AIが生成した設計を製造に使うには、技術者による検証が必要

今回OpenAIが示した3つの事例は、それぞれAIを活用する工程が異なる。CGRは既存部品の設計データの復元、マツダは新しい車体形状の探索、OpenAIの社内実験は機器全体の設計・試作が対象だ。公式発表を基に、それぞれの入力情報と作業内容、現場で確認すべき事項を整理した。

事例 入力情報 AIによる作業 検証が必要な事項
CGRの部品復元 既存部品の3Dスキャン 編集可能なCADモデルと2次元製造図面の作成 寸法精度、製造可能性
マツダとの共同研究 車体前部などの設計案 気流・構造挙動のシミュレーションと形状探索 空力性能、衝突安全性、デザイン、コスト
OpenAIの社内試作 機器の機能要件 筐体、回路基板、ソフトウェアなどの設計 公差、製造制約、組立方法

いずれも、AIが生成した設計データや解析結果を、そのまま最終成果物として採用できるわけではない。CGRでは技術者が復元されたCADデータの精度と製造可能性を確認し、マツダとの研究ではシミュレーション結果をデザインやコストと照らし合わせて評価する必要がある。OpenAIの社内試作でも、製造上の制約に対応するため設計の見直しが行われた。技術メディアのRuntimeWireも、製造工程では設計上の誤りがコストにつながると指摘しており、AIによる設計の効率化と製造品質の確保は分けて考える必要がある。

AI利用量は23倍に増加、設計能力の評価と実際の生産性は別

OpenAIによると、ロボット工学と計算基盤に携わる社内ハードウェアチームでは、2026年2月以降、AIモデルの利用量がトークン換算で23倍に増加した。ただし、絶対的なトークン数は明らかにされていない。この数字はAIの利用拡大を示すものであり、設計速度や生産性が23倍になったという意味ではない。

同社は、CAD設計に関する特定の能力を測定する「BenchCAD 2.0」の評価結果も公表した。このベンチマークでは、3D部品や組立品の再構築、回路基板の接続関係の識別などを評価する。新しい社内モデルの平均スコアは0.875、最高の推論設定を使ったGPT-6 Astraのスコアは0.594だったという。ただし、これらは特定の設計課題に対する評価値であり、実際の製造工程全体の成功率や生産性を表すものではない。

今回の発表からは、OpenAIがAIの活用範囲をデータ分析やソフトウェア開発から、機械設計やハードウェア開発へ広げようとしていることが分かる。一方、利用量の増加やベンチマークのスコアだけでは、現場の工数削減、開発コスト、量産時の歩留まりにどの程度の効果があるかは判断できない。また、今回の発表では、一般ユーザー向けの専用設計機能について価格や提供時期も示されていない。

今後の評価で重要になるのは、AIが生成した設計に対して技術者が何回修正を加えたか、設計変更に要する時間がどれだけ短縮されたか、製造条件を満たす設計の割合がどう変化したかといった実務上の指標だ。マツダとの共同研究やCGRでの検証が進み、こうした具体的な成果が公表されれば、AIが単に設計作業を速めるだけでなく、製造まで含めた開発工程全体の効率化にどこまで貢献できるかが明らかになるだろう。