自社のAIモデルが自律型ドローンの制御や国内監視に転用されるリスクをどう制御すべきか。この問いを巡り、米国防総省(ペンタゴン)とAI開発企業の思想的対立が激化している。2026年5月1日、ペンタゴンは主要AI企業8社と機密ネットワーク協定を締結し、軍事利用における制約を事実上撤廃する方針を打ち出した。一方で、独自のセーフガードを譲らなかったAnthropicは協定から除外され、法廷闘争へと発展している。
「any lawful use」がもたらす軍事AIの白紙委任
OpenAI、Google、NVIDIA、Microsoft、Amazon Web Services、Oracle、SpaceX/xAI、Reflection AIの計8社が、ペンタゴンの機密ネットワーク利用に関する協定に署名した。この協定の核心は「any lawful use(あらゆる合法的用途)」という条項にある。
通常、AI企業は自社モデルの利用規約に、自律型兵器への転用や人権侵害につながる監視への利用を禁止するセーフガードを設けている。しかし、今回の協定で参加企業は、法的に適法である限り、ペンタゴンがAIをどのように運用するかという点について、企業の自由裁量による制限を設けないことに同意した。
この合意により、ペンタゴンは商用AIを軍事インフラに深く組み込む権限を得た。企業側の制御権を最小化し、国防上の必要性に応じてAIを最適化させる体制が整ったことになる。
倫理的境界線を巡るAnthropicとの断絶
Anthropicは、自律型ドローンや国内監視への利用を許可しないという方針を堅持し、「any lawful use」への同意を拒否した。この姿勢に対し、ペンタゴンは2026年3月に同社を「サプライチェーンリスク」に指定する強硬策に出た。
Pete Hegseth防衛長官は、Anthropicの姿勢を「ボーイングが飛行機を納品しながら、誰を撃つかまで命令しようとするようなものだ」と批判し、同社を「イデオロギー狂信者」と呼んだ。対するAnthropicは、「米国の戦士や市民を危険にさらす製品を、意図的に提供することはない」とする声明を発表している。
この対立は司法の場へと持ち込まれた。Anthropicはカリフォルニア地方裁判所およびワシントンDC控訴裁判所でペンタゴンを提訴し、裁判所はサプライチェーンリスク指定を一時的に差し止める判断を下した。
GenAI.milが構築するAIエージェントの運用基盤
ペンタゴンは、商用AIモデルを統合するプラットフォーム「GenAI.mil」を通じて、AIの軍事運用を急速に拡大させている。2025年12月9日の運用開始から5ヶ月で、130万人以上のユーザーが実際にこのシステムを利用した。
システムへのアクセス権を持つ人員は最大300万人に達し、すでに10万以上のAIエージェントが構築されている。これにより、膨大な機密データの解析や国防上の意思決定プロセスが高速化される仕組みだ。
具体的には、クラウド上の機密ネットワーク内でAIモデルを動作させ、外部へのデータ漏洩を防ぎながら軍事特有のタスクを処理させる。Googleの最新モデルなどの導入により、現場の兵士から司令部までが同一のAI基盤を共有する環境が構築された。
546億ドルの予算が加速させる自律兵器の物量戦
AIのソフトウェア基盤と並行して、ペンタゴンはハードウェアの自律化に巨額の予算を投じている。2027年度予算において、Defence Autonomous Warfare Group(DAWG)に対し546億ドルを要求した。
この予算の主眼は、20万以上の自律ドローンシステムを配備することにある。AIエージェントが戦略を立案し、自律型ドローンがそれを実行するという、人間を介在させない「ループ外」の作戦能力を追求している。
協定に参加したReflection AIのような新興勢力も、この巨大な予算枠に組み込まれている。同社は2025年10月に20億ドルを調達しており、投資家にはDonald Trump Jr.がパートナーを務める1789 Capitalが名を連ねている。
供給網の多様化と「Mythos」という不確定要素
ペンタゴンは、特定の1社に依存する「ベンダーロック」を回避するため、あえて8社という多角的な協定を結んだ。これにより、一部の企業が方針転換しても、国防機能が停止しない冗長性を確保する狙いがある。
しかし、Anthropicが開発した最新モデル「Mythos」の存在が、この戦略に不確定要素を投げかけている。Mythosはサイバーセキュリティ上の脆弱性検出において極めて高い能力を持つとされ、Emil Michael最高技術責任者は、これを「国家安全保障における独立した転換点」と評した。
ホワイトハウスはMythosの配布拡大に懸念を示す一方で、一部の政府機関において供給チェーンリスク指定の解除を検討している。安全保障上の実利が、倫理的な対立を上回る局面が訪れつつある。