パソコンやスマートフォンの値上げ告知を、ここ半年で何度目にしただろうか。国内では受注生産PCメーカーのマウスコンピューターが2026年1月から価格を引き上げ、シャープ系メーカーも追随を検討していると報じられている。背景にあるのがメモリ価格の急騰だ。

その震源地であるSamsungは今、2026年Q3のDRAM/LPDDR契約価格を前四半期比で最大20%超引き上げる方向で交渉していると、ZDNet Koreaが2026年7月3日に報じた。Q1の90%、Q2の50〜60%と並べると上昇率は鈍化して見えるが、複利で計算すると景色は一変する。しかもSamsungとSK hynix、Micronの3社は6月25日、20年前と酷似した価格つり上げ疑惑で米国の集団訴訟を起こされたばかりだ。

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Q3のDRAM価格交渉、90%から20%超まで並ぶ3四半期の推移

ZDNet Koreaが2026年7月3日に報じたところによれば、Samsungは主要顧客に対し2026年第3四半期のDRAMおよびLPDDR契約価格を前四半期比で最大20%超引き上げる案を提示し、交渉を進めている。契約価格の最終確定は例年、四半期の終盤に近づくにつれて顧客との交渉が収束していく形を取り、7月時点の20%超という数字はあくまで交渉の初期段階における提示水準にすぎない。

Samsungの商品DRAM契約価格は2026年第1四半期に前四半期比90%上昇し、第2四半期には50〜60%上昇したと報じられている。市場調査会社のTrendForceも独立集計で第1四半期を90〜95%、第2四半期を58〜63%のQoQ(前四半期比)上昇と算出しており、Samsungの発表値とおおむね一致する数字だ。90%、50〜60%20%超と並べた数字だけを見れば、値上げの勢いは弱まったように映る。

一方でTrendForceは2026年7月3日、第3四半期のPC向けDRAM契約価格を15〜20%、サーバー向けを13〜18%のQoQ上昇と予測した。これは従来予測(PC向け8〜13%)からの上方修正であり、上振れの幅はPC向けで最大7ポイントに達する。Samsungが交渉する20%超という数字は、この市場予測の上限とほぼ重なる水準にある。四半期を追うごとに小さくなる上昇率だけを取り出せば値上げラッシュは収束に向かっているように読めるが、実際に積み上がる価格を計算すると、その見立ては成立しない。

鈍化に見える数字が、複利では3.5倍に化ける理由

Q1に90%、Q2に50〜60%、Q3に20%超(交渉目標)。この3つの数字を掛け合わせるとどうなるか。仮にQ2を50〜60%の中間である55%、Q3を交渉目標の20%として計算すると、価格の伸びは1.90×1.55×1.20で3.53倍になる。四半期ごとの上昇率は90%から55%20%へと着実に小さくなっているのに、価格そのものは3四半期でおよそ3.5倍、率にして253%積み上がる計算だ。Q2の幅を50%側と60%側それぞれで計算し直しても、3.42倍(1.90×1.50×1.20)から3.65倍(1.90×1.60×1.20)の範囲に収まり、どの数字を採用しても3倍を大きく超える結論は変わらない。

複利計算をせずに四半期ごとの数字だけを並べると、値上げが収束に向かっているという誤った印象を与える。実際にTrendForceが上方修正した第3四半期予測(PC向け15〜20%、サーバー向け13〜18%)も、従来予測より高い水準で高止まりしている。市場予測とSamsungの交渉目標がほぼ同じ範囲に収まっている事実は、値上げが業界全体で共有された相場観になっていることを示している。上昇率が鈍化して見えるのと、価格水準そのものが高騰し続けているのは、別の現象だ。

Samsungの交渉が難航し20%を下回る結果に終わったとしても、Q1からQ3までの複利計算による価格上昇は3倍を超える水準を維持する。たとえばQ3が10%にとどまったとしても1.90×1.55×1.10で3.24倍にしかならず、15%まで下振れしても3.39倍で、3倍という水準そのものはほとんど動かない。鈍化して見える数字の並びは、実際には高止まりした新しい相場の入口に過ぎない。

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HBMが汎用メモリの生産枠を奪う仕組み

HBM(High Bandwidth Memory、広帯域幅メモリ)は、AIアクセラレーター向けにDRAMチップを垂直に積層し、TSV(シリコン貫通電極)と呼ばれる微細な配線でチップ間をつなぐ設計を採る。積層するダイの数は世代が進むほど増える傾向にあり、層数が増えるほど検査や接合の工程が積み上がって歩留まりはさらに下がりやすい。同じシリコンウェハーを使っても、この積層構造は工程数が多く歩留まりが低いため、1ビットあたりの生産に必要なウェハー容量が通常のDDR5より大きくなる。

2026年6月25日に米カリフォルニア北部地区連邦地裁で提起された集団訴訟で、原告側はHBMの1ビット生産に従来のDDR5比で約3倍のウェハー容量が必要になると主張している。この数値はSamsung、SK hynix、Micron側が公式に認めた数字ではない。係争中の訴訟における原告の主張である。

それでも各社がAIデータセンター向けHBMの生産枠を優先的に確保していること自体は、決算資料や生産計画から広く確認できる事実だ。同じウェハー投入量でHBMの比率を1ポイント引き上げれば、PCやスマートフォンに使われる汎用DRAMの供給枠はその分だけ目減りする。半導体投資はいったん稼働すれば数年単位で固定費として重くのしかかるため、各社は受注確度の高いHBMの生産ラインを優先し、汎用メモリ向けの増産には慎重にならざるを得ない。値上げの背景として語られる「AI需要」の実態は、工場の生産ラインそのものが汎用メモリからHBMへと恒久的に組み替えられつつあるという構造変化にある。

SK hynixは守られ、Samsungと消費者が矢面に立つ非対称

SK hynixはAI向けHBMの長期契約への依存度が高く、Microsoft、Google、Meta、Amazonなどハイパースケーラーとの複数年契約によって商品DRAMの価格変動から一定程度隔離されていると分析されている。こうした調達契約は数四半期先までの生産枠を事前に押さえる形態が主流で、DRAM現物市場の四半期ごとの値動きとは切り離された価格形態を取ることが多い。対してSamsungは商品DRAMの生産比率が相対的に高く、市況変動の影響を直接受ける。この非対称が、メモリメーカー間で恩恵と負担を均等に配分していない。

Gartnerは2026年通期でDRAMとSSDの合計価格が130%上昇し、PC価格を17%、スマートフォン価格を13%押し上げると試算している。Dell、HP、Lenovo、Acer、Asusといった大手PCメーカーはこの原価上昇を製品価格へ転嫁せざるを得ない立場にあり、Xiaomi、OPPO、Vivoなどスマートフォンメーカーも同様の圧力に直面している。しわ寄せは最終的にPCメーカーとスマートフォンメーカー、そして消費者に向かっている。

受注生産PCメーカーのマウスコンピューターは2026年1月4日から価格を引き上げ、シャープ系メーカーも値上げを検討していると報じられており、日本国内でも影響はすでに具体的な値札に表れている。SamsungとSK hynixが進める韓国内の半導体とメモリファブの拡張計画は、報道によって8000億ドル、8700億ドル、5180億ドルと対象範囲の異なる複数の数字が並行して存在するが、仮に最大規模の8000億ドルを2026年7月3日時点のレート(1ドル=約161円)で換算すると128兆8000億円に相当する。投資規模がどの数字であれ、その原資はハイパースケーラーとの長期契約と、PCメーカーや消費者が負担する値上げ分の両方から生まれている。

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20年前のカルテル有罪と2026年の集団訴訟が重なる場所

SamsungとSK hynix(当時Hynix)がDRAM価格をめぐって司法当局と対峙するのは、今回が初めてではない。1998年から2002年にかけて両社は共同でDRAM価格を人為的に吊り上げたとして米司法省の捜査対象となり、有罪を認めて司法取引に応じた。Hynixは2005年5月に1.85億ドル、Samsungは同年10月に3億ドルの罰金をそれぞれ支払っている。

それから20年余りが過ぎた2026年6月25日、米カリフォルニア北部地区連邦地裁でSamsung、SK hynix、Micronの3社は新たな消費者集団訴訟の被告となった。今回の訴状が問うのは、AI需要という表向きの理由を口実にした協調的な供給制限と価格つり上げの疑いだ。当時は密室の合意によって供給が絞られたが、今回はHBMへの生産シフトという公然の経営判断が同じ機能を果たしている。

Q1の90%、Q2の50〜60%、Q3の20%超という数字の並びを鈍化と読むか、複利で3.5倍に積み上がる高止まりの新常態と読むかは、この集団訴訟の行方によっても左右される。値上げの正当性を裏づける材料としてAI需要の実態が法廷でどこまで検証されるかによって、20年前と同じ構図として認定されるかどうかが決まる。2026年後半のDRAM価格は、メモリ3社が抱える記録的な増益とカルテル疑惑という二つの顔を同時に映し出すことになる。