サンディア国立研究所(Sandia National Laboratories)は2026年7月1日、AIを使って配電網の電圧をリアルタイムで安定させる分散エネルギー資源管理システム(DERMS)の開発が、実ハードウェアを使ったラボ試験とフィールド実証まで進んだと発表した。実証はテキサス州ラボックのSandia Scaled Wind Farm Technology facility(SWiFT)と、Texas Tech UniversityのGLEAMM microgridの2サイトで行われた。GLEAMMにはデータセンターが含まれており、サンディア国立研究所はそこでグリッド接続機器をリアルタイムに協調制御し、重要負荷の電力品質維持を試した。

この発表が扱うのは、AIデータセンターに必要な電力の調達先ではない。大口負荷が増え、太陽光や蓄電池、バックアップ発電機といった分散型エネルギー資源も増えると、配電網では需要と供給が秒単位で動き、電圧を一定範囲に保つ制御が難しくなる。サンディア国立研究所のシステムは、データセンターを含む重要負荷を支えるための、局所的な電圧品質の問題にAI制御を当てている。

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需要増の裏側で、配電網の「電圧品質」が前面に出る

国際エネルギー機関(IEA)は、2024年のデータセンター電力消費を世界全体の約1.5%、415TWhと推計している。米国はその45%を占めた。IEAはさらに、データセンターの電力消費が2030年に約945TWhへ2倍超に増え、米国では同年までの電力需要増のほぼ半分をデータセンターが占めると予測している。

こうした見通しは、発電設備や送電線の増強に加え、配電側の制御にも圧力をかける。データセンターのような大口かつ高信頼性を求める負荷では、停電回避だけで十分とは言い切れない。電圧が運用範囲から外れたり、電力品質が乱れたりすれば、重要機器の運用に影響が出る。サンディア国立研究所が今回の発表で強調したのも、周波数が主に大規模電力系統で管理される一方、配電網では高速なローカル電圧制御が必要になるという点だ。

既存インバーターを束ね、機械式設備の遅さを補う

従来、電力会社は電圧管理のためにコンデンサバンクや線路電圧調整器といった設備を設置、更新してきた。これらは有効な手段だが、サンディア国立研究所の説明では、開閉を伴う機械的な装置であり、刻々と変わる分散型資源と負荷を細かく協調させる用途には限界がある。

サンディア国立研究所の説明によると、このDERMSは電力使用量と利用可能電力の変化を予測し、太陽光や蓄電池、バックアップ発電機、インバーターをまとめて制御する。AIは、機器ごとの制限や運用上の制約を守りながら、ほぼリアルタイムで各機器の動作指令を調整する役割を担う。焦点になるのは、太陽光や蓄電池を電力網につなぐインバーターの機能を使う点だ。すでに系統内にある装置を活用できれば、大規模な設備更新や、より遅い機械式切り替えへの依存を減らせる可能性がある。

この考え方は、電力網を「大きな発電所から一方通行で電力を流す設備」として扱う発想から離れている。小規模な発電、蓄電、負荷が増えた配電網では、それぞれの装置が持つ調整余地を束ね、必要な瞬間に電圧支援へ回す制御が意味を持つ。

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実系統につなぐ前に、PHILで通信遅延まで見る

サンディア国立研究所のチームは、まずシミュレーションで制御手法を作り、その後、Distributed Energy Technologies Laboratoryでpower hardware-in-the-loop(PHIL)試験を行った。PHILは、商用インバーターや蓄電池ハードウェアなど実機を、リアルタイムのデジタル系統シミュレーションに接続して試す手法だ。実際の電力網へ直接つながずに、制御ソフトウェアが現実に近い条件でどう動くかを確認できる。

この段階では、電圧変動に対する応答に加えて、通信メッセージが遅れたり、データリンクが遅くなったりした場合でも制御が機能するかを確認した。電力制御はモデル上で成立しても、現場では通信や機器応答の遅れが入る。国家安全保障や重要インフラ用途を想定するなら、こうした実装上のずれをラボで確認しておく意味は大きい。

ラボックの2サイトで、制御ありとなしを比較

PHIL試験の後、チームはラボックの2サイトで実証を行った。SWiFTでは稼働設備にDERMS制御を接続し、実条件下でシステムの挙動を確かめた。続いてGLEAMM microgridにソフトウェアを導入し、データセンターを含む環境でグリッド接続機器をリアルタイムに協調制御した。

サンディア国立研究所によると、効果測定では制御をオンにした状態で丸1日、オフにした状態で丸1日運用し、電圧グラフを比較した。現地の電圧は通常値より約5%高い傾向があり、協調制御によって電力会社が維持しようとする値に近づいたという。発表では改善幅の詳細な数値やグラフは示されていないため、現時点で言えるのは、実フィールドで電圧を目標値へ寄せる挙動を確認したという範囲にとどまる。

それでも、シミュレーションから商用インバーターを含む実機へ進み、さらに稼働設備とマイクログリッドで試した点は重い。電力会社やマイクログリッド運用者にとって、導入判断で問われるのはアルゴリズムの新しさに限らない。既存設備と通信し、制約を守り、現場の遅れや外乱を受けても動くかどうかが採用の前提になる。

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商用化前の段階だが、導入準備は進む

サンディア国立研究所のDERMSは、ただちに一般提供される製品として発表されたわけではない。プロジェクトはDOE Energy I-Corps Phase IIに選ばれ、電力会社、マイクログリッド開発者、産業パートナーへの聞き取りを通じて、現場で必要な機能や導入条件を確認してきた。現在は、商用化と追加フィールド展開を後押しするPhase IIIに採択されている。

この段階は、過度に大きく見せるべきではない。一方で、AIを電力網に使う議論では、需要増をもたらすAIと、系統運用を助けるAIが同時に進んでいる。IEAも、AIが再生可能エネルギーの予測や統合、障害検知、送電容量の活用に使われる可能性を指摘しており、AIベースの障害検知で停電時間を30-50%短縮し得ること、遠隔センサーとAI管理で新設送電線なしに最大175GWの送電容量を引き出し得ることを挙げている。

DOEのGenesis Missionは、国立研究所、産業界、学術界を結び、AIでエネルギー、科学、国家安全保障上の課題を解く国家イニシアチブとして位置づけられている。サンディア国立研究所の今回の実証は、その大きな政策文脈のなかで、配電網という現場に近い層へAI制御を持ち込む取り組みだ。データセンターを含む大口負荷と分散型資源が同時に増えるなら、発電所や送電線に加え、既に現場にあるインバーターや蓄電池をどう賢く動かすかも、同じくらい実務的な論点になっていく。