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SK hynix、世界最高321層NAND搭載UFS 4.1ストレージ発表:薄型・高性能でオンデバイスAI時代を加速、PC SSDも視野に

Y Kobayashi

2025年5月23日

韓国のメモリ大手SK hynixは、世界最高層となる321層1Tb TLC(Triple Level Cell)4D NANDフラッシュメモリを採用したUFS (Universal Flash Storage) 4.1ソリューションを開発したと発表した。この新技術は、スマートフォンの性能向上はもちろん、来るべきオンデバイスAI時代における重要な布石となりそうだ。さらに、年内にはこの321層NANDを用いたPC向けSSDの開発も完了する計画であり、その応用範囲の広がりにも注目が集まる。

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技術的マイルストーン:321層4D NANDとは何か?

今回の発表の核心は、何と言っても「321層」という驚異的な積層技術にある。NANDフラッシュメモリは、メモリセルを垂直方向に積み重ねることで記憶容量を増やす3D NAND技術が主流だが、SK hynixはこの積層数を321層にまで高めることに成功した。これは、より小さなチップ面積でより大きなデータ容量を実現できることを意味し、モバイルデバイスのさらなる小型化・大容量化に貢献する。

SK hynixが呼称する「4D NAND」とは、同社独自の技術で、メモリセルアレイの下に周辺回路(Peripheral Circuits)を配置するPUC(Peri. Under Cell)構造を採用している点を指す。これにより、チップ面積をさらに効率的に活用できる。そして、今回の製品ではTLC(Triple Level Cell)方式を採用。これは1つのメモリセルに3ビットの情報を記録する技術で、容量とコストのバランスに優れているのが特徴だ。

SK hynixは2024年11月にこの321層NANDフラッシュ自体の量産開始を発表していたが、今回、これをUFS 4.1ストレージソリューションとして完成させた形となる。

UFS 4.1ストレージとしての進化点:薄さ、速さ、そして省電力

SK hynixの新しいUFS 4.1ソリューションは、主にスマートフォンなどのモバイルデバイス向けに設計されている。その具体的な進化点を見ていこう。

1. 驚異の薄型化:わずか0.85mm
特筆すべきは、その薄さだ。新しいUFS 4.1 ICの厚さはわずか0.85mm。これは、前世代の238層NANDを採用したUFS 4.1製品の1.00mmと比較して約15%も薄くなっている。スマートフォンのデザイン自由度を高め、よりスリムな筐体設計や、バッテリーなど他の部品スペースの確保に貢献することが期待される。

2. シーケンシャルリードは維持しつつ、ランダム性能を大幅向上
データ転送速度に関しては、シーケンシャルリード(連続読み出し)性能は最大4,300MB/sと、同社既存の238層NANDベースのUFS 4.1ソリューションと同等だ。これはPCIe Gen3接続のNVMe SSDに匹敵する速度であり、モバイルストレージとしては依然としてトップクラスである。

しかし、真の進化はランダムアクセス性能に見られる。ランダムリード(ランダム読み出し)速度は15%、ランダムライト(ランダム書き込み)速度に至っては40%も向上したという。ランダムアクセス性能は、複数のアプリを同時に使用するマルチタスク処理や、OS・アプリの起動速度、細かなデータの読み書きが多いAI処理など、実際のユーザー体感速度に直結する重要な指標だ。この大幅な向上は、スマートフォンの操作性をより滑らかで快適なものにするだろう。

3. 電力効率も7%改善
性能向上だけでなく、電力効率も改善されている。前世代の238層NANDベースの製品と比較して7%の電力効率向上を実現したとしており、スマートフォンのバッテリー持続時間延長にも寄与すると考えられる。

特徴UFS 4.1 (321層 4D NAND)UFS 4.1 (238層 4D NAND)
NAND層数321層238層
IC厚さ0.85mm1.00mm
最大シーケンシャルリード速度4.3 GB/s4.3 GB/s
ランダムリード/ライト向上率15% / 40%
電力効率向上率7%
最大IC容量最大1TB最大1TB
提供開始時期2026年第1四半期(予定)提供中
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オンデバイスAI時代への布石:SK hynixの戦略

SK hynixは、今回の新製品が「オンデバイスAIに最適化されている」と強調している。オンデバイスAIとは、クラウドサーバーを介さず、スマートフォンなどのデバイス上でAI処理を行う技術のことだ。これにより、応答速度の向上やプライバシー保護といったメリットが期待されている。

このオンデバイスAIをスムーズに動作させるためには、AIモデルや処理データを迅速かつ低消費電力で供給できる高性能なストレージが不可欠となる。今回の321層NAND採用UFS 4.1は、まさにこの要求に応えるものと言えるだろう。向上したランダムアクセス性能はAIワークロードにおけるデータアクセスを高速化し、電力効率の改善はバッテリー消費を抑えながらのAI処理を可能にする。

SK hynixのAhn Hyun氏(社長兼最高開発責任者)は、「AI技術的エッジを持つ製品ポートフォリオを構築することで、NAND分野におけるフルスタックAIメモリプロバイダーとしての地位を拡大していく」と述べており、同社がAI時代を見据えたメモリ開発に注力している姿勢がうかがえる。

スマートフォンからPC、データセンターへ:広がる応用範囲

この新しい321層4D NAND技術は、モバイルデバイスだけに留まらない。SK hynixは、スマートフォン向けUFS 4.1製品を年内に顧客認定を取得し、2026年第1四半期から量産出荷する計画だ。提供される容量は512GBと1TBの2種類となる。

さらに注目すべきは、PC市場への展開だ。Ahn Hyun氏は、「消費者向けおよびデータセンター向け双方の321層4D NANDベースSSDの開発を年内に完了する予定」とも明言している。実際にこれらのPC向けSSDが市場に登場するのは2026年後半になるのではないかと推測されるが、いずれにせよ、この高性能NANDがPCのストレージ環境にも革新をもたらす可能性は高い。PC向けSSDとしては、SK hynix自社ブランド製品に加え、Adata、Kingston、Solidigmといったパートナー企業からも搭載製品が登場することが期待される。

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熾烈なNAND開発競争:SK hynixの現在地と展望

NANDフラッシュメモリ市場では、さらなる大容量化と高性能化を目指した開発競争が激化している。ライバルのSamsungは400層クラスのNAND開発を進めているとの報道もある。一方で、Micron、Kioxia、YMTCといった他の主要プレイヤーは、現時点ではSK hynixやSamsungにやや後れを取っていると見られている。

SK hynixが世界最高層を謳う321層NANDを採用したUFS 4.1ソリューションをいち早く市場投入の目処を立てたことは、同社の技術的リーダーシップを示すものと言えるだろう。

今回の発表は、単なるメモリ容量の増加や速度向上に留まらず、薄型化によるデザイン自由度の向上、電力効率改善によるバッテリーライフの延長、そしてオンデバイスAIという新たなトレンドへの対応といった、多角的な価値を提供するものだ。今後、この321層NAND技術がスマートフォン、PC、さらにはデータセンターに至るまで、幅広い分野での活用が期待される。


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