私たちが日常で目にする氷が溶けて水になる現象は、熱というエネルギーによって結晶の整然とした原子配列が崩れ、無秩序な流体へと移り変わる一方向のプロセスである。固体から液体への変化において、物質が保持していた空間的な秩序は一斉に失われるように見える。しかし、宇宙にはこの常識的な規則に従わず、時間と空間の対称性を全く別々のタイミングと仕組みで手放していく奇妙な物質状態が存在する。それが「時空結晶」と呼ばれる非平衡な物質相である。

中国の上海交通大学に所属する郭清劉(Guoqing Liu)と済民白(Jimin Bai)らを共同第一著者とし、Matteo Baggioli氏や張潔(Jie Zhang)が責任著者を務める研究チームは、卓上サイズの実験装置を用いて古典的な時空結晶を作成した。研究チームはこの特殊な物質相が構造秩序を失って崩壊する融解現象を世界で初めて直接観測し、そのプロセスが単一のステップではなく明確な3段階で進行することを解き明かし、米国の科学アカデミー紀要(PNAS)に発表されたこの発見は、半世紀以上にわたって物理学者が探求してきた相転移の概念に新たな光を当てる成果となった。

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氷が水になる現象と何が決定的に違うのか

通常の物理学において「結晶」という言葉は、水晶やダイヤモンドのように美しく光を屈折させる鉱物を指すだけでなく、原子や分子が空間内で規則正しい3次元格子を形成している状態全般を意味する。どの位置の構造をとっても他の位置と完全に重なり合う性質は「空間並進対称性の破れ」として記述され、平衡熱力学の世界を支える基本的な土台となっている。物理学者たちは何十年もの間、空間的な結晶秩序がどのように失われるかという融解現象を追究し続けてきた。

特に1970年代、ジョン・コステリッツ、デイヴィッド・サウレス、ベルトラン・アルペラン、デイヴィッド・ネルソン、ロバート・ヤングという物理学者たちは、2次元平面における結晶の融解が「ヘキサティック相」と呼ばれる中間相を挟む最大2段階のプロセスで進むとするKTHNY理論を提唱した。同理論は、結晶構造の欠陥が熱ゆらぎによってどのように増殖するかを鮮やかに説明し、のちにノーベル物理学賞の評価対象にもなった。

空間の秩序に対する研究が進む一方で、時間方向にも規則的な構造を持つ物質を考え出したのが、2004年にノーベル物理学賞を受賞したフランク・ウィルチェックである。彼は2012年、基底状態にある量子系が外部からエネルギーの入力を受けなくても自発的に一定の周期で動き続け、時間並進対称性を破る「時間結晶」の概念を提唱した。これは時計の針が外部の動力を必要とせずに永遠に一定のテンポで刻み続けるようなものであり、当時の物理学界で激しい論争を巻き起こした。その後の2015年、パトリック・ブルーノや日本の渡辺悠樹と押川正毅によって、熱力学的な平衡状態において時間結晶は存在し得ないと証明された。

だが物理学者たちは諦めなかった。ノーマン・ヤオらによる理論的発展と、クリストファー・モンローやミハイル・ルキンらが率いる実験チームは2016年から2017年にかけ、外部から周期的なエネルギーを加え続ける非平衡状態(フロケ系)であれば、入力された周期の倍数などで自発的に振動し続ける時間結晶を実現できることを実証したのだ。空間と時間の両方に秩序を持つ時空結晶はこうして実在の現象となったが、これまでの量子シミュレータ等で作られた量子時空結晶は極度な低温環境を必要とし、システム全体のデコヒーレンスや熱励起によってマイクロ秒からミリ秒程度のわずかな時間で崩壊してしまう弱点があった。秩序を理解する最良の方法はその秩序が崩れ去る融解現象を観察することだが、短命すぎる量子系でそのプロセスを追うことは極めて困難だった。

振動プレート上で1日中踊り続けるプラスチック円盤が刻む時間秩序

上海交通大学の研究チームがこの課題に挑むために選んだのは、量子力学的な制御の難解さを迂回し、巨視的な古典力学の系をアナログモデルとして活用する大胆なアプローチだった。チームが実験室に構築した装置は、1秒間に100回の頻度すなわち100 Hzの周波数で垂直方向に上下振動する平らなプレートである。クラドニ図形を描く実験装置に似ているが、チームがプレートの上に撒いたのは砂粒ではなく、底面に6本の斜めに向いたピンのような脚を持つ数百個の特殊なプラスチック円盤だった。

特殊な脚付き円盤は、プレートが上下に動くたびに短時間の衝突を繰り返し、駆動力からランダムな方向へ蹴り上げられる力(アクティブな揺動)を受ける。円盤の数が少ないうちは、それぞれがプレート上でカオス的に動き回るに過ぎない。ところが研究チームが円盤の密度を一定値以上まで高めて密に詰め込むと、驚くべき自己組織化現象が目覚めた。多数の円盤が自発的に互いの位置を調整し、綺麗な正三角形の結晶格子を空間内に組み上げたのである。さらにこの結晶格子全体が、あたかも一つの剛体であるかのように一糸乱れぬ同期した回転運動を始め、約5時間に1回転という極めてゆっくりとしたテンポで周回し続けた。

ここで重要になるのは、外部から供給されている振動エネルギーの周期と、創発した回転運動の周期との隔たりである。加振プレートは0.01秒に1回の短いテンポで円盤を突き上げているにもかかわらず、系全体は自発的に約18,000秒(5時間)という180万倍も長い独自の周期を生み出し、時間並進対称性を美しく破っている。研究チームはこの古典的な時空結晶が、周囲の物理的なノイズや摩擦が常に存在する実験環境下においてすら、約86,400秒すなわちほぼ1日という長時間の維持に成功することを確認した。これは4回から5回の全周回転に相当し、従来の量子系におけるミリ秒程度の維持時間とは一線を画する圧倒的な安定性を誇る。古典非平衡系という強力な代理舞台を得たことで、物理学者たちは初めて時空結晶がどのように命数を終えていくのかを丹念に観測できるレンズを手に入れたのだ。

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充填率を低下させる実験で浮き彫りになった時間と空間の独立した崩壊

研究チームは時空結晶を安定させたままで終わらせず、わざと円盤をプレートから数個ずつ取り除き、粒子の充填率(密度)を低下させることによって人為的な融解現象を引き起こした。平衡系の結晶であれば温度を上げて熱ゆらぎを増すところを、今回の実験では粒子間相互作用の頻度を下げることで秩序の解体を誘発した形になる。普通に考えれば、密度を減らせば全体の構造秩序と回転のタイミングは同期して少しずつぼやけ、最終的にカオスな流体状態へと滑り落ちていくと予想される。

しかし研究チームが観測した現実は、その直感を裏切る複雑な経路を辿っていた。時空結晶の融解プロセスは、空間と時間が互いに独立した臨界点を持ち、まったく異なる3つの物理的段階へと分離して進行したのである。実験で記録された各フェーズの変遷は、物理対称性の独立性を雄弁に物語るものだった。

まず第1段階において、結晶格子全体の三角形配置という空間的な秩序は完璧に保たれているにもかかわらず、局所的なパッチ(領域)で同期した回転のタイミングが狂い始めた。全体の剛体回転の中に、リズムについていけない粒子の集団が島状に出現した状態である。続いて充填率をさらに下げた第2段階では、円盤たちが作る幾何学的な結晶格子がまだ大部分の領域で維持されているにもかかわらず、5時間周期の全体同期リズムが完全に崩壊し、時間秩序だけがゼロになる現象が起きた。研究チームはこの段階で出現した奇妙な状態を、空間秩序だけが残った流体風結晶状態(中間相としての流体-時空結晶相や流体-ヘキサティック相)として特定した。そして最終的な第3段階に至ってようやく、粒子の配置そのものが崩れ去り、正三角形の結晶格子が解体して完全な無秩序流体へと移行したのだ。

なぜこのように時間と空間の秩序がバラバラに溶けていくのか。研究チームが詳細な解析を行った結果、二つの対称性を破壊する物理的メカニズムが根本的に異なっていることが突き止められた。時間秩序(同期回転リズム)の喪失は、密度低下によって粒子同士が衝突したり反発したりする多体相互作用が弱まり、回転方向を一定に保とうとする力(方向持続性)が減衰することに起因していた。これに対して空間秩序(結晶格子配置)の崩壊は、結晶内部に生まれた配列のズレであるトポロジカル欠陥が、格子の間を増殖しながら伝播していくという全く別のメカニズムによって引き起こされていたのである。空間を縛るルールと時間を縛るルールが非平衡状態において完全に独立して機能している証拠が、ここに実証された。

新旧の融解モデルが示す非平衡相転移と結晶物理学の現在地

上海交通大学のチームが実証した「分離する3段階融解」という事実は、物質が秩序を失うプロセスに関するこれまでの物理学的理解を劇的に拡張するものである。従来の平衡熱力学と、今回の古典非平衡系で観測された融解モデルとの違いを明確にするため、両者の定量的な条件と崩壊特性の比較を以下に整理する。

比較項目 従来の平衡系結晶融解(旧) 2次元KTHNY理論の融解(中) 本研究の非平衡時空結晶の融解(新)
秩序の対象 空間秩序のみ 空間秩序(位置・配向)のみ 空間秩序および時間秩序(時空結晶)
主な駆動変数 温度(熱力学的エネルギー) 温度(熱ゆらぎの増大) 粒子の充填率(非平衡な多体相互作用の密度)
転移の段階数 1段階(固体から液体への直接転移) 最大2段階(ヘキサティック相の中間経由) 明確な3段階(時間秩序と空間秩序の分離崩壊)
崩壊メカニズム 熱エネルギーによる原子間結合の破壊 トポロジカル欠陥の解離と増殖 方向持続性の減衰(時間)と欠陥伝播(空間)
維持時間・尺度 安定(熱力学的平衡状態) 安定(熱力学的平衡状態) 室温で約86,400秒(約1日)維持する古典マクロ系

表の比較から見えてくるのは、時空結晶という非平衡相における対称性の破れが従来の空間秩序の延長線上にあるのではなく、独立した次元として振る舞うという物理的な現実である。KTHNY理論が示唆したように、2次元結晶が溶ける際には位置の秩序が先に失われて向きの秩序だけが残る「ヘキサティック相」が現れる。本研究はその概念を時間方向にまで広げ、空間の構造がしっかりと組み上がっているにもかかわらず時間のリズムだけが消滅する「時間的無秩序相」が実在することを示した。物理学者が数十年にわたって構築してきた相転移の地図の中に、空間と時間が交差する非平衡領域の新しい境界線が書き加えられた瞬間である。

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古典力学の模擬実験から量子多体系へと広がる未解明の相変化

今回の研究成果は、これまで理論計算や極短時間の量子シミュレータに頼るしかなかった時空結晶の動力学を、巨視的な古典系を用いて目に見える形で直接検証できることを証明した。しかし研究チームが切り開いたこの新しい領域の先には、依然として多くの未検証の問いが残されている。

最大の疑問点は、実験室で確認されたプラスチック円盤による古典的な3段階融解のシナリオが、原子や電子といったミクロな世界を支配する本物の量子多体系においてもそのまま適用できるかという点である。量子力学的な時空結晶では粒子間の相互作用に量子もつれや干渉効果が深く関与しており、古典力学的なアクティブ粒子系とは異なる量子ゆらぎが存在する。この量子的な世界でも時間秩序と空間秩序は全く異なる臨界値で分離して崩壊するのか、それとも量子効果が両者の崩壊をある種結合させる経路を生み出すのかは、現在のところ理論的にも実験的にも完全な決着がついていない。

さらに、今回は平らなプレート上という2次元平面に限定された観測であったが、空間3次元の複雑な幾何学配置においてトポロジカル欠陥がどのように伝播し、長周期の同期リズムとどのように干渉し合うのかも未知の領域である。研究チームの張潔らは本論文の結びにおいて、巨視的な古典系によるアプローチが時空の対称性自発的破れを示す新しい相の探索に道を拓いたと述べている。私たちの世界を構成する物質が極限の非平衡状態においてどのように秩序を創り出し、そしてどのようにそれを手放していくのか。その背後に隠された普遍的な物理法則を解き明かすための挑戦は、ようやく最初の扉が開かれたばかりである。