音楽生成AIを手がけるSunoは2026年9月9日、Warner Music Group(WMG)、BMG、Believeと開発した新世代モデル群「v6」を発表した。用途の異なる3モデルを投入し、自然言語による部分編集や複数形式の入力に対応する。展開に伴って従来モデルを退役させ、サービス全体をv6世代へ移す方針だ。
表面だけを見れば、音質と操作性を高めた世代更新である。しかし本当の転換点は、2024年に公開インターネット上の音楽を学習したと認めていたSunoが、権利者と契約した新モデルへ利用者を丸ごと移すことにある。来歴表示、ダウンロード制限、将来のアーティスト参加型製品までをつなぎ、モデルの外側にある流通と収益の仕組みも作り替え始めた。
3モデルで精密な制作と偶然性を分けた
標準のv6はProとPremierの契約者向けで、Sunoは狙い通りの結果を安定して出すモデルと説明する。同じ2プランで使えるv6-wildは、結果の予測しにくさと変化の幅を意図的に残し、発想を広げる役割を担う。無料利用者を含む全員には、処理を速く軽くしたv6-miniを提供する。
新機能の中心は、曲を一度生成して終わる操作から、制作途中の素材を対話的に直す作業への移行だ。たとえば既存曲のコーラスだけを合唱へ変え、ほかの部分は残せる。複数の自作曲から歌声とドラムを取り出して一つにまとめたり、指定した時点のギターをサンプリングして新しいビートを組んだりすることも想定している。
入力も文章と音声に限らない。画像や動画を含む複数形式から曲を作り、歌詞の1語だけを差し替える機能まで並ぶ。生成モデルというより、素材を行き来しながら曲を仕上げる制作環境へ近づけた更新である。
ただし、Sunoが掲げる「高速」「高品質」「表現力が高い」という評価には、比較対象、測定条件、指標、実測値が付いていない。v6-miniが無料の音楽生成モデルの中で最良だという説明も同社の自己評価であり、独立した比較結果ではない。機能の増加は確認できるが、性能向上の幅はまだ検証できない。
Warner、BMG、Believeが担う範囲は同じではない
3社は一括して「業界パートナー」と紹介されるものの、公開資料で確認できる役割は異なる。WMGは2025年11月、Sunoと次世代のライセンス済みモデルを共同開発し、従来モデルを退役させる契約を結んだ。この合意で両社間の過去の訴訟も和解した。所属アーティストや作家は、自分の氏名、画像、肖像、声、楽曲をAI生成曲に使わせるかどうかを選べる。
BMGが2026年8月に結んだ契約は、同社が扱う録音物と音楽出版のレパートリーを対象にする。参加を選んだアーティストと作家の権利を保護し、音楽利用の対価を支払うほか、BMG作品の過去利用も解決した。ここには学習データの将来利用と過去分の清算という二つの意味がある。
Believeと傘下のTuneCoreは、独立系のアーティストとレーベルを新モデルへつなぐ。参加者の音楽をSunoの新モデルへ含め、共同でライセンス済み製品を開発する。さらに、音楽業界との提携モデルで作った曲をBelieveとTuneCoreから配信できるようにする。2026年4月には当時のSunoモデルによる曲の配信を拒んでいたため、今回の契約は配信方針の明確な反転でもある。
つまり、WMGはv6の初期学習と大手レーベルとの和解、BMGは録音・出版双方の権利処理、Believeは独立系音源と配信出口を主に担う。契約が3社そろったことと、各社の音源が同じ時点、同じ範囲でv6へ入ったことは別の事実だ。
ライセンス済みでも、学習データの全体像は見えない
Sunoの最高製品責任者Jack BrodyはAxiosの取材に、v6を一から構築し、Warnerのライセンス音源とSuno利用者データを組み合わせて学習したと説明した。旧モデルの重みや学習データをそのまま移したとは述べず、技術面と利用者の好みに関する知見を引き継いだとしている。また、既知のアーティストや楽曲に直接似せる生成指示は、v6でも遮断するという。
公開資料で確認できるv6の学習入力はWarnerのライセンス音源とSuno利用者データまでで、コーパス総量と構成比、BMG・Believe音源の組み込み完了時期、性能評価の指標と数値は公表されていない。BMGとBelieveの発表は参加音源を新モデルへ加える方針を示すが、v6公開時点の反映率や対象曲数までは示していない。
この空白は、旧モデル期との違いを測るうえで重要だ。Sunoは2024年、公開インターネット上で見つけた中・高品質の音楽を学習し、そこに著作権で保護された素材も含まれると認めていた。そのうえで、人間が音楽を聴いて学ぶ行為になぞらえ、学習は侵害ではないと主張していた。
v6では少なくともWarner音源について契約が先に立つ。だが「ライセンス済みモデル」という呼称だけから、コーパスの全音源が許諾済みだと結論づけることはできない。どのデータを、どの権利に基づき、どの時点で学習へ入れたか。旧モデルを巡る問題から決別できたかは、その連鎖が開示されて初めて検証できる。
来歴表示とダウンロード制限は出力側を締める
Sunoは学習データの権利処理とは別に、生成後の曲へ来歴情報を付け、外部への持ち出し回数を制限する仕組みを導入した。生成曲にはContent Credentials(C2PA準拠のコンテンツクレデンシャル)を付ける。ファイルがSunoの外へ持ち出されても、対応する配信事業者や検証者は生成元を機械で確認できる。利用者が投稿した音声と歌詞についても、既存作品との類似を調べるとしている。
9月3日にはダウンロード上限も始まった。同日より前に登録した無料利用者の試用枠は生涯で最大7曲、Proは月20曲、Premierは月60曲である。9月3日以降に登録した無料利用者には、試用枠が随時付与される場合がある。Premier契約者がSuno Studioから書き出す場合は上限を設けない。無料枠は個人の非商用利用に限られ、有料プランからダウンロードした曲には商用利用権が付く。上限を超えるダウンロードは追加購入できる。
この制限は生成回数そのものではなく、ファイルをプラットフォーム外へ持ち出す回数にかかる。利用者はSuno上で曲を再生し、リンクを共有し続けられる。Sunoは、不正利用者が大量の曲を書き出す行為を難しくするための制限だと説明している。ただし、Suno Studioには上限がなく、抑止効果を示す実測値もまだない。追加ダウンロードの販売収入をライセンス料や権利者への分配へ充てるかも公表していない。
もっとも、来歴情報は削除や改変への対策を含む追跡手段であり、侵害を未然に完全防止する保証ではない。類似性検査にも誤検出と見逃しがあり得るが、Sunoは精度を公表していない。また、Sunoが商用利用を認めても、生成曲が各国で著作権保護を受けられるか、第三者の権利を侵害しないかは別に判断される。
次に問うべきは音源の投入量と分配の式
Sunoは次の段階として、個々のアーティストを中心に据えた新製品を開発している。本人が参加を選び、ファンが声や楽曲に関わる新しい体験を使ったときに、アーティストへ対価を支払う構想だ。これはv6の標準機能として提供済みなのではなく、今回のモデルを基にした将来計画である。
Brodyは権利者との契約に収益分配が含まれるとAxiosへ説明したが、料率も分配の対象となる利用も明かさなかった。生成回数、ダウンロード、定額料金、将来のアーティスト別製品のどれを分母にするかで、権利者が受け取る価値は大きく変わる。
v6が旧モデル時代との違いを実証できるかは、名称では決まらない。まずBMGとBelieve・TuneCoreの参加音源がいつ、何曲規模で学習へ入るのか。次に、権利者への分配式と利用者データの扱いをどこまで開示するのか。そして、旧モデル退役後のv6を独立した条件で測り、音質と指示追従性の改善幅を示せるか。この3点がそろえば、権利者との契約は発表文の約束から、利用者と音楽家が検証できる仕組みへ進む。



