米連邦検察は2026年3月20日、AIサーバー大手Super Micro Computer(以下Supermicro)の共同創業者を含む3名を、NVIDIAの高性能AIチップを搭載したサーバーを中国へ不法に輸出した疑いで起訴した。
起訴状によれば被告らは東南アジア企業を中継役に使い、総額25億ドル(約3,750億円)規模のサーバーを中国に流出させたとされる。米政府の輸出管理をくぐり抜けるために複数の偽装工作が重ねられ、2025年4月下旬から5月中旬の約3週間だけでも5億1,000万ドル相当が送り込まれていた。起訴を受けてSupermicroの株価は時間外取引で12%急落した。
共同創業者Liaw逮捕、Supermicro幹部3名の起訴概要
ニューヨーク南部地区連邦検察官事務所は3月20日、輸出管理改革法(Export Control Reform Act)違反の共謀罪で3名を起訴した。起訴状は社名を明記しなかったが、Supermicroはその夜に声明を出し、3名が同社の関係者であることを認めた。NVIDIAの主要サーバーパートナー企業の関係者を対象にしたチップ密輸捜査として、FBIはこれを過去最大規模の事案と位置づけている。
Yih-Shyan “Wally” Liawは1993年のSupermicro創業に携わった共同創業者であり、現在も取締役会メンバーかつ事業開発担当上級副社長の職にある。FactSetのデータによれば、同氏が保有するSupermicro株の評価額は4億6,400万ドルに達する。Ruei-Tsan “Steven” Changは台湾駐在の営業マネージャー、Ting-Wei “Willy” Sunはコントラクター(業務委託)の立場だった。LiawとSunは逮捕されたが、台湾市民であるChangは逃亡中で、司法省は「現在、逃亡犯だ」と記している。
今回の起訴は連邦捜査局(FBI)の捜査を経たもので、Trump政権が指名したニューヨーク南部地区検察官でかつてSEC(米証券取引委員会)委員長を務めたJay Clayton氏が公表した。Clayton氏は「機密技術に関わる犯罪には迅速な対応が求められる。そうしなければ法は意味をなさない」と声明で述べた。Supermicroは「当該個人の行為は輸出管理法への準拠を含む同社のポリシーに著しく反する」と声明し、LiawとChangを行政休職処分、Sunとの業務委託契約を即時解除したと明らかにした。同社は被告として名指しされておらず、政府の捜査に全面協力する姿勢を示している。
東南アジアを経由した25億ドルの隠蔽スキーム
起訴状が描く密輸の構造はシンプルだが、実行には組織的な偽装が伴っていた。被告らは東南アジアのある企業を「中継業者」として使い、台湾からNVIDIAのGPU(グラフィックス処理ユニット)を搭載したサーバーを出荷したように装いながら、実際には第三者の物流業者を介して中国へ転送した。発覚を防ぐためにサーバーを無地の段ボールに詰め直す「再梱包」も実施されていたという。この中継企業はSupermicroの会計年度2024年最終四半期に売上高9,970万ドルを計上し、同社最大級の顧客に成長していた。
査察を乗り切るための偽装も念入りだった。東南アジア企業の倉庫には本物に見せかけた「ダミーサーバー」が置かれ、米輸出管理当局が査察に入ったときには本物のサーバーはすでに中国へ転送済みだったとされる。Changは「友好的な」監査人が審査に当たるよう手配し、コンプライアンスチームへの承認を迫ったとも起訴状は指摘する。
LiawがBlackwellアーキテクチャを採用する最新GPU「B200」の確保に積極的に動いていたことも、起訴状に収録されたテキストメッセージから明らかになっている。2024年後半、Liawは東南アジア企業の幹部にこう送った。「1月、2月、3月、4月に大体何台受け取れますか?だいたいの見通しで構わない。それをもとにNVIDIAにB200の割り当てを約束させる提案ができる。今のところこれが唯一の方法だ」。さらに2025年、ホワイトハウスがAI製品の新たな輸出規則の施行を予告した際には、「施行日前に出荷ペースを上げる必要がある」と中継業者幹部に促した記録も残っているという。
一連の密輸摘発ニュースを本人がどう受け止めていたかも起訴状に記録されている。中国人業者の逮捕を伝えるリンクを送ってきたブローカーへの返信として、Liawは泣き顔の絵文字を送り返したとされる。その絵文字が動揺の表れだったのか、継続への意思を示したものだったのかは起訴状では断じていないが、被告の認識を示す証拠の一つとして記載されている。
監査スキャンダルからの回復期に直撃した信頼失墜
今回の起訴が一層深刻なのは、Supermicroが別の重大危機から立ち直りの途上にあるためだ。2024年に監査法人Ernst & Youngが「懸念が払拭できない」として契約を解除し、財務報告が大幅に遅延する事態が起きた。後任にBDOを採用し、独立委員会が不正の証拠なしとの結論を出したことで株価はいくらか持ち直したが、2024年3月に記録した過去最高値122.90ドルからは大きく離れた30ドル台にとどまっていた。
今回の時間外取引での12%下落で、SMCI株は2024年3月の最高値122.90ドルからの下落率が75%を超えた。財務スキャンダルに続くコンプライアンス上の問題が同社の信用を重ねて傷つけていることは明らかだ。前回の監査問題では「組織的な不正の証拠はなかった」という結論が出たが、今回は評価額4億6,400万ドルの株式を保有する共同創業者が直接関与しているとされる点で性質が異なる。
社内のコンプライアンスプロセスがどこまで機能していたのかは、現時点で明らかになっていない。ただし起訴状が示す「ダミーサーバーでコンプライアンスチームを欺いた」「友好的な監査人を手配した」という記述は、牽制機能が意図的に無効化されていた可能性を示す。25億ドルという売上規模は、担当者が知らないまま成立したとは考えにくい。Supermicroが法人として被告に名指しされていないことは、司法当局が組織の責任より個人の刑事責任を追う戦略をとっていることを意味するが、今後の公判で内部の情報連携がどこまで掘り下げられるかが同社の評価を大きく左右するだろう。
輸出規制の制度設計が試される米中AI覇権の構図
NVIDIAのAIチップをめぐる密輸摘発は今回が初めてではない。2024年8月にはロサンゼルスで中国籍の2名がNVIDIAチップ密輸の疑いで逮捕され、2025年12月にはテキサス州でさらに2名が逮捕され、NVIDIA製品5,000万ドル相当と現金が押収された。今回はSupermicroという時価総額185億ドル規模の上場企業が組織的に関与した事例として、過去の摘発案件とは規模も構造も異なる。
摘発が続く背景には、中国のAI開発に対するNVIDIAの最先端チップが持つ戦略的価値がある。DeepSeekをはじめとする中国AI企業が限られたリソースで高い能力を示したことで、Anthropic、OpenAIなど米AI企業は中国競合の台頭に対する危機感を強めている。制限下のチップでこれだけの成果が出るなら、Blackwellアーキテクチャのような最新世代へのアクセスが開発余力をさらに押し上げることは、米当局が輸出規制を強化する主な論拠だ。
一方でTrump政権は2025年12月、習近平国家主席との合意を経てNVIDIAがH200チップを「国家安全保障に配慮した条件」のもとで中国へ輸出することを認めると発表した。2026年3月17日にはNVIDIAのCEOであるJensen Huang氏が中国からの受注を受けてH200の製造を再開したと明らかにし、NVIDIAは昨夏にH20チップの対中輸出ライセンスも取得している。合法的な輸出ルートが段階的に開かれる中で今回の密輸事件が起きたことは、焦点がすでに「H200を売るか否か」から「Blackwellを含む最先端チップへのアクセスをどう管理するか」へと移っていることを示している。
Liawのテキストメッセージが示すように、「輸出規制の施行日前に駆け込む」という行動パターンは、規制の設計が持つ構造的な課題だ。法令が整備されるたびにその直前に取引が急増するサイクルが繰り返されるなら、規制の文言を改正するだけでは不十分で、企業内のコンプライアンス文化と執行体制の双方を機能させる必要がある。25億ドル規模の不正が主要パートナー企業の中枢で起きた今回の事件は、米国の輸出管理制度がその問いに正面から向き合う機会を与えている。
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